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第参章 失いゆく、日常――秘密の花園編。

佰参話 予兆、其の参。

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 蹌踉めいて揺れながらも、開いた大口から強酸何ぞを手当たり次第に撒き散らす蜥蜴のようなモノ。

「当たらなければ、どうと言うことはないってね!」

 無駄な動きが徐々になくなり、躱す速度も尋常じゃなくなっていく。
 
 距離を詰めれば詰めるほど、強酸何ぞが到達する速度も速くなるのに、舞い上がる飛沫の一滴までをも躱しきり接敵していく未来。


 まるで……予測して避けているかのように――。


「お、お姉ちゃん?」

 急に有り得ない動きを見せる未来に驚愕するアイ。
 動きが益々加速していく未来に、目を疑わずには居られなかったようだ。


 更に加速していく未来は、遂に正面に辿り着いた。


 そして――。


「テメェは……ボクを、に怒らせた」

 たった一発の左拳を、気負うことなく自然体で放った。

 大暴れの蜥蜴のようなモノを顎下から、ただ殴り飛ばしただけのように見えたのに、威力があり得ないほど凄まじかったのだ。


 頭から宙に浮き上がり、後方一回転でひっくり返り地鳴りを上げて床に叩きつけられた蜥蜴のようなモノ。


「GYAGYA!」

 俺的麻酔弾が効いている筈なのに、倒れた直後にまたも掻き消えて姿を眩ました。


 その直後だった――。


「――無駄よ。見えてるから」

 ナニもない空間を左拳で殴りつける未来。


 その場に突如として姿を晒す蜥蜴のようなモノの角を、左拳で弾いたのだ!


「GYAGYAGYA!」

 横から殴り飛ばされることで頭をズラされ、あらぬ方向へ突進しつつ再び掻き消える蜥蜴のようなモノ。


「――まじか」

 あれほどに重量の在るモノを簡単にひっくり返したことにも驚いたのだが、それ以上に未来が呟いた有り得ない言葉に驚愕してしまった。


 ――見えている……だと?


「き、急にどーしたの!? お姉ちゃーーえ!?」

 一足跳びに未来の隣りに舞い降りるアイ。

 俺同様、理解できない動きに疑問を投げ掛けた瞬間、言葉を失う――。


 いつも見ている未来の顔ではない。
 魔王のように怒り狂った顔でもない。


 碧眼だった未来の右目だけが、アイと同じ紅眼に変わっていたのだった――。


 その紅い眼の瞳孔は猫の目のように縦に細く、揺ら揺らと燃え盛って言い知れぬ禍々しさを放ち出していた。


 嫌な汗が頬を伝うほどの威圧と、言葉を失うほどの重圧を纏って……。


「来るよ、アイ」「お、お姉ちゃん!?」

 静かに言い放つと、アイの脇を抱えて跳躍した未来。

「GYAGYAGYA!」

 二人揃って宙高く浮き上がった直後、真下を猛突進してくる禍々しい角が通り過ぎる!

 壁際で反転する蜥蜴のようなモノ。
 頭を低くして禍々しい角で掬い上げよう構える。
 そして着地して体勢を整える二人に踵を返して、再び禍々しい角が猛突進で追い迫る! 

「ママとアイを傷つけた――そして、パパを哀しませた。それが、どれほどの大罪かを思い知らせてやんよ」

「お、お姉ちゃん!?」

 床の残骸を巻き上げ、二人に目掛けて猛突進を掛けると容赦なく角で穿つ!

「パパのお陰かな、動きが遅く見える」

「絶対に違うから! おかしいから!」

 どうやら未来は自身の異常さに気付いていないようで、俺的麻酔弾のお陰だと思い込んでいるようだった。

 静かに呟いたあとで身を捻って躱しながら、禍々しい角に目掛けて反撃を繰り出した未来。


 右腕の俺的パイルバンカーで禍々しい角を正確に穿った!

 杭は固定したまま自身の破壊力の全てを載せた杭の先端部、つまり『面』ではない『点』で、破壊力が凝縮された一撃を喰らわしたのだ!


「GYAー! GU――」

 一点に凝縮された凄まじい衝撃を角に受けて頭から床につんのめり、仰向けにひっくり返って床を滑っていく。

「逃がさない」

 追い掛けるように跳躍した未来は、起き上がって来た蜥蜴のようなモノの角に、先ほどの一撃と同一の箇所に寸分違わず俺的パイルバンカーを穿った!

「GYAFU」

 凄まじい威力で上から押さえつけられ、床に平伏させられる蜥蜴のようなモノ。

「まだよ、まだ、足りない」

 そのまま蜥蜴のようなモノの頭上で宙返り、右腕の俺的パイルバンカーの先端部を打ち落とす!

 更に宙返り反対の左拳も打ち落とし、再び宙返りで重い蹴りまで放った!


 しかも、寸分違わず全く同じ箇所に次々と打ち落としていく!


 余りの破壊力に頭が下半分、床に埋まる蜥蜴のようなモノ。
 それでも角が折れるどころか頭すら潰れない。

「お、お姉ちゃん……本当にヒト、なんだよね……」

 アイは、未来の寸分違わず角に穿たれる正確無比な連続技を見せられ、その凄まじい技量にも驚嘆していた。


「お姉ちゃん、アイも負けない!」

 未来が蜥蜴のようなモノの前方へ跳び退いたと同時に、アイは一束跳びに跳躍すると角に取り付き跨った。

「てぃやー!」

 伐採ヒートホークを加熱させて打ち下ろし、未来と寸分違わず同じ場所を溶かし斬ろうと叩きつける!

「アイ、邪魔。叩き折るから、ちょっと退いて」

「お、お姉ちゃん?」

 横たわった蜥蜴のようなモノの頭に跨って、何度も伐採ヒートホークで叩き斬っているアイの元へ、俺的パイルバンカーを携えた未来が歩み寄る。

「この角だけは……ボクが貰っておく」

 今まで、散々、穿ち続けた角。
 寸分違わず全く同じ場所に、俺的パイルバンカーを穿った!


 その瞬間――。


 根本から叩き折られ宙を舞ったあと、床にズシリと落ちるのだった――。



 ―――――――――― つづく。
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