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第参章 失いゆく、日常――秘密の花園編。

佰漆話 追跡、其の参。

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 天井からスルスルと床に降り立つと、未来を優しく解放したのだった。

「嘘⁉︎ ――喋ったの!?」
 
 有り得ない事態に動揺し、目を見開いて驚く未来。
 解放されたと同時に、俺と最妃が居る方向へと後方回転で飛び退く。

 絡新婦のようなモノと未来の間に割って入った最妃は、左手のベレッタを突きつけ牽制する。
 
「パパ、ママ……怪人が喋った……」

 動揺するも草刈デスサイズ改を真一文字に構え、油断なく絡新婦のようなモノを見据える未来。

「なん……だと!?」

 俺の前まで後退り、声だけで告げられた驚愕の内容――喋った、だと!?


 つまり、知性があるって言うのか!?
 

「マッテ……クダサイ……」「な⁉︎」

 十本の脚で床に静かに立ち上がった絡新婦のようなモノ。

 ヒトと同じ姿の両手を俺的お至宝の前で祈るように組んで携えると、俺達を見やり懇願するような仕草で訴えてきやがったのだ! 

 「俺にもハッキリ聴こえた! 確かに喋った!」

 「私にも――一体どう言う事ですの?」

 声を耳にした俺と最妃は、絡新婦のようなモノを見やる視線に困惑を隠せない!

 少しイントネーションがおかしく、似非外人っぽい口調にも思えたが、それでも意味のあるヒトの言語で俺達に意思表示をしやがったのだ!

 しかもだ、仕草もヒトのソレでな!
 更に言うと、あざとい笑顔でな!


 下半身がアレもんじゃなければ、俺は眼福眼福とか何ぞと宣っているところだぞ!


「オハナシ……デキマスカ……」

 俺達三人を見やり、静かに懇願してくる絡新婦のようなモノ。

「敵意はない――そう受け取っていいんだな? 俺の言ってる意味は解るか?」

 壁に拘束されたままの俺だったが、代表で受け答えてみた。

 戦闘が回避出来るなら、ソレに越したことはない。
 意志の疎通ができるモノであれば、情報を引き出せないかと言う打算から。

 正直、折角の俺的お至宝な超絶美人さんを傷つけたくないと言うかな個人的意見もなきにしも非ずだがな。

「ムツカシイノハ……」

「あー。攻撃しない、襲わないってことで良いか?」

「ハイ……」

「なら、何故に俺と娘をこんな目に合わせた? 天井からぶら下がったまま、軽く声を掛ければ良かったんじゃね?」

「ア……」

「……全く。取り敢えず話は聴くから、俺と娘を助けてくれんか? 俺はあとで良いからさ? まずは娘から頼むわ」
 
 俺の前で油断なく見据える最妃と未来を他所に、拘束されているアイの側までカサカサと歩み寄る絡新婦のようなモノ。

 アイの側までくると綺麗なお顔をタコさん唇にして、絡みついている餅のような白いモノを吸い取っていく。

「い、いやぁ~、なんとなくだけど――いやぁ~」

 ズルズルと吸い取る様を間近で見せつけられたアイは、顔面蒼白にして身を捩っての謎の悲鳴をあげる。

 そんなアイに全く意にも介さず覆い被さって、淡々と作業を進める絡新婦のようなモノは、和やかな笑顔を崩さない。


 うーむ……不謹慎だが、微妙にエロい?
 ホラーには違いないがな?


「ママ~」

 ほどなく解放される半ベソ状態のアイ。
 最妃達の元へすっ飛んでくると、最妃の後ろに逃げ隠れた。
 頭だけ出して絡新婦のようなモノに向かってアカンベーをする。

「あらあら」

 そんな子供じみたアイをあやすように、髪を撫でる最妃だった。

 未来は二人を護る位置で、無言のままに油断なく見据えているのだった。

 作業を終えて、俺の元へやってきた絡新婦のようなモノ。
 壁をカサカサと登って俺に覆い被さると、アイと同じく絡み付いた白い何ぞを吸い取っていく。

 その際、下に落ちないようにだろうか?
 俺の脇の下に、ヒトと同じ華奢な腕を潜らせて支えてくれた。


 伝わってくる腕の感触何ぞは、正にヒトのソレで間違いなかったのだよ。


「俺はどっちかと言うと――なんとなく嬉しいかもだぞ?」

 アイに対して不適切な笑顔で何ぞ宣う俺は、密着するほどの至近距離で作業を始めた絡新婦のようなモノに好感を持ってたり。

 何ぞな獣臭いとか、虫臭いとかは皆無。
 こんな人外な身形でも良い香りがするんだからファンタジーだよな?

 更に言うとだな。
 スっ裸な超絶美人さんなわけで。
 当然、俺の位置から見やる景色は絶景そのモノ!


 ソレはもう、最妃には及ばないがアイに匹敵するほどに素敵だった!


 作業中に時々直に触れてくれちゃうもんだから、不覚にも癒されてしまったほどだからな。

 惜しむのは下半身がアレ……実に残念。
 本当に残念で仕方ないわ、うん。

「下半身は見ないようにすれば――」

「パパ……大概にしときなさいよ?」

「私も未来に同意ですわ――私の愛が足りないのでして?」

「アイも……ちょっと……パパにドン引きです」

 かなりあかんヤツ化の俺に対し、斗家美女軍からブーイングの嵐。
 皆が皆、呆れた顔で俺を見やる。
 絡新婦のようなモノに警戒は怠らずにな?

 ほどなく拘束を解かれた俺は、華奢な両腕に抱かれ、柔らかくも冷んやりしている俺的お至宝に顔を埋められて、そのまま静かに床に下ろされる。

 ここまでしてもらって、不適切な笑顔で御満悦の俺は、当然の如く警戒心皆無だよ。

 そんな俺の周りに皆が集まってくる。

 俺を床に下ろしたあと、絡新婦のようなモノはやや後退り、十本の脚を畳んで床に落ち着く。

「ゴメンナサイ……」

 皆を一瞥すると、満面の笑顔を作り謝罪の言葉と頭を垂れた。

「ま、その姿ではな……。話掛けても攻撃を仕掛けてくるか、逃げ出すかだろう。真面に意思疎通を試みたくても、正直難しいだろうな。実際に俺達もそうだったし……こちらこそ、すまんかった」

 俺も俺的お至宝をガン見するも、不適切な笑顔は改めて、真摯な態度で謝罪と頭を下げた。

「ナニよ……」

 そんな絡新婦のようなモノに警戒したままで、俺の隣に立つ未来は少しバツの悪そうな顔になる。

 最妃とアイは警戒は解かないものの、絡新婦のようなモノと俺の間に入ると一応だが頭を下げた。

 アイの肩の上に載っているリペアは、鼻を鳴らしつつ見やっていた。

「最妃にアイ、未来もだ。そんなに警戒してやるな。俺が言うのもなんだが、そんな悪いモノでもなさげだし。人外だろうとナニであろうと、対話で済むなら願ったりだ」

「彼方がそう仰るなら……私はよろしくてよ?」

 俺の意見に素直に従い頷いた最妃は、ベレッタを脇のホルスターに収めながら俺の隣に戻ってくる。
 俺の腕を取り、俺的超お至宝の間に埋めて無言で何ぞかを訴えた。

「アイは……うーん……嫌な気配は感じないけど……うーん……」

 アイは複雑心理なのか、何ぞな百面相をしながら、最妃と並んで俺の隣に戻ってきた。


 だがしかし――。


「ボクは……」

 未来だけは、草刈デスサイズ改を横真一文字に構えて警戒を解かず睨んでいた。


 ―――――――――― つづく。
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