24 / 179
第一部
1-19「限りなく運命に近い偶然(1)」
しおりを挟む
「おはよ」
音葉は、すでに早朝トレーニングを終えた彗と一星に話しかけた。
「今日も来たのか」
「悪かった?」
「いや、物好きだなと思ってな」と、汗を拭きながら横目で見る。音葉は、いたずらをした子供のようにニタニタしながら自転車を停めていた。
「あ、おはよう」
「おはよ、武山くん。無事見つかったみたいで良かった」
二人の会話についていけず「どゆこと?」と疑問符を浮かべた彗に、音葉は「昨日の夜に武山くんからメッセージが来てさ」とメッセージ画面を見せる。
「あー……なるほどね」
その画面を見て、彗はすべての出来事に合点がいった。
場所はおろか、朝練をやっていることすら知っているのは彗の母と音葉と早朝の散歩コースにこの場所を選んでいる老人だけ。昨日今日初めて話した、友人と呼ぶことすら憚れる他人にそんな会話するわけがない。
そんな一星が、朝練の場所と時間を知っていたのは、至極単純。ただ、音葉からあらかじめ聞いていただけだ。
内容に目を凝らしていると、夜中の二時に最初のメッセージが送られていたことに気づいて「……もっと送る時間考えろよ」と彗は苦言を呈した。
「いやさ、昨日なんか気まずい感じで終わっちゃったからさ……どうやって話すか悩んじゃって」と頭をかきながら「ごめんね、海瀬さん」と頭を下げる。
「気にすることないよ」と、音葉は携帯を操作し、「空野くんも似たようなもんだったし」と彗に別の画面を見せつけた。
そこには、二日前、早朝トレーニングに誘った時のメッセージ画面が映し出されている。
「俺は一時だ。一緒にするなって」
「十二時に寝る私からしたらどっちも同じだよ」
口を尖らせる音葉を尻目に彗は「で、明日からどうする?」と一星に問いかけた。
「明日からって?」
「野球部の練習に参加するか、朝練するかってこと」
「あ、そういうことね」
「ブランクもなげーだろ?」
「去年の夏休み以来触ってなかったから、えっと……」
制服に着替え終えた一星は、指を折って空白の時間を数え「七か月くらいか」と呟いた。
「俺も似たようなもんでさ、どうせ入部するんなら完璧な状態で入りてーから、仮入部期間だけここで練習する予定なんだよ」
「なるほどね。じゃ、答えは一つだ」と、一星はキャッチャーミットの手入れをしながら「君の球を受けてる方がよっぽど練習になる」と笑った。
「……ずいぶんと前向きだね」と、耐えかねた音葉が苦笑いを浮かべる。
「……同感だ」
昨日の練習同様、まだすこし学校には早いが、歩いて行ったらちょうどいいくらいの時間。三人は自転車に乗らずに歩きながら、学校へ向かった。
※
「な、真司よ」
鉄仮面のように冷たい表情をした大柄の坊主の本橋宗次郎が、音楽を鳴らし鼻歌を歌う、茶髪でウェーブをかけた細身の田名部真司に話しかけた。
まだ、他の部員は来ていない。二人だけの空間だから聞けることだな、と思いながら「今年の一年、どう思う?」と続ける。
真司はお茶らけた様子で着替えを終えると「あーダメですね。全然ダメ」と両手を大げさに振ってバッテンを作った。
「挨拶の声も小さいし、指示されるまで動かないし……ま、その分しごき甲斐はありそうですけどね」
ジェスチャーの大きさやその風貌から、一見するとどこかふざけているように見えるが、一年の付き合いで人を見抜く目だけは信頼している後輩に「姿勢の話じゃない。実力の話だ」と宗次郎は凄んだ。
「あー……そっちも微妙ですね」と、真司はすでに入部届を出して練習に参加しているメンバーをまとめたメモ帳を宗次郎に見せる。
名前の横に出身高校と、ABCでランク付けがされている。
現状、入部予定者は二十四名。内、Bが三人、その他はCだ。
「お前、いつの間に……」
「ま、ショートレギュラーの観察眼ってやつですよ」
音葉は、すでに早朝トレーニングを終えた彗と一星に話しかけた。
「今日も来たのか」
「悪かった?」
「いや、物好きだなと思ってな」と、汗を拭きながら横目で見る。音葉は、いたずらをした子供のようにニタニタしながら自転車を停めていた。
「あ、おはよう」
「おはよ、武山くん。無事見つかったみたいで良かった」
二人の会話についていけず「どゆこと?」と疑問符を浮かべた彗に、音葉は「昨日の夜に武山くんからメッセージが来てさ」とメッセージ画面を見せる。
「あー……なるほどね」
その画面を見て、彗はすべての出来事に合点がいった。
場所はおろか、朝練をやっていることすら知っているのは彗の母と音葉と早朝の散歩コースにこの場所を選んでいる老人だけ。昨日今日初めて話した、友人と呼ぶことすら憚れる他人にそんな会話するわけがない。
そんな一星が、朝練の場所と時間を知っていたのは、至極単純。ただ、音葉からあらかじめ聞いていただけだ。
内容に目を凝らしていると、夜中の二時に最初のメッセージが送られていたことに気づいて「……もっと送る時間考えろよ」と彗は苦言を呈した。
「いやさ、昨日なんか気まずい感じで終わっちゃったからさ……どうやって話すか悩んじゃって」と頭をかきながら「ごめんね、海瀬さん」と頭を下げる。
「気にすることないよ」と、音葉は携帯を操作し、「空野くんも似たようなもんだったし」と彗に別の画面を見せつけた。
そこには、二日前、早朝トレーニングに誘った時のメッセージ画面が映し出されている。
「俺は一時だ。一緒にするなって」
「十二時に寝る私からしたらどっちも同じだよ」
口を尖らせる音葉を尻目に彗は「で、明日からどうする?」と一星に問いかけた。
「明日からって?」
「野球部の練習に参加するか、朝練するかってこと」
「あ、そういうことね」
「ブランクもなげーだろ?」
「去年の夏休み以来触ってなかったから、えっと……」
制服に着替え終えた一星は、指を折って空白の時間を数え「七か月くらいか」と呟いた。
「俺も似たようなもんでさ、どうせ入部するんなら完璧な状態で入りてーから、仮入部期間だけここで練習する予定なんだよ」
「なるほどね。じゃ、答えは一つだ」と、一星はキャッチャーミットの手入れをしながら「君の球を受けてる方がよっぽど練習になる」と笑った。
「……ずいぶんと前向きだね」と、耐えかねた音葉が苦笑いを浮かべる。
「……同感だ」
昨日の練習同様、まだすこし学校には早いが、歩いて行ったらちょうどいいくらいの時間。三人は自転車に乗らずに歩きながら、学校へ向かった。
※
「な、真司よ」
鉄仮面のように冷たい表情をした大柄の坊主の本橋宗次郎が、音楽を鳴らし鼻歌を歌う、茶髪でウェーブをかけた細身の田名部真司に話しかけた。
まだ、他の部員は来ていない。二人だけの空間だから聞けることだな、と思いながら「今年の一年、どう思う?」と続ける。
真司はお茶らけた様子で着替えを終えると「あーダメですね。全然ダメ」と両手を大げさに振ってバッテンを作った。
「挨拶の声も小さいし、指示されるまで動かないし……ま、その分しごき甲斐はありそうですけどね」
ジェスチャーの大きさやその風貌から、一見するとどこかふざけているように見えるが、一年の付き合いで人を見抜く目だけは信頼している後輩に「姿勢の話じゃない。実力の話だ」と宗次郎は凄んだ。
「あー……そっちも微妙ですね」と、真司はすでに入部届を出して練習に参加しているメンバーをまとめたメモ帳を宗次郎に見せる。
名前の横に出身高校と、ABCでランク付けがされている。
現状、入部予定者は二十四名。内、Bが三人、その他はCだ。
「お前、いつの間に……」
「ま、ショートレギュラーの観察眼ってやつですよ」
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
先輩に振られた。でも、いとこと幼馴染が結婚したいという想いを伝えてくる。俺を振った先輩は、間に合わない。恋、デレデレ、甘々でラブラブな青春。
のんびりとゆっくり
青春
俺、海春夢海(うみはるゆめうみ)。俺は高校一年生の時、先輩に振られた。高校二年生の始業式の日、俺は、いとこの春島紗緒里(はるしまさおり)ちゃんと再会を果たす。彼女は、幼い頃もかわいかったが、より一層かわいくなっていた。彼女は、俺に恋している。そして、婚約して結婚したい、と言ってきている。戸惑いながらも、彼女の熱い想いに、次第に彼女に傾いていく俺の心。そして、かわいい子で幼馴染の夏森寿々子(なつもりすずこ)ちゃんも、俺と婚約して結婚してほしい、という気持ちを伝えてきた。先輩は、その後、付き合ってほしいと言ってきたが、間に合わない。俺のデレデレ、甘々でラブラブな青春が、今始まろうとしている。この作品は、「小説家になろう」様「カクヨム」様にも投稿しています。「小説家になろう」様「カクヨム」様への投稿は、「先輩に振られた俺。でも、その後、いとこと幼馴染が婚約して結婚したい、という想いを一生懸命伝えてくる。俺を振った先輩が付き合ってほしいと言ってきても、間に合わない。恋、デレデレ、甘々でラブラブな青春。」という題名でしています。
【R15】【第一作目完結】最強の妹・樹里の愛が僕に凄すぎる件
木村 サイダー
青春
中学時代のいじめをきっかけに非モテ・ボッチを決め込むようになった高校2年生・御堂雅樹。素人ながら地域や雑誌などを賑わすほどの美しさとスタイルを持ち、成績も優秀で運動神経も発達し、中でもケンカは負け知らずでめっぽう強く学内で男女問わずのモテモテの高校1年生の妹、御堂樹里。親元から離れ二人で学園の近くで同居・・・・というか樹里が雅樹をナチュラル召使的に扱っていたのだが、雅樹に好きな人が現れてから、樹里の心境に変化が起きて行く。雅樹の恋模様は?樹里とは本当に兄妹なのか?美しく解き放たれて、自由になれるというのは本当に良いことだけなのだろうか?
■場所 関西のとある地方都市
■登場人物
●御堂雅樹
本作の主人公。身長約百七十六センチと高めの細マッチョ。ボサボサ頭の目隠れ男子。趣味は釣りとエロゲー。スポーツは特にしないが妹と筋トレには励んでいる。
●御堂樹里
本作のヒロイン。身長百七十センチにIカップのバストを持ち、腹筋はエイトパックに分かれる絶世の美少女。芸能界からのスカウト多数。天性の格闘センスと身体能力でケンカ最強。強烈な人間不信&兄妹コンプレックス。素直ではなく、兄の前で自分はモテまくりアピールをしまくったり、わざと夜に出かけてヤキモチを焼かせている。今回新たな癖に目覚める。
●田中真理
雅樹の同級生で同じ特進科のクラス。肌質や髪の毛の性質のせいで不細工扱い。『オッペケペーズ』と呼ばれてスクールカースト最下層の女子三人組の一人。持っている素質は美人であると雅樹が見抜く。あまり思慮深くなく、先の先を読まないで行動してしまうところがある。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。
遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。
彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。
……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。
でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!?
もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー!
ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。)
略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる