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第9章 冬の……アナタ、どなた?
エピソード52-1
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桃魔術研究会 第二部室 睦美のオフィス兼カナメのラボ 07:00時――
デスクに突っ伏してうたた寝をしてしまった睦美が、差し込んだ朝日の眩しさに目が覚めた。
「う、うう~ん……いつの間にか寝ちゃったんだ……」
ズレたメガネを直し、カナメを起こしにかかる睦美。
「ちょっとカナちゃん、起きて!」
「あぁ、静流キュンがいっぱい……ムニャ? ムっちゃん?」
「あれからどうなったの? ごめん、途中で寝ちゃってた……」
カナメは睦美が『大佐モード』ではなく、『乙女モード』だった事に気付いた。
睦美は幼馴染のカナメや楓花、部下である影の前では、本当の姿を見せる事がある。
「大丈夫や。とりあえず顔、洗いに行かへん?」
睦美たちは女子トイレに行き、顔を洗うついでに、自販機で飲み物を買った。
「カナちゃん何飲む? 私の奢り。 何がイイ?」
「せやなぁ、ほな『がぶ飲みモンスターエネミー』にしとこか?」
「フフフ。一番高いのを選ぶんだね? しっかりしてるわ」
「当然やろ? それ以上の働きはしとるんやし。 クックック」
カナメに希望の飲み物を渡して、睦美は普段の見た目や振る舞いからブラックかと思いきや、激甘で有名の『ワタナベのMAXコーヒー』を買っていた。
「起き抜けのMAXか? 相変わらず甘党なんやな?」
「ほっといて。 脳の回転には糖分が必要なのよ……」
旧校舎との渡り廊下にあるベンチに座り、飲み物を開ける二人。
「久々見たわ。ムっちゃんの『乙女モード』。無理してへんか? ムっちゃん?」
「無理っていうか……あの屈託の無い笑顔の前で、時々決壊しそうになるよ。 静流キュンにとって私は、狡猾で知略に長け、頼りがいのある先輩なの。 自分で壁作って、バカだなぁって……」
カナメにイタい所を突かれ、自虐的に苦笑いを浮かべる睦美。
「今は目の前の事を確実にこなして、ハッピーなエンドに向けて、一歩一歩進んで行くだけだよ……」
「全部一人でしょい込まんと、みんなを頼ってイイんやで?」
「頼りにしてます、カナメ様。 フフフ」
オフィスに戻って、進捗を確認する睦美。
その頃にはいつもの『大佐モード』に切り替わっていた。
「で? どうなんだ? 出来たのか?」
「そう焦らんと。 おーい、メルクはん?」
睦美に急かされ、カナメはノートPCをいじり、スクリーンセイバーを解除した。
〈……うむ? もう朝か?〉
画面に映ったメルクは、寝巻姿で目をこすっていた。
「メルクはん、演算は終わったんか?」
〈おお、バッチリ終わっとる。このプログラムを組み込めば、術式の補助に役立つじゃろう〉
メルクが大きく頷いたのを見て。二人はハイタッチした。
「よぉし! これで二日目もジャンジャン稼ぐぞ!」
「おう!」
パシィン!
◆ ◆ ◆ ◆
五十嵐家 静流の部屋 07:00時――
静流にとってコミマケ一日目は、井川ユズルとして活動したり、サラの買い物に付き合わされたり、ポケクリバトルの団体戦に参加したり、挙句の果てには静流自ら『薄い本』の購入者サービスイベントに駆り出される始末だった。
家に帰り、みんなと別れた後は、夕食、入浴を済ませるやいなや、ベッドに倒れ込み、そのまま泥のように眠ってしまった。
「……しず兄、 起きろ! しず兄!」
「うぅ、ん? 今、何時?」
美千留の声でいきなり起こされた静流は、寝ぼけた顔で時間を聞いた。
「朝の7時。 私よりも長く寝てるなんてズルい。 早く起きて!」
「そんな理由? 二日目はもっと遅くてイイって睦美先輩が言ってたんだ……スゥ」
そう言いながら、意識が薄れていく静流。
「コラ! 寝るな! ん? 何? このふくらみ……」
ふと掛布団を見ると、静流の横に不自然なふくらみがある事に気付く美千留。
「誰? 真琴ちゃん、 は違う。『罠』は作動してない……」
美千留は真琴の夜這い防止に、数々の罠を仕掛けている。
対面である真琴の部屋を見て、カーテンが閉まっているのを確認した。
「誰? 名乗り出ないならこうしてくれる!」バサッ
「ひゃぁ! さ、さむ……美千留、勘弁してくれ」
「ひっ!!」
美千留が勢いよく掛け布団を引きはがすと、静流は震えあがり、隣にある物体に抱き付いた。
「お前なぁ、今日は遅めでイイって言ってるだろ? ふう。あったかぁい」スリスリ
「あっ……静流様、今朝は積極的なんですね……」ポォ
静流が抱き付いていたのは、シズムに変身したロディだった。パジャマの胸元がはだけ、胸の辺りに顔をうずめている静流。
目の前の光景に、驚愕のあまり小刻みに震えている美千留。
「……ロディ、しず兄に命令されたの?」
「美千留様、何か誤解していますね? 悪戯が過ぎました。 謝罪します」シュン
ロディは瞬時にデフォルトの豹に戻った。
「ああ、これこれ。この毛並み……ムニャ」
豹に戻ったロディを撫でまわし、癒されている静流。
美千留は、そんな光景を目の当たりにし、呆れてため息をついた。
「勝手にやってろ! もう知らない!」バンッ
ついにキレた美千留が、勢いよくドアを閉め、ズンズンと足音を響かせて出て行った。
そんな美千留を見て、静流は不思議そうに呟いた。
「何を怒ってるんだ? そう言う年頃なの? っていつもの事だけど……」
「私の口からは、何とも言えません……」
豹の顔では表情まで読み取れないが、いつもの凛々しい顔とは程遠かった。
「もう少し寝てようと思ったけど、今ので目が覚めちゃったよ……ふぁぁ」
こうして、静流のコミマケ二日目が始まった。
◆ ◆ ◆ ◆
桃魔術研究会 第一部室 08:30時――
蘭子は緊張の余り、ほとんど眠れなかった。
「おはようッス……」
「あれぇ? 蘭ちゃん! おはよ!」
「うす。どうも寝られなくて……」
部室の扉を開けると、団体戦のメンバーであった『メリバ』こと早乙女素子と目が合った。
「やけに早いね? 個人戦、10:30時から開始でしょう? しかも三回戦シードだから、もっとゆっくりしてると思ったよ」
「家にいても、気が滅入るばっかで……」
曇りがちな表情の蘭子を見て、素子はポンと手を打って蘭子に言った。
「聞いたよ? 今日の個人戦、リナお姉様が観戦にいらっしゃるって♪」
「うっ……もう知れ渡ってるんスね……」
昨日とは打って変わって、曇りがちな表情の蘭子。
「アネキを知ってるのか? 先輩?」
「古参のゲーマーなら知る人ぞ知る伝説のゲーマー『閃光のサブリナ』様……ああ、素敵」
素子はうっとりと天井付近を眺めている。
「先輩、間違ってもその名前、アネキの前で言うなよ?」
「え? 何で? 数々の偉業を成し遂げた方よ? 二つ名は勲章だよ?」
「いや、アネキ本人が気に入ってないらしくて……」
たちまち青い顔になった蘭子を見て、ただならぬ空気を感じた素子。
「わ、わかった。肝に命じとく……」
デスクに突っ伏してうたた寝をしてしまった睦美が、差し込んだ朝日の眩しさに目が覚めた。
「う、うう~ん……いつの間にか寝ちゃったんだ……」
ズレたメガネを直し、カナメを起こしにかかる睦美。
「ちょっとカナちゃん、起きて!」
「あぁ、静流キュンがいっぱい……ムニャ? ムっちゃん?」
「あれからどうなったの? ごめん、途中で寝ちゃってた……」
カナメは睦美が『大佐モード』ではなく、『乙女モード』だった事に気付いた。
睦美は幼馴染のカナメや楓花、部下である影の前では、本当の姿を見せる事がある。
「大丈夫や。とりあえず顔、洗いに行かへん?」
睦美たちは女子トイレに行き、顔を洗うついでに、自販機で飲み物を買った。
「カナちゃん何飲む? 私の奢り。 何がイイ?」
「せやなぁ、ほな『がぶ飲みモンスターエネミー』にしとこか?」
「フフフ。一番高いのを選ぶんだね? しっかりしてるわ」
「当然やろ? それ以上の働きはしとるんやし。 クックック」
カナメに希望の飲み物を渡して、睦美は普段の見た目や振る舞いからブラックかと思いきや、激甘で有名の『ワタナベのMAXコーヒー』を買っていた。
「起き抜けのMAXか? 相変わらず甘党なんやな?」
「ほっといて。 脳の回転には糖分が必要なのよ……」
旧校舎との渡り廊下にあるベンチに座り、飲み物を開ける二人。
「久々見たわ。ムっちゃんの『乙女モード』。無理してへんか? ムっちゃん?」
「無理っていうか……あの屈託の無い笑顔の前で、時々決壊しそうになるよ。 静流キュンにとって私は、狡猾で知略に長け、頼りがいのある先輩なの。 自分で壁作って、バカだなぁって……」
カナメにイタい所を突かれ、自虐的に苦笑いを浮かべる睦美。
「今は目の前の事を確実にこなして、ハッピーなエンドに向けて、一歩一歩進んで行くだけだよ……」
「全部一人でしょい込まんと、みんなを頼ってイイんやで?」
「頼りにしてます、カナメ様。 フフフ」
オフィスに戻って、進捗を確認する睦美。
その頃にはいつもの『大佐モード』に切り替わっていた。
「で? どうなんだ? 出来たのか?」
「そう焦らんと。 おーい、メルクはん?」
睦美に急かされ、カナメはノートPCをいじり、スクリーンセイバーを解除した。
〈……うむ? もう朝か?〉
画面に映ったメルクは、寝巻姿で目をこすっていた。
「メルクはん、演算は終わったんか?」
〈おお、バッチリ終わっとる。このプログラムを組み込めば、術式の補助に役立つじゃろう〉
メルクが大きく頷いたのを見て。二人はハイタッチした。
「よぉし! これで二日目もジャンジャン稼ぐぞ!」
「おう!」
パシィン!
◆ ◆ ◆ ◆
五十嵐家 静流の部屋 07:00時――
静流にとってコミマケ一日目は、井川ユズルとして活動したり、サラの買い物に付き合わされたり、ポケクリバトルの団体戦に参加したり、挙句の果てには静流自ら『薄い本』の購入者サービスイベントに駆り出される始末だった。
家に帰り、みんなと別れた後は、夕食、入浴を済ませるやいなや、ベッドに倒れ込み、そのまま泥のように眠ってしまった。
「……しず兄、 起きろ! しず兄!」
「うぅ、ん? 今、何時?」
美千留の声でいきなり起こされた静流は、寝ぼけた顔で時間を聞いた。
「朝の7時。 私よりも長く寝てるなんてズルい。 早く起きて!」
「そんな理由? 二日目はもっと遅くてイイって睦美先輩が言ってたんだ……スゥ」
そう言いながら、意識が薄れていく静流。
「コラ! 寝るな! ん? 何? このふくらみ……」
ふと掛布団を見ると、静流の横に不自然なふくらみがある事に気付く美千留。
「誰? 真琴ちゃん、 は違う。『罠』は作動してない……」
美千留は真琴の夜這い防止に、数々の罠を仕掛けている。
対面である真琴の部屋を見て、カーテンが閉まっているのを確認した。
「誰? 名乗り出ないならこうしてくれる!」バサッ
「ひゃぁ! さ、さむ……美千留、勘弁してくれ」
「ひっ!!」
美千留が勢いよく掛け布団を引きはがすと、静流は震えあがり、隣にある物体に抱き付いた。
「お前なぁ、今日は遅めでイイって言ってるだろ? ふう。あったかぁい」スリスリ
「あっ……静流様、今朝は積極的なんですね……」ポォ
静流が抱き付いていたのは、シズムに変身したロディだった。パジャマの胸元がはだけ、胸の辺りに顔をうずめている静流。
目の前の光景に、驚愕のあまり小刻みに震えている美千留。
「……ロディ、しず兄に命令されたの?」
「美千留様、何か誤解していますね? 悪戯が過ぎました。 謝罪します」シュン
ロディは瞬時にデフォルトの豹に戻った。
「ああ、これこれ。この毛並み……ムニャ」
豹に戻ったロディを撫でまわし、癒されている静流。
美千留は、そんな光景を目の当たりにし、呆れてため息をついた。
「勝手にやってろ! もう知らない!」バンッ
ついにキレた美千留が、勢いよくドアを閉め、ズンズンと足音を響かせて出て行った。
そんな美千留を見て、静流は不思議そうに呟いた。
「何を怒ってるんだ? そう言う年頃なの? っていつもの事だけど……」
「私の口からは、何とも言えません……」
豹の顔では表情まで読み取れないが、いつもの凛々しい顔とは程遠かった。
「もう少し寝てようと思ったけど、今ので目が覚めちゃったよ……ふぁぁ」
こうして、静流のコミマケ二日目が始まった。
◆ ◆ ◆ ◆
桃魔術研究会 第一部室 08:30時――
蘭子は緊張の余り、ほとんど眠れなかった。
「おはようッス……」
「あれぇ? 蘭ちゃん! おはよ!」
「うす。どうも寝られなくて……」
部室の扉を開けると、団体戦のメンバーであった『メリバ』こと早乙女素子と目が合った。
「やけに早いね? 個人戦、10:30時から開始でしょう? しかも三回戦シードだから、もっとゆっくりしてると思ったよ」
「家にいても、気が滅入るばっかで……」
曇りがちな表情の蘭子を見て、素子はポンと手を打って蘭子に言った。
「聞いたよ? 今日の個人戦、リナお姉様が観戦にいらっしゃるって♪」
「うっ……もう知れ渡ってるんスね……」
昨日とは打って変わって、曇りがちな表情の蘭子。
「アネキを知ってるのか? 先輩?」
「古参のゲーマーなら知る人ぞ知る伝説のゲーマー『閃光のサブリナ』様……ああ、素敵」
素子はうっとりと天井付近を眺めている。
「先輩、間違ってもその名前、アネキの前で言うなよ?」
「え? 何で? 数々の偉業を成し遂げた方よ? 二つ名は勲章だよ?」
「いや、アネキ本人が気に入ってないらしくて……」
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