上 下
8 / 13
Session.

第八回 僕を殺す気か、ボクは!

しおりを挟む
 僕は自分の部屋でボクに意識を飛ばされて、次に気付いた時には現代と同じ舗装された道路の真ん中に立たされていた――。


 縞々柄のいけない布地一丁で。


「どんだけ鬼畜なん、ボクは! もしも通行人がいたら、テラヤバい所か拉致られるじゃんか!」

 道路の真ん中で、縞々柄のいけない布地一丁で不満を叫ぶ男の娘な僕だった。

 そう、僕とボクで創造した世界では、僕の姿は男の娘――つまり、めっさ可愛いんだよ?

「変態紳士に連れ去られたりしたら、どうしてくれるんだ!」


 返事はない。GMのボクはシカトをぶっこいている。


「明らかにボクの悪意を感じるっての」

 僕が立っている道路は、樹々が生い茂る山の中の一本道らしい。

「てっきりファンタジーでやるかと思ってたのに。中途半端に現代ってどうなん、ボク?」

 呟いた通り、今回の舞台は現代っぽい。

 僕とボクで創造した世界は、SFからファンタジー、現代から伝記物まで多種多様に対応する、汎用ルールブックとしてグリモワール魔導書に記述されている。

 どう言うことかと言うと、キャラクターを創り替えることなく、そのまま別の新たな舞台へと持ち込める仕様ってこと。

「敵さんを用意する時間稼ぎを兼ねた、派遣シナリオっぽいね」

 メガネ、クイッ! と香ばしいポーズで呟こうとした僕は手が空振った。


 メガネを掛けてないのを、ド忘れ……癖って怖いね。


「うっかりしてた。所持金を得たら伊達メガネを買わんと」

 縞々柄のいけない布地一丁で自重気味に笑う僕は、先の見えない道路を突き進んで行く――。


 しかし……なんの羞恥プレイだろうか。


「僕がやらかしたこととはいえ、本気で嫌だな。早くなんとかしないと……ん?」

 げんなりしていると、道路の傍で動く影が目に入った。

「早速、ランダムエンカウント? もしかモブ的野生動物?」

 武器がないので代わりに拳を握り締め、ゆっくりと道路を進んで行く僕。

 シナリオを用意したのは僕でないボクの方なので、ルール以外は何が起こるか全く知らない僕なのです。

「気付かれず通り過ぎる判定を試してみよう」

 そう考えた矢先、行為判定の目標値が頭に浮かんだ。
 内容は敏捷値を用いて50以上を出せば良いと。

 僕とボクで創造した世界がちゃんとTRPGになってて、実体験で遊べるってのが物凄く嬉しい!

「今回は敏捷値での行為判定ね。GMのボクとの意思疎通をどうするかって心配して損した。目標値が漠然と頭に浮かんで解るってなんか不思議」

 今回は目標値が開示されてるけど、大体は開示しない。
 それはGMが手加減したり、シナリオを誘導したりする為だね。
 オープンダイスにするってことは、このぐらい余裕で行けるだろってこと。

「早速、行為判定なう――うっは、出目、低!」

 頭の中で振った白いダイスは、29を上にして止まった。

 忍び足や潜伏と言ったスニーキングスキル隠密技能を持っていれば、技能効果で目標値を引き下げることもできる。

 僕は持っていないので、単純に基本パラメータと出目での挑戦となるんだけど、敏捷値は上限値なのでファンブル以外は成功ってわけだ。

 影の横を忍び足で通り抜ける僕。
 判定に成功しているので、状況が変わらない限り見つかることはない。

 影の正体を知っている僕でも、ミックスと言うキャラクターは知らない筈なので、直ぐ様、識別判定も同様に行う。
 知力は低い僕だけど、問題なく成功した。

「――げっ⁉︎ ボクは僕を殺す気か!」

 影の正体はジャイアントスパイダー、大人くらいの大きな毒蜘蛛だった。

 識別判定を行い、成功すればそのモンスターを知っている事になる。
 モンスターに設定されている認知度を目標値にして行為判定を行い、達成値を越えたら越えた分だけ詳細が解るルールとなっている。


 もしも判定に失敗したら、プレイヤーは知っていてもキャラクターは知らない。

 そう言うプレイを行うのがTRPGの共通ルールだ。


 僕とボクで創造した世界のルールだと、グリモワール魔導書の力を用いて、失敗したセッション中は状況が変わらない限り、本当に忘れさせられてしまうと言った恐ろしいルールになっている――。


「低レベル且つ素手で勝てるわけないっしょ! 何考えてんだよ、ボク!」


 返事はない。やはりGMのボクとしては、シカトを貫くつもりのようだ。


「判定がファンブルだったらどーすんだ……何も知らずに毒でも喰らってたら、確実に死んでたっての……」

 少しだけ怖くなって身震いする僕。

 僕とボクで創造した世界で命を落としたキャラクターは蘇生と言う救済措置もグリモワール魔導書に記述はしてある。

 厳しい蘇生条件を満たしていれば生き返れるけども、蘇生に失敗すると永久にロスト消失する。
 更に蘇生された回数で、目標値が跳ね上がると言った厳しいルールだ。

 緩和しようとしてできなかっただけに、ポンポンと死ぬわけにはいかない。

「本気で僕を殺す気だったとしか、こんなの思えないよ……」
 
 真っ青な顔になる僕は、そう愚痴りながらも真っ直ぐ伸びた道路をひたすら歩く。


 ◇◇◇


 程なく、終わりが見えてきた――。

 安物の倉庫みたいな建物が現れて、そこで道路も行き止まりとなってることから察するに、どうもここで野盗狩りをさせられることになるっぽい。

「本当に突貫工事のシナリオだね、ボク。道路進んでお終いって、シティアドベンチャーですらないじゃん。一種のパワープレイ――救済措置だった。止む無し」

 杜撰過ぎるシナリオに憤慨しそうになる僕だったけど、元はと言えばファンブルを出して文無しな僕が悪いと堪える事にした。

「――どんな敵さんを用意してくれたんだろうね、ボクは。さっきの蜘蛛を見た所為で、全く油断できなくなったよ、うん」

 一気に緊張感を高め、さっきと同じ忍び足の行為判定を行い無事に成功する。

 そして建物の入口へと静かに歩み寄っていった――。
 


 ――――――――――
 続きは広告の後。
 運命はサイコロのみぞ知る!(笑)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

何カガ、居ル――。

されど電波おやぢは妄想を騙る
ホラー
 物書きの俺が執筆に集中できるよう、静かな環境に身を置きたくて引っ越した先は、眉唾な曰くつきのボロアパート――世間一般で言うところの『事故物件』ってやつだった。  元から居た住人らは立地条件が良いにも関わらず、気味悪がって全員引っ越してしまっていた。  そう言った経緯で今現在は、俺しか住んでいない――筈なんだが。  “ 何かが、居る―― ”  だがしかし、果たして――。“ 何か ”とは……。    

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

僕と幼馴染と死神と――この世に未練を残す者、そして救われない者。

されど電波おやぢは妄想を騙る
ホラー
 学校の帰り道に巻き込まれた悲惨な事故。  幼馴染の死を目の当たりにした僕は、自責の念と後悔の念に埋もれていた――。  だがしかし。  そこに現れる奇妙な存在――死神。  交換条件を持ち掛けられた僕は、それを了承するか思案し、結局は承諾することになる。  そして真っ赤な色以外を失い、閉ざされた僕の世界に新たな色を描き、物語を紡いでいくこととなった――。

悪夢で視る人――それは俺だけが視ることのできる、酷く残酷で凄惨な個人的ホラー映画。

されど電波おやぢは妄想を騙る
ホラー
 彼女居ない歴イコール、生きた歳の俺は二十歳。  仕事が休みになると、当然、することもないので、決まって部屋に引き篭もる悪い癖を持っている。  何をしているかって言うとナニではなく、ひたすらに大好物なホラー映画を鑑賞しているってわけ。  怪奇物にスプラッター、パンデミックに猟奇物まで、ホラーと名のつく物ならなんでもバッチ来いの大概な雑食である。  めっさリアルに臓物が飛び出す映画でも、観ながら平気で食事が喉を通るって言うんだから大概だろ?  変なヤツだと後ろ指を刺されるわ、あの人とはお話ししてはダメよと付き添いの親に陰口を叩かれるくらいのな?  そんな俺が例の如くホラー映画を鑑賞中、有り得ないことが俺の身に起きた。  そこを境に聴くも悍しい体験をしていくこととなる――。

ぞんびぃ・ぱにつく 〜アンタらは既に死んでいる〜

されど電波おやぢは妄想を騙る
SF
 数週間前、無数の巨大な隕石が地球に飛来し衝突すると言った、人類史上かつてないSFさながらの大惨事が起きる。  一部のカルト信仰な人々は、神の鉄槌が下されたとかなんとかと大騒ぎするのだが……。  その大いなる厄災によって甚大な被害を受けた世界に畳み掛けるが如く、更なる未曾有の危機が世界規模で発生した!  パンデミック――感染爆発が起きたのだ!  地球上に蔓延る微生物――要は細菌が襲来した隕石によって突然変異をさせられ、生き残った人類や生物に猛威を振い、絶滅へと追いやったのだ――。  幸運と言って良いのか……突然変異した菌に耐性のある一握りの極一部。  僅かな人類や生物は生き残ることができた。  唯一、正しく生きていると呼べる人間が辛うじて存在する。  ――俺だ。  だがしかし、助かる見込みは万に一つも絶対にないと言える――絶望的な状況。  世紀末、或いは暗黒世界――デイストピアさながらの様相と化したこの過酷な世界で、俺は終わりを迎えるその日が来るまで、今日もしがなく生き抜いていく――。  生ける屍と化した、愉快なゾンビらと共に――。

魔法少女ってマジカルなのか? ――で、俺、惨状? そんな俺は社畜ブサメン瓶底メガネキモオタク。愛と夢と希望をブチ壊し世界の危機に立ち向かう?

されど電波おやぢは妄想を騙る
SF
 極平凡で、ありふれた、良くある、日常の風景――。  朝起きて、準備して、仕事に出掛ける。  俺にしてもいつも通りで、他の誰とも何も変わらない――筈だった。    気付いた時には、既に手遅れだった。  運命の歯車が突如大きく、歪み、狂い、絡みあって――まるで破滅へと誘うかのように、今日、この日、たった今――目の前で動き出したのだ――。  そして俺は――戦うことを強いられる。  何故か――『魔法少女』として?  ※一部、改稿しました。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

呪いの三輪車――え、これホラー? いや、色々な意味で。

されど電波おやぢは妄想を騙る
キャラ文芸
 表題通り、大枠で合ってます。  ――何処が⁉︎(笑)  ある意味と言うか、色々違う意味でホラー。  作風に抑圧された筆者が、ギャグニウム補填と言う崇高な目的の為に晒している、筆者による筆者の為の筆者的気分転換な内容がないよう〜な怪文書、みたいな?  ふう。  そこ、笑ちゃうトコね。(-.-;)y-~~~  そして原則、全編ギャグです。  そして原則、全編ギャグなんです!  大事なことなので、二度記しておきます。  ま、サラっと読み捨てて下さい。(笑)  ふう。ここも、笑うトコね。(-.-;)y-~~~

処理中です...