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第6章 時の過ぎゆくままに

エピソード39-2

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学園内 保健室―― 次の日の放課後

 放課後、ヨーコたちはカチュアのいる保健室を訪れた。

 コンコン「先生、今、イイですか?」ガラッ

 扉を開けると、カチュアと、意外にもニニが紅茶を飲んでいた。

「あら? アナタたち、何かあったの?」
「え、ええ。ちょっと」
「体の具合でも悪いの? それは大変ね」
「ああ、違うんですよ。言わば、メンタルケアですかね?」

 アンナはどうやってニニを退出させようかと考えていた。

「どう言う事? 詳しく話してみなさい」
「で、でも、デリケートなお話ですので」チラ

 ヨーコは、言いにくそうにそう言って、ニニちゃん先生を見た。

「私も、相談に乗りますよ。ミス・ミナトノ」チャ
「あ、ありがとうございます。ニニちゃん先生」

 どうも振り切れそうにないようだ。

「で、メンタルケアが必要なのはヨーコさんなの?」
「はぁ。一番ヒドくて重症なのはヨーコですね。後は軽症です」
「具体的に、どんな感じなのかしら? ヨーコさん?」
「体の真ん中に、ぽっかりと穴が空いた、感じですね」

 ヨーコの話ぶりを見て、カチュアは一つの答えを導き出した。

「はは~ん……さてはフラれたな? 静流クンに」
「ちちち、違います! そんな事、断じてありません!」

 カチュアにそう言われ、全力で否定するヨーコ。

「じゃあ何かしら? 失恋以外思い当たらないわね」
「さらっと残酷な事、言わないで下さい! 先生」

 ナギサがヨーコを庇い、カチュアを睨んだ。

「多分、養分が足りなくなったんですよ。みんな」

 アンナがあっけらかんとそんな事を言う。

「養分? とは何でしょう?」

 ニニちゃん先生が首を傾げてアンナに聞く。

「ズバリ、『静流様エキス』ですよ!」
「はぁ? バカも休み休み言いなさい、ミス・ミラーズ」

 ニニは、ふう、とため息をついて、アンナを諭した。

「いいえ。当たらずとも遠からず、ね、アンナさん」
「カチュア先生? この子の戯言を肯定するのですか?」
「だって、私もいっつも感じてるのよ? 『静流クンロス』を」

 そう言ってカチュアは、自分を抱きしめ、腰をくねらせた。

「ああっ、静流クゥン♡」

 カチュアは机の引き出しから、A4サイズの何かを出した。

「そ、それは何です? カチュア先生?」
「この間、アマンダからぶんどったの。むふぅ、素敵♡」

 カチュアがうっとりしながら見ているものは、軍が作った隊員募集のポスターである。
 ポスターに使用されている写真は、かつて、静流がアスガルド駐屯地に戦闘ヘリ「ジェロニモ」で向かう際に撮られた写真である。
 静流がジェロニモの席に立ち、ヘルメットを小脇に抱え、桃色の髪をなびかせている写真である。

「うわぁ、もろ静流様じゃない! 決まってるぅ!」
「静流様って、軍に入る予定なの?」
「こんなもの貼り出されたら、新規入隊者が腐女子ばっかりになっちゃうよ」
「まぁ、そんな動機で入隊希望する子なんて、最初のふるいで落とされるでしょうけどね」

 みんなで静流のポスターを眺めていると。カチュアが切り出した。

「よし、会いに行きましょう! 静流クンに!」
「え? イイんですか? 静流様にお会いしても?」
「ええ。私だって、もう少ししたら禁断症状が出ていたかも知れないしね。ムフゥ」
「手間が省けたわ。先生、実は今度の土曜日に、静流様が『ワタルの塔』で会おうって」
「まぁ。素敵ィ。こういう時の為に、勝負下着を通販で買っておいて良かったわぁ♡」

 カチュアとヨーコたちが盛り上がっているのを横目に、ニニがメガネを直した。チャ

「聞き捨てなりませんね。 異性との接触など」
「硬い事言わないでよニニ。アナタも会いたいのでしょう? 静流クンに」
「わ、私は別に。彼は、私のライバル、ムムの教え子ですよ?」
「この前、『塔』に行ったじゃない。また行きたくは無くて?」
「確かにあの塔には、興味深いものがたくさんありますから、是非共行きたいですね」チャ
「じゃあ、その位は目をつぶって頂戴な。先っぽだけだから、ね?」
「何ですか? 先っぽとは? その代わり、みだらな行為は厳禁ですよ?」
「勿論。適度な距離はとるわよ。みんな、次の土曜日、外出許可取っときなさい?」

「「「了解!」」」

 こうして、静流との『謁見の儀』を執り行う事となった。




              ◆ ◆ ◆ ◆



五十嵐家―― 静流の部屋

次の日の夜、サラから念話が入った。

〔そう。わかったよ。じゃあ、土曜日に〕ブチ

「今度の土曜か。先生たちも来るんじゃ、にぎやかになるな。ふぅ」

 静流はベッドに横になり、ため息をついた。すると突然ドアが開き、バァン

「しず兄、誰と話してたの?」
「美千留、ノックぐらいしろよ」
「で、誰?」
「留学先の友達。今度の土曜に『塔』に招待したんだ。アンナはわかるだろ?」
「何ィ? あのムチムチアメリカンガールが?……私も行く」
「おい、お前が行くと無茶無茶になるだろ? 今度な」
「ぐぬぬぬ、この事、真琴ちゃんは知ってるの?」
「さっき決まったんだ、知ってるわけないだろ?」

 そんな事を兄妹でやりとりしていると、

「聞いたわよ? 静流」

 ベッドの下から真琴がひょこっと顔を出した。 

「うわぁ! 忍者かよ、お前」
「薫子さんや忍さんみたいに器用にはいかないけど、気配くらいは消せるわ」

 パジャマ姿の真琴は、当たり前のようにベッドに座った。

「ふむ。1マネとしては付いて行く必要がありそうね?」
「そう言うのイイから。向こうは生徒と先生だぞ?」
「アンナさんレベルの子と先生でしょ? ホントに何も無いって言えるの?」
「もう。勝手にすれば!」
「勝手にさせてもらうわ。ねぇ? 美千留ちゃん?」
「うん。勝手にする」
「事がこれ以上大きくなるといけないから、口外無用だからね」
「そこは厳守します。少なくともあの先輩達とお姉様方には知られちゃマズいでしょうね」
「軍のお姉さんたちにも内緒にしないと」
「そうか、手を打っておく必要がありそうだ」

 三人は腕を組み、ほぼ同時にため息をついた。
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