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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード51-8

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膜張メッセ 偽装献血カー内 10:45時――

 サラとの約束で、ブース内を同伴する事となった静流。
 渋っていた薫子と忍だったが、サラの熱意に負け、同伴を許した。
 同伴を許す代わりに忍が提示した条件は、至極真っ当な条件だった。

「他人の目に触れる場所では、静流はコスプレをする事」
「それだけ? だったら問題無いね」

 静流は元々コスプレ要員だった事もあり、忍の出した条件は楽勝だと思っていた。

「大体僕、コスプレをしに来たのが仕事みたいなもんでしょ?それだったら――」
「甘い! 静流は甘過ぎる!」

 余裕ぶっていた静流に、真琴が横から言葉のフリッカージャブを見舞った。

「ど、どう言う事?」
「あのねぇ静流、ただでさえ目立つアンタが、二次元から出て来たみたいなコスプレをしてみなさい、周りが大変な事になっちゃうでしょ!」
「コスプレなんて、見られてナンボでしょ? イイじゃないか」

 真琴の意見に当然だろうと開き直る静流。

「確かに。それが一般のコスプレイヤーならね」
「でも、静流は別格。二次元とのシンクロ率が高過ぎる」

 真琴が言わんとした事を、お姉様たちが補足した。

「じゃあ、どんなコスプレをすればイイの?」
「フッフッフ……よく聞いてくれた」

 静流の問いに、忍は不敵な笑みを浮かべ、答えた。

「静流には、『こどおじ引きこもりデブニート』にコスプレしてもらう!」ビシィ!
「な、何だって?」

 忍がとんでもない事を口走った。
 周りの者は、それを聞いてドン引きしている。

「そ、それはいくら何でもハードルが高過ぎでしょう? 逆に目立つんじゃないの?」
「そんなのがサラちゃんとお手々繋いで闊歩してみなさい、誘拐犯と間違われるわよ?」

 リリィとカチュアが、全力でツッコミを入れた。 
 次に鳴海が声を張り上げ、右京がそれに同調した。

「それでは困ります! ユズル様としてブース内を回ってもらわないと、仕事になりません!」チャ
「閉鎖空間外でも、少しはファンサービスがあってもイイのではないでしょうか?」

 見た目を完全にモブ以下にランクダウンさせる派であるお姉様勢と、オフィシャルな理由であくまでもユズルで通す派の鳴海勢。
 一同は腕を組み、考え込んだ。


「「「「……むぅ~」」」」


 忍は不服そうに睦美を睨みつけ、ぼやいた。

「睦美、そもそも話が違う。インベントリと言う閉鎖空間での活動だから、私たちは許したのに」
「見なさい! あの喧騒の中に静流を放り出すなんて、常軌を逸してるわ!」

 薫子はそう言い、モニターを指さした。
 モニターには、コスプレエリアでポーズを取っている女子三人組に、カメラ小僧たちが群がっている姿が映し出された。
 静流は画面に映った三人組を見て、眉をひそめた。

「ん? これはシズムと、白黒ミサ先輩じゃないか?」
「確かに。傍で撮影しているのはウチのクルーです」チャ

 静流の問いに、鳴海は大きく頷いた。
 クルーは恐らく、活動風景を動画で撮影しているのだろう。
 羽根付きボンテージ姿の三人は、白と黒は当然白黒ミサであり、シズムは赤のボンテージ姿であった。
 カメラ小僧たちが夢中でシャッターを切っている。

「あの二人、流石に顔が少し引きつってるわね……」
「でもシズムちゃん、何か楽しそう……」

 真琴とサラが、引き気味に感想を述べた。

「うわ……あそこに僕が行く事は、なるべくなら避けたいです……」

 静流は顔を青くして、ワナワナと背中を丸めた。 
 
「どうなの睦美? これでもまだ余裕でいられるかしら?」

 薫子の問いに、睦美はここぞとばかりにドヤ顔で言った。

「問題ありませんよお姉様。策は練ってあります。静流キュンにはコイツを着けてもらう!」ジャラッ
「何です? ソレ?」
 
 睦美が見せた物は、ビニール袋に入っているブレスレットであった。

「これはな、『サチウスの腕輪』といって、身に着けた者のオーラを弱体化させる呪具だ。ちなみに四個用意している」
「何か、バッドなアイテムっぽいですね……幸が薄いって言う意味ですか?」

 静流がそう聞いてすぐ、リリィが何か思い出した。

「『サチウス』って、『博打の女神』の?」
「そうです。女神サチウスは表裏一体、信仰者を『強運』にも『凶運』にも導くギャンブルの女神です。この腕輪には、サチウスの加護が付与されているのです」

 睦美は説明を続ける。

「コレを付けていれば、オーラが強すぎて目立ってしまう者を目立たなくし、さらに人払いの効果もある」
「着ける者のオーラに反比例する、って事?」
「そうですね。かつて、どこぞの御妃候補がこれを使い、ライバルを蹴落とした、と言う逸話があるようです」
「おおコワ。そんなもん静流クンに渡して、バチ当たんないの?」
「呪具にも等級があるらしく、コレは低級で、悪戯程度に使うもののようですから、問題無いでしょう」

 そう自信満々に言い切る睦美。

「まさか、そんな女神様がいるなんて……」
「ある神話では、女神が88柱存在するものもあるようだから、そんな女神がいてもおかしくは無いだろう?」
「88柱って、どっかのマンガにそんな設定があったな……」

 薫子が念を押す。

「ほんっとぉーに、静流には害はないのね?」
「はい。要は着ける者次第と言う事ですよ」
「そんなものまで用意していたなんて、睦美先輩はやっぱスゴいや」パァ

 静流の若干ニパを含んだ尊敬のまなざしに、睦美はよろけた。 

「おっふぅ……と、当然だよ。キミやお姉様はタダでさえ目立ってしまう。この位の呪具を着けないと仕事に支障が出るからね」

 睦美の説明を受け、忍は渋々了承した。

「わかった。それを使うなら、ユズルとして構内を徘徊してもイイ」
「そんなゾンビみたいに言わないでよ……」

 あからさまに不機嫌な態度の忍。

「ではサラ先生、お姉様方のお許しが出たので、準備に取り掛かってくれるかな?」
「あ、あのGM、お願いが……」
「む? 何だね?」

 サラは勇気を出し、睦美に提案した。

「そのアイテムを使うのなら、私は、素の静流様と回りたいです!」

「「「何ぃぃぃ!?」」」

 サラの衝撃発言に、一同は面食らった。
 鳴海はサラに聞いた。

「ユズル様ではダメなのですか? サラ先生?」
「私の認識では、ジン様はあくまでも当て馬止まりなので……」
「ななな、何ですってぇ!? 言わせておけばこの小娘!」
「ひぃ!」
「まぁまぁ。現役のジン様を知らない小娘の言う事です、大目に見ましょう」
「そ、そうね。ジン様の素晴らしさを知らないのは可哀そうね。フン」

 サラの言い草にカッとなるカチュアを、鳴海はなだめた。
 サラは真剣な顔つきで、睦美に提案した。
 
「私、考えたのですが、『ユズル様が静流様にコスプレした』と言う設定にすればイイと思います!」
「フム。成程……」
(先生のモチベーションに関わる。無下には出来ないぞ……)

 五十嵐出版の中枢的な立場であるサラの主張は、今後の創作意欲に繋がる為、出来るだけ尊重したい睦美。
 サラの提案に、睦美は思考を巡らせている。
 リリィがふと思いついた事をボソッと呟いた。

「いっそのこと、みんなの前で変身させるか? それなら周りも認めざるを得ないでしょ?」
「それです。その方向で行きましょう!」



              ◆ ◆ ◆ ◆



偽装献血カー内 11:00時――

 サラと同伴する時間となり、静流はユズルに変身した。

「アノ恰好、わかっていてもドキッとしちゃうわね……」
「わかります。私も初めて見た時は正気を保つので精一杯でした……」

 ユズルを見ながら、カチュアと鳴海が生温い視線を送っている。

「ではユズル様、打合せ通りに頼むよ?」
「はい。上手く出来るかわかりませんが、取り敢えずやってみます」
「結構。それでイイんだ」

 モニターを確認している忍に、ユズルは聞いた。

「サラは持ち場に着いた?」
「着いた。バッチリ写ってる」

 準備が整った様で、ユズルは一同に声をかけた。

「じゃあ、行って来ます」
「気を付けるのよ? ユズル」

 ユズルは腕に『サチウスの腕輪』を着け、献血カーを出た。
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