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第壱章 崩れゆく、日常――遭遇編。

弐拾壱話 回帰、其の参。

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 一人と一台でお風呂を簡単に済ませ、軽めの食事を少し摂ることにする。

 その後、パジャマに着替えたアイシャ達は、彼方の部屋に一緒に訪れるのだった。

「パパ……」

 父からの贈りモノのアイアンキャンディと、残された父の形見である碧い珠玉を、胸の前で抱きしめながらベットに腰を下ろし、静かに俯く未来。

「お茶をお持ち致しましてよ?」

 そこに気配なく、二人分の飲み物と茶菓子を持って唐突に現れた最妃。


 ドアすら開いた様子もなく。


 徐に顔をあげて、驚きの表情で最妃を見やる一人と一台。

「あらあら。どうされまして?」

 ナニ事もなかったかのように、和やかに微笑む最妃。

 持って来た飲みモノを、極自然に差し出した。

 未来は再び俯いたままで応じなかったので、アイシャが代わりに受け取り、傍に置いた。

 最妃も未来の隣に静かに腰を下ろす。

「さて。今日のところは一緒に寝ましょうか? 少し心細いでしょうから、ね? 未来」

 優しい母のまま、いつも通りの母。

 どうしてそんなにも、何事もなかったように振舞えるのだろうか?

 何故、落ち着いていられるのだろうか。


 父は居ない。
 常軌を逸した状況で。


 なのに何故? 何故⁉︎ 何故なの!


「パパが死……居なくなった! 消えたのに! ママはなんで! どうして! そんなに! 心配じゃないの! 哀しくないの! なんで!」

 未来はそんな母に、言葉を投げ捨ててしまう!
 両目から大粒の涙を零し、最妃に詰め寄る未来。


「直にこちらへ戻って来るからですわよ、未来――」

 静かに優しく答える最妃。


「――え!?」

「最妃様、それは一体、ナニを意味して――」

 突拍子もないことを母の口から聴き、驚きのあまりに目を見開く未来とアイシャ。


 突如、彼方の作業机の引き出しが光り始める!


「――ナ、ナニ!?」

 未来は慌てて鍵を開けて引き出しを開く!

 引き出しの中で光っていたのは、父が母へのプレゼントにと、製作していたモノが納まっている――化粧箱の中からだった。


 奪うように手に取ると、慌てて蓋を開けて中を見る未来!


 父が作っていたペンダントの中央に納まる神秘の珠玉が――、


 光りを放ち、輝いていたのだった!


「なんで!」「あらあら」

「パパがママにって作ってたプレゼントが、急にどうして! 光も当たってないのに!」


 続いてベットの上に放り出されたままの、紅い珠玉と同化しているアイアンキャンディと碧い珠玉も、共鳴するが如く光り輝き始めた!


「なっ!」「これは一体――」「あらあら」

 動揺する一人と一台に対し、全く動じない最妃。


 その時――。


「ウォン!」

 外の方からケルの吠える声が聴こえた。
 まるでナニかを知らせるように――。

「あらあら。お戻りになられたご様子。意外にお早いお帰りですこと。――ささ、お出迎えして差し上げないと」

 彼方が戻ったと、当然のように言い切る最妃。
 優雅に立ち上がり、笑顔で玄関の方へ向かう。


 慌てるでもなく、至極自然の振る舞いで――。


「――パパ! パパが帰って来た!」

 母の言葉に疑問を持たず素直に聴き入れ、玄関へと一目散に走り出した未来。

「マスター、お待ち下さい! ナニかがおかしい」

 未来を制止しようと声を上げるアイシャ。


 何故、彼方が戻ったなどと見てもいないのに、確信を持ってそう言い切れるのか。


「最妃様。貴女は一体――!?」

 先程から急に息苦しさも感じていたアイシャは、不審に思い玄関へと向かう最妃を呼び止めて問う。


 呼び止められ、静かに振り返って返答する最妃は――、


「私は未来永劫、彼方の妻であり、未来の母。それ以外の、でも…… なくてよ♪」

 妖艶かつ冷たい微笑で質問を返した。
 

 周囲を支配する、ただならぬ気配に威圧と重圧を纏い、碧眼だった両眼を真紅に染めて――。



 ―――――――――― つづく。
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