上 下
297 / 590
第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード49-9

しおりを挟む
ミフネ・エンタープライゼス本社 重役室――

 代表である三船シレーヌの所に来ているユズルたち。
 シレーヌから『浮気防止ネックレス』なるものを渡され、ユズルの発する【魅了】に似た特性のオーラを、ある程度中和出来る事がテストでわかった。
 首に掛けたネックレスをいじりながら、ユズルがシレーヌに聞いた。

「シレーヌさん、何でこんなものを作ったんです?」
「決まってるじゃない。アノ人、尋常じゃなくモテるからよ!」

 ユズルの問いに、右手で握りこぶしを作って真っ直ぐにユズルを見た。

「アノ人に、悪い虫が付かない様にって作ったんだけど、『そんなの必要無い』って。少しむくれてたわね……」
「そりゃあ朔也さん、怒りますよ。パートナーに信頼されてないみたいですもんね……」
「だから封印して、机の奥に入れといたの。ソレが今頃役に立つとはね……」

 そう言ったシレーヌは、手をポンと叩き、ユズルに聞いた。

「それはそうと、今日来たのは、アノ人の情報があるのね?」
「ええ。あります」

 ユズルは最近たまに夢枕に朔也が立つ事、母親のミミもユズルの夢の中で、朔也に会った事を説明した。

「……そんな事があったの?」
「ええ。どうも、どこかの場所で監禁されているようです。眠らされてるのかもしれませんね」
「……生きてる事がわかっただけでも大収穫よ!」

 シレーヌは、静流の説明を聞き、安堵の溜息を漏らした。

「それで、先日撮影所で下屋敷Pに頂いた物があるんです」
「うん? 下ちゃんから? 何かしら?」
「これなんですけど……」ゴソ

 ユズルはメッセンジャーバッグをまさぐり、一本のDVDケースを出した。

「朔也さんが主演した『幻』の特撮ヒーローものです」
「ん? こ、これって……そんな、バカな……」

 そのDVDのタイトルは、『翠玉すいぎょくの戦士 エメラルド・アイ』であった。

 シレーヌはDVDケースを手に取り、眉をひそめた。
 それは七本木ジンこと荻原朔也が数話分主演した、幻の特撮ヒーロー物であった。

「おかしいわね? この作品は確か三話分しかオンエアしてないハズ……」
「ええ。何でも下屋敷Pが、マスターからコピーしたもので、ワンオフらしいです」
「ふぅん。なるほどね……」

 そこで右京が口を挟んで来た。

「はいはい! あの後、ネットで調べたんですけど、一部のマニアには覚えている人もいるみたいで、駄作か名作か物議をかもし出してるとか」
「駄作よ! 決まってるじゃない、あんなの!」

 シレーヌは、この作品にあまり良い印象が無いようだ。

「実は今日、こちらで観ようと思って、まだ観てないんですよね……」
「観ましょう! 私だって、気なってしょうがなかったんですから!」 

 懇願する右京の熱量に、シレーヌは折れた。

「イイけど、あまり期待しない方がイイわよ? 鳴海、再生して」
「はい。只今」

 鳴海がDVDをセットしている間、ユズルはシレーヌに聞いた。

「時代的には、ライダーで言う『X』と『アマゾン』の間、ですかね?」
「もうちょっと前かもね。下ちゃんが助監って事は」
「代表、打ち切りの理由って、スポンサーとのトラブルだって本当ですか?」
「確かにそれもあるけど……」

 そう言っている間に、スタンバイが完了した様だ。
 モニターにはチャプターが表示され、第一話から五話までが収録されていた。

「どうします? 第一話から観ますか?」
「第三話。打ち切りの理由は、そこにあるわ」

 シレーヌは顎に手をやり、モニターを見つめている。

「では、第三話を再生します」
「ワクワクしますね? ユズル様」
「はい」
「ツッコミは、最後まで見てからにしてね?」

 再生が始まり、オープニングのあと、アバンタイトルが流れた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――  


翠玉すいぎょくの戦士 エメラルド・アイ』


麻薬捜査官 柳丈一 は、ある事件の捜査中、仕組まれた爆発事故に巻き込まれ、瀕死の所を古代エジプトのファラオに助けられた。
その際にファラオから授かった指輪『エメラルド・リング』により、『エメラルド・アイ』に変身するのだ!

戦え! エメラルド・アイ! 世界征服を目論む『秘密結社G』と戦うのだ!



       提供 銀座 じゅわいよ・くちゅーる マギ



          ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 街中を一台の小型自動車が疾走している。メッサーシュミットである。
 大戦後に、ドイツの戦闘機メーカーが製造した三輪の小型自動車で、排気量は200CCだった。
 運転しているのは、紫色のスーツを着た、眉目秀麗な黒髪の青年だった。

 ブォォォォ……ン

 ある一角に差しかかかった時、何かの異変に気付いた青年。
 若い女性が倒れている。
 あわてて車を停め、青年は女性の方に駆けよった。

「どうしたんだ君! しっかりするんだ!」

 青年が女性を揺り起こすと、女性はゆっくりと目を開いた。
 女性は、青年の顔を見るなり抱き付いた。

「あ……あぁん、五郎さぁん……素敵♡」ガバッ
「離してくれ! 俺は五郎じゃない!」
「五郎さぁん、私を忘れたのぉ? 夕べ、あんなに愛し合ったのにぃ……」
「何を言っている! 人違いだ!」 

 青年は女性の頬を二、三回平手ではたいた。

「君ぃ! 頼むから正気に戻ってくれ!」バシッ
「ああっ! もっと、もっと叩いて!」
「仕方ない、御免」トスッ
「はぅ!……ん」ガク

 青年は、言う事を聞かない女性の首筋に手刀を入れ、気絶させた。



          ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



喫茶店 ガブラッチョ 事務所――

 喫茶店の奥にある事務所のソファーに、先ほどの女性が寝かされている。

「マスター、その人の容体は?」  
「丈一か。大丈夫だ。今は薬で眠っている」

 喫茶店のマスターは、青年の協力者の様だ。

「どう思います? マスター」
「う~ん、どうも『媚薬』の様なものを嗅がされたようだな……」
「薬物、ですか?」
「テレビ、見て見ろ」
「えっ? はい」

 丈一はテレビをつけた。
 画面の中では、男性レポーターが生中継をしていた。

『大変です! デパートの下着売り場にいた女性客や店員たちが、一斉に男性客に襲い掛かっています!』

 画面では、あられもない姿の女性客が男性客に飛びつき、身ぐるみを剥がしている場面が映し出された。
 カメラの視点がレポーターに変わると、丁度レポーターに半裸の女性客が近付いて来た所であった。

『御覧の通り、周囲は阿鼻叫喚に……な、何だキミは!?』
『ねぇ? アタシとイイ事しない?』
『違うでしょ? わたしよ、わ・た・し♡』
『え? う、うわぁぁぁ』ザー

 レポーターが数人の女性客に襲われ、『しばらくお待ちください』という画面に変わった。
 テレビを消した丈一は、顎に手をやり、眉をひそめた。

「マスター、『奴ら』の仕業で間違いないですね?」
「ああ。その様だ」

 その時、事務所のドアが開き、一人の女性が入って来た。

「じょういち……さん」ガク
「サチ子! しっかりしろ!」

 サチ子と呼ばれた女性は、倒れ込むところを丈一に抱き留められた。

「何があった! サッちゃん!?」
「マスター、デパートの化粧品売り場で、試供品の香水を……」ガク

 サチ子は途中で気を失ってしまった。
 丈一がサチ子の所持品の中から、不審なものを発見した。

「マスター、これを見て下さい!」
「ん? 例の香水か?」

 丈一が見つけたのは、試供品の香水の小瓶だった。

「フフッ、丈一、ご丁寧に製造元の住所が載ってるぜ?」 
「マスター、俺、行きます。 サチ子をお願いします」
「任せろ!」

 事務所を出た丈一は、メッサーシュミットに飛び乗り、スロットルを全開にした。


 ブロロロォ……ン


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――  

 Aパートが終わり、アイキャッチが表示された。
 
「鳴海、一旦止めて」
「はい」ピッ

 シレーヌの指示で、鳴海がリモコンの一時停止ボタンを押した。

「どう?今までの所で、何かおかしい点は無かった?」

 シレーヌは、みんなの意見を求めた。

「いえ、特には。エメラルドだけに、スポンサーは宝石を扱っている所だったんですね? 納得です」
「黒髪のジン様も素敵です……はっ、すみません、代表」
「まぁ、ちょっと露出が多くて、お子様には刺激が強め、かも知れませんね ヌフ」

 それぞれの意見を聞き、シレーヌは頷いた。

「確かにここまでは問題無さそうね。じゃあBパート、お願い」
「はい」ピッ

 鳴海は、リモコンの一時停止ボタンを解除した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...