拙さと、儚さと、喧しさと。~『桃髪家の一族』と呼ばれる家系で、知らない間に『薄っぺらい本』の主役級キャラにされている僕~

殿馬 莢

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第7章 木枯らしに抱かれて

エピソード40-15

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薄木航空基地 第7格納庫――
      
 格納庫二階の事務所に、萌と工藤姉妹が休憩をとっていた。
 ふと、萌の端末に電子音が発せられた。ピロリン♪
 一拍遅れて工藤姉妹の端末にも電子音が。ピロリン♪

「あ! みのりからメールが来た!」
「あ、ホントだ。写真付きみたい。何々? うわっ!」

 真紀はみのりから送られて来た写真を見てぎょっとした。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 キャッホウ! みんな元気?

 回復術士の講習会、今日が最後だったんだけど、スゴい方が来てくれたの♡

 アナタたちも御存じなのよね? シズルー・イガレシアス大尉殿の事。

 静流様のご親戚にあたる人らしいの。スゴく素敵な方だったわよ。

 よくわからないけど、ケイの事をえらく気に入ってね、

「家に持ち帰りたい」なんて言っちゃうくらい。

 ケイはあさってアフリカに帰っちゃうの。みんなによろしくって。

 私は行き先が決まるまでは太刀川にいるから、何かの機会に会えたらイイね♪


                                みのり

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
 添付された写真は、イスに座り、サーベルを杖のように突き、引き締まった顔のシズルーを中央に、みのりとケイがそれぞれシズルーの腕を抱きピースサインをしている。
 後ろには、白い歯を見せて親指を立てているジェニーと、親指を下向きにしてバッドなポーズを取っているルリと、枠ギリギリに収まっているジョアンヌが写っていた。

「むはぁ、これ、静流様でしょう?」
「どう見ても静流様よね? ダッシュ7寄りの」
「みのりにはバレてないのかしら?」
「あの子なら真っ先に気付くと思うんだけどなぁ」
「この人、確かあの保養所にいたドクターよね?」

 萌と工藤姉妹が端末を見ながらそんな事を話していると、

「ん? 何じゃ? 静流めからメールか?」
「なぁに? 静流クンから? イイなぁ、見せて見せて!」
「聞き捨てならないであります! 自分にも見せて欲しいのであります!」

 郁と澪がひょこっと顔を出し、萌の端末を覗いた。
 そのあと佳乃が端末を見に瞬歩で近付いた。

「ん? 誰じゃ? このイケメン野郎は?」
「こ、この制服、SS、親衛隊の……まさかこの人って?」
「まさかどころじゃなく、十中八九、恐らく静流様でありますね。ムハァ」

 取り上げた萌の端末をガン見する三人。

「何で静流めが太刀川にいるのだ? しかも変装までしてからに」
「ん? 見覚えのある面々がいるでありますな?」
「ねえ、この子たちって、みのりちゃんとケイちゃんでしょう?」

 澪は写真を見て萌に聞いた。

「そうですよ。言いませんでしたっけ? 今コッチに来てるって」
「聞いてないよぉ!」

 郁は写真の一部に気になるものが写っている事に気付いた。

「ん? 後ろにいる目つきの悪い奴は、ルリ? あやつか!?」
「確かに藤堂少尉殿みたい。あの方って、太刀川にいらしたんですか」
「はわわわ、ルリ殿は筋金入りの『喪腐魔女』、 静流様が危ないのであります!」

 佳乃の顔が次第に青ざめていく。

「おい、このチビ、あいつの所の部下だろう?」
「ケイちゃんですか? ええ。『アノ方』の部隊の子ですね」

 郁は腕を組み、ため息をついた。

「妙な胸騒ぎがする。静流め、何を考えておるのだ?」
「恐らく、いつもの『巻き込まれ状態』でしょうね」

 そんな事をしていると、誰かが事務所に入って来た。カチャ

「永井軍曹、ちょっと、聞きたい事あるんだけど」ハァハァ
「医療班の秋津さん? 何かあったの?」

 秋津と言う隊員がパタパタと澪の基に詰め寄った。

「アナタ、五十嵐少年と仲良かったわよね?」
「静流クン? 仲イイだなんて、おだてても何も上げないわよ? ウフフフ」
「少年のご親戚に、どっかのPMC所属の超イケメン将校、いるわよね?」
「はて? そんな方、いたかしらねぇ?」

 秋津は澪が手に持っている端末を覗いた。

「こ、この方よ! ああん、シズルー様ぁ♡」
「この方がどうしたの?」
「今度ウチに召喚、じゃなくて御足労頂いて、回復術の指南をしてもらいたいのよ」フー、フー
「そんなにスゴい方なの?」
「そりゃあもう。太刀川に行ってた先輩が、ウチにも来てもらおうってエラく興奮気味に言うのよ」
「それで、何をすれば?」
「仕事の依頼ってどこにすればイイ? あそこのドクターじゃ、要領を得ないみたいで」

 静流の知らない水面下で、既に事は始まっていた。

「わかったわ。確認しておくから、少し時間を頂戴」
「お願いね。出来るだけ早く! 他の駐屯地に先を越されちゃうから!」

 秋津という隊員は、言いたい事を言ってピューと去って行った。

「ますます怪しい。静流めぇ、佳乃、静流と念話だ!」
「了解でありますっ!」



              ◆ ◆ ◆ ◆



五十嵐家 静流の部屋―― 

 静流の今日一日の行動をチェックし終えた二人は、複雑な顔で静流に聞いた。

「で、どうすんのよ、今後」
「しず兄を軍の犬にはさせない!」フーフー
「とにかく、明日睦美先輩に相談しないとな」
「毎度先輩に頼るのは悔しいけど、それしかないわね」
(昔はあたしが導き手だったのにな……)

 真琴は、静流に全面的に頼りにされている睦美に嫉妬している。

「ん? そう言えば先輩、生徒会室にはいなかったわよ?」
「ほとんど一日、僕に付き合ってくれたんだ。仮病使って保健室から念話で」
「迂闊だった。保健室は盲点だったわ……」
「睦美先輩とルリさんのお陰で何とか乗り切ったんだ。感謝しないとな」
「ああそうですか。あたしだって心配したんだからね?」
「いつもすいませんね。ご心配お掛けして」
「何よ、もう……」

 そうこうしている内に、静流に念話が入った。

〔静流様、応答せよであります!〕
〔佳乃さん? どうしたんです?〕
〔静流様、今日、太刀川に行かれたでありますか?〕
〔ええ、行きましたよ。情報早いなぁ、さすがは軍ですね?〕 
〔藤堂ルリ少尉殿に、何かされたのではありませんか?〕
〔ルリさん? 大変お世話になりましたよ? ああ、イク姉と同期らしいですね?〕
〔セーフ。良かった……であります〕
〔佳乃、ちょっと貸せ〕
〔イヤであります! あっ!〕

 そのあとノイズが入り、佳乃以外の者が念話を代わったようだ。

〔おい静流! お主は何を考えておるのだ?〕
〔イク姉! 丁度イイ。相談したい事があったんだ〕
〔な、何だ? 私に相談とは?〕
〔実は、かくかくしかじかで……〕
〔何じゃと!? イカン、それはイカンぞ!?〕
〔じゃあ、どうすればイイ?〕
〔うむむ、少佐と策を練る。それまでは軽はずみな言動は控えろ!〕
〔わ、わかったよイク姉〕
〔沙汰を待つのだ。イイな?〕
〔う、うん〕

 そのあと念話に出たのは、澪だった。

〔もしもし静流クン? 隊長に叱られてたけど、大丈夫?〕
〔ミオ姉。うん。大丈夫〕
〔静流クン、事は予想以上に重大よ〕
〔え? 何だって?〕
〔大尉殿にウチにも来て欲しいって、連絡先聞かれてるのよ? アナタなんでしょう?〕
〔薄木からもオファーが!? うひゃあ、それはマズいな〕
〔とりあえず隊長たちに任せて、静流クンは大人しくしてるのよ?〕
〔わかったよ。何かゴメン。面倒掛けて〕
〔気にしないで。アナタのせいじゃない。アナタを利用しようとしている、大人たちがイケナイのよ!〕

 澪は、自分がすぐに駆け付けて静流を慰めてやれない事に、苛立ちを隠せないでいた。
 すると、念話に割り込んで来た者がいた。

〔大丈夫です。静流にはアタシが付いてますから〕
〔真琴ちゃん……にしては今回、迂闊だったわね? 1マネさん?〕
〔くっ、以後、気を付けます〕
〔お願いね〕

 澪は苛立ちからか、真琴にキツくあたった。
 今度は萌に代わった。

〔静流様、萌、です〕
〔あ、萌さん。お疲れ様です〕
〔静流様、今日、白木みのりと谷井蛍にお会いしましたね?〕
〔ええ。会いましたよ?〕
〔私や美紀真紀と同期、なんです〕
〔へぇ。そうだったんですね〕
〔あの子たちは、どうでしたか?〕
〔一応講師だったんで言いますけど、成績は優秀でしたよ。生意気な事を言いますが〕
〔それ以外、ですと? 特にケイはお気に入り、だとか?〕
〔ケイさん? ああ、あれは演出です。お世辞抜きで、みなさん魅力的で素晴らしい方ばかりでしたよ? それが何か?〕
〔い、いえ。ご報告、ありがとうございます〕

 そう言うと、すぐに佳乃に代わる。

〔ふう。やっと戻って来たであります!〕
〔じゃあ佳乃さん、おやすみなさい〕ブチ

「ふぇ? まだお話が……切れた、であります……」

 佳乃は勾玉を見つめ、呆けた顔をしている。

「ああ! 萌ズルいー、私たちも静流様と話したかったのにぃー!」
「ふう。『演出』か。良かった。あの子たちって結構スペック高いの、自分自身は気付いてない節があるのよね」
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