拙さと、儚さと、喧しさと。~『桃髪家の一族』と呼ばれる家系で、知らない間に『薄っぺらい本』の主役級キャラにされている僕~

殿馬 莢

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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード51-33

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ルームA ノーマル静流の部屋

 ルームAでは、恰幅の良い肉食系ヲタ女とロディ扮する静流が相手をしていた。 

「次は、『お姫様抱っこ』でよろしいですか?」
「うん。じゃあ失礼して、よいしょっと」ヒョイ
「うわっ!」

 このヲタ女は、自分が静流を抱っこしたかったようだ。

「軽いね。ちゃんと食べてる?」
「え、ええ。スゴい力ですね……」
「オークの血が濃いからね。でもキミ、イイ匂いがする……美味しそう」
「美味しくは、無いと思います。……そろそろ下ろしてくれますか?」
「おっと、失礼」
 
 抱っこから解放されたロディは、営業スマイルで対応した。

「ではお返しに。ほい」ファサッ

 静流より1.5倍は優にある体格のヲタ女を、初期動作もなく一気にお姫様抱っこの体制に持って行ったロディ。

「アタシをいとも軽々と……強化魔法も使っていなさそうだし……」
「人は見た目ではわからない、って事ですよ?」ニコ

「むっほぉぉぉぉ……惚れた♡♡」

 ヲタ女はロディの営業ニパを浴び、急に恋する乙女モードに変貌した。

「バアちゃんに昔言われたんだ……自分より強いオトコに嫁げ、ってね!」

 上目遣いになり、ロディの胸元を指でつついて来たヲタ女。

「ねぇ、ココだけの話、普段どこで何してるクチ?」
「すいません、そう言う質問には答えられないんです」
「イイじゃんか。何も取って食おうってワケじゃないんだしぃ……」

 諦めの悪いヲタ女に、ロディは溜息をついた。

「ふぅ……仕方ありませんね。言う事を聞かない悪い子は、こうだ!」 

 ロディは、お姫様抱っこしたまま、ヲタ女にデコピンをかまし、【忘却】の魔法を使った」

「きゃふぅぅぅん」ポゥ

 数十秒後、オタ女は目をパチパチさせ、ロディを見た。

「あれ? アタシったら寝ちゃったのかしら?」
「はい。お姫様抱っこ、終わりましたよ」ストッ

 ロディは微笑みながら、ヲタ女を優しく降ろした。

「ご利用ありがとうございました! お帰りはあちらになります」
「はーい。なぁーんか、変ねぇ……」

 首を傾げながら出口用ドアから出て行くヲタ女。
 ロディの口から、珍しく愚痴がこぼれた。

「思ったより厄介ですね。ガチ恋勢は……」



              ◆ ◆ ◆ ◆



ルームD シズミの部屋

 ルームDでは、ブラムが扮している小学生くらいの静流が、ショタコンらしきヲタ女の相手をしていた。

「ねぇねぇ、『人間イス』ってホントにこれでイイの?」
「ええ。バッチリよ。ムフゥ。イイ匂い……」

 シズミはヲタ女の膝にちょこんと座っている。
 ヲタ女は後ろからシズミを抱きしめ、髪の匂いを嗅いでいる。

「これが『あすなろ抱き』だね? って僕、何もしてないんだけど?」
「イイのよ。シズミ君は『される方』だからね……あぁ、たまんない」
「キャハハ、お姉さん、くすぐったいよぉ」
「あぁ、癒されるぅぅ……」ぎゅぅ 

 次にヲタ女は、カバンからチョコを出した。

「シズミ君、一緒にチョコ食べよっか♡」 
「うわぁい。お姉さん大好きぃ♡」ぎゅぅ

 シズミは大喜びでヲタ女に抱き付き、胸に頬ズリをした。

「あっ、シズミ君が私を求めてる……嬉しい」

 ヲタ女がシズミの口にチョコを差し出す。

「はい、あーん♡」
「あーん。甘ぁーい」

 チョコを頬張って無邪気に笑っているシズミを見て、ヲタ女は満足げに微笑んだ。

「お姉ちゃん、手にチョコが付いてるよ。勿体ない♪」ちゅぽっ 

 そう言ってシズミはヲタ女の指を口に含み、チョコを舐め取った。

「ちゅぽ。お姉ちゃんの指、おいしー♡」
「きゃっふぅぅぅ~ん♡」



              ◆ ◆ ◆ ◆



ルームC シズベールの部屋

 あのあと数人接客した静流は、余裕が出来たのかヲタ女からのオーダーを可能な限り忠実に行った。
 腕輪を装着してからは、取り敢えず失神に至る事は無くなったからである。

(次は床ドンだったな……)

 ヲタ女をベッドに寝かせ、股間の辺りに膝を立て、顔を近づける静流。

「シズベール様、下半身が……熱い……です」
「本当だ……こんなに硬くなって……僕がすぐに楽にしてあげるよ♡」 
  
 当然ながら、お互いに局部のおさわりはご法度である。

「今日あったイヤな事は、僕が忘れさせてやるよ……んむ」

 ヲタ女の唇にあと数センチという所でピタッと動きを止めた静流。

「んむぅぅぅ……へ?」

「はい♪ お疲れ様♡ お帰りはあちらでーす」

 実戦から学んだ静流は、『寸止め』を習得したのだった。

「あ、ありがとうございました!」
「はーい。気を付けて帰ってね♪」

 ヲタ女は晴れ晴れとした顔つきで出口用のドアから退室した。

「次の方、どうぞー」

 ゆっくりと流れる時間の中で、至高の時を過ごすユーザーたちであった。



              ◆ ◆ ◆ ◆



インベントリ内 仮眠室――

 仮眠室では、睡眠カプセルは常時満員であった。
 と言うのも、一度ならず二度目を所望するユーザーが少なくなかったからだ。
 部員が聞いた所によると、『他のシチュエーションも体感してみたい』との事だった。
 丁度一回分の稼働が完了した所だった。

「ピピピピピ」

 時間となり、電子音が鳴った。

  ブゥゥーン

 睡眠カプセルの蓋が開き、角度がゆっくり鋭角になっていく。

「お疲れ様でした!」

 モブ子に偽装したレヴィたちが夢を見終わった所だった。

「ふぅ……皆さん、意識レベルは保てていますね? 私はヤバかったです」
「はぁ……やはり見ておいて良かったでありますぅ……」
「ホント、この機械って脳ミソがおかしくなるよね?たまんないわぁ」
「パスするか迷ったけど、見事だったわ。忍さん、腕を上げたわね……」
「うほぉ♡ 至福の3分間でした」

 体験済みのモブ子たちは、特にダメージもなくカプセルから出て来た。

「みのり、終わったよ?」
「う、うぅ……萌? 静流様は?」
「寝ぼけてないで、本番前なんだから、さっさと穿き替えるよ?」
「穿き替える? うわっ、大変だ……」

 今回が初のモブ子たちは、紙オムツの恩恵を受けていた。

「さ……朔也ぁ……」
「神父? うっぷ……オスの匂いが……」
「ん? ひぃっ! 何という事を……聖職者の私が……」
「懺悔は後。一刻も早く処理を済ませた方が良いと思うが……」

 部員が声を張り上げた。

「意識がはっきりして来ましたら、あちらでオムツをはき替えて下さい!」
「ご希望の方、新しいオムツはコチラでーす!」
「こちらで後処理出来まぁーす! おしりふきも完備でぇーっす!」
「使用済みの紙オムツは、こちらにお願いしまーす」

 夢から覚めた者たちが次々にボックスに入り、後処理を済ませている。

「はーい。この後アクターとの交流希望の方は、こちらにお並びくださぁーい!」

 次の希望者は、整列しプレイルームの方に誘導されて行く。
 オムツを新品に穿き替え、次の戦いに望むモブ子たち。

「装備は万全。では各々方、本丸に向かいます」

 そう言って顔を引き締めたレヴィに、仁奈が聞いて来た。

「ちょっとタンマ! 四人の内、どの子が本物の静流クンなの?」
「そ、それが……リリィ殿が言うには、『極秘』らしいです」
「そんなぁ、それは無いでしょう?」
「しかも、数回毎に抜き打ちで『シャッフル』するとの事らしいです。困った事に……」
「な、何ィ……」
 
 それを聞いたココナは、一気にテンションが下がって行った。

「終わった子たちに聞いたら?」
「無理です。出口が違うので、コンタクト出来ません」
「大体、『本物』が存在する事自体、シークレットですし……」
「誰か先に入って、念話で教えて頂戴!」
「そんなぁ。少佐殿は『人柱』になれって仰るんですか?」

 モブ子たち9人が、隅っこでやいのやいの言っていると、係の部員に声をかけられた。

「そちらの方々は、団体様ですか?」
「え、ええ。そんな所よ」

 それを聞いた部員は、しめた!とばかりに提案して来た。

「只今、お隣が混み合っていまして、団体様ですと、複数人でお楽しみ頂けるのですが、如何でしょう?」

 その提案に、モブ子たちは互いの顔を見合わせ、頷き合った。

「イイわよ。時短されるよりは増しでしょうし」
「ありがとうございます!」

 良い返事をもらえた部員は、微笑んで頭を下げた。

「九名様ですと、三人3組に分けて入室されますか?」

「それだと一部屋余るわね……二人を3組と三人を1組でお願いするわ」
「はい! かしこまりました! では順番までお持ちください!」

 そう言って頭を下げた部員は、上司に報告しに行った。

「マンツーマンではなくなりましたが、致し方ないですね……」
「では、皆さんの希望はどの部屋ですか?」

 オーダーシートの項目を同時に指差した。

「せーの、ココ!」ビシ

 結果は、奇跡的に被らなかった。

 ルームA 静流           アマンダ 仁奈
 ルームB シズルー         ルリ みのり
 ルームC シズベール        ココナ ジル
 ルームD シズミ→ダッシュ7に変更 佳乃 萌 レヴィ

「事前に打合せしたかのように分かれたわね?」
「少佐、オーソドックスな静流殿を選んだようだが、安易に考えたな?」
「安易も何も、素の静流クンが一番カワイイでしょうに」
「チッチッチ。四人のアクターは、薄い本のキャラを演じているのだ。ココに素の静流殿はいない」
「う、そうよね…確かに安易だったみたい」
「シズミ君も捨てがたいのでありますが、やはりダッシュ7様がイイのであります!」

 レヴィは一同に念を押した。 

「どちらさんも、恨みっこなしって事で、お願いしますね?」 
「はーい」

 レヴィが代表して、みんなのオーダーを部員に渡した。
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