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第3章 失われた時を求めて  転移魔法、完成……か?

エピソード16-3

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アスガルド駐屯地 客員用詰所―― 夜

 静流はあの後、客員用詰所で睡魔に襲われた。

「う、うーん、ブレスが、ブレスがぁ……」

「もう、大丈夫でありますよ」
 佳乃は静流の頭をやさしく撫でてやった。

「すぅぅ。すぅぅ」

「ムハァ、至上の喜び、最高のご褒美であります」
 佳乃は膝枕をして、静流の桃色の髪を撫でていた。

「ああ、静流様、愛おしいであります」
 徐々に佳乃の顔が、静流に近づくと、

「もう我慢できないであります! 澪殿、御免であります!」んむぅ
 佳乃の唇が数センチまで近付いたその時、

「うん? 澪殿って誰?」
 惜しいことに静流が目覚めた。

「うぇ? し、失礼いたしましたであります!」ドスッ
 佳乃は驚いて立ち上がってしまった。

「痛っ! あれ? 僕、寝ちゃったんだ」

「えーそろそろ時間でありますね? では参りましょうであります!」
(うわぁ、やっちゃったわ。どうしよう。ドキドキドキ)

「佳乃さん、顔、赤いよ。もうお酒飲んでるんですか?」

「酔っているという意味では、肯定であります」ポッ
 佳乃は、顔から火が出るほどの思いであった。

「クスッ。変なの。じゃあ、行きましょうか?」

          ◆ ◆ ◆ ◆

アスガルド駐屯地 将校クラブ―― 夜

 静流は佳乃と共に、将校クラブに来た。
「昨日に続いて今日もご馳走か。バチ当たらないかな?」

「イイではありませんか! 昼食は全て吐いてしまったんでありますから、お腹ペコペコなのでは?」

「う、それは言わないで下さい、やっと回復したんですから」
 長時間の高速移動の上にいきなり実戦まであったわけで、無理もない。
 急遽決まったからか、前日のような大掛かりな歓迎ではなかったが、その方が静流にとっては好都合であった。

「お前さん! いきなり伝説級のミッションをこなすとは、末恐ろしいな」

「おまけに超が付くほど美形じゃないのさぁ。あと30歳若けりゃあ、口説いてるわよん」

「はぁ。お褒めに頂き至極恐悦でございますです」

「アンタも大したもんだ! ジェロニモで400kmマークしたって?」

「いえいえ、たまたま好条件が重なったからでありますよ」
 軽く挨拶をした後、夕食会が始まった。
 あまり目立ちたくなかった静流は、佳乃と共に隅っこの席で夕食を摂っていた。

「そう言えばあの技、何て名前にするでありますか?」

「佳乃さんだったら何て付けます?」

「え?自分が決めてイイのでありますか?そうでありますね……『アポロン・デストロイド』とかは如何でありますか?」

「究極最終奥義みたいですね? ちょっと大袈裟じゃないかと。あと既出ですよ」

「では『シズラー砲』などは? 静流様のファンは皆、『シズラー』と呼んでも過言ではないでありましょうから」

「それはご遠慮頂きたい……であります」
 二人でうなりながら技名を考えていると、

「さっきの技の名前、考えてるの?」
 オシリスがひょこっと顔を出した。

「オシリス殿は、何かイイ案はありませんか?」

「シンプルに『ジェロニモビーム』とかでイイんじゃないの?」

「プッ! 何それ? 安易すぎ」

「何よ! じゃあ静流的にはどうなの?」

「う~ん。そうだな、月並みだけど『オーラショット』とか?」

「それも既出でありますな」

「じゃあ『イガラシ式六連超電磁砲』とかはどお?」

「長すぎるな。それに名前が入るのって、ちょっと恥ずかしいよ」
 二人と一匹でさらにうんうんうなりながら技名を考えていると、

「技名ならこっちで決めさせてもらったわよ?」
 軍服の上に白いドクターコートを羽織った褐色の肌をした女性将校が来た。

「如月アマンダよ。静流クン」

「如月技術少佐殿!」

「ど、どうもこんばんは」

「あの変わり者の姉からメールをもらった時は、ちょっと驚いたわ」

「お姉さん……カチュア先生!?」
 確かに名字は如月だったか。

「何でも自分の愛弟子がウチの駐屯地に行くからよろしくって」

「ムムちゃん先生辺りが近況を知らせたのかな?」
 コホン、と咳払いをして、アマンダは説明を始めた。

「技の名前、だったわね? アレを発動した時が夕方で、黄昏時だったから、
『トワイライト・レーザー』で仮登録しておいたわよ」

「そうですか。良かった」

「私的には『サンセットイエロー・オーバードライブ』でも良かったのよね……」

「……既出です」
 技術少佐殿と会話していると、仁奈が顔を出した。

「これは少佐殿、ご機嫌いかがですか?」

「あら、石川少尉。この通り、私は絶好調よ」

「司令に紹介しますので、静流クンをお借りしたいのですが」バチッ

「あら、紹介なら私がしますので、結構よ」バチバチッ

「ですが、状況報告も兼ねておりますゆえ、自分が」バチバチバチッ

「超望遠でモニターしていましたから、問題ありませんわよ」バチバチバチバチッ
 二人でにらみ合っている。この二人は仲が悪いのか?

「やかましい! お前らときたらいつもコレだ!」
 すっと立ち上がった初老の紳士が、こちらに近づいて来た。

「ここの司令をやっとる、三船六郎である! キミが八郎が言っていた『女神様』か?」

「五十嵐静流です。まあ、そんなところです」

「要領を得ない小僧じゃな。まあ良い。」

「はい、よろしくお願いします!」

「あの八郎があそこまでハイになっとるのは、何かあったのか?」

「お耳を拝借」コソコソ
(僕の施術、あ、回復魔法で、弟さんは男性機能が回復されたようです)

「な、何じゃと!? あやつめ、道理で……」

「どうなされたのですか? 司令?」
 仁奈は狼狽している司令に声を掛けた。

「うむ。問題無い。そういえば少尉、報告によれば何でも、レッドドラゴンを屠ったとな?」

「は! 彼の特殊魔法『トワイライト・レーザー』(仮)にて蒸発せしめました」

「それは豪儀じゃったの。15m級のドラゴンを蒸発させるとは、大したものじゃな、ホホホ」

「あの時は無我夢中だったんです。ほんとに」

「『あの方』に気に入られたのも納得がいくわいて」

「寮長先生、ですか?」

「あの方は怒らすと手が付けらなかったが、面倒見の良いお姉様じゃった」

「あの、エスメラルダ先生って、おいくつなんですか?」

「わしの50上じゃから、290歳かのう」

「え? お肌ツルツルでしたよ?」

「お前さん、見たのか? この命知らずが」

「はぁ、まぁ、見ましたね」

「お前さんのその『施術』とやらのせいじゃろう」

「確かに『みなぎる力!』とか言ってましたね。【煉獄】という技が出せるようになったとか」

「【煉獄】とな!? ふぅむ。もはや驚きよりも呆れとるわい」
 司令は弟の八郎が静流をここに導いた理由を察したようだ。

「明日はお前さんの検査をやるでの。少佐、しっかり頼むぞい」

「は! 承知いたしました!」

「ではの。疲れたろう。ゆっくりしていくといい」

「ありがとうございます!」
 司令が去った後、静流はテーブルに突っ伏した。

「うわぁ、僕って、大変な事しちゃったんだぁ」

「落ち込む理由がわからないけど、くよくよしても始まらないわよ」
 仁奈は静流をどう慰めればよいかわからなかった。

「時に静流クン、あなたと『井川シズム』嬢とはどういう関係?」
 アマンダは単刀直入に訊いた。

「どういう関係って、まあ、知り合い程度ですね」
(よかった。カチュア先生がうまくやってくれたのかな?)

「で? どうやって変身するのかしら? シズルカ様に」

「うわぁ、バレバレじゃんか……」

「フフッ。ごめんなさい、ちょっとからかっただけよ」

「え? どう言う事ですか?」

「安心して? 上手くやれって『はっちゃん』に頼まれてるから」 

「八郎司令に、ですか?」

「ぐぅの音も出ない位に完璧なシナリオを考えるわ」

「何だか安心しました! よかったぁ」ニパァァ

「ふわぁぁぁ、何? この癒しのオーラは?」

「はぅぅ、心地良い波動ね」 
 アマンダとニナは、静流の「洗礼」を受けた。

「お二方、これが静流様の『博愛スマイル』であります」ヌフゥ
 佳乃は緩みっぱなしの顔でそう答えた。

「テイクアウト、出来るかしら?」

「独占禁止法に抵触しますゆえ、不可能であります」

「あら、残念ね」
 そのあと他愛ない会話をしたのち、夕食会はお開きになった。


アスガルド駐屯地 客員用詰所―― 夜

 詰所にあるシャワー室でシャワーを浴び、洗い髪をタオルで拭きながら自室に帰ってきた静流。

「ふぅ、さっぱりしたぁ」

「お疲れ様であります。お飲み物はいかがでありますか?」ヌフゥ
(風呂上がりの静流様も素敵!)

「ありがとうございます。頂きます!」
 静流はウーロン茶をもらい、喉を潤した。

「ぷはぁ、そういえば佳乃さん、さっき澪殿とかって言ってましたよね?」

「澪殿は自分の同僚であります」

「ブラッディ・シスターズのですか?」

「はい、実は今回のミッション、澪殿が志願していたでありますが、優先せざるを得ない事項がありましたゆえ、澪殿の推薦で次候補の自分が代わりに」

「そうなんですか? 何で志願したんだろう?」

「そう気にしなくてもイイでありますよ。薄木に着いたら真っ先に紹介するであります」
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