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第肆章 終りゆく、日常――メフィスト編。

佰肆拾壱話 転機、其の弐。

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 目で追えないほどの高速で繰り広げられた、先ほどの一進一退の凄まじい戦闘。

 その間は全く手出しができなかったが為に、通風口に逃げ隠れ、やり過ごしていた移動砲台組だった。

 黒騎士との決着が付き、皆とメフィストに相対していた折、背後から狙撃して不意打ちしてやろうと画策していたアリサは、クモヨにコッソリ指示を出し動こうとする。

 だがしかし。
 行動に移そうとした矢先、突然起きた崩落に阻まれた挙句、必死で抗う羽目になってしまっていた――。

「ワタシ ニ マカセテ!」

 降り注ぐ瓦礫云々を、蜘蛛糸で作った盾で背中のアリサを護りながら、大きい下半身と言うハンデをモノとも苦ともせず、見事に防ぎ躱していくクモヨ。

He is so meanなのよ!!」

 この修羅場を作り出したメフィストに対して激おこのアリサは、ここに居ないヤツに対してコレでもかと罵声を上げつつクモヨを援護する!

 強力な俺的マスケット銃を所持しているアリサは、クモヨが躱しきれない大きな瓦礫などの落下物の対処――つまり、排除を担当した。

 不規則に落下してくる瓦礫は、外す筈もない大きな的なので、当然の如く百発百中だった。
 俺的マスケット銃で次々に粉砕して、クモヨを手伝うないし助けたりして確実に護っていく。

「フ、フフン!――フフン!」

 クモヨの後に続くスゥについても、ワンコ?姿らしい俊敏な動きで順当に躱していく。

 時には落ちる瓦礫を足場にしたりなど、立体的に難なく跳び躱していくスゥだった。

 その度に忙しなくクルクル動く兎耳は、謎生物ならではのモノで伊達ではなかった。

 騒音の中、確実に落下物全てを捉えて掌握しているらしく、未来予知かってくらい正確無比に確実に避けていく。

 なので、危なげなく対処していくスゥの身体に触れるモノは、一つもなかったり。

 ――そんな感じでやり過ごし、通風口に跳び込んだ移動砲台組のクモヨにアリサとスゥ達は、俺を助けたあと指示通りに通風口から繋がる別ルートで上階を目指す。

 狭い通風口を勘を頼りに進んでほどなく、崩落を免れた別の区画に出会した。
 なんとか無事に逃げ仰せることができたのだった――。

「フフン、フン」

 アリサとクモヨを交互に見やり、何ぞ鼻を鳴らすスゥ。

「ココハ アンゼン ト オッシャッテマス」

 スゥを見やりウンウンと頷いたクモヨ。
 背中のアリサに通訳っぽいことをする。

What's?どういうこと? スゥちゃんの言ってること解るのよ⁉︎」

 目を見開きクモヨに詰問するアリサ。
 会話の成り立たない動物と意思疎通っぽいことをしていたことに驚いた。

「イイエ ゼンゼン!」

 速攻、首と両手を横にブンブン、力一杯振って否定するクモヨは、消え入るくらいの小声で呟く。

「タダ ノ にゅあんす デス……」

Nuanceなんとなくだったのよ? あ~ビックリしたのよ?」

 複雑心理の妙な表情で苦笑いのアリサ。

 容姿が例え人外だったとしても、できる筈がないと思っていたアリサは、クモヨから理由を聞いて納得した。

 実はアリサ自身もスゥに対してそうだったからだ。

「ここは――一階の居住区なのよ?」

 気持ちを切り替え、通風口から外を見やるアリサ。

 流石に自身でこさえた研究施設が為に、出会した場所が一体何処なのか、瞬時に理解するアリサだった。

 とは言え、流石に通風口の配管までは熟知してはいなかったので、ここまで逃げ仰せるのには、結構、苦労した。

 見るに耐えない犠牲者らしき残骸などが、多数、横たわってはいるが、幸いなことに敵と思しき存在は姿が見えないし感じない。

「フフン!」

 周囲の警戒を怠らずにいたスゥも、通風口から見える区画の安全を保証するが如く、ドヤ顔で鼻を鳴らし、降りるように鼻先で促す。

 背中にアリサとスゥを載せているクモヨは、通風口から蜘蛛糸を垂らし、それを伝って静かに区画へと降り立った。

 それは最悪の場合、アリサ一人でも登って逃げれるようにとのクモヨの配慮だった。

 更に、万が一に備えて身を護る、かまくらのようなドーム型の一室を、降り立って直ぐに蜘蛛糸を練り上げて作り上げた。

「丁度良いのよ?」

 頑強さはアリサ救出時の降下作戦?で実証済なので、ここで僅かばかりの休息を取る移動砲台組だった。

「ハァハァ……」

 中に入ると十本の脚を小さく畳んで、肩で息をするクモヨ。
 かなり無理をしていた様子だった。

「ハァハァ……パパ ダイジョウブ カナ……」

 それでも人の心配をし、気遣う言葉を投げ掛けるクモヨ。

「義兄さんは……絶対、大丈夫なのよ? 潜った修羅場が違うって宣ってたのよ? だから安心するのよ?」

 持っていた俺的マスケット銃を肩に担ぎ、安心するようにと優しく諭す。

「フフン;」

 兎耳化した状態を維持しつつ周囲の警戒を続けるスゥも、クモヨを見ながら肯いた。

「アリサ達もクモヨのお陰で助かったのよ? 良く頑張ってくれたのよ? Thank youありがとうなのよ?」

 腰の可愛らしいポーチからハンカチを取り出したアリサ。
 クモヨの顔は、通風口を通った所為で煤と土埃塗れ。
 更に無理をさせて汗塗れだったのを、丁寧に拭いながら労いの言葉を掛ける。

 よっぽど疲れたのか、拭ってあげている内に眠りに落ちてしまうクモヨだった。

「――皆んなバラバラなのよ? スゥちゃん、皆んなの位置は解るのよ?」

 クモヨの頭をそっと撫でたあと、スゥに向き直るアリサは、皆の居場所について把握できるかどうかをスゥに尋ねる。

 ここに居るスゥは、ワンコ?の姿をした推定、謎生物と義兄さんは言う。
 更に、探知系においては、誰も右に出るモノが居ないエキスパートとも言っていた。
 自分が目にして体感した今、疑う余地もないほどに納得していた。


 なので、態々、のだ。


「フフン♪」

 クモヨの隣で索敵を続けていたスゥは、アリサに尋ねられると直ぐに兎耳レーダーをピンと伸ばし、思いっきりなドヤ顔で自慢げに鼻を鳴らした。

「Ok! 流石なのよ! スゥちゃんは頼りになるのよ? 少し休んだら皆で動くのよ?」

 意思の疎通ができたうえ、返ってきた態度に満足そうに頷く。

 スゥに抱きつきゲシゲシと撫でまくり、褒めてあげると同時に労ってあげた。

 スゥも嫌がらずに身体を預け、アリサにされるがままになっていた。

「クモヨもだけど、スゥちゃんもなのよ? 本当に Mysterious正体不明の Creature謎の生物なのよ? 本当にFantasy不思議なのよ?」

 洞窟温泉でのゲート調査の折、初めて目にしたスゥの本気モード。

 アリサが知っている世間一般の犬と言う動物から掛け離れ過ぎていて、正直に言うと怖かった、信じられなかった、有り得ないと動揺までした。
 更に解剖して中身を見てみたいとも思ったりした。
 それほどまでに異質極まりない謎生物だった。


 でも――今は違う。



「――帰ったら義兄さんと交渉なのよ? 絶対にアリサのモノにしてやるのよ? ベロは要らないけどケルもなのよ?」

 何ぞ不穏当な台詞を宣い、起こさないようにそっとクモヨの脚を握り、スゥの前脚を取って微笑むアリサ。


 その微笑みは――何ぞ良からぬことを企ててるアリサ特有の不適切極まりない微笑み。


 ここに知るモノが居ないがゆえに、誰もそのことに気付かないのだった――。


 研究施設に戻って調査報告書を纏めてると、突然やってきたおかしな子。
 その時から片時も離れず、ずっと側に居てくれた。
 そのことが、かなりの疑問だった。

 特に、緊急事態に陥った時も白衣の袖を急に引っ張り出し、スゥには知り得ない筈の庭園へと誘導したことも、不思議に思っていた。

 その疑問の全てが解決した。
 誰も気付いていない、忍び寄る害敵から護ってくれていたんだと。


 もしもあの時……側に居てくれなかったらと思うと寒気がした。


 だから今はそんな謎生物で良かったと、心より思っている。
 ずっと側に居て護ってくれていたスゥが、かけがえのない家族のように思えて仕方ない。


「本当にThank youありがとうなのよ?」

 そんなことを考えながらスゥを抱き込み、大切なクモヨに背を預けている内に、アリサは自然と眠りについた――。


 見た目通りの十歳らしい、あどけない寝顔で――。



 ―――――――――― つづく。
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