拙さと、儚さと、喧しさと。~『桃髪家の一族』と呼ばれる家系で、知らない間に『薄っぺらい本』の主役級キャラにされている僕~

殿馬 莢

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第6章 時の過ぎゆくままに

エピソード37-1

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2-B教室―― ある日の放課後

 終わりのHRが終わり、帰り支度を始めた静流。とそこに、

「静流様ぁ、ご所望のモノ、納品に上がりましたぁ!」

 いきなり数人の女生徒が入って来た。

「あ、イタコさん、助かります!」パァ
「さすが『オカ研』、いとも簡単に【結界】を突破されたわ」

 真琴は中学の頃から、静流に『悪い虫』が付かないように、教室の周囲に【結界】を張っている。
 それほど強いものではないが、『異常な欲望を抱く者』を遠ざける効果がある。
 静流に『イタコ』と呼ばれた先頭の女生徒は、オカルト研究部部長の板倉こずえであった。

「ソレって、まさか、あの?」
「そう、『ドクターポッパー』だよ。MP回復に効果があるみたいなんだ」

 『ドクター・ポッパー』とは、『ロストテクノロジーが生んだ奇跡の知的飲料』のうたい文句で、オカルト研究会が製造している清涼飲料水である。
 ちなみに味については、以前飲んだ事がある真琴いわく、『子供の頃飲まされた、ジュースに混ぜてある薬みたい』との事である。

「いかにも。我がオカルト研究部が開発した高次元飲料です!」
「ありがとうございます! でも、本当にタダでイイんですか?」
「モチのロンでございます! その代わりにいろんなデータを取らせて頂いていますから」
「ありがとうございます。シズム、これ、お願い」
「はぁい」シュン

 350MLの缶が24本入った段ボール箱を、シズムは片手で受け取り、ポシェット型インベントリに瞬時にしまった。

「アナタのそのポシェット、どうなってるのかしら? 実に興味深いわぁ」
「神様のアイテムだよ。静流クンが使ってイイって。イイでしょう?」
「ふぅむ、神アイテム、『聖遺物』ですね。むはぁ、ロマンですわぁ」

 イタコは物欲しそうな目で、シズムのポシェットをじぃーっと見ている。

「イタコさん、『ドクポ』のお礼に、何か困った事があったら、何でも言って下さいね」ニパァ


「「「ふぁぅぅぅん」」」


 オカ研の部長と部員は、静流のニパを浴び、軽くのけ反った。

「くはぁ、何でも……ですか? そうですね……むふぅ」
「ちょっと、変な事はダメですからね? 先輩?」
「わ、わかっています。コホン、実は最近、幽霊騒ぎがありまして……」

 オカ研らしい相談事に、少しホッとした真琴と静流。

「え? 幽霊、ですか?」
「ええ。何でも『桃色の髪』をした美少女の幽霊、とか?」
「桃髪の幽霊って、む? まさか」

 顎に手をやり、眉間にしわを寄せる静流。

「やはり、静流様のご先祖様だったのですね?」
「まあ、近親者である事は間違いないですね」




              ◆ ◆ ◆ ◆




オカルト研究部部室――またある日の放課後

 放課後に静流は、真琴と共にオカ研の部室に足を運んだ。

「こんにちは、イタコさん」
「その声は、静流様ぁ!」シュタッ!

 オカ研部長の板倉こずえは、静流の声がすると、瞬歩を使って静流の前に立った。

「この前の『幽霊騒ぎ』なんですけど、解決出来そうなんですよ」
「本当ですか? 静流様!?」

 部長は頬に手をやり、クネクネしながら興奮している。 

「静流様の、未知への飽くなき探求心……ああっ!素敵」
「タダの変態にしか見えないわね」

 そんな部長を真琴が怪訝そうに見ていると、

「困るなぁ、静流キュンに仕事を依頼するなら、事前に生徒会を通してくれんと」
「睦美先輩!」

 『大佐モード』の睦美が、オカ研部室に入って来た。

「書記長? 静流様にお伺いを立てるのに、何故いちいち生徒会に断りを入れなければならないのかしら?」
「それはもちろん、私が静流キュンの『パートナー』であるからだよ、板倉部長」

 睦美は胸を張り、少し上気した顔で言い放った。


 「「「何ですってぇ?」」」


 睦美の発言に、当の静流を含め、一同が驚きの声を上げた。

「僕と睦美先輩が、『パートナー』だって!?」
「私も初耳なんですけど、それ」

 ジト目で見て来る真琴を軽くあしらい、睦美は言い放った。

「あくまでも『仕事』のだよ。言わば、『マネージャー』に近いかな」
「『マネージャー』なら間に合ってます。私がいれば十分ですから」
「いいかい真琴クン? 静流キュンは今や、我が校の知る人ぞ知る、超新星、スーパーアイドルなのだよ!」
「まぁ、確かに巷では『歩く都市伝説』って言われているらしいですから。ツチノコ並みですよね」
「うむ。従って、第二のマネージャー位、いてもおかしくは無いのだ! フハハ」
「その場合、先輩が第二ですよね? 年季が違いますから」
「クッ、甘んじて受けよう、セカンドマネージャーである事を!」

 睦美と真琴のやり取りを、静流はぼんやりと見ていた。

「あくまで、仕事上……ね」

 静流は、『パートナー』という響きに少しときめいたが、仕事上というワードが上乗せされた事で、ときめきはリセットされた。

「静流キュンも、あまり安請け合いしないでくれたまえ。先ずは私に相談、だろう?」
「そうですね。すいませんでした」シュン
「わ、わかればイイのだよ! 気にしなくてイイんだ」
(いかんな。これでは私が意地悪をしているみたいではないか!)

 少し動揺した睦美だが、咳払いをしてから平静を取り戻す。

「コホン、影から聞いた情報によると、何でも幽霊が出た、と?」
「そうなんですよ睦美先輩。で、多分なんですけど」コソ

 静流は睦美に耳打ちした。

「むふぅ、こそばゆいな。は? 薫子お姉様だって!?」
「薫子様って、あの留学先で行方不明になったと言う、『国尼四羽ガラス』のお一人の?」
「そう。オカ研も興味を持っていたか。さすがだ。なにを隠そう、その桃髪の美少女が、五十嵐薫子お姉様なのだよ」
「そう言えば、少し前にその方の『ビジョン』が見えましたの」

 オカ研部長は、あだ名の通り、死者の声を聴いたり、シズルカが誕生する前に女神誕生を予言した、いわば超能力者である。

「『ビジョン』ですって!? イタコさん、どんなビジョンでした?」
「そうですね。砂が常に舞っているどこかの星で、桃髪の美少女が静流様とねんごろになっていましたわ」


「「「何ィィィ!?」」」


 やはりこの部長、只者ではない。

「どうなんだ? 静流キュン? お姉様と『ゴロにゃん』していたのかい?」ハァハァ
「まあ、事実と異なる所もありますが、大筋で合っていますね。さすがイタコさんだ」
「うぉぉぉ、見たい! 見たいぞその光景!」

 睦美は両手を顔の前に出し、わしゃわしゃとやった。

「やはりそうですか。現実にあったのですね。あの光景が」
「あの人は同族です。従姉、もしくは姉ですから」
「従姉であればセーフですが、姉となると……」
「イタコさん? 一体どんなビジョンだったんですか!?」
「そんなの、乙女の口からは、言えませんよ」ポォ

「うぉぉぉ、覗かせろ! 部長!」
「母さんみたいな事、しないで下さい!」
 
 暫くして睦美が落ち着き、コホンと咳ばらいをした。

「それで、どうするつもりだい? 静流キュン」
「簡単な事ですよ。お姉様を『捕獲』します」
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