拙さと、儚さと、喧しさと。~『桃髪家の一族』と呼ばれる家系で、知らない間に『薄っぺらい本』の主役級キャラにされている僕~

殿馬 莢

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第8章 冬が来る前に

エピソード47-27

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ワタルの塔 4階 会議室――

 竜崎ココナ大尉の救出ミッションを行う為、会議室は急遽司令室兼モニター室になった。
 二人で同じ夢を見る事が出来る『ペアリング機能』を備えた『(仮称)複座式睡眠カプセル』を用い、夢の進行状況は会議に使用するスクリーンに映し出され、モニター出来る仕組みになっている。

「準備は出来たかしら? シズルー大尉?」
「うむ。この格好でアレに入るのか?」

 シズルーの検査着は、ココナが来ている上下別の物ではなく、一枚の布をただ被るだけの、人間ドック等で使用するの様なものだった。

「せめて、下着位は付けさせてくれないか?」
「なるべくノイズを減らしたいの。協力して」

 アマンダの発言から、シズルーが検査着の下は何も着けていない事がわかる。
 【化装術】は完璧の筈だが、念の為に腕の操作パネルは着けたままにしておいた。

「ムハァ、素敵です……めくりたい」
「ムフゥ、隅々まで私が診てアゲルわね?」
「おいおいドクター? 私ではなくて、ココナ君を診てくれたまえよ」

 ルリとカチュアに、いやらしい目で舐める様に見られているシズルー。
 そんなシズルーに、部下たちが声をかけた。

「大尉殿、姫様をお願いします!」
「ご武運を」
「姫様をメロメロにしちゃって下さい!」

 そんな部下たちに、シズルーは返事した。

「わかった。必ず連れ戻す」

 説明を聞きながら、『(仮称)複座式睡眠カプセル』に乗り込むシズルーとメルク。
 カプセルに入るなり、シズルーの顔を見つめて来るメルク。

「……じぃーっ」
「あまり凝視しないでくれ。気が散る」
「す、すまん。こういう場合の対処がよくわからんのだ」
「プログラムが起動すれば、直ぐに眠くなる」
「わかった。手、繋いでもイイか?」
「……好きにしろ」

 メルクは手を『恋人繋ぎ』で繋いだ。

「霊体を扉の外におびき出して【メンタル・キュア】をかます。イイわね?」
「あと、霊体は非常にデリケートなの。取り扱いは慎重に、ね♡」
「了解した」

 如月姉妹に念を押され、表情を引き締めるシズルー。

「では、ミッション、スタート!」ポチ

 ブゥゥーン

 カプセルの蓋が閉じ、本体が水平に角度を変えた。




              ◆ ◆ ◆ ◆

 


「ここが、竜崎大尉の精神世界、なの?」

 シズルーが辺りを見回す。自覚があるかは不明だが、口調が素の静流になっている。
 夜の砂漠に、満月が辺りを照らしている。

 ボムッ!「ふう。この姿になるのも、久しぶりじゃのう」

 シズルーの前に現れたのは、ゴツゴツとした表皮の翼竜であった。

「それが、メルクの本来の姿?」
「ああ。実際の大きさは、この十倍以上だがな」

 シズルーは大きく頷いた。

「成程。それで『イワオ』なんだね。納得」
「納得するな! ブラッカラムの奴め、余計な事を……」

 メルクリアとブラムは、幼生体からの知り合いらしい。

「岩系の『ポケクリ』みたい。なんか懐かしいな」 
「何じゃ? 『ポケクリ』とは?」
「昔流行ったゲームだよ。『ポケットクリーチャー』って言うんだ」
「ふむ。何でもよい。乗れ」 
「え? 飛ぶの?」
「歩いとったら朝になってしまうぞ? ほれ、乗るのじゃ!」
「わ、わかったよ」

 メルクは頭を低くしてシズルーが乗るのを待っている。
 恐る恐るメルクの背中に乗るシズルー。

「そうか。頭の中、体内時計では今が夜なんだね?」
「左様。舌を噛むなよ?」フワッ
「うわっとと!」
  
 メルクはそのまま垂直に浮き上がり、空中で制止している。

「全然揺れない。はは。これなら怖くないかも」
「私の場合、【重力制御】で浮き上がっておるのでな。羽ばたいたり滑空するワケでは無いのだ」
「何か、カッコイイよね。SFっぽくて」パァァ

 目をキラキラさせ、そう言って微笑むシズルーに、メルクは目を奪われた。

「う、うむ……では行くぞ?」
「うん、お願い」

 メルクはある方向を目指し、動き出した。

「うわ。結構スピード出てない? でも全然揺れない」
「フフ。実はな、ブラッカラムも知らん事だが、ワシは光速で飛べるのだ」
「こ、光速?」
「鈍重な見た目にはそぐわんじゃろ? 『能ある何とか』というやつじゃな」
「スゴいじゃん、メルク」
「と言うても、肉体はとうに滅びてしまったがのう。ハハハ」

 シズルーはメルクが気の毒に感じた。
 そんな事を話している内に、一軒の家がポツンと建っていた。
 いかにもな赤い屋根に白い壁、正に『家』というたたずまいであった。
 その家の近くに、メルクは着地した。 

「ココが、ココナさんの深層心理?」
「そうじゃ。作戦室に連絡するのだ」
「わかった」

 目的地に着いたので、作戦室に連絡を入れるシズルー。
 口調がシズルーに変わった。

〔作戦室、応答せよ〕
〔こちら作戦室。どう? 状況は?〕
〔今、深層心理の扉の前だ〕
〔結構。作戦を開始します。指示はインカムから送ります。ルリさん?〕
〔よーく見えてますよ! シズルー様、今回も私が完璧にサポートいたします! フーフー〕
〔よろしく頼む〕

 メルクはココナの姿に戻り、ドアのノブに手をかけた。

〔よし。 入るぞ、シズルー〕カチャ
〔了解〕

 中に入ると、中央に廊下があり、個室のドアが両側にいくつも並んでいる。
 メルクは迷いもなく、真っ直ぐに奥を目指し、どんつきの部屋の前で歩みを止めた。

〔ここじゃ。ココにおる〕

 ドアには名札の様なものが掛かっており、内容は『そっとしておいて下さい』と書いてあった。

〔行くぞ! まずは私が説得してみよう。お主はココにおれ〕
〔わかった〕

 メルクはドアを開け、中に入った。

〔邪魔するぞい!〕

 メルクがズカズカと中に入って行くと、壁際に体育座りをしてボーっとしているココナがいた。
 身体は半透明で、以前薫子がそうだった『思念体』に近い状態なのであろう。

〔ん? ああ、お前か。私を笑いに来たのか?〕
〔いい加減、殻に閉じこもるのは終いにせんか?〕
〔ダメ。私の『脳内シミュレーション』が終わるまでは……〕

 そう言ってココナは、体育座りのまま、微動だにしなかった。

〔ワシの魔力もそうは持たんぞ? そうなればお主の命も……〕
〔その時は、私の幸薄さを笑って頂戴〕

 メルクの説得には、まるで耳を貸さないココナ。

〔仕方ない、シズルー、作戦開始じゃ! ワシは外で待つ!〕
〔了解。少佐、ミッションGO!〕
〔プランA、スタート!〕

 パァァー!!

〔閃光弾か!? ううっ〕

 まばゆい光が、シズルーとココナを包んだ。
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