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第7章 木枯らしに抱かれて

エピソード40-14

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療養所 事務所―― 

 静流を送り出し、事務所に戻って来た二人。


「「ぷっしゅぅぅ」」


 席に着くなり、 二人は机に突っ伏した。

「はぁ……ドクター、私、静流様ロスで暫くお仕事、出来そうにありましぇん……」
「何だろう? この喪失感。あの子って何かあるのよね。女を狂わせる何かが」

 そんな事を言いながらまったりしていると、ドアがノックされた。コンコン

「ふぁい、なぁに? 緊急以外は勘弁してもらえるかしら?」

 ジェニーが気だるそうにそう言うと、ドアを開け入って来る者がいた。

「宗方ドクター! これは緊急です!」カチャ

 入って来たのは、みのりとケイだった。

「あら二人共。大尉殿ならもうお帰りになったわよ」
「ああ、シズルー様ぁ……」
「ふう、遅かったか。宗方ドクター、お聞きしたい事があります」
「本当に緊急の話なの? 今じゃないとダメ?」
「ダメです! 緊急なんです!」

「なぁに? 今、心にぽっかり穴が空いたような気分なの。手短にお願いね?」
「ああ、シズルー様ぁ……」
 
 心ここに在らずの二人。

「ケイ、アナタの口から言うのよ?」
「うん。わかった」

 みのりにそう言われ、ケイはダラダラしている二人に向かって言い放った。


「大尉殿に、仕事を依頼したいんです! 『姫様』を救って欲しい、って!」


 ケイの発言に、ピク、と反応し、ムクッと起き上がる二人。

「『姫様』ってアナタの隊の隊長さんの事?」
「ココナに何かあったのですか? ケイちゃん?」
「実は……」



              ◆ ◆ ◆ ◆



五十嵐家 静流の部屋―― 

 太刀川駐屯地を出た静流は、路線バスを使い、直行で帰宅した。

「ただいまぁ……はぁ、疲れた」
「おかえり。あら? かなりお疲れのようね、教官殿は」

 息子の声に反応し、ミミは器用にひょいと顔だけ出した。

「うう。ちょっと横になりたい……かな」
「これは重症ね? 回復魔法を教わりに行って、自分がこれじゃあ、結果は散々みたいね?」
「ほっといて頂戴!」

 そう言うと静流は、母親のイジりには反応せず、階段をトボトボ上って自分の部屋に向かう。
 居間で寝そべってテレビを見ていた美千留は、そんな兄の態度に苛立ちを覚えた。

「ああ、やっと楽になれる……」トサッ

 静流は部屋に入るなり、ベッドにうつ伏せにダイブした。すると、バァン!
 ドアが開くなり、美千留がズカズカと入って来た。

「しず兄! 今日、何があったか、洗いざらい全部説明して!」
「無理。ご報告は明日以降にするのであります……」

 そのまま寝てしまいそうな静流を、美千留は揺さぶった。

「寝るな! 説明責任を果たせ!」
「うぅん、何だよ責任って、そんなもんあるか」

 音声なしで傍からで見ている分には、兄妹でじゃれ合っている様にしか見えないのだが。
 すると突然窓が開き、真琴が入って来た。ガラッ

「静流ぅ、報告は?」
「真琴もか? 疲れてるんだ、明日以降にしてくれ」

「「報・告・は?」」

 尚も詰め寄る二人。
 
「もう、わかったよ、オシリス、見せてやって」 

 静流がオシリスを呼ぶと、オシリスは不可視モードを解いた。

「はいはい。特筆するほど、アンタたちが心配するような事は無かったと思うわよ?」
「つべこべ言わずに早く見せて!」
「そう急かさないでよ。全くもう……」

 オシリスは壁に向かい、プロジェクターのように目から映像を再生した。

「この辺は飛ばしてもイイかも」

 太刀川駐屯地到着から、事務所でジェニーたちと打合せをしているシーンだった。

「ねえ、このドクターって、この間保養所にいた人よね?」
「そう。あの時に誘われたんだ。回復系に興味があるんだったら是非いらっしゃい、ってね」

 そうこうしている内に、変装のシーンになった。
 シズルーの姿にドン引きの二人。

「うわ。どう言う趣味してんの?」
「アンタ、変装するならもう少し地味なのに変装しなさいよ! 『薄い本』そのまんまじゃない!」
「しょうがないだろ? ドクターの希望だったんだから」
「これじゃあ、『勘違いヲタ喪女ホイホイ』のエサだわ……」

 次に教場で講義を行っているシズルーのシーンになった。

「何よ、このアバズレ!? 教官を誘惑してるわよ!?」
「良く言った静流! って、メロメロじゃないさ、この女!」

 恐らく序盤の、ジョアンヌとのやり取りを見ているのであろう。
 講義後の空き時間中、物凄い数の女性隊員がシズルーに見惚れているシーンになった。

「職権乱用だ! 毒女たちの巣窟に、しず兄をやったのは間違いだ!」
「校長、許すまじ」

 次に屋外で実地訓練をしているシーンが映し出される。
 ケイをイイ子イイ子している。

「このトランジスタ・グラマーをやけに可愛がってる……エコひいきじゃないの!?」
「ちょっと、何なのこの大きさ……D? Eかしら?」

 ケイの身体のある一部に、二人は釘付けになっている。
 ここまで見終わって、ため息をついた二人。

「ふう。いろいろツッコミどころはあるけど、とりあえず許容範囲かな」
「もうイイだろ? お前たちが心配するような事にはなってないから」
「どうだか? 多分これっ切りにはならないよ。大尉殿」
「もう勘弁願いたいね」

 証書の授与式で、またもやケイをイイ子イイ子しているシーンになった。

「静流? この子って年上よね?」
「ケイさん? 3つ年上だけど?」
「信じられない!? 年齢詐称だ!」
「美千留? 詐称って、普通は若く嘘をつくパターンだよな?」
「うるさい! しず兄のロリコン!」
「違う! あれは睦美先輩の演出なんだ。本意じゃない」

 必死に弁明している静流に、美千留はさらにツッコミを入れる。

「じゃあ、やっぱあの娼婦がイイの?」
「ジョアンヌさんは何か事情があるんだ。悪い人じゃなかった」
「そんなの、今日会ったばかりじゃわからないじゃない!」
「勘だよ。何となくわかるんだ」

 真琴は今までの映像を見て、一つの結論を導いた。

「そうなるとやっぱ本命は、あの全てにおいて平均点以上の子ね?」
「みのりさん? 傍目には確かに悪いとこ一個も無かったな。『ある点』を除けば」
「何よ、『ある点』って?」
「残念な事に、生粋の『薄い本愛好家』なんだよ」
「え? この人、ヲタ喪女なの!? 勿体ない。このハイスペックなら……確かに残念な人ね」
「一度素顔を見られてるんで、記憶を消してもらったんだ」

 一通り映像を見た二人は、一応納得してくれたようだ。

「ふむ。確かに危険度は低いか。次は無いんだし、ま、良しとするか」
「そう願いたいんだけど、どうも次がありそう……なんだよなぁ」
「何ィ!? まさか、他の駐屯地からもオファーが!?」

 物凄い形相で、ガバッと静流の顔を覗き込む真琴。

「ご明察。今後どうするかは、アマンダさんやイク姉たちと相談かな?」
「ぐぬぬ、しず兄に、全国の駐屯地をドサ周りさせようって魂胆なの!?」
「こちとら学業があるんだ、それは勘弁願いたいね……」

 真琴の周りがうっすら熱を帯びた。指をポキポキと鳴らしている。 

「校長、いっぺんシメるか?」
「やめてください真琴さん、成績に響きます」
「真琴ちゃん、付き合うよ」
「美千留? お前ねぇ、来年ウチの学校、受けるんだろ? 大人しくしとかないと、ブラックリストに載るぞ?」
「ぐぬぬ……それは避けなければならない」
「だろ? 二人とも落ち着いて、どう、どう」

 静流は、憤慨している二人をなだめるのに手を焼いていた。
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