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第8章 冬が来る前に
エピソード47-18
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ワタルの塔 4階 医務室――
『夢モニター』を使用し、ココナの夢を探っては見たものの、症状に至る原因がわからないカチュアたち。
部下たちを呼び、録画した夢を見せ、聞き取り調査を始めた。
静流は念の為、シズルーに変身しておく事にした。
「うわ……何て痛々しい」
「相手の人、シズルー大尉に似てますよね? あと神様クンにも」
「静流様ね。恐らく、薄い本に影響されてるんでしょうね……」
部下たちは録画した夢を見て、低くうなった。
「このデータ、事が済んだら然るべき処置ののち、確実に消去願います……」
「ええ? カワイイじゃないですか、永久保存版ですよ?」
「ダメです! この世から消滅させないと……」
夏樹は頭を抱え、同僚たちに言い聞かせた。
「ケイ、これを見た事は、姫様には絶対に知られない事! 瞳もイイわね?」」
「わかりました。墓場まで持って行きます」
「え? 何でダメなんですか? だってただの夢ですよ? フィクションですよね?」
「ケイ? わからないの? こんな夢を見てるなんて周りに知れたら、姫様は羞恥心の余り精神が崩壊してしまうでしょうに!」
「いたい、痛いですぅ」
ケイのあっけらかんとした態度に、瞳はキレかかり、ケイのほっぺたを引っ張った。
そこに追い打ちをかける者がいた。
「もう、とっくに崩壊してるかもよ?」
「カチュア先生、それはシャレになりませんよ!」
「失敬。で、どうなのアナタたち、何か心当たりは無いかしら?」
正直お手上げのカチュアは、部下たちに聞いた。
「ふと思い出したのですが、姫様の異変が顕著に出始めたのは、『あのポスター』を見てからでした……」
「ポスターって、静流クンが写ってる、アノ?」
「ええ。私があるツテから入手したんです……」
瞳が顎に手をやり、記憶の底を探っている。
恐らく、例の隊員募集のポスターであろう。
「あのポスターに写っている少年を見るや、姫様の態度がおかしくなりました」
「静流クンを?」
カチュアはそう言って、シズルーの顔をチラッと見た。
シズルーは視線を天井付近に逸らせた。
「『この少年を探して頂戴!』ってそれはもう凄い剣幕でしたね……」
「それからいろいろなツテを使って、あの少年が『五十嵐静流様』である事が判明し、『日本在住』までの調査結果を姫様に報告したんです」
「そしたら姫様、顔を真っ赤っかにして、万歳三唱してたね。可愛かったなぁ」
「『実在するのね?! うはぁ、どうしましょう』ってクルクル回っていました」
三人は笑みを浮かべながら、その時の回想に耽っていたが、急にトーンが下がった。
「その直後からです。メルクさんしか出て来なくなったのは……」
◆ ◆ ◆ ◆
国分尼寺魔導高校――体育館
静流たち一行は、視聴覚室の前に体育館を見て回る事にした。
体育館に入って先ず目に入るのは、高さ3mはあろうかと言う彫刻であった。
「あの彫刻、スゴい大作ね」
「ああ、あれはね、美術部の花形部長の作品だよ。花形先輩はシズルカ像の作者でもあるんだ」
「へぇ。アノ像の作者か。納得」
「ちなみにこの作品は、どっかのコンクールで金賞を貰ってるらしいよ」
古代ギリシャ人風の衣装を着けた男同士が、社交ダンスで言う『キメ』のポーズのようになり、見つめ合っている。
「この『受け』やってるの、間違いなく静流様よね?」
「う、うん。美術部のバイトでモデルやった時のなんだ。シズルカ像もこの時に試作品を作ったんだよ」
「素晴らしい。洗練された技、将来が楽しみです」チャ
ニニちゃん先生は、この像が気に入ったらしい。
暫く彫刻を眺めていると、不意に空気が淀んだような気がした。
「「「むっほぉぉぉぉ!」」」
気が付くと、周りには両手を口にあて、血走った眼差しを向ける女生徒が群がっていた。
「ひっ、な、何なの!?」
「これが『アキ×シズ』像ですか……」ムフ
「素晴らしいオカズ……御飯三杯はイケますね……」ムフフ
「ああ、静流様ぁ……私がリードして差し上げたい……です」クフゥ
女生徒たちは、そう言ってある一定の距離を保ち、身もだえしている。
「あれは、『薄い本』のユーザー。サラたちの作品を読んでくれてる熱心な読者の方、つまりお客さんだよ」
「私は、即売会とかには恥ずかしくて参加してないんです。この人たちがお客さんかぁ……」
彫刻を見て顔を赤らめ、クネクネと左右に揺れている集団を見て、サラは予想外の反応を見せた。
「わかる。わかりますぅ。見事な三次元化ですぅ」ムフゥ
「あり? てっきりキモがると思ったんだけど、サラったらアッチの子と同じ反応ね?」
「フム。『同族嫌悪』にはならなかったワケね」
ニニちゃん先生は、その生徒らを見て、ヨーコに聞いた。
「ミス・ミナトノ、彼女らが腐女子という子たちなのですか?」チャ
「そうです。腐女子。オタク女子。簡単に言えば、特殊な趣味をお持ちの方、ですよ」
「アナタたちも『薄い本』の愛好家でしたね?」
「私たちの場合、リアルの静流様と面識がありますので、あちらの方々よりランク的には上ですけどね。フフン」
ヨーコは優越感に浸りながら、彫刻に群がる女生徒たちを見た。
「ん? おかしいですね……ここに実物のミスター・イガラシがいるのに、全然気付いていません」
「それは恐らく、【結界】が僕を守ってくれてるんです。『僕』を直接認識している人以外は、存在がぼやけている感じ? ですね」
「相互認識、というものでしょうか?」チャ
「その解釈で、多分合っています」
実際には静流だけでなく、学園の一同や美千留たちも含まれているようだ。
「この【結界】のお陰で、僕は普通の生活が出来てるんです。結界術士の沖田先生には感謝しています」
「先ほどの話で、攻撃魔法をキャンセルさせたとか……確かに優れていますね」チャ
そうこうしている内に、向こうから達也が走って来た。
「おまっとさん! ホレ! ちゃあんと人数分ゲットして来たぜ?」グッ
達也は、視聴覚室の静流の絵を観覧する際の整理券を一同に見せ、親指を立てた。
「「「おおー」」」
「サンキュー。恩に着る」
「水くさいぜ? 俺と静流の仲だろ?」
「ツッチーも、たまには役に立つ」
一行は次にシズムの作品の所に行こうとするが、そちらの方が何やら騒がしい。
「次はシズムの絵なんだけど、なんか混んでるな……」
「と言うか、その隣の方がスゴくない?」
なんとか観覧出来る位置まで来た静流たち。
「ふぅん。『ドルガーバの塔』か。アノ塔とは少し違うイメージよね?」
「スゴい。良く描けてるよシズム」
「へへ。ありがとう♪」
「見事な透視投影ですね。建築の仕事に応用出来そうです」チャ
ニニちゃん先生も、正確で緻密な書き込みに感心している。
シズムの絵を堪能していると、不意に隣から歓声が上がった。
「「「「ぬっほぉぉぉぉん」」」」
「何だ? また奴らが騒いでんぞ?」
「確か隣って……うわ」
先ほど、花形の彫刻に群がっていた者たちが、先ほどの様に悶えている。
その者たちが見ている絵は、睦美が用意したダミーの静流の作品であった。
「こ、これは最早、国宝級ですね」ハァハァ
「ああ、吸い込まれるぅ~」フー、フー
作品のタイトルはズバリ『自画像』で、メガネを外し、カメラ目線で控えめな笑顔を浮かべる静流であった。
サイズの関係でみぞおち位までしか描かれていないが、少なくとも上半身は裸であった。
「一見ハレンチな印象ですが、それを上回る様式美……イイです」チャ
「多少修正が入ってるけど、しず兄だね……」
「お兄様があられもないお姿に……はふぅ」
蠱惑的な笑みを浮かべる静流の絵を見たほとんどの者は、感嘆の溜息を漏らしている。
「よりによって自画像ですか!? うひゃあ、どう見ても盛り過ぎでしょうが! これじゃあ僕が、とんだナルシスト野郎じゃないか!?」
静流、いやロディからダイレクトな感想が漏れた。
『夢モニター』を使用し、ココナの夢を探っては見たものの、症状に至る原因がわからないカチュアたち。
部下たちを呼び、録画した夢を見せ、聞き取り調査を始めた。
静流は念の為、シズルーに変身しておく事にした。
「うわ……何て痛々しい」
「相手の人、シズルー大尉に似てますよね? あと神様クンにも」
「静流様ね。恐らく、薄い本に影響されてるんでしょうね……」
部下たちは録画した夢を見て、低くうなった。
「このデータ、事が済んだら然るべき処置ののち、確実に消去願います……」
「ええ? カワイイじゃないですか、永久保存版ですよ?」
「ダメです! この世から消滅させないと……」
夏樹は頭を抱え、同僚たちに言い聞かせた。
「ケイ、これを見た事は、姫様には絶対に知られない事! 瞳もイイわね?」」
「わかりました。墓場まで持って行きます」
「え? 何でダメなんですか? だってただの夢ですよ? フィクションですよね?」
「ケイ? わからないの? こんな夢を見てるなんて周りに知れたら、姫様は羞恥心の余り精神が崩壊してしまうでしょうに!」
「いたい、痛いですぅ」
ケイのあっけらかんとした態度に、瞳はキレかかり、ケイのほっぺたを引っ張った。
そこに追い打ちをかける者がいた。
「もう、とっくに崩壊してるかもよ?」
「カチュア先生、それはシャレになりませんよ!」
「失敬。で、どうなのアナタたち、何か心当たりは無いかしら?」
正直お手上げのカチュアは、部下たちに聞いた。
「ふと思い出したのですが、姫様の異変が顕著に出始めたのは、『あのポスター』を見てからでした……」
「ポスターって、静流クンが写ってる、アノ?」
「ええ。私があるツテから入手したんです……」
瞳が顎に手をやり、記憶の底を探っている。
恐らく、例の隊員募集のポスターであろう。
「あのポスターに写っている少年を見るや、姫様の態度がおかしくなりました」
「静流クンを?」
カチュアはそう言って、シズルーの顔をチラッと見た。
シズルーは視線を天井付近に逸らせた。
「『この少年を探して頂戴!』ってそれはもう凄い剣幕でしたね……」
「それからいろいろなツテを使って、あの少年が『五十嵐静流様』である事が判明し、『日本在住』までの調査結果を姫様に報告したんです」
「そしたら姫様、顔を真っ赤っかにして、万歳三唱してたね。可愛かったなぁ」
「『実在するのね?! うはぁ、どうしましょう』ってクルクル回っていました」
三人は笑みを浮かべながら、その時の回想に耽っていたが、急にトーンが下がった。
「その直後からです。メルクさんしか出て来なくなったのは……」
◆ ◆ ◆ ◆
国分尼寺魔導高校――体育館
静流たち一行は、視聴覚室の前に体育館を見て回る事にした。
体育館に入って先ず目に入るのは、高さ3mはあろうかと言う彫刻であった。
「あの彫刻、スゴい大作ね」
「ああ、あれはね、美術部の花形部長の作品だよ。花形先輩はシズルカ像の作者でもあるんだ」
「へぇ。アノ像の作者か。納得」
「ちなみにこの作品は、どっかのコンクールで金賞を貰ってるらしいよ」
古代ギリシャ人風の衣装を着けた男同士が、社交ダンスで言う『キメ』のポーズのようになり、見つめ合っている。
「この『受け』やってるの、間違いなく静流様よね?」
「う、うん。美術部のバイトでモデルやった時のなんだ。シズルカ像もこの時に試作品を作ったんだよ」
「素晴らしい。洗練された技、将来が楽しみです」チャ
ニニちゃん先生は、この像が気に入ったらしい。
暫く彫刻を眺めていると、不意に空気が淀んだような気がした。
「「「むっほぉぉぉぉ!」」」
気が付くと、周りには両手を口にあて、血走った眼差しを向ける女生徒が群がっていた。
「ひっ、な、何なの!?」
「これが『アキ×シズ』像ですか……」ムフ
「素晴らしいオカズ……御飯三杯はイケますね……」ムフフ
「ああ、静流様ぁ……私がリードして差し上げたい……です」クフゥ
女生徒たちは、そう言ってある一定の距離を保ち、身もだえしている。
「あれは、『薄い本』のユーザー。サラたちの作品を読んでくれてる熱心な読者の方、つまりお客さんだよ」
「私は、即売会とかには恥ずかしくて参加してないんです。この人たちがお客さんかぁ……」
彫刻を見て顔を赤らめ、クネクネと左右に揺れている集団を見て、サラは予想外の反応を見せた。
「わかる。わかりますぅ。見事な三次元化ですぅ」ムフゥ
「あり? てっきりキモがると思ったんだけど、サラったらアッチの子と同じ反応ね?」
「フム。『同族嫌悪』にはならなかったワケね」
ニニちゃん先生は、その生徒らを見て、ヨーコに聞いた。
「ミス・ミナトノ、彼女らが腐女子という子たちなのですか?」チャ
「そうです。腐女子。オタク女子。簡単に言えば、特殊な趣味をお持ちの方、ですよ」
「アナタたちも『薄い本』の愛好家でしたね?」
「私たちの場合、リアルの静流様と面識がありますので、あちらの方々よりランク的には上ですけどね。フフン」
ヨーコは優越感に浸りながら、彫刻に群がる女生徒たちを見た。
「ん? おかしいですね……ここに実物のミスター・イガラシがいるのに、全然気付いていません」
「それは恐らく、【結界】が僕を守ってくれてるんです。『僕』を直接認識している人以外は、存在がぼやけている感じ? ですね」
「相互認識、というものでしょうか?」チャ
「その解釈で、多分合っています」
実際には静流だけでなく、学園の一同や美千留たちも含まれているようだ。
「この【結界】のお陰で、僕は普通の生活が出来てるんです。結界術士の沖田先生には感謝しています」
「先ほどの話で、攻撃魔法をキャンセルさせたとか……確かに優れていますね」チャ
そうこうしている内に、向こうから達也が走って来た。
「おまっとさん! ホレ! ちゃあんと人数分ゲットして来たぜ?」グッ
達也は、視聴覚室の静流の絵を観覧する際の整理券を一同に見せ、親指を立てた。
「「「おおー」」」
「サンキュー。恩に着る」
「水くさいぜ? 俺と静流の仲だろ?」
「ツッチーも、たまには役に立つ」
一行は次にシズムの作品の所に行こうとするが、そちらの方が何やら騒がしい。
「次はシズムの絵なんだけど、なんか混んでるな……」
「と言うか、その隣の方がスゴくない?」
なんとか観覧出来る位置まで来た静流たち。
「ふぅん。『ドルガーバの塔』か。アノ塔とは少し違うイメージよね?」
「スゴい。良く描けてるよシズム」
「へへ。ありがとう♪」
「見事な透視投影ですね。建築の仕事に応用出来そうです」チャ
ニニちゃん先生も、正確で緻密な書き込みに感心している。
シズムの絵を堪能していると、不意に隣から歓声が上がった。
「「「「ぬっほぉぉぉぉん」」」」
「何だ? また奴らが騒いでんぞ?」
「確か隣って……うわ」
先ほど、花形の彫刻に群がっていた者たちが、先ほどの様に悶えている。
その者たちが見ている絵は、睦美が用意したダミーの静流の作品であった。
「こ、これは最早、国宝級ですね」ハァハァ
「ああ、吸い込まれるぅ~」フー、フー
作品のタイトルはズバリ『自画像』で、メガネを外し、カメラ目線で控えめな笑顔を浮かべる静流であった。
サイズの関係でみぞおち位までしか描かれていないが、少なくとも上半身は裸であった。
「一見ハレンチな印象ですが、それを上回る様式美……イイです」チャ
「多少修正が入ってるけど、しず兄だね……」
「お兄様があられもないお姿に……はふぅ」
蠱惑的な笑みを浮かべる静流の絵を見たほとんどの者は、感嘆の溜息を漏らしている。
「よりによって自画像ですか!? うひゃあ、どう見ても盛り過ぎでしょうが! これじゃあ僕が、とんだナルシスト野郎じゃないか!?」
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