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第一部
1-30「怪物との遭遇(6)」
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「どうしたんですか?」
「いや、伝え忘れちゃったことがあってさ」
そこまで言うと、由香にちょいちょいと手招きされて近づくと「この間、一年生に凄い選手いないかって言ってたでしょ?」と耳打ちしてきた。
こそばゆさに耐えながら「は、はい」と応える。すると、由香はニンマリと「実はさ、いるらしいんだよ。とんでもないの」
嬉々として話す由香に〝もうその件は解決しました〟なんて言えるはずもなく「あ……そうなんですね」と同じくらいの声量で答える音葉。
「それでなに、海瀬はあの時には知ってたの?」
「い、いえ。私も噂程度で……」
「上級生が『背番号が取られるー!』ってさ、泣き喚いてたよ」
「ははは……どうなんですかね」
「白旗上げる前に練習しなさいってね」と呆れながら笑った由香は「しっかし、もしその幽霊がギリギリに入部するなんてもったいないなぁ」と続けた。
「え? どういうことですか?」
「いやね、海瀬は知ってると思うけど、春季大会があるじゃない? それがいつもよりもずれ込でさ、一年生の出場が間に合うのよ」
「えっ⁉ い、いつから試合なんですか?」
「今週の土曜日。明日、その見極めをするって監督がさっき言ってたからさ……もし金曜日からとか入部ならいくら怪物でも出られないなーって」
「それ――」
なんて質問しようかも考え付かないまま言葉を発した音葉。しかし、三年生のマネージャーだろうか。「由香―! サボるなー!」と罵声が飛び、名前を呼ばれて由香はびくりと体を震わせて「じゃ、また今度ね!」と音葉が話しかける前に走り去っていった。
取り残された音葉と真奈美。しばらくの沈黙の後、真奈美が声をかける。
「……伝える?」
「もちろん!」
音葉は床に触発されたのか、元気いっぱいに答えると駐輪場に走り出していた。同じく部活が終わり下校を始めていた生徒たちの間をすり抜けながら、携帯ででメッセージを彗に送ると、もう駐輪場は目の前。
自身の電動自転車を出して校門前にたどり着いたタイミングで、「ちょ、ちょっと!」と真奈美がようやく追いついた。
「真奈美も来る?」
「最近置いてけぼりだし……行く!」
※
河原での練習が終わり、近くの自販機でお茶を買ってこれまでの思い出を肴に話し込んでいると、彗のもとへ連絡が届いた。
差出人は音葉。〝今、どこ?〟と簡素な文章に〝河川敷〟と単語だけ返すと〝今から向かうから待ってて〟と言われて待ちぼうけていると、遠くから二ケツをした女子がうっすらと確認でき「おー」と彗が手を上げた。
向こうからも視認できたようで、自転車は三人のもとへ近づいてくる。
自転車から降りた真奈美は、一星に「こんばんわぁ」と話しかける一方で、音葉は息を切らしてその場から動けずにいた。
「こんばんは……そんなに慌ててどうしたの?」
「ちょっと、これは、伝えなくちゃ……いけない……なって」
息を切らしながら話す音葉を笑いながら「まずは一旦落ち着けー」とまだ手を付けていないお茶を差し出す。
「あり……がと」
お茶をぐびぐびと流し込むと、親父臭く「ぷはぁ」と半分近くを飲み切った音葉は「ね、一個相談」と凄んだ。
「な、なんだよ」
「金曜日に入部するって言ったよね?」
「その予定だけど」
「……明日にしよ」
「……は?」
「明日入部しようって言ってんの!」
「いやお前、前にも話しただろー? まだ不十分だって――」と言いかけた彗を制するように「俺もそうした方がいいと思うぜ」と雄介も続いた。
「あー? なんでまた」
「もしかしたら春季大会に間に合うかもしれないんだよ」
「は? 春季大会?」
「そう。知ってるだろ? 夏のシード権争う大会だよ」
「あー、なんとなくは知ってるけどよ……今はくらいだったら大会中で、俺ら一年が出れるとしたら関東大会とかからだろ? 行けるわけねーだろ」
「それは……」と言葉に詰まる雄介の代わりに「ところがどっこい!」と真奈美が割り込んでくる。
「春季大会? とかいうのがなんかズレたらしくてぇ、一試合目が今週の土曜日なんだって!」
「は?」
「え?」
同じタイミングで言葉を漏らした彗は、一星と顔を見合わせた。
「いや、伝え忘れちゃったことがあってさ」
そこまで言うと、由香にちょいちょいと手招きされて近づくと「この間、一年生に凄い選手いないかって言ってたでしょ?」と耳打ちしてきた。
こそばゆさに耐えながら「は、はい」と応える。すると、由香はニンマリと「実はさ、いるらしいんだよ。とんでもないの」
嬉々として話す由香に〝もうその件は解決しました〟なんて言えるはずもなく「あ……そうなんですね」と同じくらいの声量で答える音葉。
「それでなに、海瀬はあの時には知ってたの?」
「い、いえ。私も噂程度で……」
「上級生が『背番号が取られるー!』ってさ、泣き喚いてたよ」
「ははは……どうなんですかね」
「白旗上げる前に練習しなさいってね」と呆れながら笑った由香は「しっかし、もしその幽霊がギリギリに入部するなんてもったいないなぁ」と続けた。
「え? どういうことですか?」
「いやね、海瀬は知ってると思うけど、春季大会があるじゃない? それがいつもよりもずれ込でさ、一年生の出場が間に合うのよ」
「えっ⁉ い、いつから試合なんですか?」
「今週の土曜日。明日、その見極めをするって監督がさっき言ってたからさ……もし金曜日からとか入部ならいくら怪物でも出られないなーって」
「それ――」
なんて質問しようかも考え付かないまま言葉を発した音葉。しかし、三年生のマネージャーだろうか。「由香―! サボるなー!」と罵声が飛び、名前を呼ばれて由香はびくりと体を震わせて「じゃ、また今度ね!」と音葉が話しかける前に走り去っていった。
取り残された音葉と真奈美。しばらくの沈黙の後、真奈美が声をかける。
「……伝える?」
「もちろん!」
音葉は床に触発されたのか、元気いっぱいに答えると駐輪場に走り出していた。同じく部活が終わり下校を始めていた生徒たちの間をすり抜けながら、携帯ででメッセージを彗に送ると、もう駐輪場は目の前。
自身の電動自転車を出して校門前にたどり着いたタイミングで、「ちょ、ちょっと!」と真奈美がようやく追いついた。
「真奈美も来る?」
「最近置いてけぼりだし……行く!」
※
河原での練習が終わり、近くの自販機でお茶を買ってこれまでの思い出を肴に話し込んでいると、彗のもとへ連絡が届いた。
差出人は音葉。〝今、どこ?〟と簡素な文章に〝河川敷〟と単語だけ返すと〝今から向かうから待ってて〟と言われて待ちぼうけていると、遠くから二ケツをした女子がうっすらと確認でき「おー」と彗が手を上げた。
向こうからも視認できたようで、自転車は三人のもとへ近づいてくる。
自転車から降りた真奈美は、一星に「こんばんわぁ」と話しかける一方で、音葉は息を切らしてその場から動けずにいた。
「こんばんは……そんなに慌ててどうしたの?」
「ちょっと、これは、伝えなくちゃ……いけない……なって」
息を切らしながら話す音葉を笑いながら「まずは一旦落ち着けー」とまだ手を付けていないお茶を差し出す。
「あり……がと」
お茶をぐびぐびと流し込むと、親父臭く「ぷはぁ」と半分近くを飲み切った音葉は「ね、一個相談」と凄んだ。
「な、なんだよ」
「金曜日に入部するって言ったよね?」
「その予定だけど」
「……明日にしよ」
「……は?」
「明日入部しようって言ってんの!」
「いやお前、前にも話しただろー? まだ不十分だって――」と言いかけた彗を制するように「俺もそうした方がいいと思うぜ」と雄介も続いた。
「あー? なんでまた」
「もしかしたら春季大会に間に合うかもしれないんだよ」
「は? 春季大会?」
「そう。知ってるだろ? 夏のシード権争う大会だよ」
「あー、なんとなくは知ってるけどよ……今はくらいだったら大会中で、俺ら一年が出れるとしたら関東大会とかからだろ? 行けるわけねーだろ」
「それは……」と言葉に詰まる雄介の代わりに「ところがどっこい!」と真奈美が割り込んでくる。
「春季大会? とかいうのがなんかズレたらしくてぇ、一試合目が今週の土曜日なんだって!」
「は?」
「え?」
同じタイミングで言葉を漏らした彗は、一星と顔を見合わせた。
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