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第8章 冬が来る前に

エピソード46-10

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ワタルの塔 二階 食堂――

 静流を除いた女どもは、ブラムと共に朝食を摂っていた。
 静流はと言うと、女どもに半ば強制的に風呂に行かされていた。

「少しは落ち着きました? ドクター?」
「う、うん。もう大丈夫……だと思う」

 実はルリが気を遣い、静流をすれ違い気味に風呂に行かせたのであった。

「郁ちゃんは、どんな夢を見たんですぅ?」
「私か? 変な夢だったな。スライムみたいな魔物と戦っておった」
「ああ、それはシズル様がオーダーした夢がベースになってるね」
「手ごたえの無い奴らだった。まぁ、ストレス発散にはなったがな」

 静流たちと郁の夢とは、リンクしなかったらしい。

「ルリは設定通り、静流の椅子になったの?」
「勿論ですぅ♡ その後は多分、忍さんと同じ夢だと思いますよ?」
「やっぱり混線してたか。今回はちょっとイレギュラーだったみたい」
「ブラム、何かあったの?」
「夢のプログラムに、外部から割り込みがあったの」
「そんな事が出来るの?」
「さっきシズル様に聞いたんだけど、割り込んで来たの、親戚の人らしいよ」
「親戚って、桃髪の、ですか?」
「夢に干渉出来るって、インキュバスの特性ってやつ?」

 今までの話を整理すると、忍ははっと気が付いた。

「ん?……って事は……」チラ

 忍はジェニーを見た。
 風呂から帰って来たジェニーは、口数も少なく、こじんまりとたたずんでいた。

「あのエロ教師、やっぱりドクターだったの?」
「ええ。そうよ。私」
「あれはドクターの夢がベースなのね」
「おかしい。私が見たドクターは、もっとバインバインだった」

 忍は、ジェニーの、特に胸の辺りをを凝視した。

「忍さん、ドクターはね、脱いだらスゴいんです」
「ち、ちょとぉ、ルリちゃん!?」

 ルリの言い草に、ジェニーは慌てる。

「だって、実際ダイナマイトバディじゃないですか。嘘は言ってませんよ?」
「……恥ずかしいじゃないの……もう」

 ジェニーは耳まで赤くなり、小さくなった。

「いつもは矯正下着で隠してるんです。勿体ないですよね?」
「もう、イイじゃない、私の事は、放っといて頂戴……」
「何かワケでもあるのか?」

 郁の問いに、暫くしてジェニーは語り始めた。

「私は幼稚舎から女子校だったし、女子医大では研究に没頭してたから、合コンなんて興味無かったし……」
「好きな男の子とかは?」
「いなかったワケじゃないわよ? でもイイなぁ、くらい」
「それで?」
「それだけ。男たちの視線に耐えられなくて、矯正下着で抑え込んでるの」

 ジェニーはモジモジしながらそう言った。
 ルリは、そんな仕草を見て、ジェニーに短刀直入に聞いた。

「今更ですがドクター、ひょっとして、まさか、エクストラ・バー……ふぐぅ」
「はぁわわわわぁ~!」

 ジェニーは慌ててルリの口を塞いだ。

「夢の中の先生は、結構大胆だった」
「私の願望が、むき出しになっていたからでしょうね……」
「静流を、食べようとしていた」
「食べるって……とにかくそう言う欲求が、私にもある事がわかったの。ちょっと驚いてるわ」

 ジェニーは冷静に自分を分析した。
 ルリはそんなジェニーを見て、ニヤニヤしながら言った。

「つまりドクターは、生粋の『リアコ』という事ですよ」
「何よ『リアコ』って?」
「リアルの殿方との逢瀬を妄想している女子。『夢見る乙女』、って事ですよ」

「へ? 静流クンに? 私が? そんなワケ……あるかも」ポォ

「「「「あるんかい!」」」」

 頬に手をあて、腰をくねらせるジェニーに、一同はツッコミを入れた。




              ◆ ◆ ◆ ◆



 静流が風呂から帰って来た。

「どうであったか? 朝風呂は?」
「ふう。普段はギリギリまで寝てるから、こういうのも悪くない、かなぁ」

 食卓に着き、トーストにかじりつく静流。
 他の者は、食後のコーヒーを飲んでいる。
 ルリが静流に聞いた。

「静流様のご親戚って、やはり髪は桃色なんですぅ?」
「そうですね。皆さんはわかるかな? 『七本木ジン』さんって」

 ルリはそれを聞いて、マグカップを持つ手が止まった。

「うぇ? ええ~!! ジン様が、静流様のご親戚!?」
「そんなに驚く事ですか?」
 
 思わず腰が浮くルリ。
 
「超が付く位、有名な俳優さんですよ? また、薄い本の『攻め担当』のモデルにも、良く起用されていますね」
「あ、そうなんです。僕も気になったんで母さんに聞いたら、どうもそうらしいんです」

 大人しくしていたジェニーが、話題に入って来た。

「私も勿論知ってるわよ。でも、かなり前に失踪事件があったのよね?」
「ええ。いまだに行方不明なんです。僕の父さんや、伯父さんみたいに……」

 静流の顔が少し曇り始めたので、郁は話を振った。 

「それで、ソイツが夢枕に立ったのか?」
「うん。魔法で夢に割り込んで来たって」

 静流は朔也とのやり取りを皆に説明した。

「その話が本当だとすると、ジン様たちはどこかの星で拉致されている……と言う事でしょうか?」
「赤い星ねぇ……情報が少な過ぎるわね」
「その辺りは、折を見てアマンダさんに相談してみますよ。軍の宇宙局とかのツテが無いか、とか?」
「そうだな。あ奴なら何か掴んでいるかも知れんしな」




              ◆ ◆ ◆ ◆



ワタルの塔 二階 応接室―― 

 朝8時近くになり、塔のエレベーターがの駆動音が聞こえた。
 
 ウィーン

 扉が開くと、誰かがこちらの方に近付いて来る。

「誰か来たみたいですね? 誰だろう?」

 こちらに向かって来るのは、アマンダであった。

「おはよう。時差ボケは直ってるわね?」
「おはようございます。アマンダさん」
「おう。いつでも行けるぞ」
「結構。指示があるまで待機してて頂戴」
「了解」

 仕事で来ているので、少し表情を緩めるにとどめたアマンダ。

「ふう。さて、後は姉さんと神父様ね。 朝のお祈りが終わったら、すぐに来るって言ってたわ」
「ジル神父……か」
「あら、静流クン? 神父様がどうしたって言うの?」
「あのホモ神父、静流の親戚と高校のクラスメイトだったらしいぞ?」
「静流クンの親戚?」
「ええ。そうらしいんです」

 そんな事を話していると、またエレベーターがの駆動音が聞こえた。

「来たか、妖怪め……」
「オチビ! アノ人が妖怪だと、私は何なのよ!」

 郁の言い草に腹を立てたアマンダが、郁に食って掛かった。
 その横にいた静流が、一瞬でいなくなった。

「お待たせぇ♡ 静流クゥン」
「カチュア先生? お、おはよう、ございます?」

 カチュアは、いつの間にか静流をお姫様抱っこしていた。

「ムフゥ。イイ匂い。お風呂上りみたいね?」
「すいません。恥ずかしいんで降ろしてもらっても?」
「あら、ごめんなさいね。ついうっかり」ペロ

 カチュアは悪戯っぽく舌をペロっと出し、静流を立たせた。

「姉さん!? 油断も隙もあったもんじゃない」
「むぅ。目にも止まらぬ早業」

 アマンダは溜息をつき、忍はむくれた。

「おう、生きておったか妖怪」
「オチビこそ、相変わらず1ミリも成長してないわね」
「クッ! 口は達者のようだな」

 郁に続き、ルリがカチュアに挨拶した。

「ご無沙汰してます先生、覚えてますぅ?」
「ああ、オチビといつも一緒にいた子よね? 今回のクランケとも」
「ええ。先生、心なしかお肌の具合が以前より良くないですか?」
「嬉しい事言ってくれるわね。わかるぅ?」
「ええ。艶っぽいと言いますか……」
「女はね、努力と根性、ほんの少しの奇跡で、幾らでも若返るのよ♡」

 そんな事を話していると、後ろから奇声が上がった。
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