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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード51-13

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献血カー 12:05時――

 献血カー内の面々に、リリィが報告した。

「はーい、皆さん、昼食の用意が出来ましたよぉ~」
「奥が食堂になっています。行きましょう」

 睦美にそう言われ、ソファーから立ち上がる面々。

「ふぁあ、今の所出番なしか」
「これからですよ。ドクター」

 睦美たちは早々と食堂に向かったが、お姉様たちと学校の面々はユズルを待っていた。

「ユズルは? まだ戻って来てないの?」
「そうみたいですね。何やってるんだか……」
「誰だ? ユズルってよ?」
「シズムちゃんのアニキって設定で、静流が作ったキャラだ」
「静流が芸能事務所のバイト用に用意したのよ」
「何だそりゃ? アイツ、軍だけじゃなくて、そんなのにも巻き込まれてんのか?」
「まあ、元々流されやすいヤツだからな」

 そんな事を話していると、誰かが入って来た。

「だだいまぁ……ふぃ~。着いた」ドサッ
「す、すいません。ちょっと調子に乗り過ぎて買い過ぎました……」

 両肩のトートバッグを置き、盛大なため息をついたのはユズルだった。

「ユズル!」
「静流の格好したユズル? 何か紛らわしいわね……ん? あっ!」

 真琴ががユズルの顔を見た途端、絶句した。

「お、おい静流!? メガネ、忘れてんぞ!?」
「お静! こっち見んな!」

 メガネ無しの静流に耐性が無いばかりか、【魅了】LV.0が発動してしまう事を達也たちは警戒した。
 真琴は【魔法耐性】はLV.2なので、最近までは耐えられたのだが、静流が潜在魔力レベルがLV.3になり、真琴にとっては危うい状況である。

「私は近親者だから問題無いのよね。獣化した時は効いたらしいけど……」
「私は大丈夫。全て受け止める。バッチコイ!」

 薫子は近親者で、忍は【毒耐性】持ちなので、【魅了】は効かないのである。

「フフフ。大丈夫だよ。メガネは着けてるから。ほら」シュン

 不可視化を解き、いつもの瓶底の防護メガネを表示させたユズル。

「あんだよ、おどかすなよ」
「へぇ。便利なもんだな。だったら普段もメガネ無しでイイじゃねぇかよ?」
「だって、二学期の始めにそれやったら、みんなドン引きだったじゃないか」
「そう言えば、そんな事あったな……」

 二学期の始めに、防護メガネを不可視化してクラスのみんなに見せた所、静流のあまりにも端正な顔立ちにフリーズしてしまった事があった。
 蘭子は、サラに声をかけた。

「おいアンタ、先生なんだってな? 同い年なのに大したもんだ」
「ふぇ? あ、そう呼ばれてますけど、大した事ないです……」
「そう謙遜すんなって。で、何を教えてるんだ?」
「……へ?」

 蘭子は『先生』という意味をどうやら取り違えているようだ。

「お蘭、サラちゃんはな――」

 達也が笑いをこらえて蘭子に説明しようとした時、サラが呟いた。

「屈折した愛の形を、教えています」ポォォ
 
 サラはそう言った後、頬をわずかに赤くし、俯いた。

「サラ? よくもまぁそんな事をサラッと言うね? サラだけに?」
「ふぇ? あわわわ、私ったら何て事を……」」

 ユズルに指摘され、自分が言った事に顔を真っ赤にして盛大に照れているサラ。

「ん? よくわかんねえけど、スゲェって事だなっ」
「おいおい……今ので納得したのか?」

 何故か納得した蘭子に、ただ呆れる達也だった。



              ◆ ◆ ◆ ◆


食堂 12:15時――

 インベントリ内の仮設宿舎を、今回のベースとして借りた桃魔術研究会。
 多目的スペースの奥にある食堂は、教室程の広さであり、ちょっとしたフードコートの様だった。
 受付には作業用ゴーレムが二体対応し、奥の厨房でも作業用ゴーレムがせわしなく働いている。

「ひゅう。スゴい品ぞろえだな? どれでもイイのか?」
「もちろんニャ。遠慮なく注文して下さいニャ」

 食堂にいたロコ助が注文方法を説明していた。

「じゃあ、俺、ミニカレーセット温かいソバにコロッケ別皿ね」
「アタイはカツ丼の『松』にとん汁!」
「私は…チーズ牛丼キムチみそ汁セット、チーズだくでお願いしますっ」

 達也、蘭子、素子は、物凄い種類のメニューから、思い思いの品を選んだ。
 順番を待つ間にユズルはサラに聞いた。

「サラは何にする?」
「ユズル様と同じものが……イイです」

 サラは顔を赤くして、俯きながらそう言った。
 そこに、後ろにいた真琴が口を挟んだ。

「サラちゃん? 止めといた方がイイわよ?」
「ふぇ? 何でですか? 真琴さん?」

 真琴がそう言うと、サラが首を傾げた。

「そうだな。『イナゴ丼』かな? コオロギの素揚げをトッピングで」
「ふぇぇぇぇ!?」

 サラの顔が次第に青くなっていった。

「虫!? 虫を食べるんですか? バグですよ?」 
「うん。 栄養あるし、香ばしくて美味しいよ♪」パァァ

 このシチュエーションでは、サラの顔はニパを食らってもさすがに青いままだった。

「うぅ……Bランチ、お願いします」
「でしょう? アイツに何でも合わせる必要無いのよ。私、シェフの気まぐれパスタね」

 顔色が優れないサラを、真琴が介抱した。

「ええと、ワニの串焼きと、コウモリのスープ」
「オオカミウオの刺身定食と、タランチュラの素揚げも」

 薫子と忍が注文したものの内容が気になるが、あえてツッ込まない面々。
 最後にブラムが受付に注文した。

「オヤジ、いつものをくれ」
「いつもの?」

 ブラムが注文したものが気になっていると、入り口から白黒ミサとシズムが入って来た。

「「お疲れ様です。皆様」」
「アニキ、ただいまぁ」



              ◆ ◆ ◆ ◆



 昼食をとりながら、睦美がポケクリバトル組に話しかけた。

「午後から団体戦だが、準備は出来ているのか?」 
「ああ、やるべき事は全てやった。『果報は寝て待て』ってヤツやな」
「『人事を尽くして天命を待つ』、とも言いますね」 

 睦美の問いに、カナメと素子が答えた。

「要は『まな板の鯉』ってヤツでしょ? なるようにしかならねぇッスよ」

 みんながことわざや慣用句を並べるので、蘭子はいちいち首を傾げている。

「よくわかんねえけど、勝つ自信はある!」
「よくわかったよ蘭子クン。細工は流々って事だね」

 自信に満ちた顔の蘭子に、睦美は大きく頷いた。
 
〈おい! 何だか風向きが変わったみたいだぞ?〉

 テーブルに置いてあったノートPCの画面で、メルクが騒いでいる。

「どうしたの? メルク?」
〈運営から通達が来た。『ルール変更』だとよ〉


「「「「何ぃぃ!?」」」」

 
 蘭子たちは驚いているが、シズムはキョトンとしていた。
 
「それで、『ルール変更』ってのは何処が変わるんだ?」

 一同は運営サイトの『お知らせ』と言うページを開き、覗き込んだ。

「なになに? 応募者が予想より多く――」

 要約すると、変更内容は以下のものだった。

・1プレイヤーが連れて行けるポケクリが4体から1体に変更。
・魔石のカウントは廃止。つまり、相手チームを全滅させるか、時間終了時の残りメンバーの数が多い方が勝ち。
・制限時間が10分から5分に変更。延長は2分ずつ

 カナメが腕を組み、ため息混じりに呟いた。

「フム。ややこしいルールは止めて、ガチで勝負さす、って事やな」
「時間が押してるから、手っ取り早く勝敗を決めたいようですね……」
「あまりにも杜撰過ぎるな。もっとやりようはあったろうに……」
 
 土壇場でルールを変更する、運営の身勝手な行動に苦言を漏らす達也たち。
 しかし蘭子は、薄笑いを浮かべ、呟いた。

「ガチで勝負か……イイぜ。上等じゃねぇか!」
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