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第壱章 崩れゆく、日常――遭遇編。

拾伍話 切望、其の弐。

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「おい! いい加減に起きろ、未来! 寝るにはまだ早い時間だ! 起きろ、未来!」

 必死に揺さぶり声を掛け続けた俺。


 まるで、壊れた人形。
 屍の様に全く反応がない未来。


「未来! おい、未来!」

 俺はどうにかして意識を呼び戻そうと、必死になって未来を呼び掛け続けた。

「だ……れ……」

 まだ意識は漠然とし混乱しているようだったが、辺りを認識し始めてきたようで、大きく目を見開き、光が少しずつ戻り始めてきた。

 だが、焦点が合っていない目は、未だ遠くを見て泳いでいる。
 さっきの状況よりは、幾分、マシになったとは思うが。

「ボクは……生き……どう……して……? イヤだーー、もうやめてーー! バケモノよーー、倒せないんだよーー! ボクも、確実に、潰したのに! 死なないのーー! 来ないでーー! 絶対無理ーー! あんなの勝てないーー! 勝てっこ無いーー! 友達だって死んだ! また死ぬーー! 皆死ぬーー! イヤァーーっ! イヤァーーっ!」

「落ち着けって未来! 大丈夫だ! 大丈夫だから!」

 意識が未だ混濁したままでいるのか、経験した絶望に耐えきれず、恐慌絶叫する未来!
 髪を掻き乱し、首を縦横に振り捲って疼くまる!

「しっかりしろ、未来! 落ち着けって!!」

「イヤぁーー! ダメーー! 死ぬ、死ぬの!」

 掻き毟る両腕を掴み怒鳴りつけるが届かない!
 大暴れで大粒の涙を流し、大声で泣き叫ぶ未来!

 後方ではアイシャが持ち前の機動力を活かし、何とか繋ぎ止め持ち堪えてはいるが、押され始めている。

 いつまで持つか解らない、予断を許さない状況……このままでは――。

「不本意だが止む終えない! すまん! 未来!」

 人知を超えたモノと生身でやり合うんだ。
 多分、俺は……無事では済まない。

 俺が未来を叩く何ぞ、俺の生涯の中で、最初で……恐らく……最期になるんだろうな。


 ――バシッ!


 狂乱して泣き噦る未来の頬に、平手を打った俺。


 右手に心の痛みが重なる――。


「しっかりしろ、未来! こんな所で腐るな!」

 俺は掴んだ肩を大きく揺さぶり、大声で叫んで、最愛の娘の碧眼をしっかり見つめ叱咤した。

「パ……パ……」

 叩かれた左頬を抑えて、涙に濡れた哀しい碧眼――意思のない未来が、俺をジッと見つめている。

「こんな状況下で気の利いた台詞も言えない、本当にどうしようもない馬鹿なおやぢだよ。そうだな、遺言……と、思って聴いててくれ」

「パ……パ……」

「なぁ、未来、お前はそんなに弱かったか? 俺の娘は世界一の頑張り屋さんだったよな? 俺の大切な愛しい娘で自慢の娘なんだよ!」

 未来に向けた俺の心からの叫びが、絶望に瀕して心が死にかけていた未来に届いた。


 気が狂ったかのように取り乱していた未来は、落ち着きを取り戻し、遂に目の前の俺を認識した!


「パパ……でも……友達が……護れな……あんな……バケモノ……」

「いいか、未来。良く聴け! 考えても無駄なことはいくら考えても無駄だ! 観測した時点でそれは事実だ! 体感した時点でこれは現実だ! 疑問に思ったら負けだ! 故に受け入れろ! 受け入れて、どうするかを考えろ! 思考を留めるな! 先に進め! 答えは自ずと付いて来る!」

「だからな、未来。逃げるな。怯えるな。自分の脚でしっかり立って踏みしめろ! こんなわけのわからない状況で終わってくれるな! だからな、未来。俺の最愛の娘。お前だけは必ず……必ずだ! 必ず帰してやる! 俺と言う存在全てを投げ打ってでもな!!」

「パ……パ……パパ……。パパーーっ!」

 完全に覚醒した未来は、泣き弱って俺に縋り付く。
 小さな身体は、恐怖と絶望に大きく打ち震えていた。

 俺が叩いて赤くなった未来の頬を、軽く撫でて、愛娘の頭を力一杯ぐしゃぐしゃと撫でてやる。

 未来の潤んだ碧眼から溢れ、頬を伝っていく雫――。

「取り敢えずだ、安全な――」

 俺は未来の華奢な震える手を取り、引き起こす。
 その手に引かれて、ゆっくり腰を浮かす未来。


 その時だった――。


「XXXxx XXXxx!」

 聴き取れない唸りをあげて、行手を阻むかの如く俺達の前に、人為らざるモノが頭上から降って来たのだ。

 すかさず未来を背中に庇って、人為らざるモノと未来の間に割って入る俺。

 警戒を緩めず、アイシャの方を横目で見やった。
 離れた壁際に鳩尾を抑えて、蹲って倒れていた。

「チッ! 流石はバケモノって感じだよな」

 すまん、アイシャ。
 おかげで未来は取り戻せた。


 次は俺のターン手番だが――さて、どうするよ、俺?



 ―――――――――― つづく。
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