上 下
110 / 154
第参章 失いゆく、日常――秘密の花園編。

佰拾参話 義妹、其の弐。

しおりを挟む
「一応、確認するが……上が緊急事態になってるってのは知ってるよな?」

「当然なのよ? ……でも……ここからは離れられないのよ?」

「なして? エレベーターっぽいアレの所為か?」

 質問する俺を見ずに俯いて、妙に歯切れ悪く受け答えをするアリサ。


 何ぞ隠してるっぽい時に良くやる仕草だ。


「まぁいい。聴きたいことも山程あるが、とりまここは安全っぽいのか?」

「よっぽどでなければ……大丈夫な筈なのよ?」

「なら、落ち着いて話せる場所に連れて行ってくれ。クモヨもそうだが、あそこで笑い転げてる双子も見た目以上に疲れてる筈だ。最妃も怪我をしているし、少し休ませてやりたいんでな?」

「――えっ⁉︎ 大丈夫なのよ⁉︎ それを早く言えなのよ?」

 目を見開いて驚きの声をあげ、最妃の元へと一目散に駆け寄って行くアリサ。

 怪我を隠す意味でも何ぞ羽織らせてたからな……言わんと気付かんか。

「ハッ……」「フッ……」

 アリサと入れ替わるように、従僕二匹が俺の目の前にやって来る。
 そして正しいお座りで待機した。


 本気モードではない、普段通りの状態でも珍しく大人しい二匹。


「お前ら、なしてアリサと一緒にた? ――って、ヒトの言葉が喋れんお前らに聴いても結局は解らんか……。とにかくだ、急に居なくなるのは金輪際しないでくれ。ケルじゃあるまいし。……まぁ、無事で良かったよ」

 俺は二匹の前に蹲み込んで頭を撫でたあと、首根っこを掴まえてガッツリ抱き寄せた。

「ハッハ……」「フフン……」

 本気で心配してたのが伝わったのか、ベロは暴れず大人しく、珍しくスゥも嫌がらなかった。

 それどころか逆に心配掛けてごめんなさいと言わんばかりに、俺に身体を預け擦り寄ってくる始末。
 
「あー! パパ、ずっるーい! アイも抱っこする!」

 ワンコ?大好きアイが、そんな俺にナニやら憤慨なさっておいでだ

「ヘイヘイ。だとよ? アイの相手してやってくれ。……結構、心配してたぞ?」

 二匹の頭を撫でながら、アイのことを頼む俺。

「ハッハ!」「フ、フフーン」

 当然とばかりに鼻を鳴らして、アイの元へと走っていくベロに、フゥと溜息混じりにゆっくりとベロのあとに続くスゥだった。

「相変わらずの謎生物でナニよりだ。さてと……」

 振り返ってアリサと最妃の様子を見やると、何ぞギャーギャー喚くアリサを和やかな笑顔で往なす最妃が目に入る。


 実の姉っつーかさ、最早、お母さんと娘だよな……。


「アリサ。住居の方に行かんか? 忘れがちだからもっかい言うがな、施設は今、危機的状況なんだぞ?」

「――OK、解ってるのよ? ついて来るのよ?」

 最妃に戯れついて喚いていたアリサ。
 表情を引き締め返事をすると、最妃を連れ立ってレンガ通りを奥に進みだした。

 その際、首から下げられていたコスプレのペンダント――ソウルジェムってヤツな?――を掴み上げ、頭上に翳した。


 すると――。


 左右に有象無象に植えられている食虫植物っぽい何ぞは、蔓を引っ込めてアリサの邪魔にならないように再び道を開けていくのだった。


 アレって単なる飾りじゃねーっぽいのな?
 原理は知らんが……どうでも良いか、うん。
 機能の講釈が始まるとクソ長いからな……。
 あえてスルーしておこう。
 

「ほれ、移動すんぞ。アリサから離れると蔓に巻かれるぞ、多分」

「り、りょ!」「は、はーい」

 大慌てでアリサと最妃の後ろに駆け寄る未来とアイ。

「ハッ!」「フン!」

 ベロとスゥは、まるで散歩のように仲良く並んでアリサに続いた。

「ワタシモ……」「チュイン!」
 
 頭にリペアを載っけて、未来達のあとに続くクモヨ。

「全く……俺家族ってヤツは、相変わらずマイペースで危機感ナッシングだよな」

 最後に愚痴りながらの俺が、皆のあとに続いた――。



 ―――――――――― つづく。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ドレスを着たら…

奈落
SF
TSFの短い話です

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

その幼女、巨乳につき。〜世界を震撼させるアブソリュートな双丘を身に宿す者――その名はナイチチ〜 ――はい? ∑(゚Д゚)

されど電波おやぢは妄想を騙る
ファンタジー
 たゆんたゆんでなく、ばいんばいんな七歳の幼女であるナイチチは、実はあらゆる意味で最強の盾を身に宿すシールダーだった。  愉快な仲間二人をお供に連れて訪れていた森の奥で、偶々、魔物に囲まれて瀕死に追い込まれていた、珍しい棒を必死に握り締め生死の境を息を荒げ堪えていた青年タダヒトの窮地を救うことになる――。

魔法少女ってマジカルなのか? ――で、俺、惨状? そんな俺は社畜ブサメン瓶底メガネキモオタク。愛と夢と希望をブチ壊し世界の危機に立ち向かう?

されど電波おやぢは妄想を騙る
SF
 極平凡で、ありふれた、良くある、日常の風景――。  朝起きて、準備して、仕事に出掛ける。  俺にしてもいつも通りで、他の誰とも何も変わらない――筈だった。    気付いた時には、既に手遅れだった。  運命の歯車が突如大きく、歪み、狂い、絡みあって――まるで破滅へと誘うかのように、今日、この日、たった今――目の前で動き出したのだ――。  そして俺は――戦うことを強いられる。  何故か――『魔法少女』として?  ※一部、改稿しました。

ぞんびぃ・ぱにつく 〜アンタらは既に死んでいる〜

されど電波おやぢは妄想を騙る
SF
 数週間前、無数の巨大な隕石が地球に飛来し衝突すると言った、人類史上かつてないSFさながらの大惨事が起きる。  一部のカルト信仰な人々は、神の鉄槌が下されたとかなんとかと大騒ぎするのだが……。  その大いなる厄災によって甚大な被害を受けた世界に畳み掛けるが如く、更なる未曾有の危機が世界規模で発生した!  パンデミック――感染爆発が起きたのだ!  地球上に蔓延る微生物――要は細菌が襲来した隕石によって突然変異をさせられ、生き残った人類や生物に猛威を振い、絶滅へと追いやったのだ――。  幸運と言って良いのか……突然変異した菌に耐性のある一握りの極一部。  僅かな人類や生物は生き残ることができた。  唯一、正しく生きていると呼べる人間が辛うじて存在する。  ――俺だ。  だがしかし、助かる見込みは万に一つも絶対にないと言える――絶望的な状況。  世紀末、或いは暗黒世界――デイストピアさながらの様相と化したこの過酷な世界で、俺は終わりを迎えるその日が来るまで、今日もしがなく生き抜いていく――。  生ける屍と化した、愉快なゾンビらと共に――。

処理中です...