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第5章 夏の終わりのハーモニー

エピソード35-16

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 工藤姉妹に記念写真をせがまれ、しぶしぶ応じた静流。

「じゃあ佳乃さん、次、どうぞ」
「いざ自分の番となると、照れるでありますな」ポォ

 佳乃はスナップ用に用意された場所に静流を連れて来た。

「ココ! ココでお願いするのであります!」

 佳乃が静流を連れて来たのは、カップルの記念写真用スペースであった。
 青い海をバックに、二人掛けの籐で編んだ椅子が設置してある。

「うひゃあ、ちょっと恥ずかしいな」
「お願いであります! 後生でありますから!」
「わ、わかりましたよぉ……」
 
 涙目で懇願する佳乃に、静流は仕方なく応じることにした。

「うへへ。静流様ぁ」ガバァ
「佳乃さん? まだ酔ってるんじゃないんですか?」
「お肌スベスベでありますね。たまらんでありますぅ」
 
 二人のイチャコラを見せつけられた美千留は、こめかみに血管が浮き出るかという程の形相で、静流たちに言った。

「イイですか? 撮りますよ、はい、ポーズ」カシャ

 撮影が終わったのに、佳乃はまだ静流にベタベタしている。

「佳乃さん、撮影終わりましたよ?」
「もう少し、こうしていたいでありますぅ。ぬふぅん」 
「ふう。いつからこんなに甘えん坊さんになったんですか?」
「静流様のせいでありますよ?」
「僕、ですか?」
「そうですよ。仕事中でもいつでも、静流様の事ばかり考えているのであります! 自分はすぐにでも軍を……」

 静流が迷惑そうに佳乃から離れようとしていると、誰かが近付いて来た。

「ああっ! 佳乃! 何うらやましい事してるの!?」
「ミオ姉! 丁度イイ、佳乃さんを何とかしてよ!」

 先ほどから静流に甘えっぱなしの佳乃に、澪は顔を引きつらせながら、こう言った。

「佳乃? もうイイでしょ? 順番がつかえてるの。早く代わって!」フー、フー
「澪殿。わかったでありますよ。そうカリカリしないでほしいのであります」

 佳乃がやっと椅子から立ち上がり、少しふらつきながらお土産コーナーに向かって去って行った。

「次は私ね。イイでしょう? 静流クン?」
「はいはい。どうぞ」
「何よぅ、そのやっつけ仕事みたいな対応。こうしてくれる、えい!」むにぃ

 澪は隣に座ると、胸を密着させるように静流の腕を抱き、頭を静流の胸にもたれかけた。

「イイ匂いがするね、ミオ姉」
「そうでしょう? 高級なシャンプー使ったから」ヌフゥ

 そう言うと澪は、静流の手を自分の肩に回すようにもっていった。

「ねえん、触ってみて? お肌スベスベでしょ? きっとあのオイルマッサージが効いたのよぉ」
「ホントだ。まあ、そんなに喜んでくれたんだったら、やった甲斐があったかな」

 今度は澪とイチャついている静流に、プルプルと小刻みに震えながら美千留が言った。

「もうイヤ! もうやってられない! ロディ、あとお願い!」
「かしこまりぃ!」

 美千留は、シズムに扮しているロディに写真係を振った。




              ◆ ◆ ◆ ◆




 喫茶スペースに真琴を発見した美千留は、ふてくされながら真琴がいる方に向かった。

「はぁ。しず兄のバカ! 信じらんない!」プンスカ

 そう言うと美千留は、真琴がいるテーブルの椅子にどかっと座った。

「まぁ、多めに見てやろうよ。あの人たちだって、いつも静流に会えるわけじゃないんだから」
「そりゃあそうだけど。真琴ちゃんは平気なの? 随分余裕かましてるけど」
「いくらアプローチしても、当の静流がアレじゃあ、『のれんに腕押し』『ヌカにクギ』よね」
「『豚に真珠』とも言う。フフフ」
「だからさ、いちいち気にするの、止めようかと思ってね」
「でも、内心はそうでもないみたいね。漏れ出してるよ、熱気」

 よく見れば、真琴が飲んでいたアイスティーが、やがて沸騰しだし、グラスが弾けた。パリン!

「あちちち、うわ、やっちゃった」
「大丈夫? ほら、我慢なんて、するもんじゃないでしょ?」
「だって、悔しいじゃない? 子供扱いされてるみたいで」
「実際学生なんて、子供なんだもん、しょうがないよ」
「敵わないな、大人の色気には」
「相手が悪かったと思うしかない……か」
「そうね。これが学校内だったら、タダじゃ置かないけどね」

 そう言って二人は、向こうでやっている撮影会を、遠い目で見ていた。

「美千留ちゃんは、来年、ウチの高校受けるの?」
「もちろん! そしたらまたしず兄と一緒に登校出来るでしょ?」
「そっか。次の新入生は手強そうね」
「まあね。覚悟しといてよ?」
「はいはい。お手柔らかに頼むわね」




              ◆ ◆ ◆ ◆




「ちょっと近すぎません? 仁奈さん?」
「えぇ? さっき澪と一緒だった時と同じ距離だよ?」
「仁奈ぁ、早く代わってよ! 次がつかえてるんだからぁ」
「はいはい、しょうがないわねぇ。ロディちゃん、お願い」
「撮るよ! はい、ポーズ」カシャ
 
 静流とのツーショット撮影会は、まだまだ続くみたいだ。

「あー!! こんな場所があったの? じゃあ撮り直しだわね、真紀?」
「そうね。一人ずつ撮るの、さっき忘れたしね、美紀?」
 
 さっき撮ったはずの双子が、ちゃっかり最後尾に並んでいる。
 よく見ると、何故かココの女性従業員まで並んでいる。

「おい、お前たち、関係者以外は撮影禁止だからな、あっちいったいった!」
「うぇぇ!? ダメ……ですかぁ?」
「サインも、もらいたいんですが?」

 恐らく「薄い本」絡みであろう。イク姉に邪険にされ、半ベソをかいている。

「どうしたの? あなたたち?」
「私たちも、静流様とお写真をお願いしたいのですが、ダメでしょうか?」
「さっき、そこのおチビさんに怒られちゃったんですけど、諦めきれないんです」

 アマンダは従業員から事情を聞くと、何やら思い付いたのか、にこやかに従業員たちに言った。

「私が頼んであげてもイイわよ? ただし」
「ただし?」
「ココのフリーパスを都合して頂戴! あるんでしょ?」コソ
「ええ。あります! 早速手配いたします!」グッ!

 アマンダは条件付きで撮影をOKした。

「ほれ、早く撮るのだ!」 
「痛い、痛いよイク姉!?」

 今はイク姉の番であった。静流がイク姉にヘッドロックをかまされている。すると、

「とっとと終わらせるのよ、ロディ」
「かしこまりぃ。はい、ポーズ」カシャ

 イク姉との撮影が終わった所で、アマンダがやって来た。

「何じゃい、少佐、ソイツらは私がさっき追い払った奴らじゃないか?」
「静流クン、飛び入りでココのスタッフさんも一緒に撮りたいって言ってるんだけど、イイわよね?」
「どうぞどうぞ。このあとお土産見に行くんですから、早くして下さいよ?」
「良かったわね、OKが出たわよ!」
「うわぁい、本物の静流様だわ! 素敵ィ」
「あーはいはい、そっちの方ですね?」
「あとでサイン、もらっても?」
「わかりました! ふぅ、全く」

 どこに行っても『この手』のファンたちが群がって来る事を、静流はあまり良く思っていない。
 従業員と写真を撮り、持参して来たブロマイドにサインというか名前を書き入れる。

「ありがとうございます! 大事にしますね?」
「わぁい、仲間に自慢出来ます!」

 従業員たちは、ホクホク顔で何度も最敬礼をして去って行った。

「ふう。嫌われてるより増し、か」

 静流はそう言うと、少し寂しそうな顔をした。

「おい少佐、どう言うつもりだ? 静流はどっかのアイドルでは無いのだぞ?」
「そんなのわかってるわ。ねえ、あなたはココのフリーパスが手に入るとしたら、どうする?」
「むほぅ? そんなものがあるのか?」
「あるわ。それもVIP専用室が使えるの」
「是非とも入手したいぞ! そうすればいつでも遊び放題ではないか!」
「そう言う事。実はね、さっきあのスタッフと取引したのよ」
「なるほど。さすがは少佐殿、抜け目ないのう」
「タダじゃやらせないわよ。ただし」
「何じゃい?」
「それは、静流クンのフリーパスなのだけどね。将官クラスに渡す『名誉会員』扱いなの」
「なんでアイツのなんだ? ココは軍の保養施設だぞ?」
「だから特別なのよ。『アノ技』をやる事が条件でね」
「ぬうう、足元を見おって。静流よ……スマン、人柱になってくれ」

 イク姉は静流に向かって、手を合わせた。 

「静流クン、あとキミに紹介しておきたい人がいるの。ドクター、こちらに」
「始めまして。アナタが噂の五十嵐静流クンね? 私は宗方ジェニーよ」

 白衣を着た、鮮やかなライムグリーンの髪をした、色白の美人女医だった。

「どうも。お医者さんですか?」
「まあね。夏休みの間、ここの非常勤をしてるの。いつもは太刀川駐屯地で軍医をしているわ」
「太刀川ですか。ウチと近いですね」
「お噂は兼ねがね。何でもキミ『歩く都市伝説』って言われてるらしいね?」
「はぁ、そうですか。最近はリアクションとるのもおっくうになっていますよ。トホホ」
「この出会いが、それだけレアだって事でしょう? 自慢しても?」
「どうぞ。最早『ツチノコ』と同列ですか? 僕の扱い」
「フフ。イイんじゃないかしら? ミステリアス・ボーイっていうのも」

 太刀川市は国分尼寺市の隣であり、ゲームセンターや家電量販店などが豊富にあり、静流もたまに遊びに行く事がある。

「アナタの『癒し』に関する魔法、実に興味深いのよね。これを期に是非ともお近づきになりたいわぁ」
「こちらこそ。回復系の魔法に少し興味があるんですよね」
「まぁ素晴らしい。今度正式にお呼びするわね。楽しみにしてて」
「ありがとうございます」

 静流は宗方ドクターと握手を交わした。

「ついでに、写真お願ぁい」

 結構ちゃっかりしているドクターであった。
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