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第参章 失いゆく、日常――秘密の花園編。

陸拾参話 悪戯、其の弐。

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 流石だ……。好き君……。
 優しき心……。

 我は愉快……。少し譲渡……。
 対価不要……。

 代わりに……。誓約……。

 愉快な君……。悪戯……。程々に……。
 愉快愉快……。我は共に……。
 好き君……。幸あれ……。


「――義兄さんなのよ? 最妃姉さんなのよ? 着いたのよ? 起きてなのよ?」

 アリサに身体を揺さぶられ起こされる俺。

「やっと……着いたのか……ふぁあ」

 俺も背筋を伸ばして欠伸しつつ、大きく背伸びをする。

「あら……あらあら……。もう着きまして?」

 最妃は俺よりも先に起こされたようだったが、目頭を擦りながら欠伸をし、未だ呆けている。


 何ぞ? 最妃にしては本当に珍しいのな……まぢに疲れてんのかね?


「ん。おっは、最妃。めっさめさ寝顔が可愛いかったぞ~」

 珍しく呆けている最妃が面白かったので、俺的超お至宝の山頂を軽くツンツンと悪巫山戯。

「ちょっとちょっと、義兄さん⁉︎ Nasty face不適切なエロい顔なのよ?」

「あ痛っ! 否定はせん」「否定しろなのよ?」

 呆れ顔のアリサからデコピンされてしまったが、今、最高にご満悦の俺は全く気にしないのだ!


 アリサ的痛自家用ジェットから滑走路に降りる俺達は、そこから目に入る外の景色に唖然としてしまった――。


 季節は秋だと言うのに、夏のような蒸し暑い気候。

 夏特有の分厚い雲がチラホラと見える、見渡す限り広く碧い空。

 その向こうには地平線がくっきりはっきりと見える、澄み切った碧い海も広がっていた。

 滑走路周辺を覆い隠すかの如く鬱蒼うっそうと生茂る樹々達は、密林のジャングル的様相そのままの姿だったのだ――。


 どうやらここは、何処かの南海に浮かぶ島らしい。


 そんな中、かなり離れた丘の上にそびえ建つ、場違いな雰囲気を醸し出している超近代的な建物。

 極最近に建てられたかのように真新しいそれは、アリサ所有の研究施設――、


 秘密の花園であった。


「温泉? 秘湯? この場所の何処がだよ! どう見たってな、隠れ家的秘密基地まんまじゃねーかよ! 最早、嫌な予感しかしねーよ!」

 俺はアリサ的痛自家用ジェットから降りるなり、あまりにもお約束的な様相につい叫んでしまう。

「あらあら」

 俺の腕に寄り添って一緒に降りた最妃は、南国特有の気候に風景が満更でもないようで、和やかに微笑んでいた。

「喧しいのよ? ちゃんとあるのよ?」

 俺達に続いて降りて来るアリサが、俺のツッコミに仏頂面になりながらも、真新しい建物のある場所の隣を指差して反論してきた。

「広~いね~♪ 綺麗だね~♪ 凄~いね~♪ ね、ね、ね、お姉ちゃん! あとでさ、探検とかしよ~よ!」

「りょ! ここはまさに南国の秘境! ボクも胸が躍るね!」

 続いて降りる双子組は相変わらずなノリ。
 頭の後ろに両手を回して降りてくる未来を、満面の笑顔で服の裾を引っ張って急かすアイ。


 胸が躍るだと? 
 何処にそんな立派なモノが付いてるんだ、未来? 


「ハーッハッハッハ!」

 ベロは速攻で昇降機から跳び降りると、広い滑走路へと大慌てで逃げ去っていった。

「フンッ」

 スゥはやや面倒臭そうにダラダラと昇降機を降りてくる。

「――ウォン!」

 ケルはアリサ的痛自家用ジェットから降りる前に耳を立て、鼻を鳴らし周囲を確認すると軽くひと吠え。

 ゆっくりと昇降機を降り、昇降機の横に並ぶ俺達の面倒を見てくれていたメイドさん達一人一人に、丁寧にお礼の会釈をしていく。

 そんなケルの仕草に目を丸くして驚いていたメイドさん達は、慌ててお辞儀を返していたり。


 ケルよ……お前だけは中に謎生物何ぞが詰まってる着ぐるみと断定して問題なさげだわ、うん。


 そんな感じで皆が其々に気楽に振る舞っていると、国賓待遇もビックリな国家の要人御用達、ドイツが誇る黒塗りの高級外国車が数台、俺達を迎えにやって来た。

 高級外国車に乗り込んで秘密の花園に直ぐに向かうかと思いきや全く逆の方向へと走り出した。


 アリサが指差した秘湯がある方へ。


 ほどなく、目の前に現れる貴族の屋敷も驚きの庭園のような広い場所。
 南国特有の花何ぞが咲き乱れ、独特の香りが辺りを包む。

 そこに降ろされた俺達。

 少し歩いて奥に進んで行くと、洋館のような外観の建物に行き着いた――。

「ここなのよ? 斗家に貸し切りなのよ? 滞在中はここに宿泊するのよ? アリサの別荘なのよ?」

「え~!?」「ちょ⁉︎ 嘘でしょ!?」

「あら? あらあら」

「ウォン!」「ハッ!」

「フ~⁉︎ フンッ;」

 その洋館は、真新しい建物とは真逆の様相であった。

 不気味極まりない雰囲気を醸し出す古びた洋館は、平たく言ってもホラーハウスのそれだったのだ!


 つまり、お化け屋敷に等しい。


 鬱蒼と生茂るおびただしい数の蔓草つるくさに外壁は囲まれており、花壇にはデカい食虫植物が植えられているときた。

 その横には、やはり夥しい数の何ぞかの白骨までが、無節操に積み上げられている。

 そして屋根の上には烏丸カラスのような怪しげな鳥共がたむろって、喧しく鳴いていたり。


 更に、洋館の入口である禍々しい扉には――、


『Otherworldy? Bring it on! Fantasy? Bring it on!』


 と、英語で書かれた張り紙で封印されていた。
 勿論、アリサの直筆で、だ。
 書かれた内容を翻訳すると――、


 『異世界上等! 不思議上等!』だな。


 禍々しい雰囲気を醸し出す古びた洋館を見やり、顎が外れんばかりに唖然として茫然自失の斗家ご一行。

 特にスゥは、こーゆーホラー的なのが大の苦手で、俺の直ぐ後ろに速攻で隠れて怯えまくっていた。

「――ちょっ、アリサ⁉︎ 何ぞ出そうな雰囲気のコレ、ナニ? 大概なお化け屋敷の洋館まんまじゃねーか⁉︎」

「喧しいのよ? アリサの趣味なのよ?」

 この怪しさ炸裂の洋館に、俺家族は暫く滞在することになるわけだ……。


 もうね、まぢで嫌な予感しかしねーよ!
 ナニこの趣味?
 張り紙で封印する意味も、書いてある内容も意味不明だよ! 
 ちょっと会わない内に、一体、ナニが起きたんだよ! 
 毒電波は大概にしろ!
 こんなん、まぢにホラーじゃねーか!


 電波過ぎる俺義妹に、元祖電波な流石の俺も頭痛が痛いのであった――。


 禍々しい扉を封印しているとしか思えない張り紙を、勢い良く破って剥がすと中にしれっと案内するアリサ。


 何故か、してやったりの満ち足りたドヤ顔でな?



 ―――――――――― つづく。
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