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第壱章 崩れゆく、日常――遭遇編。

弐拾伍話 回帰、其の漆。

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 俺がヤツと戦かっている最中、置かれていた環境。


 異様な気配が漂い、妖しく浮かんだ紅い月に、ヒト払いされた妙な空間だな。

 こーゆー展開はアニメやラノベの創作だと、大概はラスボス的別空間とか並行空間とか、時空の狭間とか……そんなファンタジーな異次元空間が基本となる。


 だがしかし――。


 ここは現実世界であり、現代社会だ。
 現代科学的な理論では、到底、無理な話なんだよ!


 少し怪しくなってきてはいるけども、それでも現実世界において、異次元などと言う眉唾なモノは、創作かフィクションの中だけだ!

 結論から言うと、現実に起こった、もしくは起こした悲劇何ぞは、嘘偽りなくありのままに、現実社会に影響を及ぼしてしまう――痕跡が残ってしまうってわけだ。


 だから、俺的電波解釈での見解は、こういう風になる――。


 敵が集団勢力と仮定して考えた場合、恐らくオーパーツ的何ぞかを用いて、その場を閉鎖か隔離状態に近い状態にしていた、だ。


 ただ、実際に現れ暴れたのはヤツのみで、追撃や増援もなかった。
 それらを踏まえたうえで、この可能性はナッシング。


 だとすると、ヤツが単体で引き起こしたと仮定できる。


 あのけったいなモノから発せられる何ぞ、聴き取れない雄叫びや滲み出る何ぞとか。

 あの嫌な空気つーか、気配っぽい何ぞもそうだ。

 簡単な例えだと、虫除け剤とか蚊取り線香。
 散布したり点けたりすると、害虫とか蚊とかが寄って来なくなるアレだな。
 闇夜に紅い月何ぞについては、それらに付随する幻覚効果的な何ぞだろう。


 そう言った非常識な方法を用いて、一時的にヒト避けをしていたってことが推測できる。


 未知の敵故に、当然、詳細何ぞは全く解らない……解る筈があるまい。


 俺的電波理論では、単体説の方が可能性が高いって思っただけだ。

 その俺的推論がだ、少しばかり的を射ていたってだけだろうよ。

 この状況から見ても、大きく的外れってことでもないだろうしな。

 それでもだ、大概、SFかファンタジーだよ、全く。
 俺とアイシャだけでも、存外、ファンタジー過ぎて理解できんっつーのにな?

 有り得ないことが有り得てるこの状況で、電波脳をフル稼動させ考察しまくった挙句、推論に無理矢理ひと段落つかせてやった俺。

「やっぱ美味いわ~、俺幸せかもしれない」

 キッチリ現実逃避も忘れない。
 最妃の手料理でカロリーを補給する。

「あ!」

 風呂から上がって来た未来が目に入ると、アイシャが大慌てで特番ではなく、普通の歌番組にチャンネルを変えた。
 

 どうやら未来に気を遣ってくれたようだった。
 中々に器用なやっちゃな?


 俺の横にトコトコ歩いて来た髪を下ろしたバスタオル一枚で簀巻きの未来。

 無言で持っていたタオルを俺に突き付けると、後光が差すほどの天使の笑顔で俺を見やる。

 そして、何故か手に持つドライヤーとブラシのセット……。


 無言でジッとな?
 可愛いけどナニ気にホラーだぞ。


「へいへい。そこな椅子に座ってくれたまへ、未来」

「あらあら~。甘えん坊さんね、未来は」

「もう、みっちゃんとか、みーたんとかでよくね? 小学生っぽいあだ名で?」

「む~!」

 いつもなら怒涛の勢いで反論してくる未来。

 向かいの席を俺の横まで引っ張ってきて、頬っぺたを膨らませたままでちょこんと座るだけ。


 どんだけ寂しかったんかっつーの。
 俺、愛されてんのな……有難う、未来。


「あらあら~。彼方が盗られちゃいましてよ~」

「ナニ言ってるんだか、最妃まで」

「私も――お願いしたく思います、よろしくて?」

「ハイハイ、お好きに」

「オホホホ~」


 お前らさ、ホントそっくりなのな?
 俺、今帰ったばっかりやぞ? 解って下さる?


 カロリー補給を中断して未来の濡れた髪を、持ってきたタオルでゲシゲシと拭いて、ドライヤーとブラシで丁寧に乾かしていく。

 大人しく座って両脚をプラプラと揺らし、されるがままに乾かされるご機嫌な未来。

 そんな事をしながら、いつも通りの家族に、文句も言うがほっこりな気分にさせられる俺。

 ただ、アイシャを蚊帳の外にしてるようで、申し訳ない気分になってきた。

 気になった俺は、歌番組を観ているであろうアイシャに、声を掛けようと横目で見やる。

「えーと、アイシャ……ナニしてんのかな~?」

 ソファーーに座ってたと思ったら直ぐ横に居たアイシャ。

「否定。羨ましくない。羨ましくない」

 若干目を潤ませて、構って下さい的仔犬の顔で、こちらを無言でジッと見つめていた……ブラシを手に持って。


 何処ぞの金融機関の宣伝に出てくる、何ぞなチワワですか?


「――へいへい。未来終わったらな」

「ありがとうございます」

 聴くな否や、未来と瓜二つの天使の笑顔になる、元俺的素敵サイクルで謎な電波微笑女っぽい、アイシャだった。


 ホント、なんなんだろうねアイシャは?
 ヒトなのか人外なのか。


 ま、最妃じゃないけど別に良いけどな。
 ナニモノであっても可愛いは正義、バッチ来いだ!
 そこは俺的にナニモノであろうと不変だ!

「あー。手の掛かる俺娘が、一台ばかり増えたっぽい」

 俺はアイシャの頭をグシャグシャと撫で回してから、軽くデコピンを一発食らわせてやった。

「痛くはないですけど……痛いです。マスター」

 額を摩りつつ未来とそっくりな、頬っぺたをぷくっと膨らませた顔で文句を言うアイシャ。

「どっちや!?」

「痛いけど……痛く無い」

「言い方変えても同じじゃ!」

「む~」

「あらあら~」


 ホント、瓜二つだな、俺の新しい愛娘は。


 特にコピー元には持ち得ない、双丘。
 理想的な俺的お至宝の双丘が実に見事だ!


 天然か似非かは別として。眼福眼福。


「はっはっはっは」

「む~」

「あらあら~」

「パパ、仕上げ早よ! アイシャさんもだから」


 暫しの間、この愉しくも騒がしい時間を皆と過ごす。

 このままずっと、ほっこりしていたいと切に思いながら……。


 だが、それは……希望的観測に過ぎない―― 。




 ―――――――――― つづく。
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