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第8章 冬が来る前に

エピソード44-7

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五十嵐家 静流の部屋――

 チャットがあった次の日は土曜日だったので、静流は朝食を摂りながらブツブツと呟いていた。

「忍ちゃんたちが心配だ。様子を見に行って来よう」
「しず兄、何を企んでるの?」
「ちょっと『塔』に調べものがあって、その前にドームに寄って行こうかと思ってな」
「お姉様たちに会いに行くの?」
「うん。ちょっと元気無いみたいだったから。美千留も来るか?」
「お姉様には会いたいけど、中二病には会いたくない」
「手厳しいな。伯母さんにも挨拶しておく方がイイんじゃないか?」
「それは……お母さんと一緒でイイ」
「そっか、わかった。上手く言っておくよ」

 そんな話をしている兄妹を、奥の台所で複雑な顔付で見ていた母親がいた。

「私に気を使う事無いのに……美千留ったら」

 部屋に戻り、『流刑ドーム』に行く準備を始める静流。

「えっと、これと、あ、そうそうコレを持ってかないとね」

 そんな事をしていると、いきなり窓が開き、真琴が入って来た。

「出かけるの? 静流?」
「うん。『塔』に用があって、その前にドームに顔出そうかと思って」
「あたしも、付いてってイイ?」
「イイけど、あんまり面白く無いかもよ?」
「イイの!」




              ◆ ◆ ◆ ◆

 
 

 真琴の準備が終わり、メンバーが揃った。メンバーは、静流、ロディ、オシリス、そして真琴であった。
 静流がクローゼットを開けると、奥にある黒い穴を見て言った。

「じゃあ、行くよ」

 静流は先に穴の中に入って行く。
 他の者も続いて入って行くと、一瞬で塔の1階ロビーに出る。

「何度来ても慣れないわね……ココって」
「だから言ったじゃないか、面白く無いって」

 続いて静流は、『流刑ドーム』へ続く【ゲート】の前に行く。

「薫子さんたちに、行くって連絡したの?」
「ううん、言ってない。要はサプライズだよ。きっと驚くだろうな」
「悪魔だ…悪魔がいる」

 そんな事を話しながら、一同は【ゲート】をくぐった。




              ◆ ◆ ◆ ◆




流刑ドーム内 廃墟マンション――

 流刑ドームと呼ばれるココは、モモが言うには、元々は罪人を追放する場所だったらしく、いわゆる『島流し』のようなものであった。
 モモたちがココに送られた理由については、エルフの里の『双子問題』だとモモは推測するが、真実は不明であった。
 【ゲート】は、流刑ドーム内の居住地区であり、おもちゃのブロックを適当に積み重ねたような、無茶苦茶な構造のマンション、例えるなら、かつて香港にあったスラム街『クーロン城砦』の様な趣であった。
 その廃墟マンションの一室に、【ゲート】はあった。

「ここに来るのも、夏休みぶりか……」
「アンタ、何黄昏てるの? つい最近じゃないの」
「色んな事があり過ぎて、メモリーが一杯なんだよ」
「確かに、今年は特に濃かったもんね……」

 【ゲート】を設置してある部屋を出て、みんながたむろしていそうな、共有スペースを目指す静流たち。

「ええと、ココ?だよな」
「ん? 何か話してる、しーっ、静かにして」

 今日スペースのドアの向こうから、何やら話し声が聞こえた。

〈私は、絶対に反対よ! 少なくとも今は、ね〉
〈今回は薫子に賛成。静流には平穏なハイスクールライフを送ってもらいたい〉
〈どうしても、か?〉
〈アニキ、もう少し先でも遅くないだろ? せめて三年に進級してから、って事でどうよ?〉
〈リナにしてはマトモな意見ね。私ももう少し様子を見た方がイイと思いますわ〉
〈多数決、か……わーったよ、それでイイんだろ? ったく過保護なんだからよぉ……〉
〈兄さんの気持ちもわかるわよ? 私だって四六時中静流と一緒にいたいもん……〉
〈そんなんじゃねえ。アイツに見せてやりてぇんだ。アッチの風景を、な〉
〈もしかしてアニキ、最近ダンジョンにこもりっきりだったのって?〉
〈ああ。その話は今度な。いるんだろ? 静流!〉
〈えぇぇぇ!〉

 ドア越しに呼ばれ、ビクッとなる静流。

〈そう言えば、この甘い匂い……静流だ!〉

 そう聞こえたと思ったら、いきなりドアが開き、ドアにもたれていた静流たちは、床にダイブした。

「ハグゥ!」
「きゃん!」
「グェ!」

 静流の上に真琴がのしかかる格好となり、その上にロディがちょこんと乗っかった。
 静流の前には、四人の姉たちと、兄がいた。

「ど、どうも。こんにちは……」

「「し、静流ぅぅぅぅ!」」

 薫子と忍は、上にいる真琴たちをジェスチャーでやる、『置いといて』の要領で退かし、静流を抱き抱えた。

「静流ぅ、静流ぅ」
「く、苦しい……落ち着いて!? どうどう」

 二人同時にベアハッグを決められ、二人を必死になだめる静流。

「おい、もう許してやれよ、痛がってるじゃねえか」
「はっ! ご、ごめん、静流」
「嬉しくって、つい……」

 薫のひと言で、静流の顔が真っ青になり、落ちる寸前で我に返り、同時に拘束を解く二人の姉。

「か、薫さん? いつダンジョンから戻ったんです?」
「ついこの間、な」
「クリア、したんですか?」
「モチ、完膚なきまでに、な」
「前人未踏、だってよ。スゲェだろ? やっぱアタイも無理矢理付いて行きゃあよかったぜ」
「そ、それはまた……」
「さっきお前をアッチに連れて行きたいって言ったら、女どもに猛反対さちまったよ……」

 薫が姉たちを睨むと、薫子はブンブンと手を振り、弁明を始めた。

「違う、違うよ? つまり、時期尚早って事。その内行けるようになるわよ」
「大丈夫だよ。みんなが太鼓判を押してくれるまで、精進に励むよ」
「わかってくれて、うれしいわ」

 薫子は、自分の願いが静流に伝わった事に安堵した。

「ブラムには世話になったぜ。ご褒美に美味いもん食わせておいたぞ」
「ブラムが? そんなに役に立ったの?」
「ああ。至れり尽くせりってな。ああいうのを嫁にもらいたいね」

「「な、何だとぉぉ!(何ですってぇぇ)!?」」ゾゾゾォーッ

 薫の意外な発言に、姉二人は両手を頬にあて、驚愕の奇声を上げた。

「あんなチンチクリンのどこがイイんだ? ありえねえ……」ブツブツ
「竜に負けた? 嘘、そんなワケないんですの……」ブツブツ

 二人は隅っこでしゃがみ、念仏のように何かをつぶやいている。 

「アレで良ければ、もらってくれます? 少なくとも1000歳は軽く超えてますけど。フフ」
「例えだ、バァカ。ハハハ」

「「なぁんだ、例えか(でしたの)」」ホッ

 男どもが談笑しているのを見て、姉二人はいとも簡単に復活した。

「で、当のブラムは?」
「塔にいるんじゃねえか? 多分」
「ネタがタイムリーなだけに、助かりました」
「ん? なんかあったのか?」

 静流はその後、薫たちに軍の依頼の件を、簡単に説明した。
 伯母のモモは、奥で静流の話を聞いていた。

「『呪い』、ね。母さん、どう思う?」
「ふむ。討伐対象に呪われると言っても、対象が死んでるとしたら、こんなに後になって起こるなんて、ちょっと考えられないわね」
「伯母さん、それって?」
「討伐された恨み、と言うより、残留思念? と言うか、地縛霊的なもの……かしら?」
「その辺りは薫子、経験者のお前なら分かるんじゃねえの?」
「どうかな。私の場合は、この世界に残りたい一心だったから、その魔物も残りたい気持ちが強いのかも」
「やっぱ霊的なものか……ジル神父に頼る他無いか」
「あの神父、使い物になるのかよ? ちょっとナヨ系だったよな?」
「う、うん。 しかも、コレ、なんだよね……」

 静流は手を頬に持って行き、『オホホ』のポーズをして見せた。

「か、カワイイ。もう一回やって」
「え? 恥ずかしいよ」

 忍が静流にちょっかいを出して、イチャついている所を見て、真琴はイラつきながら言った。

「静流? この後、『塔』に行くんでしょう? 時間、大丈夫なの?」
「おっとそうだった。この後、塔の四階にある医務室が使えるか見にいくんだった」
「私たちも、付いてってイイ?」
「イイですけど、遊びに行くんじゃないから、つまらないと思いますよ?」
「じゃあアタイはパスね。アニキと一緒にいるから。ヅラ、行って来いよ」
「私だって、薫といるわよ、アナタこそ、向こうに行きなさいよ」
「うるせぇな、二人共行って来いよ」
「「イヤだね(です)!!」」

 薫が戻って来てからは、リナと雪乃は、薫にべったりであった。
 そんなやり取りをあたたかい眼差しで眺めていた静流が、ポンと手を打った。

「あ、そうだ! コレ、渡すんだった」

 静流がメッセンジャーバッグをまさぐると、みんなの所に持って行った。

「なぁに? 何かくれるの?」
「昨日、チャットの時、そう言えばまだ渡してなかったな、って。はい、これ」

 静流が持って来たのは、流刑ドーム組全員の勾玉だった。
 勾玉の色は髪の毛の色に合わせ、

 ・薫子 薫 静流たちと同じショッキングピンク
 ・リナ マリーゴールド
 ・雪乃 アメジスト
 ・忍  ブラックサファイア

 であった。

「お、イイじゃんか。サンキューな」
「わぁ、素敵。前からちょっと気にはなってたんですの」
「サンキュー、静流。でもよぉ、やっぱピンクなのな」
「へっへっへ。どぉ忍? 静流とお揃い♪」
「キィーッ! わたしも静流と同じがイイ。薫子ズルいぃ」

 忍が薫や薫子の勾玉を見て、羨ましがっている。

「大丈夫。違いは色だけだから。これはね、念話とか、翻訳機能が付いてるんだ。後は絶対障壁。でも一回だけだよ? 過信しないでね?」 
「わかってないな静流は。 機能的な事じゃないでしょう?」
「何だよ真琴?」
「ま、アンタらしいわ」

 乙女たちには、その『色』が重要だと言うのが、静流はわかっていない。 
 静流はブラムと念話を繋いだ。

〈ブラム、今どこ? 僕たちはドームにいるんだけど〉
〈あ、シズル様ぁ。『塔』の五階のウチの部屋にいるよ〉
〈四階に、医務室があるって聞いたの思い出してね〉
〈あるけど……使いたい?〉
〈出来ればね。どうだろう?〉
〈わかった。ウチが計器のチェックしておくよ〉
〈助かる。もう少ししたらそっちに行くから〉

 静流たちはこの後、薫たちと軽く昼食を摂り、塔に向かった。
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