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第8章 冬が来る前に
エピソード45-1
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桃魔術研究会 第二部室 睦美のオフィス――
あれから数日が経ったある日の放課後、静流と真琴、シズムは、睦美のオフィスに呼ばれていた。
PMCがらみの件で、進展があったようである。
「お疲れ様です。睦美先輩? 軍からメールが届いたって、しののんから聞きましたが」
「そうなんだ。いよいよ動き出すみたいだね、例の仕事。今、プリントアウトするよ」
睦美が立ち上げた会社の傘下にあるPMC『ギャラクティカ・ミラージュ』の初仕事である、『カラミティ・ロージーズ』の隊長である、竜崎ココナ大尉の病状把握及び治療について、軍からの方針が決まったようだ。
「はい、目を通しておいてくれたまえ」
「どうも。どれどれ?……」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
ギャラクティカ・ミラージュ代表 柳生睦美殿
極秘特殊任務『被検体R救済計画』について、活動予定及び主要メンバーの予定表を添付しました。
確認後、質疑等については、随時報告されたし。
アスガルド駐屯地 魔導研究所 如月アマンダ
『被検体R救済計画』
<達成目標>
1. 被検体R(竜崎ココナ大尉)の病状の把握。
2. 被検体Rの病状解析後、治療方針の決定及び実行。
3. 施術のデータ整理、報告書の作成
11月の最終週、金~日 の三日間
※状況により、日数追加の場合あり。
施術会場 御社PMC所有の『診療所』に移送予定。
・主要人員
指揮官 如月アマンダ
技師A シズルー・イガレシアス
医療スタッフ
主治医 如月カチュア
助手1 宗方ジェニー
助手2 藤堂ルリ
助手3 谷井ケイ
その他スタッフ
調整係 榊原 郁
古代語翻訳 黒田 忍
除霊師 ジルベール・ハクトー神父
付添人 村上 夏樹
植木 瞳
その他希望者は各自申告の事。
以上
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
メールの内容を確認し、睦美は数回頷いた。
「ふむ。成程、そう来たか。『あの塔』の医務室を使うんだな」
「そうなんです。僕も一度見せてもらいましたけど、設備は完璧でしたよ」
「ぶっつけ本番ってワケじゃないのよね? 静流?」
「うん。あのあとブラムに頼んで、カチュア先生を医務室に連れてった。認証も終わらせてるよ」
ブラムから聞いた話では、カチュアはあの医務室に入ると、驚く事にほとんどの設備を言い当てたらしい。
勿論、古代文字が読めるわけは無いが、機材をどの様に使うかを説明する前に、まるで理解しているかの様であったと言う。
「ま、アノ先生、ああ見えてスゴ腕の医者だったのだろう? その位は出来て当然なのではないかね?」
「そうなんでしょうね。でも同じ医者でも、軍医の宗方ドクターは医務室の写真を見ても、チンプンカンプンだったみたいですから」
静流はメンバーの中に、意外な人物を見つけた。
「ん? うわ。忍ちゃんがメンバーに入ってる……」
「何ぃ!? どれ?」
真琴が横からひょこっとメールを覗き見た。
「え? どうしてよ? 古代文字なら、ブラムちゃんでもわかるでしょうに……」
「少佐殿が意図している事は今は不明だな。 忍お姉様の前世の記憶が役に立つ場合を考慮したのだろうか?」
「さあ? だた単純にゴリ押しされた、とかじゃないでしょうか?」
「フフ、確かに。その方向もあるか」
「忍ちゃんは【毒耐性】あるし、その方面にも精通しているみたいですしね」
静流はさらにある者の名前を見て、期待通りになったと喜んだ。
「ジル神父、手伝ってくれるんだ。心強いな」
「病原がオカルト方面なら、出番が回って来るかも知れないね」
静流はふとある事に気付いた。
「待てよ? 11月の最終週って、まさか……」
「はっ、それって……」
静流の次に、真琴が気付いたようだ。
「そう。その日程だと、『国尼祭』にバッチリ当たるな」
「で、ですよね……」
『国尼蔡』とは、毎年この頃行われる、学園祭の様なものである。
といっても、学生による露店やメイド喫茶の様な派手な催し物が出るわけでは無く、カテゴリー的には『展覧会』に近い物であるが、普通のソレとは少し違う。
「睦美先輩? 三日間全部サボり、とはいきませんよね?」
「問題無い。根回しはぬかり無く済んでいるよ。フッフッフ」
不安そうな静流に対し、睦美は余裕しゃくしゃくでそう言った。
「ロディに分身を使わせるつもりですか?」
「それもある。後はもう少し後に説明するよ」
「え? 勿体ぶらないで教えて下さいよぉ?」
「大丈夫だ。悪いようにはしない。一日たりとも穴は空けないさ。ハッハッハ」
静流はそれを聞いて、逆に不安要素が増えたように見えた。
「真琴? どう思う?」
「先輩が策を講じたって言うなら、任せて見たら? 私だってフォローするし」
「ありがとう、真琴。睦美先輩も」パァァ
「きゃうぅぅぅん♡」
真琴と睦美は、不意打ち気味に放たれたニパを食らい、よろめいた。
「へぶぅ、真琴クン、前にも増してないか? 『ニパ』の威力が……」
「そ、そうですね。私の耐性もとっくに役立たずになってますしね」
【魔力耐性】がLV.2の真琴は、あらゆる【状態異常】に耐性があるが、基本LV.3にアップした静流には、効果が完全ではなかった。
以前それゆえに、静流の【魅了】をうっかり浴びてしまい、静流は危うく【状態異常】になった真琴に襲われそうになった事があった。
「安心するとイイよ静流キュン。校長にも言ってあるからね」
「そうですか。三日で何とか終わればイイんですけどね」
「ま、こればっかりは実際にやってみないとな」
◆ ◆ ◆ ◆
流刑ドーム内 廃墟マンション――
流刑ドームの屋外広場に、姉たちと薫、モモが揃っていた。つまり、全住民が一堂に会していた。
薫はガラクタの山から、機械の部品を漁っている。
雪乃とモモは、ノートPCで何かを探っている。
忍は、くたびれたソファーに寝そべり、薄い本を読んでいる。
リナは、少し離れた所で修行している薫子とその師匠を、頬杖を突きながら眺めている。
「師匠、もう一度、お願いしますっ!」
「ええ~っ? まだやるのぉ? ウチ、もう疲れたよぉ……」
薫子が師匠と呼んでいるのは、ブラムであった。
薫子は違う世界線で、ブラムと五十嵐家の誰か、今の情報では薫の父である庵との子である。
薫はあるミッションで、薫子を処分する事になっていたが、無理やりこの世界に連れて来た。
「ケーキバイキング、追加で」
「よぉし! 来たまえ、我が子よ!」
今までやる気を失っていたブラムが、薫子の一声でいとも簡単に復活した。
最近の薫子は、暇があればブラムに稽古を付けてもらっている。
リナはあくびをしながら、二人を見て言った。
「ふぁぁあ、薫子も飽きないね、やっぱ静流の為か? 忍?」
「勿論。私には出来ない事。私は他の事で静流をサポートする」
モモと雪乃は、PCの画面を見つめ、何やら話している。
「PMCには機動力が必要ですわね? お母様」
「確かに。今はリリィちゃんからもらった『月光』だけだものね」
「空は確保しましたが、あと陸と海、ですか」
「軍から買い上げた鉄くずをコンバートして、新しく何かを作り出すとか?」
「ん? そう言えば、前にリリィさんが言ってましたわね、あそこにある、宇宙船の残骸をどうのこうのって」
「ふむ。面白そうね、それ。ココを脱出する手掛かりにもなりそうだし」
その件については、静流が塔の管理者となり、【ゲート】を繋げた時点で解決しているのだが、モモの思惑はさらに先を見据えているのだろうか?
「リリィさんを焚きつけて、あちらにやって頂きましょう」
「そうなれば好都合。なるべく軍を動かすのよ?」
「わかっていますわお母様、出費は最小限に抑えます。フフフフ」
それを聞いていた薫が、呆れ顔で言った。
「お前ら、本当に静流には甘いのな」
「どの口が言ってるの? 薫が一番、静流に甘いと思うわよ?」
「何ぃ? どこが甘いって?」
「アンタ、静流の為にあのダンジョンに潜ってたでしょう?」
「ち、ちげえよ! あれはだな……」
モモにそう言われ、薫は返答に困っている。
「わかるぜアニキ、アイツなら何とかしてくれるって、アタイもそう思ってるからよ」
「そうなんだ、よくわかってるじゃんかリナ!」
「当り前だ、惚れた男の考えてる事なんざ、手に取る様にわかるぜ、『以心伝心』ってな」
「キィィ! わ、私だってわかってましたわよ? それを口に出さない奥ゆかしさが、薫の理想の女性、なのですわ」
「何ィ? アニキはな、どんな時もビシッと直球勝負なんだよ!」
「そうかしら。見えない所での気配り、それこそが薫の求めているものですわ」
二人が討論を始めると、モモは「またいつものが始まった」とばかりに、ノートPCを閉じ、部屋に帰って行く。
「ほれ、色男、何とかしなさいよね」
「そんなもん、俺が知るかよ!」
あれから数日が経ったある日の放課後、静流と真琴、シズムは、睦美のオフィスに呼ばれていた。
PMCがらみの件で、進展があったようである。
「お疲れ様です。睦美先輩? 軍からメールが届いたって、しののんから聞きましたが」
「そうなんだ。いよいよ動き出すみたいだね、例の仕事。今、プリントアウトするよ」
睦美が立ち上げた会社の傘下にあるPMC『ギャラクティカ・ミラージュ』の初仕事である、『カラミティ・ロージーズ』の隊長である、竜崎ココナ大尉の病状把握及び治療について、軍からの方針が決まったようだ。
「はい、目を通しておいてくれたまえ」
「どうも。どれどれ?……」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
ギャラクティカ・ミラージュ代表 柳生睦美殿
極秘特殊任務『被検体R救済計画』について、活動予定及び主要メンバーの予定表を添付しました。
確認後、質疑等については、随時報告されたし。
アスガルド駐屯地 魔導研究所 如月アマンダ
『被検体R救済計画』
<達成目標>
1. 被検体R(竜崎ココナ大尉)の病状の把握。
2. 被検体Rの病状解析後、治療方針の決定及び実行。
3. 施術のデータ整理、報告書の作成
11月の最終週、金~日 の三日間
※状況により、日数追加の場合あり。
施術会場 御社PMC所有の『診療所』に移送予定。
・主要人員
指揮官 如月アマンダ
技師A シズルー・イガレシアス
医療スタッフ
主治医 如月カチュア
助手1 宗方ジェニー
助手2 藤堂ルリ
助手3 谷井ケイ
その他スタッフ
調整係 榊原 郁
古代語翻訳 黒田 忍
除霊師 ジルベール・ハクトー神父
付添人 村上 夏樹
植木 瞳
その他希望者は各自申告の事。
以上
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
メールの内容を確認し、睦美は数回頷いた。
「ふむ。成程、そう来たか。『あの塔』の医務室を使うんだな」
「そうなんです。僕も一度見せてもらいましたけど、設備は完璧でしたよ」
「ぶっつけ本番ってワケじゃないのよね? 静流?」
「うん。あのあとブラムに頼んで、カチュア先生を医務室に連れてった。認証も終わらせてるよ」
ブラムから聞いた話では、カチュアはあの医務室に入ると、驚く事にほとんどの設備を言い当てたらしい。
勿論、古代文字が読めるわけは無いが、機材をどの様に使うかを説明する前に、まるで理解しているかの様であったと言う。
「ま、アノ先生、ああ見えてスゴ腕の医者だったのだろう? その位は出来て当然なのではないかね?」
「そうなんでしょうね。でも同じ医者でも、軍医の宗方ドクターは医務室の写真を見ても、チンプンカンプンだったみたいですから」
静流はメンバーの中に、意外な人物を見つけた。
「ん? うわ。忍ちゃんがメンバーに入ってる……」
「何ぃ!? どれ?」
真琴が横からひょこっとメールを覗き見た。
「え? どうしてよ? 古代文字なら、ブラムちゃんでもわかるでしょうに……」
「少佐殿が意図している事は今は不明だな。 忍お姉様の前世の記憶が役に立つ場合を考慮したのだろうか?」
「さあ? だた単純にゴリ押しされた、とかじゃないでしょうか?」
「フフ、確かに。その方向もあるか」
「忍ちゃんは【毒耐性】あるし、その方面にも精通しているみたいですしね」
静流はさらにある者の名前を見て、期待通りになったと喜んだ。
「ジル神父、手伝ってくれるんだ。心強いな」
「病原がオカルト方面なら、出番が回って来るかも知れないね」
静流はふとある事に気付いた。
「待てよ? 11月の最終週って、まさか……」
「はっ、それって……」
静流の次に、真琴が気付いたようだ。
「そう。その日程だと、『国尼祭』にバッチリ当たるな」
「で、ですよね……」
『国尼蔡』とは、毎年この頃行われる、学園祭の様なものである。
といっても、学生による露店やメイド喫茶の様な派手な催し物が出るわけでは無く、カテゴリー的には『展覧会』に近い物であるが、普通のソレとは少し違う。
「睦美先輩? 三日間全部サボり、とはいきませんよね?」
「問題無い。根回しはぬかり無く済んでいるよ。フッフッフ」
不安そうな静流に対し、睦美は余裕しゃくしゃくでそう言った。
「ロディに分身を使わせるつもりですか?」
「それもある。後はもう少し後に説明するよ」
「え? 勿体ぶらないで教えて下さいよぉ?」
「大丈夫だ。悪いようにはしない。一日たりとも穴は空けないさ。ハッハッハ」
静流はそれを聞いて、逆に不安要素が増えたように見えた。
「真琴? どう思う?」
「先輩が策を講じたって言うなら、任せて見たら? 私だってフォローするし」
「ありがとう、真琴。睦美先輩も」パァァ
「きゃうぅぅぅん♡」
真琴と睦美は、不意打ち気味に放たれたニパを食らい、よろめいた。
「へぶぅ、真琴クン、前にも増してないか? 『ニパ』の威力が……」
「そ、そうですね。私の耐性もとっくに役立たずになってますしね」
【魔力耐性】がLV.2の真琴は、あらゆる【状態異常】に耐性があるが、基本LV.3にアップした静流には、効果が完全ではなかった。
以前それゆえに、静流の【魅了】をうっかり浴びてしまい、静流は危うく【状態異常】になった真琴に襲われそうになった事があった。
「安心するとイイよ静流キュン。校長にも言ってあるからね」
「そうですか。三日で何とか終わればイイんですけどね」
「ま、こればっかりは実際にやってみないとな」
◆ ◆ ◆ ◆
流刑ドーム内 廃墟マンション――
流刑ドームの屋外広場に、姉たちと薫、モモが揃っていた。つまり、全住民が一堂に会していた。
薫はガラクタの山から、機械の部品を漁っている。
雪乃とモモは、ノートPCで何かを探っている。
忍は、くたびれたソファーに寝そべり、薄い本を読んでいる。
リナは、少し離れた所で修行している薫子とその師匠を、頬杖を突きながら眺めている。
「師匠、もう一度、お願いしますっ!」
「ええ~っ? まだやるのぉ? ウチ、もう疲れたよぉ……」
薫子が師匠と呼んでいるのは、ブラムであった。
薫子は違う世界線で、ブラムと五十嵐家の誰か、今の情報では薫の父である庵との子である。
薫はあるミッションで、薫子を処分する事になっていたが、無理やりこの世界に連れて来た。
「ケーキバイキング、追加で」
「よぉし! 来たまえ、我が子よ!」
今までやる気を失っていたブラムが、薫子の一声でいとも簡単に復活した。
最近の薫子は、暇があればブラムに稽古を付けてもらっている。
リナはあくびをしながら、二人を見て言った。
「ふぁぁあ、薫子も飽きないね、やっぱ静流の為か? 忍?」
「勿論。私には出来ない事。私は他の事で静流をサポートする」
モモと雪乃は、PCの画面を見つめ、何やら話している。
「PMCには機動力が必要ですわね? お母様」
「確かに。今はリリィちゃんからもらった『月光』だけだものね」
「空は確保しましたが、あと陸と海、ですか」
「軍から買い上げた鉄くずをコンバートして、新しく何かを作り出すとか?」
「ん? そう言えば、前にリリィさんが言ってましたわね、あそこにある、宇宙船の残骸をどうのこうのって」
「ふむ。面白そうね、それ。ココを脱出する手掛かりにもなりそうだし」
その件については、静流が塔の管理者となり、【ゲート】を繋げた時点で解決しているのだが、モモの思惑はさらに先を見据えているのだろうか?
「リリィさんを焚きつけて、あちらにやって頂きましょう」
「そうなれば好都合。なるべく軍を動かすのよ?」
「わかっていますわお母様、出費は最小限に抑えます。フフフフ」
それを聞いていた薫が、呆れ顔で言った。
「お前ら、本当に静流には甘いのな」
「どの口が言ってるの? 薫が一番、静流に甘いと思うわよ?」
「何ぃ? どこが甘いって?」
「アンタ、静流の為にあのダンジョンに潜ってたでしょう?」
「ち、ちげえよ! あれはだな……」
モモにそう言われ、薫は返答に困っている。
「わかるぜアニキ、アイツなら何とかしてくれるって、アタイもそう思ってるからよ」
「そうなんだ、よくわかってるじゃんかリナ!」
「当り前だ、惚れた男の考えてる事なんざ、手に取る様にわかるぜ、『以心伝心』ってな」
「キィィ! わ、私だってわかってましたわよ? それを口に出さない奥ゆかしさが、薫の理想の女性、なのですわ」
「何ィ? アニキはな、どんな時もビシッと直球勝負なんだよ!」
「そうかしら。見えない所での気配り、それこそが薫の求めているものですわ」
二人が討論を始めると、モモは「またいつものが始まった」とばかりに、ノートPCを閉じ、部屋に帰って行く。
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