上 下
139 / 154
第肆章 終りゆく、日常――メフィスト編。

佰肆拾参話 夢現。

しおりを挟む
 その一方で、そんな双子組の信頼、移動砲台組の心配、大好達の必死の抵抗などを余所に、俺は今、と~っても大変な事態に陥っていたり――。

「ん……何ぞ?」

 見渡す限りの黒い空間が延々と続く、言い換えると闇に等しく、深淵の底のような場所。

 生活騒音すら全く聴こえてこない、文字通りの静寂が辺りを支配する――そんな場所に俺は今現在、みたいなのだ。

 そんなケッタイな所で俺がナニをしてるかと言うと、俺と言う個体がユラユラと揺蕩っている感じなのな。

 見ようとして目を凝らすも、実際は自分の姿すら見えていない状態で、声を出しているつもりだが、反響は疎か耳に届きすらしないのだ。

 更に言うと、上か下か、右か左か、何処に身体が向いているのかすらも全く解らない。
 正しくは、解らないと感じているのかすら、定かではないのだ。


 なんと言うか……。
 五感で感じる、身体で感じると言う感覚では、絶対、有り得ない感覚。


 そんな解り易い感覚何ぞ、一切ない状況か状態に置かれているっぽいのだ。

 意識だけ切り取られ、俺と言う個体を第三者の感覚で漠然と認識してる状態?
 ファンタジーな感覚と言うよりは、最早ホラーなんだよ……。

 幸い思考だけはできるので、困惑しつつも必死に電波脳をフル回転して考えを巡らせる。


 だがしかし。
 答えが導き出される筈もなく――。


「やめやめ、考えても無駄なことはいくら考えても無駄ってな」

 口癖のようにいつも言っている持論を元に、いつか来るであろう転機の時をひたすら待つことにした。

 深淵の底のように真っ暗な場所で、ナニも感じず、どのくらい揺蕩っていたのか、正直、解らない。


 しかし、転機は唐突にやって来た。
 なんの前触れもなく――。


 意識だけで漠然と認識していたと思しき俺が、急に身体と接続した感じに襲われたのだ。
 つまり、五感が戻ったのだよ。
 更に言うと、深い眠りからいきなり目覚めさせられた感覚に等しい――。


「うっ――何ぞ、此処は?」

 そんな俺が目にしているモノ……違うな。風景とでも言えば合ってるのか。

 何処ぞの日本家屋から切り取ったかのような、純和室で畳敷きの一室。
 ご丁寧に白いちゃぶ台と座布団までも用意されてな?

 そんな場所に俺は独り、用意された座布団にポツリと正座して座っている?
 否、座らせられている?


 ――って、この状況、ナニ?
 意味不明過ぎてヘソで茶が沸かせるぞ?


「畳敷きの和室にちゃぶ台、更に座布団ときたか。昭和時代が懐かしい一室だよな。心が和むって言う点では……まぁ、良しとしておこう」

 正座して座っていた……違うな。やっぱり座らせられていた姿勢が正しいか。

 脚を胡座に組み替えて、ちゃぶ台に両肘を突いて顎下で組む。
 有名な某汎用人型決戦兵器が登場するアニメの某司令官が、劇中の其処彼処でやっていた某姿勢だな、うん。

「――死んでいる訳ではない。よな?」

 口調も真似して、不適切な笑顔で伊達眼鏡キラッ! で宣ってみる。

「さて、ノーリアクションっつーのが辛いが、壁も窓も一切なく、大空に揺蕩ってる和室って、ナニ? そこで暢気にモノ真似何ぞして寛いでいる時点で、俺も大概おかしいけどもさ……」

 そう。俺が居るらしい和室は有り得ないことに、大空のような空間のど真ん中に浮いて、あろうことか揺蕩っていたのだ!


 冷静に考えれば考えるほど、更に混沌としていく――。


「これで和風のタンスにパルス式の固定電話何ぞが設置されてよーもんなら、俺的聖典の一つ、何処ぞの世界はスマホと共にっつー創作モノのパクリぢゃねーか。俺ってば、神さまの手違いで死んだ何処ぞの高校生ですかってのっ! 見た目は青年だが中身はおやぢだっつーの!」

 細かい部分は微妙に違うのだが、そのアニメのような、誰も居ない妙な一室で、誰に言うわけでもなく、ひと通りツッコミで宣ったりしてみた。


 当然、何ぞな反応が返ってくる筈もなく――。


 辺り一面に拡がる青空――見渡す限り雲一つない碧い空が、この一室の周りに出現している。
 南国特有の暑い日差しが照りつけるほどで――。

 喩えるなら、空飛ぶ円盤……違うな。空飛ぶ和室、空中浮遊和室に等しい。つーかそのまんまなんだけども。

「あ~もう! 一体全体、ここ何処だよ! 状況が全く理解できんっつーの!」

 湿気を帯びた気持ちの悪い空気が俺を包み、ベタベタする肌触りの悪い生暖かい微風が、頬をぬっちゃっとしっかり撫でる。

 ちゃぶ台の上に乗っかる湯呑みからは、クソ暑い環境なのに、熱湯かよ! と思うほどの湯気が立ち上がる。

 更に湯飲みに注がれた青汁のくっさい香りが何ぞな嫌がらせかと思うほど、俺の鼻腔を刺激しまくりやがる――。

「――このリアルさ。絶対、夢や幻の類いではないな? そもそも現実世界な筈だし。とは言え、かなり怪しくなってはきてるけども」

 そう。紛れもなく現実であると疑う余地もないほどには、身を置く環境が俺の五感を刺激して主張しているのだから。

「突っ込んでたらキリがねぇのな。やっぱり、考えても無駄なことはいくら考えても無駄だ。疑問に思ったら負けだよ」

 異質極まりない妙な場所で、更に意味不明なオプションまでご丁寧に用意されている状況だと言うのに、例の台詞を宣いつつ全く動じない俺だったり。



 ―――――――――― つづく。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ドレスを着たら…

奈落
SF
TSFの短い話です

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

その幼女、巨乳につき。〜世界を震撼させるアブソリュートな双丘を身に宿す者――その名はナイチチ〜 ――はい? ∑(゚Д゚)

されど電波おやぢは妄想を騙る
ファンタジー
 たゆんたゆんでなく、ばいんばいんな七歳の幼女であるナイチチは、実はあらゆる意味で最強の盾を身に宿すシールダーだった。  愉快な仲間二人をお供に連れて訪れていた森の奥で、偶々、魔物に囲まれて瀕死に追い込まれていた、珍しい棒を必死に握り締め生死の境を息を荒げ堪えていた青年タダヒトの窮地を救うことになる――。

魔法少女ってマジカルなのか? ――で、俺、惨状? そんな俺は社畜ブサメン瓶底メガネキモオタク。愛と夢と希望をブチ壊し世界の危機に立ち向かう?

されど電波おやぢは妄想を騙る
SF
 極平凡で、ありふれた、良くある、日常の風景――。  朝起きて、準備して、仕事に出掛ける。  俺にしてもいつも通りで、他の誰とも何も変わらない――筈だった。    気付いた時には、既に手遅れだった。  運命の歯車が突如大きく、歪み、狂い、絡みあって――まるで破滅へと誘うかのように、今日、この日、たった今――目の前で動き出したのだ――。  そして俺は――戦うことを強いられる。  何故か――『魔法少女』として?  ※一部、改稿しました。

ぞんびぃ・ぱにつく 〜アンタらは既に死んでいる〜

されど電波おやぢは妄想を騙る
SF
 数週間前、無数の巨大な隕石が地球に飛来し衝突すると言った、人類史上かつてないSFさながらの大惨事が起きる。  一部のカルト信仰な人々は、神の鉄槌が下されたとかなんとかと大騒ぎするのだが……。  その大いなる厄災によって甚大な被害を受けた世界に畳み掛けるが如く、更なる未曾有の危機が世界規模で発生した!  パンデミック――感染爆発が起きたのだ!  地球上に蔓延る微生物――要は細菌が襲来した隕石によって突然変異をさせられ、生き残った人類や生物に猛威を振い、絶滅へと追いやったのだ――。  幸運と言って良いのか……突然変異した菌に耐性のある一握りの極一部。  僅かな人類や生物は生き残ることができた。  唯一、正しく生きていると呼べる人間が辛うじて存在する。  ――俺だ。  だがしかし、助かる見込みは万に一つも絶対にないと言える――絶望的な状況。  世紀末、或いは暗黒世界――デイストピアさながらの様相と化したこの過酷な世界で、俺は終わりを迎えるその日が来るまで、今日もしがなく生き抜いていく――。  生ける屍と化した、愉快なゾンビらと共に――。

処理中です...