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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード51-23

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献血カー内 14:50時――

 ソファーのあるVIP区画に、ブラムが入って来た。

「ふぃー。会場のセッティング、大体終わったよ♪」
「ご苦労様ですブラム氏。本番まで休憩してて下さい」
「よぉし、糖分補給だぁー♪」

 食堂に行こうとするブラムに、薫子と忍が声をかけた。

「待って、ブラムちゃん」
「ブラム、何とかして!」

 呼び止められたブラムは、首を傾げた。 

「へ? 何の事?」
「ユズルのチームがピンチなの!」
「アンタの元キャラでしょ? 責任取りなさいよ!」

 ブラムはノートPCのメルクから、これまでの状況を説明された。

〈……と言うワケじゃ。な? ワシらではどうする事も出来んのじゃ〉
「出来るけど、そんな事して勝っても、ユズル様が喜ぶとは思えないな」
〈ほれみろ。ワシも同じ事を言ったんじゃよ〉
「ぐぬぬ……」
 
 薫子たちは、奥歯を噛みしめて悔しがった。
 画面の中のメルクが、ため息をついた。

〈ふむ。 お主ら、ユズルたちが負けると思うとるのか?〉
「さっきの試合だって、結構ヤバかったでしょ?」
「相手はプロ。全力で潰しにかかる」

 メルクは自信ありげに三人に言った。

〈ふむ。ワシは勝つと思うとる〉
「この状況でよくもぬけぬけと……」
「その根拠、聞かせて!」

 メルクの態度に、姉たちは憤慨した。

〈あ奴らは、予選からある『種』をまいていたのじゃ。もうすぐわかる〉
「種、って何よ? わかる様に説明して!」
〈そうじゃのう……ここまでの筋道は、蘭子のシナリオ通りじゃった。多少イレギュラーな事はあったがな〉
「今のピンチも、想定内って事?」
〈そうじゃろうな。ワシらは大人しく見守るだけで良いのじゃ〉
「わかった。そこまで言うなら、何もしない」

 メルクの言い分に一応納得した姉たち。
 忍がぼそっと呟いた。

「どうでもイイけど、静流をユズル呼びするの、疲れた……」

「「「「禿しく同意!」」」」

 ここにいた全員が、口をそろえて言った。



              ◆ ◆ ◆ ◆



アスガルド駐屯地 魔導研究所――

 レヴィたちは、ラプロス壱号機とのランデブーポイントである、第一格納庫に向かうべく【ゲート】をくぐった。 

「よし。誰もいない。急ぎますよ!」

「「「「了解」」」」

 【ゲート】のあるブリーフィングルームを出て、誰にも見つからないよう慎重に事務所を出て格納庫に向かった。

「あ、おーい! みんなぁー!」

 格納庫の前で、仁奈が手を振っている。脇には『APC』と呼ばれている、『装甲兵員輸送車』が停まっていた。
 変装したレヴィが仁奈に近付き、小声で話した。

「ご苦労様です。仁奈殿」
「フフフ、アナタ、レヴィなの? 上手く化けたわね?」
「声、大きいですよ。もっと静かに……」
「みんなも何かカワイイ。しゃべらなきゃ誰だかわかんないよ♪」
「仁奈先輩、わかったでありますから、お静かに、であります」
「ハハッ、佳乃ね? 髪の色を黒くしたら、ほんっと地味よね」
「『質素』と言って欲しいのであります……」

 モブ子に変装しているので、地味なのは当然なのだが、佳乃としては面白く無かったようだ。
 レヴィは気を取り直して、今の状況を整理した。

「よし、あとは壱号機を待つだけですね。大尉殿、そちらの段取りは?」
「問題無い。何故なら、もう到着しているからなっ!」

「「「えっ!?」」」

 ココナの言った事に、仁奈を除いた一同は絶句した。

「リア、姿を見せろ」
〈わかった〉ブンッ

 ココナの指示で、不可視化を解いたラプロス壱号機。
 羽根をたたみ、竜の頭部にあたるコクピットを地面すれすれまで下げた搭乗ポーズを取っていた。

「ひぇぇ! ほ、本物ぉ!」
「零号機よりも……大きいです」
「ふむ。実に壮観でありますなぁ」 

 レヴィは目をキラキラさせ、萌と佳乃は感嘆の溜息をもらした。  

「な、何です!? 魔獣ですか!?」
「神父様、大丈夫です。魔神ではありません、マシンです」

 ジルは初めて見るドラゴン型MTに、恐怖を感じていた。
 それをルリが半ばからかい気味に補足した。

 ブゥーン

 勝手にキャノピーが開いた。
 
「ふぅん。居住性はまぁまぁね。ありがとうリアさん」
〈なぁに、礼には及ばん〉


「「「「し、少佐殿ぉ~!?」」」」


 壱号機の中には、澄ました顔のアマンダがいた。
 レヴィは慌てて振り返り、仁奈を見た。

「仁奈……殿!?」
「ごめーん、見付かっちゃった。てへ」コツン

 仁奈は、舌をぺろっと出して、自分の頭に拳をあてた。

「はぁぁ、今までの苦労は何だったんでしょう……」
「私を欺こうと思ってたのなら、実に滑稽ね」

 ココナは腕の通信パネルを開き、リアを呼び出した。

「リア! なぜ少佐を乗せた!? 壱号機のコクピットは私と静流殿専用の『移動型スイートルーム』なのだぞ!?」
〈硬い事言うな。少佐には世話になっとるじゃろう?〉
「た、確かに……ぐぬぬ」

 アマンダは自分やメルクを助けたミッションの指揮を執っていたのだ。

「そう言う事。でもみんな、上手く偽装したわねぇ……これなら上手く群衆に紛れ込めるかもね?」
「はぁ。全てお見通しって事ですね?……ガク」

 レヴィは肩を落とし、落胆した。

「インベントリの使用を許可したのは私よ? 知らないわけないでしょう?」
「ですよねー」

 アマンダは、レヴィに耳打ちした。

「ねぇ、インベントリで何をやるの? 詳しく聞いてなかったんだけど?」
「そ、それはですね……ごにょごにょ」
「え? ええっ? それは本当なの?」
「全てのオーダーが通るワケではありませんよ? 検閲がありますので」

 アマンダは興奮気味にレヴィにハグした。

「じゃあ、こうギュウッてやるのとかは?」
「その位は。現に『あすなろ抱き』を成功させた猛者もおりますゆえ。こんな感じです」

 レヴィはアマンダに『あすなろ抱き』を披露した。

「行く……私も行く!」
「やっぱ、そうなりますよね……」

 てきぱきと壱号機に装甲兵員輸送車を運ばせる段取りを済ませるアマンダ。

「そう。そこを掴んで固定して。座標はココ。わかったわね?」
「うむ。了解した」

 自分が行くとなると途端にやる気を出したアマンダに、一同は引き気味だった。

「最初から巻き込むべきだった……不覚です」 
「結果オーライでありますよ。さあ、乗り込みましょう」

 APCに乗り込む一同。

「レヴィ、早く変装道具を寄こしなさい、中で準備する。仁奈、アンタもね!」
「はーい。ウフフ。面白くなって来たわね♪」

 仁奈は楽しそうにAPCの中に入って行った。
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