上 下
93 / 154
第参章 失いゆく、日常――秘密の花園編。

玖拾陸話 怪獣、其の参。

しおりを挟む
「いけません!」「未来、アイ!」

 叫びながら跳躍し、二人を突き飛ばした最妃!

 俺も猛突進する蜥蜴のようなモノの注意を逸らし、狙いを俺に向けようと俺的ドラグーンを打っ放したが、硬い鱗に簡単に弾かれてしまった。

 蜥蜴のようなモノは意にも介さず、最妃に入れ替わった場所へと迫った!

「くっ!」「最妃――!」

 二人を突き飛ばすのが精一杯で躱せなかった最妃に、禍々しい三本の角の内の一本が容赦なく突き刺さる!

 左肩を貫かれたまま頭上高く宙に放り投げられ、霧揉み状態で肩から床に叩きつけられてしまう!

「GURU GURU……」

 呻きを上げつつ起き上がろうする最妃に目掛け、踵を返し猛突進して迫る蜥蜴のようなモノ!

「やらせるかーっ! 間に合え、俺ーーっ!!」

 俺は必死に駆け寄り全身全霊を掛けて跳び込んだ!

 最妃を抱え込み身を捻って俺の背中を角に向ける。
 万一、角が刺さっても俺が受け止めるつもりだ。

「どわぁーっ!」

 間一髪、走った勢いのまま床を滑る二人の横を、蜥蜴のようなモノの禍々しい三本の角が通り過ぎた。

「GU……GU……」

 蜥蜴のようなモノの猛突進は空振りとなり、そのまま壁に突っ込んで三本の角が突き刺さる!
 頭半分まで埋まって抜けずに踠く蜥蜴のようなモノ。

「む、無茶をなさり過ぎですわ、彼方」

「馬鹿嫁ーっ! 無茶はお前の方だつーのっ! 間一髪で間に合ったから良かったけどな、最悪、怪我どころか死んでたんだぞっ!」

 軽く叱咤してくる最妃に俺は怒号で叫び返す。

「も、申し訳御座いません、彼方」

 俺の怒号の叫びに対して気丈に振る舞った最妃。

 ダラリと下がる右腕。
 右肩を押さえる左手は震えて、苦痛に苛まされているのが痛いほど俺に伝わった。

 角で刺し貫かれた右肩は出血で真っ赤に染まり、肉が捲れ上がって鎖骨が露出するほどに酷かったのだ。
 抉られた右肩が殆ど欠損しているくらいに……だ。

 それでも微笑みを崩さずに俺に最妃は謝罪を述べた。

「最妃、謝るのは俺の方だよ……。俺が不甲斐無いばかりに無理ばかり……すまん」

 そんな最妃に俺は謝るしかでじなかった……。

「彼方……でも、私は……皆を……彼方達をここで失うのでしたら私は……私は――」

 俺の腕に抱きかかえられた最妃は俺を見やると、何ぞ覚悟した言葉を告げて唇を重ねてきた。

「私の彼方、二人を……お願い致します」

 そして、とても優しい和やかな笑顔を見せたあと、妖艶な冷笑を携えて急激に気配が変わっていった――。

 魔獣のような禍々しい気配を放ち出し、澄みきった碧眼が徐々に禍々しく縦に細くなると、深淵の地獄のような真紅に染まり始めた。


 因みに効果音はゴゴゴゴって感じでな?


 皆の為に覚悟を決め、何ぞやらかそーとするのは解る……。


 だが、俺はやらせない!
 何ぞであろうと断固阻止!


 万一、誓約か何ぞで大切な最妃を失うくらいなら、俺はナニがあっても絶対に最妃にやらせはしない!


 絶対に誰にも渡さねーし、何処にも逝かせねーよ!


「最妃。それ、あかんヤツ!」

 俺は不適切な笑顔で俺的超お至宝の山頂にある桜桃を摘んだ。

「あふっ♪」

 妙な声を上げて気配が霧散すると普段の最妃に戻る。

「まだ、手はある! 早まるな、馬鹿嫁っ! それよりも怪我だ! 未来達を連れて一旦引く!」

 キョトンとして顔を赤らめた最妃に俺は言い放ち、お姫様抱っこをして重々しい扉の前まで駆け戻った。

「直ぐに治療するから、絶対にじっとしてろ、な? 絶対に、絶対だ! 早まったことだけは絶対すんな! 嫌だぞ俺! 最妃の居ない世界なんざ絶対に嫌だ! 未来とアイの回収に行くけど、絶・対・にだぞ!」

 そっと降ろした最妃にしつこく必死に釘を刺す俺。
 何ぞ言い返そうとしたが、唇を重ねて黙らせてもやった。
 更に最妃の両方の頬っぺたを摘み、軽く引っ張って続ける俺。

「たかが大きくて見え難くて、クソ速く動いて舌が伸びて、角で突く攻撃をする硬いだけの蜥蜴だ! 最妃や未来にアイまでもが手も足も出ない強敵でも、俺が指先ひとつでダウンさせてやる! 何ぞでもするから! まだまだ、い~っぱい、い~っぱい構って欲しいんだ、俺は!」

 冗談めかして最妃に宣う俺に、クスッと笑った最妃。

 いつも通りの和やかな笑顔に戻って安心した俺は、そっと唇を交わして急ぎその場をあとにした――。


「GU……GURU……」

 大急ぎで区画に戻った俺は蜥蜴のようなモノ見やる。

 幸いにも先ほどと同じ状態のままでいてくれた。
 勢い余って壁に突き刺さった角が抜けずに、引き抜こうと必死にのたうち回って踠いていた。

 攻撃するには絶好の機会なのだが、最妃の怪我の治療と二人の方が今は大事なのでスルーだ!

 この隙に未来とアイを探して見つけた俺は、蜥蜴のようなモノを横目で警戒しつつ二人の元へと駆寄った。

 パッと見は外傷はなかったが、二人共気絶している。

「未来、無事か?」

 倒れていた未来に駆け寄って、先に助け起こす俺。

「ボ、ボクはなんとか……。アイとママに助けられたよ。アイは……無事? ママ……は?」

 頭を振り頬を打つ未来は、俺に容態を尋ねてきた。

「なんとか無事だ」

 生身で尻尾を受けて、気絶と朦朧だけで済むとはな……。
 流石は最妃の血を引く俺娘の未来だと思うよ。

「アイ……クソッ!」

 次にアイを助け起こす俺は、あまりの酷さに顔を顰めてしまった。

「うぅっ……パパ……」

 未来を庇い背中を強打した上で壁を滑ったのだ。
 その所為で俺的ライダースーツは破れてはいないが、摩擦熱か何ぞで真っ黒に擦り焦げてしまっていた。
 助け起こした限りでは、外傷等は見受けられない。
 意識もあるが呻いて自由に動けないみたいだった。
 中身の何処ぞがやられた可能性も否定できない。

「チュイーン;」

 リペアもアイから降りて、床に二足立ちのまま前脚を垂らし、心配そうにアイの顔を見上げていた。

「未来。ここは一旦、引く。急いで防壁の所まで戻るぞ。くり抜いた穴は大人一人がやっと通れる程度だ。ヤツのあの巨体で通るのは流石に無理だろう」

 俺は蜥蜴のようなモノの動向を監視ししつつ告げた。

 未だ壁から角が抜けずに踠き暴れてはいたが、角が刺さった壁周辺が黒い煙を上げて、徐々にだが何ぞ知らんが溶けて崩れ始めてきたのだ。


 もう間も無く抜け出してくるのは間違いなかった。


「とにかく急ぐぞ、未来」

「りょ、パパ」

 お姫様抱っこでそっとアイを抱き上げた俺は、最妃の待つ重々しい扉の前に未来を伴って退避する。

「チュイン」

 リペアは未来の肩に載ってアイを心配そうに見やる。

 横目で監視しつつ、急いで扉を潜って奥に逃げ込む俺達。

 右肩を押さえ出迎えた最妃と重々しい扉奥で合流し、地下二階層と三階層の間にあった踊り場まで戻ることとなった――。



 ―――――――――― つづく。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ドレスを着たら…

奈落
SF
TSFの短い話です

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

その幼女、巨乳につき。〜世界を震撼させるアブソリュートな双丘を身に宿す者――その名はナイチチ〜 ――はい? ∑(゚Д゚)

されど電波おやぢは妄想を騙る
ファンタジー
 たゆんたゆんでなく、ばいんばいんな七歳の幼女であるナイチチは、実はあらゆる意味で最強の盾を身に宿すシールダーだった。  愉快な仲間二人をお供に連れて訪れていた森の奥で、偶々、魔物に囲まれて瀕死に追い込まれていた、珍しい棒を必死に握り締め生死の境を息を荒げ堪えていた青年タダヒトの窮地を救うことになる――。

魔法少女ってマジカルなのか? ――で、俺、惨状? そんな俺は社畜ブサメン瓶底メガネキモオタク。愛と夢と希望をブチ壊し世界の危機に立ち向かう?

されど電波おやぢは妄想を騙る
SF
 極平凡で、ありふれた、良くある、日常の風景――。  朝起きて、準備して、仕事に出掛ける。  俺にしてもいつも通りで、他の誰とも何も変わらない――筈だった。    気付いた時には、既に手遅れだった。  運命の歯車が突如大きく、歪み、狂い、絡みあって――まるで破滅へと誘うかのように、今日、この日、たった今――目の前で動き出したのだ――。  そして俺は――戦うことを強いられる。  何故か――『魔法少女』として?  ※一部、改稿しました。

ぞんびぃ・ぱにつく 〜アンタらは既に死んでいる〜

されど電波おやぢは妄想を騙る
SF
 数週間前、無数の巨大な隕石が地球に飛来し衝突すると言った、人類史上かつてないSFさながらの大惨事が起きる。  一部のカルト信仰な人々は、神の鉄槌が下されたとかなんとかと大騒ぎするのだが……。  その大いなる厄災によって甚大な被害を受けた世界に畳み掛けるが如く、更なる未曾有の危機が世界規模で発生した!  パンデミック――感染爆発が起きたのだ!  地球上に蔓延る微生物――要は細菌が襲来した隕石によって突然変異をさせられ、生き残った人類や生物に猛威を振い、絶滅へと追いやったのだ――。  幸運と言って良いのか……突然変異した菌に耐性のある一握りの極一部。  僅かな人類や生物は生き残ることができた。  唯一、正しく生きていると呼べる人間が辛うじて存在する。  ――俺だ。  だがしかし、助かる見込みは万に一つも絶対にないと言える――絶望的な状況。  世紀末、或いは暗黒世界――デイストピアさながらの様相と化したこの過酷な世界で、俺は終わりを迎えるその日が来るまで、今日もしがなく生き抜いていく――。  生ける屍と化した、愉快なゾンビらと共に――。

処理中です...