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第壱章 崩れゆく、日常――遭遇編。

拾捌話 切望、其の伍。

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 そこからは一方的な蹂躙が始まった――。
 人為らざるモノの攻撃を尽く躱し切っていく!

 洗練された技と重撃で、損傷を上乗せしていく未来!
 絶妙に隙を突き体勢を崩し、翻弄していくアイシャ!


 二人の相乗効果により、更に凄まじい怒涛の攻めが続く!


 半身が吹っ飛び、右半身しかない人為らざるモノは、残った右腕と右脚で受け流すだけの防戦一方の状態。

「ハッ! そろそろ死んどけっての!」

「肯定」

 アイシャは未来の手を取ると背中に乗せ、地面を蹴り抜いた!

 空高く上昇していく二人。

 自由落下に切り替わるその一瞬、アイシャは背負った未来の左腕を取る!

 遠心力をつける為に未来を掴んだままに回転、人為らざるモノ目掛け勢い良く放り投げた!

 アイシャから発射された未来。
 魔王の断罪に力と想いを込めて強く握りしめた!

 遠心力と重力を載せた人間爆弾と化して、凄まじい速度で人為らざるモノへと急降下!


 未来の決意が呼び込んだ奇跡、弾丸のような速度で穿たれる――魔王の断罪!


「ハッ! いい加減に死んどけーーっ!」

 一筋の紅蓮の閃光と化して、人為らざるモノを貫いた!


 爆音などではない!
 轟音どころでもない! 


 それは――怒轟!


 直撃した瞬間、文字通りの一瞬で、瓦礫や土砂、有りとあらゆるモノを巻き上げて、人為らざるモノ諸共、木っ端微塵に爆砕させた!

 穿たれて地面が吹き飛んだ大穴から噴き上がる爆煙!


 その中央に現れる人影。
 地面に拳を突きつけた未来の姿――。


 核弾頭でも落ちたかのような、桁違いに大量の爆煙を全身から吹き上げていた。


 ――人為らざるモノ、完全抹消。


 巻き込まれないように俺を抱きかかえて、相当、離れた場所に避難していたアイシャ。

 凄まじい爆風に煽られ、巻きあげられるモノから俺を頭を守るようにしっかりと抱え込み、自身の身体全体で覆い庇うように抱きしめたまま、翻筋斗打ちながら転がり吹き飛ばされていく。

 瓦礫に打ち付けられても、吹き飛ばされても、決して俺を離さず最後まで護り抜いてくれた。

「肯定。アイシャも激ヤバく……ウォッホン。少し危なかったです。未来様」

 全身土砂塗れでのアイシャは、遠く離れた未来を眺め、抑揚なく静かに独り言ちる。

「パパ……」

 全身から爆煙を上げている未来。
 直ぐに倒れている俺の元へと駆け寄って来た。
 力なく横たわる俺を抱き上げて、大粒の涙を零した――。

「強いな、未来は。俺、ビビったぞ」

 無理矢理動かした震える手で、未来の髪を撫でながら、俺を抱きしめて泣いている愛娘をしっかりと見る。

 俺はそんな未来に精一杯報いる為に、あえて言葉をいつもの軽い口調になるように努め、できる限り明るく振る舞い、和かに笑い掛け、腹の底から声を引っ張り出すことにしたのだ。


 ――俺の……最期が訪れる瞬間まで。


「アイシャ。最妃の所まで。送ってくれ」

「肯定。マスター。身命を賭して拝命」

「え?」

「そのノリ……何ぞ? ……まぁいい」

 俺から思い掛けない言葉が出てきて、驚いてるのな、可愛いいな未来。

「未来……よく聴け……俺はここまで……だ」

「アイシャに……最妃の手料理を……ご馳走してくれ……。事情を説明すれば……最妃なら……歓迎してくれる……筈だ。アイシャと……仲良くな」

「肯定。マスター。身命を賭して拝命」

「だから……そのノリ…… 何ぞ? 俺の……愛車……だから……か」


 湿っぽいのは嫌いだからな、俺。
 アイシャ、気遣ってくれた? まさかな?
 ホント、俺にそっくりだな、俺の愛車。
 ん? 動揺してるな未来、掴んでる手が震えてるぞ。


「色々……説明したいところだが……流石に我儘か……時間のようだ」

「駄目、パパ! 駄目ーー! 待って! お願いっ!」


 未来を撫でていた俺の右腕が、脆く崩れさった――。


「アイシャ……有難う……お陰で失わずに済んだ」

「否定。アイシャはマスターのモノ。当然」


 当然と来るか。
 ならば俺の最期の願いに追加だ。

 背中からポロポロと崩れ始めていく――。


「そうか……なら……未来が……次のマスターな」

「肯定。マスター。身命を賭して拝命」

「気に入った……のか……そのノリ」

「肯定」

「俺に……そっくりだ……な……ゴホッゴホ」

「否定。アイシャです」


 全く。俺の以外の何モノでもないな。

 全身が軋みを上げ、パラパラと崩壊していく――。


「だな……有難う……俺……の……相棒」

「肯……いえ、アイシャこそ。マ……彼方さん。この上なく感謝しています。いずれ、また」

「普通に……話せるんかいっ……ゴホッ。全く……俺に似て……大概……電波……だな」


 やっぱり演技だったか!
 流石だよ。電波な性格までとは。

 両脚も崩れ去った――。


「じゃあ……な……ゲホッ、また……

「駄目、駄目ーー! パパ! パパ! 逝かないで! お願いっ!」

「その時を心待ちにしてますよ、彼方さん」


 俺の頬に軽くキスをしてくれたアイシャ。
 顔もポロポロ崩れてるのに有難うな……。

 右肩から半身が崩れ落ちた――。


「嬉しい……選別だ……有難う」

「いえ、このくらい」


 最期に、残された左腕で未来の髪を優しく撫でてやる。
 そのまま、頬も優しく撫でてやる。

 撫でてる最中に、左腕も崩れた――。


「未来……俺の……世界一大……切な……愛娘。後……を……頼――」

「待って、パパ⁉︎ 逝かないで、お
願いっ!」


 また……出逢おう……な……最愛の――。


 最後まで言い終える前に……俺は崩れた――。



 ―――――――――― つづく。
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