拙さと、儚さと、喧しさと。~『桃髪家の一族』と呼ばれる家系で、知らない間に『薄っぺらい本』の主役級キャラにされている僕~

殿馬 莢

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第3章 失われた時を求めて  転移魔法、完成……か?

エピソード16-1

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航空基地 客員用詰所―― 朝

 6時。起床ラッパの音で目覚める。

「う、う~ん。6時? まだ早いじゃんか」
 静流は目をこすりながらオシリスに尋ねた。

「軍隊なんだから、この位に起きるの当たり前よ」

「そう言えば、オシリスの知り合いに黒竜がいるって言ってたよね?」

「ブラムちゃんの事?」

「やっぱりブラムだったか。昔、寮長先生に討伐されたらしいよ」

「え? 死んじゃったの? あの子ったら何か悪いことしたのかしら? ナンマンダブ」

「いきなり竜が出てきたら、やっつけるしかないじゃんか」

「私が知ってるブラムちゃんはイイ子だったわよ? 臆病でね。甘いものが好きだったわ」

「イメージと全然違うね。黒竜にもいろいろいるとか?」

「私が知る限り、あの子以外にはいないわね。ドラゴン族の生き残りは」

「ドラゴン族? 魔族ってこと?」

「そう。ドラゴン族は他の種族より元々数が少なかったの。野蛮なただのドラゴンとは格が違うわ」

「ドラゴン族か。寮の名前と関係あるのかなぁ?」

「さあね、顔でも洗って来たら?」

「ふわぁ、わかったよ」
 洗面所で顔を洗い、詰所の窓枠にもたれてぼーっと朝焼けを見ていると、

「おはようございますであります! そうやって黄昏ている静流様も、絵になるでありますな」ムフゥ
 佳乃が朝の挨拶に来た。

「あ、おはようございます、佳乃さん」

「早速でありますが、司令から朝食のお誘いが来たであります」

「え? 呼び出しですか? 参ったな、何かやっちゃったかな」

「いえいえ、その逆でありますよ。こんな朝早くからそりゃあもうご機嫌でありましてね」

「うわぁ、それもどうかと思うな」

「とにかく0700に将校クラブでありますから、支度しておいて頂きたいのであります」ビシッ

「了解したであります!」ビシッ
 静流は半ばヤケになっていた。


航空基地 将校クラブ――  朝

 五分前に佳乃が迎えに来た。静流はムムちゃん先生と共に支度を済ませてあった。
 基地で借りたルームウェアではやっぱりマズいかと思い、学校の制服で行くことにした。
 将校クラブの中に入ると、バイキング形式になっていて、卵はその場でお好みに焼いてもらえるようだ。
 静流はお盆にパンとサラダを盛り、あとは卵を何にしようか少し迷っていたが、

「卵はスクランブルでお願いします」

「スクランブルダーッシュ! ですね? 了解しました」
 コックさんはお茶目だった。

「コーヒーを取り、全てが揃ったお盆を持ち、奥の方へ行くと、

「いよう少年! やっと来たか。待っとったぞい!」
 司令は心なしか肌がつやつやしている。

「おはようございます。お元気そうで何よりですね?」

「元気とな? そうか、わかってしまうか。ワシはな、今朝4時に起きたぞい!」

「それはまた早く目が覚めましたね?」

「ここが、うずいたんじゃよ! 朝立ちじゃ! この感覚は遥か昔にもう諦めとってのう。一発かまして来た」

「それはお疲れ様……でしたね」

「なんの、まだギンギンじゃぞい! 見るか?」

「け、結構であります!」
 静流は無意識に「雑兵モード」になった。 


          ◆ ◆ ◆ ◆


 朝食を摂りながら、昨日の話をした。

「司令、失礼ながら、昨日、僕の施術について、誰かにしゃべりました?」

「ギクッ、さ、さあな、ワシは知らんぞ。ん?もしかすると心の声が漏れとった……かも知れんな」

「あのあと大変だったんですよ。ねえ? 佳乃さん?」

「いやあ、素晴らしい施術でありました。 特に受付嬢の不感症を容易く治してしまったのは、圧巻でありました!」

「何ぃ? 受付嬢とは、フジ子さんのことかぇ?」

「そうであります! 司令」

「左様か? 道理で無反応だったわけじゃ」

「司令、まさかセクハ……」

「ちゃうわい、ただの挨拶じゃわい!」

「とにかく、マズいんですよ。僕の立場もわかって下さい」

「うむ。そうじゃのう、キミにあのような力があるなどとわかってしまうと、軍の上層部が何か言い出しかねんな」

「ですから、穏便にお願いしますね」

「ふむ……少年、少し寄り道して行くか。あそこなら何かイイ策が浮かぶやも知れん」

「寄り道?……どこですか?」

「アスガルドじゃ。ついでにあそこの研究所で検査も受けて来い、何、心配はいらん」

「アスガルドって……黒竜が出た所でしたっけ?」

「懐かしいことを言うのう。そうじゃ。噂じゃが『嘆きの川』と繋がっとるとも言われとる」

「『嘆きの川』ですって? じゃあ異世界のゲートがあるんでしょうか?」

「さあな、あそこの所長はワシの兄貴の六郎がやっとる。話は付けておく」

「何だかわかりませんが、ありがとうございます」

「礼には及ばんさ、心の友よ。伍長、アレを使ってもよいぞ」

「アレでありますか?確かにアレであれば、半日もあればアスガルドまで余裕で着くでありますな」

「アレって何です? 何かイヤな予感がして来たな……」

「自分に任せなさい! であります!」


航空基地 ヘリポート―― 午前 

 朝食のあと、アスガルドに行く事に急遽決まり、あわただしくヘリクルーが走り回っている。
ムムちゃん先生は定員オーバーなのでここにいてもらう事になった。そして、静流は……。

「う? うぇぇぇえー!? こ、これに乗るんですか?」
 戦闘ヘリのジェロニモであった。
 フル装備あれば、両翼に地対空ミサイルをしこたま積めるが、今回の任務では機首の30mm6連バルカンがあるのみだ。しかも実弾は抜いてある。

「こいつなら時速300kmは余裕でありますから、アスガルドがここから約千kmでありますので、夕方には着くでありますね」

「そんなに急がなくても、車とか電車でイイんじゃありませんか?」

「司令の計らいでアレに乗れるんですよ? 滅多にないことでありますよ?」

「ですけど、僕は、高い所苦手なんですよ」

「でしたら超低空で飛ぶでありますか? 木の高さ位で」

「そっちの方が余計怖いですよ!」


          ◆ ◆ ◆ ◆


 静流はヘリクルーのツナギを着て、ヘルメットを着けた。

「ホントに乗るんですか? コレに」

「往生際が悪いでありますよ。さあ、乗るであります! 前に!」

「うぇ? 前? 後ろじゃないんですか?」

「操縦席は後ろでありますから。 前は副操縦士兼射撃手でありますゆえ」

「は? 射撃手?」

「別に戦闘を行うわけではありませんし、実弾は積んでいませんから、ただ座っているだけでイイのであ
りますよ」

「よりによって前か……アイマスクでもするか」

「そんな、勿体ないであります! 乗りたくても簡単に乗れるような代物では無いのであります」
 静流は意を決して前の座席に座った。

「広報班、ちゃぁんと静流様の雄姿、収めておくでありますよ?」

「勿論、バッチリ頂きますよぉ!」

 広報班はバシバシとフラッシュが焚き、ビデオも回している。

「静流様ぁー! お気を付けてぇー!」
 人だかりの奥でレヴィは手を振って見送っている。

「あ、レヴィさぁーん! 行ってきまぁーす!」
 静流は席から立つと、ヘルメットを脱ぎ、桃色の髪をなびかせながら、レヴィに手を振った。

「静流様……何と凛々しい」ヌフゥ

「おい、シャッターチャンスだゾ!」

「しかし、映えるな。広報のポスターに使えるか交渉するか」
 静流はヘルメットを被り直し、席に着いた。

「こうなったらヤケだ! 佳乃さん、お願いします!」

「覚悟は決めたようでありますね? ではテイクオフであります!」

 ギャラリーが退避し、周囲に緊張が走る
 エンジン点火 キュィィィン
 クルーが離れ、ブレードが回り始める バラバラバラ
 エンジン音が高くなっていき、やがて周囲に風が巻き起こる。
 機体が前に移動し、発着マークに止まる。
 機体はふわっと浮き上がり、機首をやや下向きになりながら飛び立った。

「うわぁあ、飛んだ! エコエコアザラク、ゴウリキショーライ! チョーリキショーライ!」

「さあ、行くでありますよぉー!!」キュィィィィン!
 機体は甲高いジェット音を上げながら、徐々に加速した。

「ふぎぃぃぃぃ! 速い、速過ぎるぅぅぅ!」
 こうなると下を見る余裕もなく、ひたすら前を見ている静流。

「下を見なければイイんだ。下を」

「慣れればどうってこと無くなるであります」


          ◆ ◆ ◆ ◆


 二人を乗せたジェロニモが飛び立ったあと、ムムちゃん先生はレヴィにため息交じりにこう語った。

「五十嵐君、大丈夫かしら? あの子ったら高い所、からっきしダメなのよ……」

「村雨伍長が一緒ですから、大丈夫ですよ。伍長は乗り物の操縦には長けていますから」

「はぁ。不憫だわ。あの子にはまともな高校生活を送らせてあげたかったのに……」

「今回の経験は、静流様にとってイイ思い出になると思いますよ」

「そうだとイイんですけどね」
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