拙さと、儚さと、喧しさと。~『桃髪家の一族』と呼ばれる家系で、知らない間に『薄っぺらい本』の主役級キャラにされている僕~

殿馬 莢

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第3章 失われた時を求めて  転移魔法、完成……か?

エピソード24-6

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生徒会室―― 放課後

 放課後、生徒会室で静流と真琴、それにロディ扮するシズムは、お茶をご馳走になっていた。

「いやぁ、うまく行って良かったです。睦美先輩のシナリオ通り事が進みましたよ」

「そ、そうかい? ならば良かった」

「あ、先輩のクッキー、好きなんですよね、これ」サク 
 静流は、睦美が焼いたクッキーを次々に口に運んでいる。

「好きなだけ食べてイイんだよ」ムフゥ
 睦美は、両肘を突き、手を頬にあてて、自分の焼いたクッキーをほおばる静流を満足げに眺めている。とそこに、ガラッ

「む、何奴!? 私と静流キュンの甘ーいひと時を邪魔する輩は!」

「「静流様! お久しゅうございます」」しゅたっ
 片膝を突き、うやうやしく挨拶をする、黒ミサと白ミサであった。

「な、何ですかいきなり」

「私たち『黒魔』の、ご留学中の現地サポート要員はいかがだったでしょうか?」

「ヨーコたちの事ですか? 彼女たちは何度も僕を助けてくれましたよ」

「そうですか。ならば話が早い」

「あの子たちに何かあるんですか?」

「いえ、こっちの話ですので。それよりも」
 黒ミサはシズムの方に向いた。

「シズムン! 探したよぉ」ガバッ
 黒ミサは半ベソ状態で抱き着いた。

「ボクを? 何で?」
 シズムは聞いた。

「キミが必要だ。ぜひ『黒魔』に入って欲しい」

「ちょっと黒ミサ先輩? どう言う事ですか?」

「我が校の広告塔になって欲しいんだよ」

「また金儲けですか? あの本みたいな」

「ちち、違います静流様、今の活動は、いたって健全です!」

「お言葉ですが、最近は静流様自ら指揮を執られた大作もありますよね? サラのネーム、拝見しましたよ?」

「あ、アレは……仕方なく、だから」

「静流様の甲冑姿、むはぁ、素敵」

「荒木・姫野コンビがかなり悔しがっていましたよ?」

「うわぁ、忘れてた」

「年上ばかりではなく、後輩たちも可愛がってあげて下さいね?」

「もう、その事はイイから! で、五十嵐出版からの動きは?」

「アノ方面からの指令書は、最近とんと来なくなりまして……」

「ロッカーに届くってヤツですね? ひょっとして、『ゲート』と関係あるのかなぁ?」

「その件については、木ノ実先生と相談しよう」

「そうですね、わかりました」

「で? シズムが広告塔になる必要とは、何だ?」

「シズルカ様の信奉者の為です」
 白ミサがフォローに入った。

「でも、さっきシズムが変身するのって、フィクションだって言い切っちゃいましたよ、先生が」

「大丈夫です。彼女には、巫女としてシズルカの啓示を受け取る役をやって欲しいんです」

「でも、アノ像はアッチの学園にあるんですよ?」

「実は、二体目のシズルカ像を、花形に作らせる計画があるのです」

「何で二体目が必要なんです?」

「各地にいる信奉者が、参拝に行こうにも遠すぎて、しかも学園内では勝手に入れません」

「確かに。あそこはある意味、閉鎖空間だもんなぁ」

「フィギュアを売る計画もあったじゃないですか」
 真琴が横やりを入れた。

「そっちの計画もやってるけど、版権をクリアしないとどうにも」

「フィギュアの原型なら、もうあるんだけどな」

「え? 静流様、今なんと?」
 黒ミサがピクッと反応した。

「軍の研究所の所長さん、そう言うのが趣味みたいで、シズルカ像も完成してたよ。造形は完璧だった」

「是非とも型どりを所望したいですね」

「先輩たちがお願いすれば、二つ返事でOK出すと思いますよ?」

「そんな簡単に出来るんですの?」

「怒らないで下さいね? その所長さん、『幼女マニア』なんです」

「はぁ、そんな事でしたか。案外チョロいかも」

「手段を選んでる場合じゃないわ。ねえ白ミサ?」

「勿論よ。黒ミサ」
 静流はここにいるみんなに、今置かれている状況を説明した。

「つまり、ゲートが構築出来れば、いろんなところに一瞬で行ける、というのかい?」

「そうです。『インベントリ』を中央ターミナルとして使うんです」

「インベントリ内にシズルカ神社を立てたら、参拝も楽よね?」
 真琴はそんなことを言った。

「そうだろ? 実際その案は技術少佐が進めてるんだ」

「参拝料とったらスゴい事になりそうだわ。お賽銭も」
 黒ミサはまた儲け話の妄想を膨らませている。

「またそう言う事を言う。先輩たちに合わせたい人がいますよ」

「誰です? その方は」

「軍にいる、お金儲けには目が無いひとです。何かあったら一枚噛ませてって言ってましたよ」

「うむ。我が校にもブレインが必要だったのだ。渡りに船だな」

「まあ、とにかく僕のインベントリ利用権限を、ランク2に上げないとダメなんですよね」

「それは軍の完全バックアップで臨むんだろう? 静流キュン」

「ええ。夏休みに達成するつもりです」

「とすると、当面の問題は、期末テストだね?」

「はぁ。そうだった。赤点なんか取ったら、補習でダンジョン攻略どころじゃないですよ」

「テストは自力でどうにかするとして、他の問題はほぼクリアできるぞ」

「やけに自身たっぷりですね。何かコネでもあるんですか?」

「校長だよ。最早、犬に近い」

「何でそんな事になってるんですか?」

「フフ、静流キュン、キミの功績だよ」

「僕、ですか?」

「キミがアノ学園で成し遂げた事。それは我が校がある一点でアノ学園を凌いだという事」

「もしかして、シズルカですか?」

「我が校が唯一アドバンテージ、つまり優位に立てるという事だ!」

「しかし、現物は向こうにあるんですよ?」

「そこで二体目だ。同じものをこさえるのではなく、アレを上回るものを!」

「まるで『聖戦』ですね?」

「一度に数体用意してもイイかも知れん。いっその事、『シズルカ十二神将』でもこさえるか?」

「書記長、アンタ、スゴい発想ね? 見直したわ」

「我々は、何としてもイニシアチブ、つまり主導権を握る必要があるのだ!」

「でも、かなり大掛かりなものになっちゃったなぁ」

「静流キュン、この案件は最早、国教に昇華する勢いだ」

「勘弁してくださいよ。そんな大袈裟な」

「キミが行った『施術』は、口コミで相当広まっている。隠し切れるレベルではない」

「確かに向こうの国では、『施術』は国事行為に指定されたらしいですけど」

「キミはそれだけ重要な人材として認められているという事さ。この学校の問題など、いくらでも握り潰せる」

「握り潰すなんて、そんな物騒な」

「例えだよ、静流キュン」

「睦美先輩の場合、本当にやりかねないからなぁ」

「おいおい信用無いなぁ、イジケるぞ」
(ククク。このカード、存分に使わせてもらう。この機を逃すワケがなかろう?)


          ◆ ◆ ◆ ◆


五十嵐宅―― 夕方

 長旅が終わり、やっと実家に戻ってきた静流。

「じゃあね。 お疲れ」

「いやぁ、ホント疲れたよ」

 玄関先で真琴と別れ、自宅のドアを開ける。ガチャ

「ただいま!」

 少しの沈黙があり、ドドドドと廊下を駆ける音がする。

「しーずー兄ィー!!」フーフー
 暫し見つめ合う二人

「み、美千瑠、ただいま」

「うわーん!」ガシィ
 静流に飛び着き、ベアハッグをかます美千留。

「ウグェ、く、苦しい」

「心配、したんだぞ! グスッ」
 美千留は半ベソをかいている

「グウ、わ、悪かったよ、でも学校から定期連絡があったでしょ? 真琴だっていたんだし」

「そんなんじゃ、わからないじゃん!」ドス
 美千留のエルボを食らい、のけ反る静流。

「ゴフッ、お兄ちゃんね、疲れてんの。わかる?」

「黙れ、この色ボケ!」

「フグゥ、ギブ、ギブ」

「はいはい、もう許してあげて、美千留」

 いつの間にかコブラツイストを掛けられている静流を見かねて、母親が助け舟を出した。

「か、母さん、ただい……ま」ガク

「おかえりなさい、静流」
 静流は、こと切れた。
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