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第8章 冬が来る前に
エピソード45-7
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桃魔術研究会 第二部室 睦美のオフィス――
午後の授業も何とかクリアした静流たちは放課後、睦美のオフィスに寄った。
「失礼、します」
「薫子お姉様! いやぁお疲れ様でした、如何でした? 久々の授業は?」
静流たちが来ると、もみ手をしながらすり寄って来る睦美。
「それが、自信無くしちゃったみたいで……」
シズムがそう言うと、静流は生気を搾り取られたように、うなだれている。
「うぅ、私には、ちょっと無理っぽいわ……」
「一体午後の授業で、何があったんだい?」
「実はですね……」
シズムが言うには、女子にからかわれるのは静流から聞いていたので上手くあしらったつもりだったが、薫子が放つ、『男を引き付ける何か』の為か、男子からの生温い視線に薫子は耐えきれなかったようだ。
「全く、2-Bには変態しかおらんのか?」
「先輩が言うと、説得力無さ過ぎですよ」
睦美のそんな態度に、真琴は溜息混じりに言った。
今聞いた事と、薫子の態度を見て、睦美はポンと手を打った。
「そうか。お喜び下さいお姉様。今回は見送るとして、活躍の機会は近いうちにありますよ!」
「え? 私が?」
「はい。その件については後日お伝えします」
「何だかわからないけど、わかったわ」
まだダメージが残っている薫子に、静流は声を掛けた。
「良かったじゃないですか。今回はアレでしたけど、睦美先輩が活躍の場を用意してくれるんだし」
静流に労いの言葉を掛けられ、薫子の心は少し和らいだ。
「でも……ごめんね静流。あまり役に立てなくて」
「イイんです。その気持ちだけで」
睦美から紅茶をご馳走になり、薫子の機嫌も大分回復した。
「でも静流ってば、毎日あのプレッシャーに晒されて、よく平気でいられるわね?」
「慣れ、かな? 常に見られてる感じ、かなり小さい頃から感じてたし」
「こんな過酷な状況下で、よくこんなイイ子に育ってくれた。お姉ちゃん、嬉しいよ」ぎゅぅぅ
「そ、そんな大袈裟な」
「おや。これは新鮮なカプですな。ご馳走様です。ムフ」
傍から見ると、少し照れているシズムを、泣きそうな顔で力いっぱい抱きしめている静流は、少し滑稽だった。
「そんなワケで、『国尼祭』はロディに二役やってもらう事としよう」
「お任せ下さい。失望はさせません」
グレーの猫になっているロディは、どこか誇らしげにそう言った。
「実に頼もしいね。結構」
◆ ◆ ◆ ◆
話がひと段落した頃、静流はある事を思い出した。
「ところで睦美先輩?『国尼祭』で以前、高額取引があった事は事実なんですか?」
「ああ事実だとも。もしかしたら見ているかも知れないね? 静流キュンは」
「え? 僕が、ですか?」
「キミは行った筈だろう?『英雄博物館』に」
英雄博物館とは、国立アスモニア公園内にある建物で、世界の『英雄』にまつわる、ありとあらゆる品々が展示されている。
静流は学園に短期留学した際、ヨーコと訪れている。
「確かに行きましたけど……もしかして、あそこの展示物の中に?」
「この絵を見たのを覚えているかい?」
睦美はデスクの袖から『英雄博物館』と言う、そのものズバリのムック本を出し、付箋が貼ってある頁を開いた。
「あ! 覚えてます。『黄昏の君』ですよね?」
「そうだ。このワタル一世とその妻たちが描かれた絵画こそ、我が校の先輩が描いた物だ」
静流はムック本にある絵画をじっと見ている。
「先輩、ここの黒髪の奥さんって、忍ちゃんの前世の人でしょうか?」
「恐らくな。名は皆殿アカリ、第三夫人だよ」
「あの忍がね。初めてそれを聞いた時は、こいつ、ヤバい奴だって思ったわよ。フフ」
「ねえオシリス、すると、この人がブラムなの?」
絵に描いてある五人の妻の内、一人を指した静流。
静流がそう言うと、休止していたオシリスは、不可視化を解いた。
「ああ、あの絵ね。良く描けてるわ。うんそう。この顔色が悪いのがブラムちゃんで間違いないわね」
「ブラムって、本当に奥さんだったんだ」
「ちなみに、この方がゾフィー様、次に私のご主人様のシルフィード様、アカリとそれから、ロロちゃん……でブラムちゃんよ」
途中つっかえたのが少し気になったが、他の事に興味が湧いた。
「この絵を描いた人は、この人たちをどうやって知ったんでしょう?」
「さぁね。忍お姉様の様に、前世の記憶があったりしてね」
「あるいは、オカ研のイタ子さんみたいな、ビジョンが見えた、とか?」
そんな話をしていると、真琴が睦美に聞いた。
「で、誰なんです? ウチの先輩なんですよね?」
絵の下に、『作者:J・K・ルーミング』とある。
「知ってどうするんだい? どうでもイイ事だろう、私たちには」
「ええ。確かに、ごもっともです」
「そうだな、会おうと思えば会える人、そんな所かな?」
「何です? その曖昧な表現」
「さぁね。いずれ、向こうから現れたりするかも知れないね」
そう言って睦美は紅茶に口を付けた。
◆ ◆ ◆ ◆
五十嵐家 静流の部屋――
「だだいまぁ」
「お邪魔しますぅ」
静流とロディ、薫子は階段を上り、静流の部屋に行った。
「ちょっと待ってて」
「え? うん」
静流はそう言うと、ドアを閉めた。
「もう、イイですよ」
「うん。え? 早っ!」
薫子が部屋に入ると、部屋着に着替えた静流が、ベッドの上であぐらをかいていた。
「早く着替えないと、アイツが来るから。ほら」
静流がそう言うと、廊下をバタバタと足音を立てながら近付いて来る者がいた。バァン!
「しず兄、結果は?」ハァハァ
「全く騒々しいなぁ、美千留は」
美千留は、ベッドに脱ぎ捨てた制服を見ると瞬時に奪い取った。
「ほんっとだらしないよね、しず兄は」
そう言いながら美千留は、上着とズボンをハンガーに掛け、ワイシャツと靴下を小脇に抱えた。
「ふぅん。偉いね美千留ちゃん、何か奥さんみたい」
「ひゃ、お、お姉様? いつからいたの?」
「え?ずっといたけど?」
顔が次第に青くなる美千留。薫子はそれを見てキョトンとしている。
すると窓が開き、部屋着に着替えた真琴が当たり前のように入って来た。
「チッ、遅かったか」
「何が遅かったの? 真琴ちゃん?」
真琴の言い草に、またもやキョトンとしている薫子。
「いえ、こっちの話です。お気になさらず」
「ああ、相手にしない方がイイですよ。こいつら、変態ですから」
静流はベッドに仰向けに倒れ込み、天井を見ながらそう言った。
「美千留ちゃん?片方、イイかな?」
「ええ!? しょうがないな。ホレ」
「ありがとう、ごじぇえますだぁぁ」
二人はそう言うと、静流の部屋を出て、隣の美千留の部屋に行ったようだ。
「一体、何が始まるって言うの?」
「たまに、こうなるんです。聞いてて下さい?」
静流は口に手をあて、『しー』のポーズをとった。
暫しの静寂ののち、その現象は起こった。
「「ぱっふぅ~ん!」」
隣の部屋から何か聞こえた。その後、二人の話し声が聞こえて来た。
「むはぁ~、たまんない……」
「はぁ、癒されるわぁ……」
「ああ。この時の為に生きてるんだわぁ。幸せ♡」
隣の部屋から何とも言えない声がしている。
状況を理解した薫子は、プルプルと小刻みに震え出した。
「ほんっとしょうもない奴らでしょう? お姉様、どうかしたの?」
「もう、我慢出来ない!」ガバッ
そう言うと、薫子はおもむろに立ち上がり、美千留の部屋に直行した。
「私にも、嗅がせて頂戴? お願ぁい♡」
「じゃあ、お姉様にはコレ」
「むっはぁ~! 脳天を突き抜けるような心地よい刺激、ああっ素敵ぃ♡」
「こっちもご賞味あれ?」
「ぷっふぁぁ、アナタたち、いつもこんな素敵な時間を?」
「習慣性がありますので、ほどほどにしてますけど。ムフ」
静流は薫子が『匂いフェチ』だったのを思い出して、少し後悔した。
以前、『薫子捕獲作戦』に、静流は体育着と靴下を使い、薫子をおびき寄せた経緯があった。
「はぁ、僕の周りには、異常者しか集まらないのかな?」
「静流様の『香り』は、麻薬にも匹敵する、いわばフェロモンのような効果があるようです」
「ロディ、それって、ヤバくないの?」
「問題ありませんよ。【魔力】を込めていない状態ですから」
「ちょっと待ってよ、じゃあ【魔力】を込めたら?」
「条件次第ですが、ロストテクノロジーで言う『科学兵器』に近い物になる可能性はありますね」
「脅かさないでくれよ、そういうヤツ、苦手なんだよ」
「これは失礼。要は悪用しなければ良いのです」
「うう、今度アマンダさんに相談するか……」
小一時間して、三人はホクホク顔で静流の部屋に戻って来た。
「はぁ、生き返るわぁ~♡」
「ご満足頂けましたか? お客様?」
静流が皮肉たっぷりにそう言うと、
「ええ。思う存分堪能致しましてよ?」
「次の品評会にも是非いらして」
「ええ。是非に。ホホホホ」
三人はまるで、貴族の御夫人が香水の出来を、互いに褒め合うような言い草だった。
「ふざけてないで、僕が仕事してる間、上手くやってよね?」
「わかってるわよ。こっちにはロディ先生がいるんだもん」
『任せなさい』と言わんばかりに胸を張る真琴。
「つうか、しず兄の方が心配だよ」
美千留は静流をつついた。
「私も、何かあったら言ってよ? 協力するから」
「ありがとう。その時は頼むね?」
結局、今回は出番が無くなった薫子は、済まなそうにそう言った。
「よぉし、PMCとしては初仕事だ。切り替えて行かないとな」
静流は大きく伸びをした。
午後の授業も何とかクリアした静流たちは放課後、睦美のオフィスに寄った。
「失礼、します」
「薫子お姉様! いやぁお疲れ様でした、如何でした? 久々の授業は?」
静流たちが来ると、もみ手をしながらすり寄って来る睦美。
「それが、自信無くしちゃったみたいで……」
シズムがそう言うと、静流は生気を搾り取られたように、うなだれている。
「うぅ、私には、ちょっと無理っぽいわ……」
「一体午後の授業で、何があったんだい?」
「実はですね……」
シズムが言うには、女子にからかわれるのは静流から聞いていたので上手くあしらったつもりだったが、薫子が放つ、『男を引き付ける何か』の為か、男子からの生温い視線に薫子は耐えきれなかったようだ。
「全く、2-Bには変態しかおらんのか?」
「先輩が言うと、説得力無さ過ぎですよ」
睦美のそんな態度に、真琴は溜息混じりに言った。
今聞いた事と、薫子の態度を見て、睦美はポンと手を打った。
「そうか。お喜び下さいお姉様。今回は見送るとして、活躍の機会は近いうちにありますよ!」
「え? 私が?」
「はい。その件については後日お伝えします」
「何だかわからないけど、わかったわ」
まだダメージが残っている薫子に、静流は声を掛けた。
「良かったじゃないですか。今回はアレでしたけど、睦美先輩が活躍の場を用意してくれるんだし」
静流に労いの言葉を掛けられ、薫子の心は少し和らいだ。
「でも……ごめんね静流。あまり役に立てなくて」
「イイんです。その気持ちだけで」
睦美から紅茶をご馳走になり、薫子の機嫌も大分回復した。
「でも静流ってば、毎日あのプレッシャーに晒されて、よく平気でいられるわね?」
「慣れ、かな? 常に見られてる感じ、かなり小さい頃から感じてたし」
「こんな過酷な状況下で、よくこんなイイ子に育ってくれた。お姉ちゃん、嬉しいよ」ぎゅぅぅ
「そ、そんな大袈裟な」
「おや。これは新鮮なカプですな。ご馳走様です。ムフ」
傍から見ると、少し照れているシズムを、泣きそうな顔で力いっぱい抱きしめている静流は、少し滑稽だった。
「そんなワケで、『国尼祭』はロディに二役やってもらう事としよう」
「お任せ下さい。失望はさせません」
グレーの猫になっているロディは、どこか誇らしげにそう言った。
「実に頼もしいね。結構」
◆ ◆ ◆ ◆
話がひと段落した頃、静流はある事を思い出した。
「ところで睦美先輩?『国尼祭』で以前、高額取引があった事は事実なんですか?」
「ああ事実だとも。もしかしたら見ているかも知れないね? 静流キュンは」
「え? 僕が、ですか?」
「キミは行った筈だろう?『英雄博物館』に」
英雄博物館とは、国立アスモニア公園内にある建物で、世界の『英雄』にまつわる、ありとあらゆる品々が展示されている。
静流は学園に短期留学した際、ヨーコと訪れている。
「確かに行きましたけど……もしかして、あそこの展示物の中に?」
「この絵を見たのを覚えているかい?」
睦美はデスクの袖から『英雄博物館』と言う、そのものズバリのムック本を出し、付箋が貼ってある頁を開いた。
「あ! 覚えてます。『黄昏の君』ですよね?」
「そうだ。このワタル一世とその妻たちが描かれた絵画こそ、我が校の先輩が描いた物だ」
静流はムック本にある絵画をじっと見ている。
「先輩、ここの黒髪の奥さんって、忍ちゃんの前世の人でしょうか?」
「恐らくな。名は皆殿アカリ、第三夫人だよ」
「あの忍がね。初めてそれを聞いた時は、こいつ、ヤバい奴だって思ったわよ。フフ」
「ねえオシリス、すると、この人がブラムなの?」
絵に描いてある五人の妻の内、一人を指した静流。
静流がそう言うと、休止していたオシリスは、不可視化を解いた。
「ああ、あの絵ね。良く描けてるわ。うんそう。この顔色が悪いのがブラムちゃんで間違いないわね」
「ブラムって、本当に奥さんだったんだ」
「ちなみに、この方がゾフィー様、次に私のご主人様のシルフィード様、アカリとそれから、ロロちゃん……でブラムちゃんよ」
途中つっかえたのが少し気になったが、他の事に興味が湧いた。
「この絵を描いた人は、この人たちをどうやって知ったんでしょう?」
「さぁね。忍お姉様の様に、前世の記憶があったりしてね」
「あるいは、オカ研のイタ子さんみたいな、ビジョンが見えた、とか?」
そんな話をしていると、真琴が睦美に聞いた。
「で、誰なんです? ウチの先輩なんですよね?」
絵の下に、『作者:J・K・ルーミング』とある。
「知ってどうするんだい? どうでもイイ事だろう、私たちには」
「ええ。確かに、ごもっともです」
「そうだな、会おうと思えば会える人、そんな所かな?」
「何です? その曖昧な表現」
「さぁね。いずれ、向こうから現れたりするかも知れないね」
そう言って睦美は紅茶に口を付けた。
◆ ◆ ◆ ◆
五十嵐家 静流の部屋――
「だだいまぁ」
「お邪魔しますぅ」
静流とロディ、薫子は階段を上り、静流の部屋に行った。
「ちょっと待ってて」
「え? うん」
静流はそう言うと、ドアを閉めた。
「もう、イイですよ」
「うん。え? 早っ!」
薫子が部屋に入ると、部屋着に着替えた静流が、ベッドの上であぐらをかいていた。
「早く着替えないと、アイツが来るから。ほら」
静流がそう言うと、廊下をバタバタと足音を立てながら近付いて来る者がいた。バァン!
「しず兄、結果は?」ハァハァ
「全く騒々しいなぁ、美千留は」
美千留は、ベッドに脱ぎ捨てた制服を見ると瞬時に奪い取った。
「ほんっとだらしないよね、しず兄は」
そう言いながら美千留は、上着とズボンをハンガーに掛け、ワイシャツと靴下を小脇に抱えた。
「ふぅん。偉いね美千留ちゃん、何か奥さんみたい」
「ひゃ、お、お姉様? いつからいたの?」
「え?ずっといたけど?」
顔が次第に青くなる美千留。薫子はそれを見てキョトンとしている。
すると窓が開き、部屋着に着替えた真琴が当たり前のように入って来た。
「チッ、遅かったか」
「何が遅かったの? 真琴ちゃん?」
真琴の言い草に、またもやキョトンとしている薫子。
「いえ、こっちの話です。お気になさらず」
「ああ、相手にしない方がイイですよ。こいつら、変態ですから」
静流はベッドに仰向けに倒れ込み、天井を見ながらそう言った。
「美千留ちゃん?片方、イイかな?」
「ええ!? しょうがないな。ホレ」
「ありがとう、ごじぇえますだぁぁ」
二人はそう言うと、静流の部屋を出て、隣の美千留の部屋に行ったようだ。
「一体、何が始まるって言うの?」
「たまに、こうなるんです。聞いてて下さい?」
静流は口に手をあて、『しー』のポーズをとった。
暫しの静寂ののち、その現象は起こった。
「「ぱっふぅ~ん!」」
隣の部屋から何か聞こえた。その後、二人の話し声が聞こえて来た。
「むはぁ~、たまんない……」
「はぁ、癒されるわぁ……」
「ああ。この時の為に生きてるんだわぁ。幸せ♡」
隣の部屋から何とも言えない声がしている。
状況を理解した薫子は、プルプルと小刻みに震え出した。
「ほんっとしょうもない奴らでしょう? お姉様、どうかしたの?」
「もう、我慢出来ない!」ガバッ
そう言うと、薫子はおもむろに立ち上がり、美千留の部屋に直行した。
「私にも、嗅がせて頂戴? お願ぁい♡」
「じゃあ、お姉様にはコレ」
「むっはぁ~! 脳天を突き抜けるような心地よい刺激、ああっ素敵ぃ♡」
「こっちもご賞味あれ?」
「ぷっふぁぁ、アナタたち、いつもこんな素敵な時間を?」
「習慣性がありますので、ほどほどにしてますけど。ムフ」
静流は薫子が『匂いフェチ』だったのを思い出して、少し後悔した。
以前、『薫子捕獲作戦』に、静流は体育着と靴下を使い、薫子をおびき寄せた経緯があった。
「はぁ、僕の周りには、異常者しか集まらないのかな?」
「静流様の『香り』は、麻薬にも匹敵する、いわばフェロモンのような効果があるようです」
「ロディ、それって、ヤバくないの?」
「問題ありませんよ。【魔力】を込めていない状態ですから」
「ちょっと待ってよ、じゃあ【魔力】を込めたら?」
「条件次第ですが、ロストテクノロジーで言う『科学兵器』に近い物になる可能性はありますね」
「脅かさないでくれよ、そういうヤツ、苦手なんだよ」
「これは失礼。要は悪用しなければ良いのです」
「うう、今度アマンダさんに相談するか……」
小一時間して、三人はホクホク顔で静流の部屋に戻って来た。
「はぁ、生き返るわぁ~♡」
「ご満足頂けましたか? お客様?」
静流が皮肉たっぷりにそう言うと、
「ええ。思う存分堪能致しましてよ?」
「次の品評会にも是非いらして」
「ええ。是非に。ホホホホ」
三人はまるで、貴族の御夫人が香水の出来を、互いに褒め合うような言い草だった。
「ふざけてないで、僕が仕事してる間、上手くやってよね?」
「わかってるわよ。こっちにはロディ先生がいるんだもん」
『任せなさい』と言わんばかりに胸を張る真琴。
「つうか、しず兄の方が心配だよ」
美千留は静流をつついた。
「私も、何かあったら言ってよ? 協力するから」
「ありがとう。その時は頼むね?」
結局、今回は出番が無くなった薫子は、済まなそうにそう言った。
「よぉし、PMCとしては初仕事だ。切り替えて行かないとな」
静流は大きく伸びをした。
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