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第一章 人外の冒険者。

03 俺に絡む鼻摘み者。

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 初等級向けの簡単な依頼とは異なり、中等級以上の依頼には証拠を揃えたうえで、詳細を事細かに提出しなければならない。
 中等級とは言え、初等級とは比べものにならないくらい面倒臭い。結構な手間である。
 更に上位にもなってくると、事実確認や審議も必要となる場合があり、それ相応の時間がかかったりするものだ。

(流石にアーネさんが直々に拉致ってきただけはある)

 そう。ある程度の時間はかかるだろうと思っていたのに、然程も待たされずに直ぐに終わった。それこそ初等級並に素早く。

 それだけではなく中等級に昇格したばかりの二人に、等級別の報告手順の違いなどを丁寧かつわかり易く教えてもいたし、流石はできるオーネイさんと言ったところだった。


 ◇◇◇


 全てを終えたあとカテルとカテネを伴って、併設されている酒場の一角に足を運ぶ。
 適当な空いてる席へと落ち着いたところで、軽く腹拵えをする。

 軽い物を食べつつ、初達成祝いと打ち上げを兼ねて美味しい食事で噂の店にでも寄って行こうか? などと寛いでいると、隣の席で昼間っから酒を煽っていた品性の欠片もない無頼漢らが、態と大声で侮蔑してくるのだった。

「なんかよう、急にドブ臭くね?」

 痩身痩躯で人相も血色も悪い顔。どう見ても野盗にしか見えないサノバヴィッチ。

「おえぇえ、こりゃ沼臭い! 鼻が捥げる!」

 禿げ頭で堀の深い厳つい顔の巨漢。蛮族のように筋肉剥き出しのほぼ裸族なガッディム。

「何処かの爬虫類の臭いが漂ってきやがる。臭くてたまんねぇ、オレ死んだわ」

 中太りの寸胴短足。魔術師風の外套で全身を覆い隠す怪しさ炸裂のファッキン。

 こいつらは普段から素行不良が目立つ、この冒険者組合での鼻摘み者――荒くれ三人組である。
 こんな不快な奴らでも、何故か上等級の冒険者だったり。良く昇格できたもんだ。

「ちょっとっ!」「待て、カテネ!」

 えらい剣幕で睨みつけるカテネ。それを必死に宥めるカテル。

「幼女万歳のフラスコ様も大概だよなぁ」

「おい、カテネ。どうせお情けの八百長で昇格したんだろ? 白状しろよ?」

「実際カテルも男とは思えない容姿だからなぁ。実力もないのに見た目だけで昇格とはな。良いご身分なこって」

 二人を散々小馬鹿にしたあとで、標的は俺へと移る。

「そこの爬虫類。テメェは居るだけで臭ぇんだよ」

「臭くてゲロりそうだぜ、全くよぅ。テメェは人様が集まる場所に居て良い奴じゃねぇんだよ。さっさと街から失せろ」

「そうそう。辺境の沼かドブにでも引っ込め。旨い酒が沼臭くならぁ。オエェ……急にくっそ不味くなったわ。ひゃっはっは」

 酔ってる所為もあってか容赦のない罵詈雑言の嵐。幼女万歳趣味の件だけは大枠で合ってる事実だとしても、それを含め存外にも酷い言われようである。
 特に八百長云々は濡れ衣もいいところだ。寧ろお前らの方がやってそうで怪しいわ。

「ムッカー!」「僕もちょっと我慢できない!」

 当然、ブチ切れるカテネ。抑えに回っていた温厚なカテルにしても表情が厳しくなる。

「ああ? 文句あんのか、へっぽこ?」

「やんのか、男女?」

「どうせなら痛い目よりも、俺様が良い思いさせてやろうか? ひゃっはっは」

「ブハァーっ! カテネは使ってやっても良いが、カテルは変態趣味の下衆い旦那に紹介してやろうぜ? きっと良い金にならぁ」

 下卑た笑いで嘲笑する三人。これには流石の俺も堪忍袋の尾が切れた。

「そこまでにしとけ、三下」

 席から立ち上がり、下衆な三人の前に立つ。

「「「あ?」」」

 向こうの三人も立ち上がり、俺に睨みを効かす。

「俺はなこんな姿だからな? 実際お前らの言う通りだと思ってやっても良い。今更だから特に気にはしない」

 瞳孔が縦に細い爬虫類然とした左眼に力を込めて、睨みを利かせつつ続ける。

「だがしかし。二人のこととなると話しは別だ。謂れのない誹謗中傷に加え、下卑た侮辱を行ったことは看過するに耐え難い」

 威圧するかの如く怒気を孕んだ声。
 重低音で響く咆哮のように、目の前の三人に向けて言い放っておく。

「誠心誠意気持ちを込めて二人に謝罪し慈悲を乞え。今後は行いを悔いて態度を改めろ。そうすれば聞かなかったことにしてやる」

 だがしかし。こんな奴らとは言え、腐っても上等級を担う冒険者。今後の組合内での立場も考えて、落としどころを一応は提示しておく。まぁ言うだけ無駄だろうが。

「は? 何処の宗教団体の回し者だ、テメェ? 偉そうに蜥蜴風情がっ!」

「凄もうと怖くねぇんだよ。こちとらもっと怖ぇ魔物とやり合ってんだ」

「そうそう。所詮は人里に逃げてきた蜥蜴だろうが! 俺らに勝てる筈ねぇだろうが!」

 そう言い捨てつつ少し後退り、俺から距離を取った。そして各々の武器を構え凄み出した。

 俺たちが居るのは冒険者組合内の酒場兼待合所となる。冒険者だけでなく、依頼を出しにきた一般人も居るわけだ。

 そんなある意味で公共施設でもあるこの場では、揉め事の一切が禁止されている。所属する冒険者なら尚更である。
 素手での殴り合い程度の喧嘩ならまだしも、武器を用いた戦闘行為は御法度である。破れば当事者双方が厳罰対象となる。
 器物損壊程度であれば弁償だけで済むが、内容如何によっては良くて暫くの出禁――所謂、謹慎処分となる。

 但しこれはあくまでも軽微と判断された場合であり、重傷者や死者が出たとなれば話しは変わってくる。
 酷い場合は冒険者資格の剥奪に加え、重罪人として牢屋に打ち込まれるか、極刑死罪と言った更なる重罰が課せられることとなる。

「蜥蜴、ここで死んでおけ!」

 三人が一斉に斬り込んでくる。だがしかし――。

「――な⁉︎」

 食事中だったこともあり、全ての攻撃をただのフォークで受け流し、最後の一撃のみ隙間に挟んで受け止める。

「貴様らの所為で俺まで重い刑罰はごめんだからな? 実際、俺が剣を抜けば死体が三つ転がる。お前ら程度、実際これで十分だろう」

 そしてフォークを軽く捻ると、隙間に挟まれた剣が易々と折れた。

「なっ⁉︎ お、俺様の大事な剣をっ⁉︎」

「酒場のフォークに負けて簡単に折れる剣が大事だとか……哀れを通り越して無様過ぎるな」

 長い舌を出したり引っ込めたりしつつ、これみよがしに煽ってやる。

「殺す! 殺してやる!」

「お前は今ここで絶対に殺す!」

「おうとも! あとのことなんて知るか!」

 三人が三人とも激昂する。受け流されたガッディム、ファッキンの二人は本気の体勢。
 剣を折られたサノバヴィッチは腰の短剣を抜き放つ。


 その時だった――。


「双方、そこまでだ!」

 微風に揺られる風鈴の涼しげな音色のように、優しくも透き通った美しい声で止められた。



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