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第8章 冬が来る前に

エピソード47-7

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ワタルの塔 ――

 アマンダに続き、ストレッチャーを押しながら黒い穴に入って行く一同。

 一瞬で塔の1階ロビーに出る。

「へ? ドコ? ココ?」
「驚きました……まるでSFですね」
「うわ、外見て下さいよ外! 凄い砂嵐です!」

 初めて来た三人は、目の前に広がる光景に、目を白黒させている。

「ね? 不思議でしょう? でも、驚くのはまだ早いですよ?」
「大丈夫なんですか? この建物は?」
「問題無いわ。むしろ、砂嵐がココを守ってくれていると言ってもイイわね」

 アマンダは三人にそう説明した。

「よし、エレベーターに乗るから、大尉、抱っこしてあげなさい」
「了解」ファサ
「ルリさん、ストレッチャーを収納」
「はい」シュン

「さ、エレベーターに乗りましょう」
「とりあえず、2階に行きましょう」

 アマンダは2階を選択し、一瞬で2階に着いた。


 ウィーン


「ブラムさーん、ちょっとイイかしら?」
「はぁーい」ドドド
 
 アマンダがブラムを呼ぶと、奥から全速力でシズルーたちの前に来た。

「紹介するわね。この子は黒竜ブラム」
「こ、こんにちは……」

 三人は若干引きつった笑顔でブラムに挨拶した。

「はーい! ウチが超プリチーセクシーなシズル様の従順なしもべ、ブラックドラゴンのブラムちゃんどえーっす」プリッ
「ブラックドラゴン? 伝説の、黒竜!?」
「静流様の、従者?」
「神様の、家来?」

 三人は頭の上に『???』マークを浮かべ、同じ方向に首を傾げた。

「静流、あいやシズルー様、その子が患者さん?」
「そうだ。竜崎ココナ大尉だ」
「ほほぉ。これまたベッピンさんです事」

 ブラムがココナの顔を覗き込んだ。すると郁がシズルーの元に小走りで近付いて来た。

「おい! ココナ、しっかりしろ!」
「中尉、大丈夫だ、薬で寝ているだけだ」

 ココナを揺すって、必死に声を掛ける郁。すると、

「う、うぅ、ん」

 ココナの目が覚めてしまった。

「ココナ! 私だ、わかるか?」
「しまった! 薬が切れた?」
「そんな、まだそんなに時間は経過してないよ?」

 夏樹と瞳があわあわと騒ぎ出した。

「ん? ドラゴンスレイヤー殿、か?」
「お目覚めかな? お姫様」

 シズルーは皮肉っぽくココナに言った。

「な、何を言っておるか! ワシはな、雄雌の区別はついておらんのだ!」
「男、女、どちらでもない、と?」
「ああ、そうじゃ! ワシは恋をする事が無いまま、こ奴に討伐されたからのう……」

 ココナに憑依している者は、そう言うと少しトーンが下がった。

「ワシを殺してくれるのか? それなら早くせい!」
「なぜ死に急ぐのだ? わけを話せ」
「わかった。だがその前に、いい加減降ろしてはくれまいか?」ポォ

 いまだにお姫様抱っこのままだったココナの顔が、少し赤くなった。




              ◆ ◆ ◆ ◆



ワタルの塔 4階 医務室――

 ココナを4階の医務室に連れて行く。
 4階にはシズルー、カチュア、ジェニー、ルリ、そしてブラムが同行した。

「ココは病院か? ワシもこ奴も、特に疾患は無いが?」
「のん気なもんね。人の身体を奪っておきながら」
「人聞きの悪い事を抜かすな! ワシはこ奴に縛られておるのだ!」

 ココナは自分を皮肉ったカチュアに食って掛かった。

「はいはい。じゃあそこに寝て頂戴?」
「うむ? コレで良いのか?」

 ココナは意外にあっさりと、カチュアの言う通りに手術台に寝転がった。

「根はイイ子みたいですね、如月ドクター?」
「知能が高いのか低いのか、見当が付かないわね……」

 手術台に寝かせると、カチュアは脳波を図る為、何十ものセンサーが付いているヘルメットをココナに被らせた。

「何じゃ、うっとおしい」
「我慢して、アナタの為でもあるのよ?」

 そう言って頬を膨らませているココナを見たブラムは、眉間にしわを寄せ、首を傾げた。

「う~ん、このしゃべり方、どっかで聞いた事、あるような……」
「どうしたの? ブラムちゃん?」

 ブラム、と言う名に、ピクリとココナは反応した。

「ブラム?……お主はまさか、『ブラッカラム』ではないか?」
「へ? 今、何て言ったの?」
「そうであろう! 黒竜ブラッカラム!」

 ブラッカラムと呼ばれたブラムは、眉毛がつり上がった。
 ココナは喜々としてブラムを指さした。

「おお。やはりそうであったか! 久しいのう」
「その名前は随分前に使うの止めたの。私はブラム」
「呼び名など、どうでも良かろう。昔のよしみじゃ」
 
 先ほど迄難しい顔をしていたブラムが、何か思い出したのか、パァッと晴れやかな顔になった。

「お前、ひょっとして『イワオ』?」
「イワオではない! ワシはメルクリアだ! お主はいつもそうじゃった」
「メルクかぁ……アンタとっくに死んでリスポーンしてるのかと思ってたよ」
「そうじゃったら、どんなに幸せだったか……グスン」

 二人が会話をし始めたので、アマンダはそれを遮って会話に割り込んだ。

「ちょっと、お二人はお知り合いなのかしら?」

「ん? ああ。この子にとりついてるの、ウチの幼馴染? みたいなの」
「って事は、ドラゴン族の?」
「申し遅れたな。ワシは泥岩竜メルクリアと申す。気軽に『メルク』とよんでくれてよいぞ?」
「そりゃどうも。で、アナタは器である竜崎ココナ大尉に討伐されたワケね?」
「まぁな。ワシも年であったし、生きる事にウンザリしておったので、こ奴に斬られてやった」

 メルクは自分であるココナを指してそう言った。

「おかしいよメルク、死んだら消滅してリスポーンするか、ドロップアイテムになるかでしょ?」
「ところがこ奴は、四肢を切断し、しまいに肉を食らいおったのじゃ!」
「何ですって!? ちょっと、あの子たちを呼んできて頂戴!」

 アマンダは詳細な状況を知る為、夏樹たちを医務室に呼んだ。

「お呼びでしょうか? ひ、姫様?」
「何だお前達か。安心するがイイ。何もせんわい」

 夏樹たちはココナの様子を見て、複雑な表情を浮かべている。

「アナタたちが知っている事を教えて。この子が言うには、自分は『泥岩竜メルクリア』らしいわよ?」
「……メルクリア?ですって?」

 夏樹は瞳と顔を見合わせ、小さく頷いたあと、交互に語り出した。

「私たちが隊長の部下になる前の話です。隊長はある任務でインドの山奥に行った際、ドラゴンに遭遇しました。コードネームは『グレイ』その名の通り、体色は灰色だったようです」
「ふむ。こ奴の記憶によると、コイツは『ドラムロ』すばしっこい奴じゃった」
「メルク、ドラムロって片目の?」
「そうじゃ。常に単独で行動し、しょっちゅう何かともめておったのう……」

 メルクは腕を組み、うんうんと頷きながらそう言った。

「それで、戦闘の末、隊長はグレイに右足を食いちぎられた……ようです」
「ワシはその辺りの記憶は見とうない。察してくれ」
「イイよ無理しなくて。それで? その後はどうなったの?」
「はい。その頃の隊長は、『ドラゴンは全て敵』というスタンスだったらしいです」
「全く、イイ迷惑だわさ。ドラゴンだって、ウチやメルクみたいな善良な部類もいるのにぃ」

 ブラムはそう言うと、頬をぷうっと膨らませた。

「ブラム、ローレンツ閣下に封印されてたお前が、善良と言えるのか?」
「ギクッ それは言わないで下さいませ♡」

 シズルーに痛い所を突かれたブラム。

「隊長は当初、ごく一般に使用される義足を装着して、ドラゴンや他の魔物が出現する度に、率先して討伐に向かいました」
「この頃の二つ名は、『ドラゴン・スレイヤー』だったらしいです」
「なるほどね。ドラゴンを憎むのも、わからなくもないわね」
「そして、ある沼地に20m級のドラゴンが出現したとの情報があり、隊長が現地に向かいました」
「それがワシだ。私は人間に危害を加えるつもりなど、毛頭無かったのじゃがな……」

 メルクは顎に手をやり、下を向いた。

「確かに、被害等は無かったようです」
「人里に出て来たメルクが迂闊だったね」
「あれは転移? いや、召喚魔法だった……と思う」
「勝手に飛ばされたとでも言いたいの? メルク?」
「事実だ。ワシは冬眠しておったはずじゃったのに、気が付いたら突然知らん沼におった」

 メルクは必死にブラムに説明した。

「それで、隊長はメルクを楽々と討伐したの?」
「おい! ワシは他のドラゴンと比べられる程、やわではないわ」
「ええ。体表が恐ろしく硬かったと隊長は言ってました」
「ほれ見ろ、ワシは手強かったのだ!」

 メルクは腰に手をあて、何故か自慢げに言った。

「そりゃそうよ、だってこの子、ほとんど岩だもん」
「ほう。それで『イワオ』なのですね? なるほど」
「うるさい! 放っておけ」

 ルリはあだ名の由来が判明し、ポンと手を打った。
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