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第8章 冬が来る前に
エピソード46-1
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五十嵐家 静流の部屋―― 夕方
11月の最終週となり、いよいよ初仕事の前日となった。
静流は明朝から仕事を開始する為、前日に塔に行き、体内時計を調節する必要があった。
アマンダたちのアスガルドとダーナ・オシーでは数時間の時差しか無い為、調整は不要だが、静流の場合、6~8時間日本の方が進んでいる為、調整が必要だった。
静流はメッセンジャーバッグに荷物を詰めていた。
ふいにドアが開き、美千留がひょこっと顔を出した。
「え? しず兄、今から行くの? 明日からでしょ?」
「外国だから、時差の調整が必要なんだってさ」
「あのカプセルに入るの?」
「そう言う事。だから早めに行っておいた方がイイだろ?」
美千留の尋問は続く。
「向こうには、誰がいるの?」
「そりゃあ、一緒に仕事する人で、日本にいる人だよ。先ず太刀川の人たちを迎えに行かなきゃ」
「じゃあ、シノブもいるって事?」
「恐らくね。あとイク姉とか?」
静流は上の方を見て、メンバーの顔を思い浮かべた。
「ぐぬぬ、強者揃い……」
「強者じゃなきゃ、仕事が終わんないだろ? おかしな事を言うなよ」
そんな事を話していたら、窓から真琴が入って来た。ガラッ
「静流? 仕事は明日からでしょうに?」
「ふう。また説明するの? もういい加減にしてよ」
静流はイラついていた。
「ん? 何か気に障る事でも?」
「べ、つ、にぃ~!?」
それから真琴に美千留と同じ説明をし、同じ尋問を受けた。
「寝首を掻かれる事は無いの?」
「まさか、寝取られ?」
真琴たちのしつこい尋問に、静流はついにキレた。
「バカ言うなよ! 仕事に行くんだぞ? 遊びに行くんじゃないんだ!」
「だって、心配なんだもん」
美千留は肩をすくめ、そう言って下を向いた。
「大丈夫だよ。軍のみんなや、カチュア先生だっているんだから」
「それが心配なんじゃない! バカ兄!」
キレた美千留は、自分の部屋に戻った。
「何だよあいつ、逆ギレかよ……」
「静流? 今のはアンタが悪いよ?」
「そうかな? どこが?」
「そう言う鈍感な所」
「わかったよ。あとで真琴から言っといてくれ、『心配ない』って」
「はいはい。ふう。これだもんね」
真琴は『お手上げ』のポーズをとった。
出かける準備が出来、玄関で靴を履く。
「真琴、じゃあ、行って来る。ロディ、行こう」
「かしこまりました」シュン
ロディは、豹から小型スクーターに変身した。
「いってらっしゃい」
静流の背中越しに掛けた真琴の声に、静流は前を向いたまま右手を挙げた。
「不可視モードにセット。出発!」
「ラジャー」シュン
ロディは静流を乗せると、不可視化を展開し、発進した。
「静流、気を付けるのよぉーっ!」
「わかった!」
真琴は、暫く静流が去って行ったであろう方向を見ていた。
◆ ◆ ◆ ◆
太刀川駐屯地 正門――
正門で軍医とその助手が何やら話し込んでいる。
鮮やかなライムグリーンの髪をした、色白の美人女医が、助手と思われる、紺色の髪を後ろに団子状にまとめ、メガネを掛けた、一見インテリ系ロジカル女子風の女性と話している。
二人共小型のスーツケースを足元に置いている。
「ルリちゃん、ついに会えるのよ? 伝説の『あの方』に」
「宗方ドクター、私的には静流様一択です。ああっ待ち遠しい♡」
そんな話をしていると、ふわっと風が舞った。
「来ます、来ますよぉ、私にはわかります。この甘ぁ~い香り♡」
「匂いでわかるなんて、アナタの嗅覚って?」
そして間もなく、スクーターに跨り、不可視化を解いた静流が現れた。
「どうも、お待たせしちゃいました?」
スクーターを降りた静流は、風で乱れた髪を手ぐしでひと撫でした。
するとスクーターはみるみるうちにグレーの豹になった。
「き、来たぁ~!! 静流様、何て凛々しいお姿……ああっ素敵♡」フー、フー
「静流クン、ヤッホウ! 大丈夫。さっき出て来た所よ」
静流を見たルリは、案の定興奮のるつぼと化していた。
「とりあえず、『ワタルの塔』にご招待します」
「写真で見た、あの診療所がある塔ね?」
「はい。ロディ、インベントリを開けて」
「御意。アー」
そう言うとロディは、人が通れる位に口を大きく開けた。
「この子が噂の『聖遺物』ね?」
「流石は静流様の忠実なしもべ。『シビル四世』みたいで素敵ですぅ」
ロディの大きく開いた口を、二人が覗き込んでいる。
ロディは、静流を含む三人をインベントリに収容した後、五十嵐家に戻る段取りである。
「ロディ、このあとの事、頼んだよ?」
「御意」
「この子、口が開いててもしゃべれるんだ。便利ね」
静流は率先してロディの口の中に入る。
「じゃあお二人共、こちらにどうぞ」
二人はおっかなびっくりロディの口に入って行った。
「うわ。何これ?何も無い? あ、向こうに建物があるわね」
「あれはアマンダさんたちが作ってる仮設住宅です。だいぶ出来て来たな」
静流たちを視認したのか、向こうから小さい物体が高速で近付いて来た。
「静流サマーッ、お疲れ様ニャ♪」
「ロコ助! 久しぶり!」
ロディが生み出した『インベントリ』内のコンシェルジュ、ロコ助であった。
「いきなりファンタジーね。カワイイ」
「ちょっとキミ、 静流様はこの世界の支配者という事で間違いないのすね?」ハアハア
ルリは、血走った目でロコ助に聞いた。
「そうですニャ♪」
「支配者なんて、そんな大袈裟な。ただ利用権限を持っているだけですよ」
「そう言うのを持ってるってのが、支配者って事でしょう?」
「そうか。言われてみればそうですね。ハハハ」
静流的には、支配とかそう言う観念は持ち合わせていなかったようだ。
ルリは仮設住宅を見て、静流に聞いた。
「静流様、あそこに住むには何か許可がいるのですか?」
「え?あそこに住みたいんですか?」
「ええ。尉官クラスなら自宅から通えますし、少しでも静流様のお傍にいたいものですから……」
「ココって、近いのか遠いのかわからない空間なんです。それに、住み心地だってどうだか……」
「とにかく! お近くに住みたいんです! ダメ、でしょうか……」
「そうですね、アマンダさんに聞いてみましょう」
ルリの強めのプッシュに気圧される静流。
少し歩いた先に、いつぞやのキャンピングカーがあり、さらに先に、『いかにもなドア』があった。
「では、ごゆっくりニャ♪」
「ありがとう、ロコ助」
ここまで案内してくれたロコ助と別れ、ドアを開く。
「さぁ、ココが『ワタルの塔』の一階ロビーです」
「え? うわ。どうなってるの? コレ!?」
「ココは、地球からうんと離れた辺境の星、らしいです」
「何ですって!? まるでSFね。こりゃぁ、たまげたわ」
「うわぁ、外はスゴい砂嵐ですね……」
「大丈夫です。塔は安全ですから。さ、エレベーターに乗りましょう」
エレベーターに乗り、二階に上がる。
あっという間に2階に着いた。
ウィーン
「誰か来てますかね。お疲れ様でーす!」
静流は一番誰かいそうな娯楽室を覗いた。
そこには、画面に向かってゲームをやっている二人の後ろ姿があった。
軍服ではなく、部屋着でくつろいでいる郁と、パジャマ姿の忍であった。
「よぉ静流。先にやっていたぞ?」
「静流! やっと来てくれた♡」シュバッ
「うぐっ、忍ちゃん、こんばんは、イク姉」
忍が振り向くなり静流に飛びついた。
娯楽室にひょいと顔を出したルリ。
「その声は……郁、ちゃん!?」
「おおルリか。直接は久しぶりだのう!」
「やっぱり郁ちゃんだ! うわぁい」
「これ、はしゃぐでない!」
二人は手を取り合って喜んだ。
「郁ちゃん、上司の宗方ドクターよ」
「どうも。宗方ジェニーでーすっ」
「ドクターはあそこの保養所にいたな?」
「あれは短期のバイトだったの。今思えば、行っててよかったわぁ」
「何がだ?」
「だって、静流クンに会えたし、結果的にココに来れたのだって、あそこにいたからでしょう?」
「フム。確かにそうだな」
「縁は異なもの味なもの、ってね♪」
11月の最終週となり、いよいよ初仕事の前日となった。
静流は明朝から仕事を開始する為、前日に塔に行き、体内時計を調節する必要があった。
アマンダたちのアスガルドとダーナ・オシーでは数時間の時差しか無い為、調整は不要だが、静流の場合、6~8時間日本の方が進んでいる為、調整が必要だった。
静流はメッセンジャーバッグに荷物を詰めていた。
ふいにドアが開き、美千留がひょこっと顔を出した。
「え? しず兄、今から行くの? 明日からでしょ?」
「外国だから、時差の調整が必要なんだってさ」
「あのカプセルに入るの?」
「そう言う事。だから早めに行っておいた方がイイだろ?」
美千留の尋問は続く。
「向こうには、誰がいるの?」
「そりゃあ、一緒に仕事する人で、日本にいる人だよ。先ず太刀川の人たちを迎えに行かなきゃ」
「じゃあ、シノブもいるって事?」
「恐らくね。あとイク姉とか?」
静流は上の方を見て、メンバーの顔を思い浮かべた。
「ぐぬぬ、強者揃い……」
「強者じゃなきゃ、仕事が終わんないだろ? おかしな事を言うなよ」
そんな事を話していたら、窓から真琴が入って来た。ガラッ
「静流? 仕事は明日からでしょうに?」
「ふう。また説明するの? もういい加減にしてよ」
静流はイラついていた。
「ん? 何か気に障る事でも?」
「べ、つ、にぃ~!?」
それから真琴に美千留と同じ説明をし、同じ尋問を受けた。
「寝首を掻かれる事は無いの?」
「まさか、寝取られ?」
真琴たちのしつこい尋問に、静流はついにキレた。
「バカ言うなよ! 仕事に行くんだぞ? 遊びに行くんじゃないんだ!」
「だって、心配なんだもん」
美千留は肩をすくめ、そう言って下を向いた。
「大丈夫だよ。軍のみんなや、カチュア先生だっているんだから」
「それが心配なんじゃない! バカ兄!」
キレた美千留は、自分の部屋に戻った。
「何だよあいつ、逆ギレかよ……」
「静流? 今のはアンタが悪いよ?」
「そうかな? どこが?」
「そう言う鈍感な所」
「わかったよ。あとで真琴から言っといてくれ、『心配ない』って」
「はいはい。ふう。これだもんね」
真琴は『お手上げ』のポーズをとった。
出かける準備が出来、玄関で靴を履く。
「真琴、じゃあ、行って来る。ロディ、行こう」
「かしこまりました」シュン
ロディは、豹から小型スクーターに変身した。
「いってらっしゃい」
静流の背中越しに掛けた真琴の声に、静流は前を向いたまま右手を挙げた。
「不可視モードにセット。出発!」
「ラジャー」シュン
ロディは静流を乗せると、不可視化を展開し、発進した。
「静流、気を付けるのよぉーっ!」
「わかった!」
真琴は、暫く静流が去って行ったであろう方向を見ていた。
◆ ◆ ◆ ◆
太刀川駐屯地 正門――
正門で軍医とその助手が何やら話し込んでいる。
鮮やかなライムグリーンの髪をした、色白の美人女医が、助手と思われる、紺色の髪を後ろに団子状にまとめ、メガネを掛けた、一見インテリ系ロジカル女子風の女性と話している。
二人共小型のスーツケースを足元に置いている。
「ルリちゃん、ついに会えるのよ? 伝説の『あの方』に」
「宗方ドクター、私的には静流様一択です。ああっ待ち遠しい♡」
そんな話をしていると、ふわっと風が舞った。
「来ます、来ますよぉ、私にはわかります。この甘ぁ~い香り♡」
「匂いでわかるなんて、アナタの嗅覚って?」
そして間もなく、スクーターに跨り、不可視化を解いた静流が現れた。
「どうも、お待たせしちゃいました?」
スクーターを降りた静流は、風で乱れた髪を手ぐしでひと撫でした。
するとスクーターはみるみるうちにグレーの豹になった。
「き、来たぁ~!! 静流様、何て凛々しいお姿……ああっ素敵♡」フー、フー
「静流クン、ヤッホウ! 大丈夫。さっき出て来た所よ」
静流を見たルリは、案の定興奮のるつぼと化していた。
「とりあえず、『ワタルの塔』にご招待します」
「写真で見た、あの診療所がある塔ね?」
「はい。ロディ、インベントリを開けて」
「御意。アー」
そう言うとロディは、人が通れる位に口を大きく開けた。
「この子が噂の『聖遺物』ね?」
「流石は静流様の忠実なしもべ。『シビル四世』みたいで素敵ですぅ」
ロディの大きく開いた口を、二人が覗き込んでいる。
ロディは、静流を含む三人をインベントリに収容した後、五十嵐家に戻る段取りである。
「ロディ、このあとの事、頼んだよ?」
「御意」
「この子、口が開いててもしゃべれるんだ。便利ね」
静流は率先してロディの口の中に入る。
「じゃあお二人共、こちらにどうぞ」
二人はおっかなびっくりロディの口に入って行った。
「うわ。何これ?何も無い? あ、向こうに建物があるわね」
「あれはアマンダさんたちが作ってる仮設住宅です。だいぶ出来て来たな」
静流たちを視認したのか、向こうから小さい物体が高速で近付いて来た。
「静流サマーッ、お疲れ様ニャ♪」
「ロコ助! 久しぶり!」
ロディが生み出した『インベントリ』内のコンシェルジュ、ロコ助であった。
「いきなりファンタジーね。カワイイ」
「ちょっとキミ、 静流様はこの世界の支配者という事で間違いないのすね?」ハアハア
ルリは、血走った目でロコ助に聞いた。
「そうですニャ♪」
「支配者なんて、そんな大袈裟な。ただ利用権限を持っているだけですよ」
「そう言うのを持ってるってのが、支配者って事でしょう?」
「そうか。言われてみればそうですね。ハハハ」
静流的には、支配とかそう言う観念は持ち合わせていなかったようだ。
ルリは仮設住宅を見て、静流に聞いた。
「静流様、あそこに住むには何か許可がいるのですか?」
「え?あそこに住みたいんですか?」
「ええ。尉官クラスなら自宅から通えますし、少しでも静流様のお傍にいたいものですから……」
「ココって、近いのか遠いのかわからない空間なんです。それに、住み心地だってどうだか……」
「とにかく! お近くに住みたいんです! ダメ、でしょうか……」
「そうですね、アマンダさんに聞いてみましょう」
ルリの強めのプッシュに気圧される静流。
少し歩いた先に、いつぞやのキャンピングカーがあり、さらに先に、『いかにもなドア』があった。
「では、ごゆっくりニャ♪」
「ありがとう、ロコ助」
ここまで案内してくれたロコ助と別れ、ドアを開く。
「さぁ、ココが『ワタルの塔』の一階ロビーです」
「え? うわ。どうなってるの? コレ!?」
「ココは、地球からうんと離れた辺境の星、らしいです」
「何ですって!? まるでSFね。こりゃぁ、たまげたわ」
「うわぁ、外はスゴい砂嵐ですね……」
「大丈夫です。塔は安全ですから。さ、エレベーターに乗りましょう」
エレベーターに乗り、二階に上がる。
あっという間に2階に着いた。
ウィーン
「誰か来てますかね。お疲れ様でーす!」
静流は一番誰かいそうな娯楽室を覗いた。
そこには、画面に向かってゲームをやっている二人の後ろ姿があった。
軍服ではなく、部屋着でくつろいでいる郁と、パジャマ姿の忍であった。
「よぉ静流。先にやっていたぞ?」
「静流! やっと来てくれた♡」シュバッ
「うぐっ、忍ちゃん、こんばんは、イク姉」
忍が振り向くなり静流に飛びついた。
娯楽室にひょいと顔を出したルリ。
「その声は……郁、ちゃん!?」
「おおルリか。直接は久しぶりだのう!」
「やっぱり郁ちゃんだ! うわぁい」
「これ、はしゃぐでない!」
二人は手を取り合って喜んだ。
「郁ちゃん、上司の宗方ドクターよ」
「どうも。宗方ジェニーでーすっ」
「ドクターはあそこの保養所にいたな?」
「あれは短期のバイトだったの。今思えば、行っててよかったわぁ」
「何がだ?」
「だって、静流クンに会えたし、結果的にココに来れたのだって、あそこにいたからでしょう?」
「フム。確かにそうだな」
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