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第4章 幸せの向こう側 ついに発見!ワタルの塔

エピソード28-8

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キャンピングカー内――
 
 あのあと静流は急いでキャンピングカーに戻り、寝る支度をしている。

「いやぁ、参ったよ。ホントに」
「お疲れ、アンタも大変よね?」

 オシリスが不可視化を解いた。
 静流は、今アンドロメダ寮でみんなと過ごしているロディに念話した。 

〔おい、鎧を解除しても、女のままなんだけど?〕
〔静流様、どうもカードの書き換え時にエラーが出たようです〕
〔何だって? どんなエラーだ?〕
〔『容姿端麗』モードを使用した場合、鎧を解除しても暫く元に戻れないようです〕
〔どの位経てば戻るの?〕
〔さあ。何分データが足りないもので〕

「うへぇ、ヤバいじゃん、しかしこのシャツじゃ、胸が苦しいよ」

 静流は、Tシャツの襟首を引っ張り、上からそびえたつ双丘を見た。

「ふう。今の発言でどれだけの乙女が傷付いたか」

 オシリスは世間一般の声を代弁した。

「やっぱりえげつないな、ダッシュ6と7はなるべく使わないようにしないと」
「え? でも一番人気よダッシュ7。次が6よね?」
「誰のランキングか知らないけど、もうたくさんだよ」

 車のバックミラーで自分を確認する。

「まだ戻らないのか。鎧はとっくに解除してるのに?」

 静流は、ダッシュ6の姿であぐらをかき、腕を組んで首をひねっている。 

「それはそうと静流、さっきお風呂場でやったのって、ただの【スリープ】よね?」
「そう。だって技出すにもカードスロット無いし、苦し紛れに寝かしちゃおうって」
「にしてはあれ、イッてたわよね? みんな」
「そんなの、わかんないよ。実際にイッた所、見た事ないし」

 静流は頭の後ろに両手を持って行き、そのまま倒れ込んだ。トサッ

「静流ぅ? まだ起きてるかしら?」

 突然静流の顔の前に、薫子Gが現れた。

「うわぁ、びっくりしたぁ」
「ごめんなさいね、つい静流の寝顔、見たくなって、て、誰?あなた」

 薫子Gはダッシュ6を見たのは初めてだった。

「僕だよお姉様。ちょっとしたトラブルがあってね。じきに元に戻る、と思う」
「うわぁ、よく見たら、すっごい綺麗。お姉さん、自信なくしちゃう」シュン
「僕は、お姉様の方が美人だと思うな」
「嬉しい事言ってくれるわね。ありがとう」パァァ

 少し落ち込んでいた薫子Gは、静流の励ましによって、全回復した。

「で、どうしたの? 僕に何か用?」
「明日、行くんでしょう? 向こうに」
「うん、行くよ」
「塔が見つかって、私の本体があったら、私は消えちゃうの……かな?」
「それはわからないよ。記憶の共有とかが出来ればベストなんだけどね」
「ワタシは、消えたくない! 静流と一緒にいたい!」

 薫子Gは切実に願っている。

「伯母さんと相談して、全力を尽くすよ」
「母さんか。あの人も信用出来ないからなぁ」
「とにかく、頑張るから」

 静流と並んで寝そべった薫子Gは、横向きになり、静流の顔を見た。

「一応聞くけど、お姉様は塔の場所、わかる?」
「わからない。ワタシがわかるのは、ドーム型の街、くらいよ」
「ドーム型の街か。川は流れてるの?」
「川は、ドームの外にあったと思う」
「ありがとう。少しでも情報があった方が助かるよ」
「ワタシは、向こうに行くの、塔が見つかってからでイイわ」

 薫子Gは幽霊らしく青い顔で言った。

「じゃあ、ココで待っててよ。お姉様」
「うん、待ってる、ムフゥ」
「明日も早いし、そろそろ寝ようかな」
「静流が寝るまで、こうして見ててイイでしょ?」
「イイよ。何もしなければね」
「しない、しない。変な事はしないわよ」
「じゃあ寝るよ。お休み」
「おやすみなさい。静流」


          ◆ ◆ ◆ ◆


キャンピングカー内―― 翌朝
 
 鳥がチュンチュンと鳴いている。

「ん、ふぁーあ」

 静流は伸びをして半身を起こした。
 静流はスウェットの襟首を引っ張り、上から胸を見て、元に戻った事を確認した。

「よし、戻ってるな」

 枕元には、誰もいなかった。

「お姉様、行って来ます」

 静流は、夕べ薫子Gがいた辺りを見て、そうささやいた。
 車から降り、グランド脇の手洗い場で顔を洗う。すると、

「静流様ぁ、おはようございます!」

 むこうからヨーコがてててっと走って来る。

「朝から元気だね、ヨーコは」
「そりゃあもう。体が資本ですから。もうすぐ朝食ですよ」
「オッケー、了解」
「で、首筋のキスマークは、どうしたんですか?」ゴゴゴゴ
「え? あ、お姉様だ。多分」


          ◆ ◆ ◆ ◆


学園内 食堂――

 静流が食堂に着いた時には、みんな揃っていた。

「遅いよ、静流クン」
「え? 勝手に始めちゃって良かったのに」
「そう言うわけにはいかん、お前もメンバーなのだから」
「イク姉、イイ事も言えるんですね?」
「私は、イイ事しか言わん!」
「ハイハァーイ。こっちよ静流クン」クイクイ

 奥の方でカチュア先生が呼んでいる。

「ふう。行って来ます」

 静流は、気マズそうに先生たちの方に行った。

「おはようございます、皆さん」
「おはようございます、ミスター・イガラシ」
「さ、ここに座って」

 例によってカチュア先生の隣が静流の席のようだ。

「ミスター・イガラシ、一応確認しますが、夕べはどちらに?」チャ

 席に着いて早々、ニニちゃん先生の尋問が始まった。

「も、もちろん、車で寝ていましたよ?」
「静江さん、でしたか? あの「容姿端麗」の方」
「ギクゥ、静江さんなら、今朝早く僕が【転移】で家に送り届けましたよ」
「そうですか。それならイイのですが」

 上手くごまかせたのだろうか。

「おかしいですね、昨晩、大浴場付近で鎧を着けたサムライらしき者がいたと報告がありました」チャ
「ひょっとして、それって、『幽霊』かも知れませんよ?」
「な、バカな、このご時世に幽霊ですって? 信じ難いですね」
「でも実際あったじゃないですか、ドラゴン寮のたたり」
「ひいっ、そ、そんな事でごまかされませんよ!」

 静流は、夕べの件を幽霊騒ぎにもっていこうとしているようだが、

「でも、素敵だったわぁ、あの幽霊様」ポォ
「確かに感触はあったと思うのよねぇ」ポォ

 カチュア先生とナギサはいまだに夢から覚めてはいなかった。

「まあ、イイじゃないかニニ、実害はほぼ無かったんだし」
「全員が鼻血を出していたんですよ? 実害じゃないですか?」
「それでもだ。あたしゃあ問題ないと思うがね」

 その後、この一件が、「大浴場のサムライ流血事件」として長く語られる事となり、「ドラゴン寮の幽霊」騒ぎが解決したので、学園七不思議に見事繰り上がる事となった。
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