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第3章 失われた時を求めて 転移魔法、完成……か?
エピソード15-1
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聖アスモニア修道魔導学園―― 正門
「統合軍極東支部特殊部隊ブラッディシスターズ所属、村雨佳乃伍長であります! 井川シズム殿はおられるでありますか?」
ハンヴィーから出てきたのは、軍服に身を包んだ橙色の長い髪が印象的な女性だった。
「え、わたし、ですが?」
「お迎えに上がりました。ささ、こちらに。シズム殿は前の方がよろしいでありますか?」
「え? イイんですか? うれしいな」
ムムは後ろの席に、シズムは助手席に乗り込んだ。
「では、出発します」ブォォン
ハンヴィーは動き出した。シズムは車中から四人を見て、一言叫んだ。
「みんな! 元気でねぇー!!」
小さく見える四人も手を振ってくれている。やがて見えなくなった。
「ふう、終わった……な」
「いいえ、家に帰るまでが遠足ですよ?」
「プッ! 先生が最もらしい事言ってる」
「からかわないでちょうだい!」
シズムは一つ引っかかっている事を思い出し、女性軍人に訊いた。
「あのぅ、すいません村雨伍長、何で軍の方が私たちを送ってくれるんですか?」
「はい、エスメラルダ・ロ-レンツ閣下より、丁重に本国までお送りするようにと指令がありましたゆえ」
「寮長先生が? 何で?」
「はい! 何でもシズム殿はあの方の『お気に入り』とのことですので、歓待すべしとのことであります!」
「寮長先生って、退役されてからも個人的な理由で軍を動かすような、そんな力があるんですか?」
「あの方は全てにおいて『特別』なのであります! 何せ『クィーン・エスメラルダ』様ですから」
「どっかの『宇宙海賊』みたいな呼び方は、マズくない?」
「未確認ですが、どこぞのお姫様だったとの情報もありますゆえ、間違いでもないかと」
「とんでもなく破天荒な人だったんですね?」
シズムは、別れ際の寮長が素のキャラクターだったんだと知り、もっとお近づきになっておけばよかったと後悔している。
「聞きそびれたなぁ、武勇伝」
「あの方の武勇伝ならいくらでもありますよ。詳しいのがおりますゆえ」
伍長は頃合いかと思ったか、シズムに話しかけた。
「そう言えば、もう変装を解いても大丈夫でありますよ。静流様」
「村雨伍長? まさか、バレてるぅ?」
「佳乃とお呼び下さいませ。自分は静流様を無事に本国にお連れするために薄木基地から使わされたものでありますから」
「薄木から? 道理で日本語が上手いわけだ」
「尚、極東支部は日本語が公用語でありますので通訳は不要であります!」
シズムは変装を解き、静流になった。
「それは助かる。ふう。やっぱ素の方が楽だなぁ」
ハンヴィーの窓から入る風が静流の桃髪をなびかせる。
「静流様。やはり、そちらのお姿の方が、イイ……であります」 ムフゥ
先程まで精悍な顔つきだった伍長の顔がふにゃあと緩んだ。
「佳乃さんは普段どんな事をされているんですか?」
「主にメカの操縦担当であります。部隊ではコードネームでスレンダーと呼ばれているであります」
「確かにお見事なスレンダー美人ですこと」
ムムちゃん先生は伍長を見て皮肉っぽくそう言った。
「乗り物の操縦に関しては私にお任せを。今日の自分はカーになりますね。」
「というと?他には何の操縦が出来るんですか?」
「他にジェット、マリン、そしてタンクがあります」
「まさか佳乃さんて、通常時は犬型ロボじゃないですよね?」
某ヒーローアニメの設定にそう言うものが存在した事を静流は思い出した。
「静流様の忠実な『しもべ』と言う事であれば肯定であります。ですが、私は黒豹の方が好みであります」
「確かに『しもべ』と言えば黒豹ですよね! うわぁ、わかっちゃうんだ。真琴だと『何?ソレ』ってなるのに」
予想をはるかに超えている返答に、静流は高揚した。
「私が適任だと薦めてくれた同僚がおりましてね。価値観が近い……と」 ポッ
「一応聞きますが、愛読書はありますか?」
「そうですね。一通りの少年誌と、普通にレディコミも読みます。まあ、好物は当然『薄っぺらい本』でありますな! ニタァ」
「まあ、そう来ますよね……」
静流を「様」付けで呼ぶ場合、大概そちらの趣味をお持ちだと言う事を再確認した。
「でも、その『であります』は疲れませんか?」
「お聞き苦しかったでありますか?どうも私は公務中や緊張している時には、『雑兵モード』になってしまうのでありますっ」
「いえ、無理してるんじゃなきゃイイんです。あ、学校の先輩に『大佐モード』になる人がいますよ」
「それは羨ましいでありますな。同僚から昇進に響くと言われてましてね」
確かにいつまでもこの口調では、偉くなった時に困ると思われる。
佳乃は暫く無言で車を走らせていたが、思い出したようにしゃべり出した。
「時に静流様、お帰りは何で帰られますか?」
「え? どういう事?」
「一番早いのは空路ですが、戦闘機ですと航続距離が足りません。従って輸送機になりますね。あとは航路ですと空母とか……潜水艦などは如何でしょうか?」
「うぇ? えぇぇぇぇえ!」
静流はもちろん、ムムまでもが驚いていた。
「どうしよう、五十嵐君」
「僕に聞かないで下さいよ、先生」
「アナタが決めなさい! 男の子でしょ?」
「まあ、僕の希望ですと、あまり高い所は苦手なんで、飛行機はちょっと……かといって船はどうかな、波とか高いと船酔いしますよね?あ、潜水艦って揺れないんでしたっけ?でも潜航するまでに揺れたらやっぱり船酔いしちゃうか……」
静流は散々悩んだ挙句、移動時間が一番短い空路を選んだ。
「まあ、普通はそちらを選ぶでありますよね。うっかり他のをチョイスされた場合、手続きが面倒みたいなのでありまして」
「じゃあ最初から空路しか無いって言えばイイじゃないですか?」
「一応振ってみろとの命令でありましたゆえ。怒ってるであります?」
「真剣に悩んだ僕がバカだった……」
「まあ落ち込まんで下さいであります。滞在中は軍の施設は自由に使ってイイとのことでありますし」
「へ? 着いたらすぐ家に帰れるんじゃないの?」
「静流様はこの後、軍のある施設で『簡単な検査』を受けてもらうであります」
「学校は? どうなってるんですか先生?」
「あわわ、確かに五十嵐クンは一応『検査入院』って事で数週間休みにしてあるわね」
「そっか、留学したのはあくまでも井川シズムだったな。検査ってどの位かかるんです?」
「ほんの数日ですよ。……多分」
「何か不安になってきた。一難去ってまた一難……か?」
「不安?……それはいけませんねぇ。ここは私が何とかしないと」
「だ、大丈夫ですよ、気を使わせちゃってすいません」
「静流様は人型兵器にご興味、ありますか?」
「何ですそれ!? 興味アリアリですが」
さっきまでしゅんとしぼんでいた静流が、目をキラキラさせ、佳乃に食いついた。
「そうでありますか。極地戦闘用の機体で、全長は4mほどですが、二足歩行です。」
「ローラーダッシュは付いていますか? 武器はパイルバンカーがイイんですけど」
「さすがにそこまでは。まだ開発段階でありますし、色々と機密事項もありますし」
「機密なのに、どうして僕にそんな事話すんです?」
「私を含め我が部隊はこの機体のテストパイロットなのであります」
「機甲師団、みたいな感じですか?」
「イイでありますね、そのフレーズ。上の人に掛け合ってみるであります」
「そんな簡単に変えられないでしょ!」
「よかったであります。静流様が元気になられた」パァァ
ヨシノは満面の笑顔を振りまいた。ヨシノは軍人であり、静流を無事に本国に連れていく命令で動いているだけで、静流のメンタルケアまでは命令に入っていないと思うが。
「ヨシノさんにはかなわないや。で? どこに僕との関わりがあると?」
「乗ってみたくありませんか? ソレに」
「そりゃあ、乗ってみたいですけど、機密なんですよね?」
「アナタが望めば可能かと。何せ『クィーン』が認めたお方ですので」
「本当? でもなぁ、何か裏がありそうだし……」
静流のリスクマネージメントは完璧であった。
「なかなか落ちないでありますな。やはりネゴ担当にやらせるしかあるまい」
「佳乃さん、心の声、漏れてますよぉ」
「し、失礼したであります! お気になさらずにであります!」
「統合軍極東支部特殊部隊ブラッディシスターズ所属、村雨佳乃伍長であります! 井川シズム殿はおられるでありますか?」
ハンヴィーから出てきたのは、軍服に身を包んだ橙色の長い髪が印象的な女性だった。
「え、わたし、ですが?」
「お迎えに上がりました。ささ、こちらに。シズム殿は前の方がよろしいでありますか?」
「え? イイんですか? うれしいな」
ムムは後ろの席に、シズムは助手席に乗り込んだ。
「では、出発します」ブォォン
ハンヴィーは動き出した。シズムは車中から四人を見て、一言叫んだ。
「みんな! 元気でねぇー!!」
小さく見える四人も手を振ってくれている。やがて見えなくなった。
「ふう、終わった……な」
「いいえ、家に帰るまでが遠足ですよ?」
「プッ! 先生が最もらしい事言ってる」
「からかわないでちょうだい!」
シズムは一つ引っかかっている事を思い出し、女性軍人に訊いた。
「あのぅ、すいません村雨伍長、何で軍の方が私たちを送ってくれるんですか?」
「はい、エスメラルダ・ロ-レンツ閣下より、丁重に本国までお送りするようにと指令がありましたゆえ」
「寮長先生が? 何で?」
「はい! 何でもシズム殿はあの方の『お気に入り』とのことですので、歓待すべしとのことであります!」
「寮長先生って、退役されてからも個人的な理由で軍を動かすような、そんな力があるんですか?」
「あの方は全てにおいて『特別』なのであります! 何せ『クィーン・エスメラルダ』様ですから」
「どっかの『宇宙海賊』みたいな呼び方は、マズくない?」
「未確認ですが、どこぞのお姫様だったとの情報もありますゆえ、間違いでもないかと」
「とんでもなく破天荒な人だったんですね?」
シズムは、別れ際の寮長が素のキャラクターだったんだと知り、もっとお近づきになっておけばよかったと後悔している。
「聞きそびれたなぁ、武勇伝」
「あの方の武勇伝ならいくらでもありますよ。詳しいのがおりますゆえ」
伍長は頃合いかと思ったか、シズムに話しかけた。
「そう言えば、もう変装を解いても大丈夫でありますよ。静流様」
「村雨伍長? まさか、バレてるぅ?」
「佳乃とお呼び下さいませ。自分は静流様を無事に本国にお連れするために薄木基地から使わされたものでありますから」
「薄木から? 道理で日本語が上手いわけだ」
「尚、極東支部は日本語が公用語でありますので通訳は不要であります!」
シズムは変装を解き、静流になった。
「それは助かる。ふう。やっぱ素の方が楽だなぁ」
ハンヴィーの窓から入る風が静流の桃髪をなびかせる。
「静流様。やはり、そちらのお姿の方が、イイ……であります」 ムフゥ
先程まで精悍な顔つきだった伍長の顔がふにゃあと緩んだ。
「佳乃さんは普段どんな事をされているんですか?」
「主にメカの操縦担当であります。部隊ではコードネームでスレンダーと呼ばれているであります」
「確かにお見事なスレンダー美人ですこと」
ムムちゃん先生は伍長を見て皮肉っぽくそう言った。
「乗り物の操縦に関しては私にお任せを。今日の自分はカーになりますね。」
「というと?他には何の操縦が出来るんですか?」
「他にジェット、マリン、そしてタンクがあります」
「まさか佳乃さんて、通常時は犬型ロボじゃないですよね?」
某ヒーローアニメの設定にそう言うものが存在した事を静流は思い出した。
「静流様の忠実な『しもべ』と言う事であれば肯定であります。ですが、私は黒豹の方が好みであります」
「確かに『しもべ』と言えば黒豹ですよね! うわぁ、わかっちゃうんだ。真琴だと『何?ソレ』ってなるのに」
予想をはるかに超えている返答に、静流は高揚した。
「私が適任だと薦めてくれた同僚がおりましてね。価値観が近い……と」 ポッ
「一応聞きますが、愛読書はありますか?」
「そうですね。一通りの少年誌と、普通にレディコミも読みます。まあ、好物は当然『薄っぺらい本』でありますな! ニタァ」
「まあ、そう来ますよね……」
静流を「様」付けで呼ぶ場合、大概そちらの趣味をお持ちだと言う事を再確認した。
「でも、その『であります』は疲れませんか?」
「お聞き苦しかったでありますか?どうも私は公務中や緊張している時には、『雑兵モード』になってしまうのでありますっ」
「いえ、無理してるんじゃなきゃイイんです。あ、学校の先輩に『大佐モード』になる人がいますよ」
「それは羨ましいでありますな。同僚から昇進に響くと言われてましてね」
確かにいつまでもこの口調では、偉くなった時に困ると思われる。
佳乃は暫く無言で車を走らせていたが、思い出したようにしゃべり出した。
「時に静流様、お帰りは何で帰られますか?」
「え? どういう事?」
「一番早いのは空路ですが、戦闘機ですと航続距離が足りません。従って輸送機になりますね。あとは航路ですと空母とか……潜水艦などは如何でしょうか?」
「うぇ? えぇぇぇぇえ!」
静流はもちろん、ムムまでもが驚いていた。
「どうしよう、五十嵐君」
「僕に聞かないで下さいよ、先生」
「アナタが決めなさい! 男の子でしょ?」
「まあ、僕の希望ですと、あまり高い所は苦手なんで、飛行機はちょっと……かといって船はどうかな、波とか高いと船酔いしますよね?あ、潜水艦って揺れないんでしたっけ?でも潜航するまでに揺れたらやっぱり船酔いしちゃうか……」
静流は散々悩んだ挙句、移動時間が一番短い空路を選んだ。
「まあ、普通はそちらを選ぶでありますよね。うっかり他のをチョイスされた場合、手続きが面倒みたいなのでありまして」
「じゃあ最初から空路しか無いって言えばイイじゃないですか?」
「一応振ってみろとの命令でありましたゆえ。怒ってるであります?」
「真剣に悩んだ僕がバカだった……」
「まあ落ち込まんで下さいであります。滞在中は軍の施設は自由に使ってイイとのことでありますし」
「へ? 着いたらすぐ家に帰れるんじゃないの?」
「静流様はこの後、軍のある施設で『簡単な検査』を受けてもらうであります」
「学校は? どうなってるんですか先生?」
「あわわ、確かに五十嵐クンは一応『検査入院』って事で数週間休みにしてあるわね」
「そっか、留学したのはあくまでも井川シズムだったな。検査ってどの位かかるんです?」
「ほんの数日ですよ。……多分」
「何か不安になってきた。一難去ってまた一難……か?」
「不安?……それはいけませんねぇ。ここは私が何とかしないと」
「だ、大丈夫ですよ、気を使わせちゃってすいません」
「静流様は人型兵器にご興味、ありますか?」
「何ですそれ!? 興味アリアリですが」
さっきまでしゅんとしぼんでいた静流が、目をキラキラさせ、佳乃に食いついた。
「そうでありますか。極地戦闘用の機体で、全長は4mほどですが、二足歩行です。」
「ローラーダッシュは付いていますか? 武器はパイルバンカーがイイんですけど」
「さすがにそこまでは。まだ開発段階でありますし、色々と機密事項もありますし」
「機密なのに、どうして僕にそんな事話すんです?」
「私を含め我が部隊はこの機体のテストパイロットなのであります」
「機甲師団、みたいな感じですか?」
「イイでありますね、そのフレーズ。上の人に掛け合ってみるであります」
「そんな簡単に変えられないでしょ!」
「よかったであります。静流様が元気になられた」パァァ
ヨシノは満面の笑顔を振りまいた。ヨシノは軍人であり、静流を無事に本国に連れていく命令で動いているだけで、静流のメンタルケアまでは命令に入っていないと思うが。
「ヨシノさんにはかなわないや。で? どこに僕との関わりがあると?」
「乗ってみたくありませんか? ソレに」
「そりゃあ、乗ってみたいですけど、機密なんですよね?」
「アナタが望めば可能かと。何せ『クィーン』が認めたお方ですので」
「本当? でもなぁ、何か裏がありそうだし……」
静流のリスクマネージメントは完璧であった。
「なかなか落ちないでありますな。やはりネゴ担当にやらせるしかあるまい」
「佳乃さん、心の声、漏れてますよぉ」
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