拙さと、儚さと、喧しさと。~『桃髪家の一族』と呼ばれる家系で、知らない間に『薄っぺらい本』の主役級キャラにされている僕~

殿馬 莢

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第3章 失われた時を求めて  転移魔法、完成……か?

エピソード24-3

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統合軍 極東支部 薄木航空基地 第7格納庫――
      
 二階の事務所に通された静流は、佳乃と共にこのひと月の出来事を語った。
 豹型のロディとインベントリから出してもらったムムちゃん先生もいる。

「先ずは自己紹介からだな。私はこの隊の隊長をやっている、榊原郁中尉である! こう見えて、ここの最年長であるからして、心して応ずるように」

 隊長と呼ばれる中尉は、ドワーフ族の血が濃いのか、身長150cmを下回る小柄である。今も靴を脱ぎ、椅子の上に立っている。
 自己紹介が終わると、椅子に座り、足をぶらぶらさせている。

「永井澪……軍曹です」
 澪は頬を赤らめ、控え目に会釈した。こぼれそうな双丘が、プルンと揺れた。

「朝霧萌兵長よ。よろしく」
 萌は能面のような無表情キャラを装っているようだが、口の端がピクピクと引きつっている。
 まるで心の中を見られまいとバリアーを張っているように。

「五十嵐静流です。よろしくお願いします」

「客人はかの『ローレンツ准将閣下』の秘蔵っ子と言われているが?」

「留学先の寮長先生だったんです。それで」

「なるほどな。だが、その位ではアノ方のお眼鏡には止まらん」

「僕が施した『施術』で、魔法が使えるまで回復したそうです」

「何ィ!? まさか、【煉獄】か?」

「ええ、そのようです」

「むぅん、にわかには信じ難いな。だが事実、なのだろう」
 隊長は顎に手をやり、何やら考え込んでいる。

「実はな、何を隠そう、私もあそこのOGであるからして、先輩でもあるのだ! ハハハ」

「そうだったんですね? じゃあ寮長先生も?」

「ああ、ウンザリする位な。私は『ペガサス寮』だった」

「一番優秀な方が入るとこじゃないですか? スゴいな」

「うむ。もっと褒めてくれてもイイのだぞ? ムフゥ」
 隊長はまた椅子の上に立ち、腰に手をやって胸を張っている。

「隊長はね、そのあと士官学校に進学して、優秀な成績で卒業されたの」

「主席、ですか?」

「フッ、下らん、そんなもんどうでもイイではないか」

「次席よ」ボソ
 澪に耳打ちされ、地雷を踏んだらしい静流は、下を向いてモジモジしていた。

「学校の成績など、今後の在り方次第だろ? 客人?」

「はあ、そんなもんですか」
 特に気を悪くしていない隊長にほっとしている静流。

「あと双子がおるんだが、出張でな。奴らの事はどうでもイイ」

「随分ぞんざいな扱いですね? 何か可哀そう」

「次に来た時には紹介出来るであります。イイ子たちでありますよ」
 本当に簡単な自己紹介が終わった。と、

「ちょっと静流クン、メガネは?」
 澪は今更ながら、あのメガネをしていない事に気付いた。

「してるよ。これは軍で作ってもらったんだ」シュン
 静流はメガネのモードを瓶底にした。

「ミオ姉はコッチの僕の方がイイの?」

「どうかな? どっちも捨てがたいけど、してないとちょっとまぶしいかな?」

 静流と澪がまるで知り合いのような掛け合いに、隊長の眉が反応した。ピクッ

「聞き捨てならんなぁ、澪?」

「へ? 何でしょう隊長?」

「貴様、この客人に『ミオ姉』と呼ばれる程、親しい仲なのか?」

「隊長さん、『ミオ姉』もとい永井軍曹とは、幼馴染みたいなものなんです」

「ほぉ? さてはいつぞやの飲み会で澪が酔っぱらって口を滑らせた初恋の……」

「わー!わー! 何を言ってるんですかたいちょー!」

 隊長の記憶が鮮明になる前に、澪は必死でごまかしにかかった。

「まあ良い。そうか。幼馴染であったか」

「そ、そうなんですよ隊長」
 何とかごまかせたようで、ほっとしている澪。

「やはり納得いかん! 何で澪だけ『ミオ姉』なのだ? ウゥ、私も『イク姉』と呼んでくれてイイのだぞ?」

 隊長は精一杯胸を張り、静流に迫るが、横にある澪のスイカ級バストに気圧され、トーンダウンしている。

「で、でも失礼になるんじゃないですか?」

「構わん。ウチの隊は階級などお堅いのは私が好かんので使っとらんのだ」

「はあ、そうなんですか」

「それを証拠に、佳乃、こっちに来い」

「何でありますか? 隊長」

「アスガルドから感謝状と、お前の辞令だ。軍曹殿?」
 いきなりポンと渡された佳乃は、ポカーンとしている。

「昇進って、スゴいじゃないですか! 佳乃さん!」

「え? 昇進?自分がでありますか?」

「此度の『レッドドラゴン討伐作戦』に貢献した事が評価されたんであろう」

「自分が、軍曹でありますか?」

「そうよ、私と同じ。おめでとう。でも、先輩は敬うのよ。ね?」

「ありがとうございます! 勿論であります! 澪殿」

「フン、すぐに追いつくわよ! アタシだって」
 三人が仲睦まじく話している様子を見て、隊長が言った。

「な? 客人。ウチの隊は階級なんぞ、どうでもイイのだ」

「そのようですね、『イク姉』」パァァ

 静流は軽くニパる。

「グッ! ククク。これが聞きしに勝る『ハニカミフラッシュ』の恩恵か……実にイイ」
 隊長は静流の洗礼を受け、その心地よさに酔いしれている。

「佳乃のヤツめが言うとったのはこの事か……よし、惚れた!」

「どっかで聞いたフレーズだなぁ」

「静流様、隊長はでありますね……」
 佳乃は隊長の性格を静流に説明しようとしたが、

「大体わかります。『惚れっぽいひと』なんでしょ?」

「お見事! 正解であります。」
 この隊長も、例外ではないようだ。
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