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第壱章 崩れゆく、日常――遭遇編。

玖話 絶望。

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 昔から馴染みのある商店街に足を運ぶ未来。


 理由は、母の誕生日が、もう直ぐ訪れるから。
 大好きな母に、感謝の気持ちを添えて――。


 そんな想いを胸に幼馴染みの友人と一緒に、自宅から少し離れた繁華街に来ていた――。

 此処は地元でも中々に活気のある場所。

 娯楽施設は勿論、大手デパートにスーパー、父が諸手を挙げて歓喜しそうな、一般受けしない、一風、変わったお店に至るまで、多種多様な建物が立ち並んでいた。


 その中の一角に、母の実家が経営しているファッションブティックがあった。


 高級品ばかりを扱っていそうな装いの小洒落たお店なのではあるが、実際のところは、至極、一般向けな品揃えが大半を占めている。

 安価な価格設定で各層の需要に対応し、ブランド品顔負けのお洒落な洋服から普段着、垢抜けた装飾品から雑貨に至るまで、実に多種多様に取り揃えてあった。

 専門のコーディネイターも常時駐屯しており、当然、トータルコーディネイトなどの相談も気軽にできたりもする。

 モデル顔負けの黒いスーツ姿の男性従業員と、自店の衣装に身を包んだハウスマヌカン、モデル兼任の女性従業員らが接客も担当。

 初めてのお客様にも丁寧な応対で愛想も良いと、街一番の評判の店だった。

 常に笑顔な彼らは、男女問わず若年層からご年配、女子高校生からOL、主婦に家族連れに至るまで、連日、賑わうほどに大層な人気のお店なのである。


 未来達は現在、ここに居た――。


 ◇◇◇


「いらっしゃ……お嬢様で御座いましたか」

 未来らに声を掛けてきた、黒いスーツ姿の美形な男性従業員。

 来店を歓迎する挨拶半ばに、自身が応対した女性客に直ぐ様、姿勢を正し礼を尽くして会釈する。

「え? お嬢様とは此れ如何に?」

 未来に対してお嬢様とは何ぞと軽口に問う友人が、冗談半分、真面目半分で茶化してきた。

 彼女とは大学からのお付き合い。
 未来ほどではないが健康的で見目麗しい、ちょっと今時な感性の女性OLである。

「あー。ボクの爺っちゃ……コホン。祖父が経営してるお店なんだよ、ここ」

「にゃ~るほど・ざ・わ~るど。――納豆食う? なんてね!」

 友人の質問に照れ臭く答えた未来に対し、愛嬌のある軽口と相槌で答える友人。

 電波慣れしてるので、いつの時代のギャグなのよと思いつつも、しょーもない駄洒落には全く動じない未来。

「本日は、如何いかがなご用件で御座いましょう?」

 優しい接客スマイルは、黒いスーツ姿の美形な男性従業員。
 友人と目が合うと、素敵な笑顔で軽く会釈をし、愛想を振り撒く。

 未来の方に向き直ると、若干、緊張しているかの面持ちで姿勢を正し、右腕を胸の前で折り曲げる。
 左腕は指先までを真っ直ぐに下ろし、脚の位置を揃えて敬意を込めた会釈で静かに問う。

 一連の優雅な動作は、まるで、何処かの執事の嗜みのようだった。

「あ~、うん。ボクのママの誕生日プレゼントを……ね?」

「――最妃様の。左様なご用件で御座いましたか」

「な~んかさ、良さげなのを一緒に見繕ってよ?」

「畏まりました、お嬢様。――僭越ながら。では、此方へ」

 未来の今の服装は、小悪魔系ギャルの軽い身形――とてもお嬢様と呼ばれるような、上品な身形ではない。

 容姿については息を飲むほどに、美少女なのだが。

 そのギャルに傅く、黒いスーツ姿の美形な男性従業員。
 他の従業員も未来に気付くなり、慌てて姿勢を正し、礼を尽くした会釈で迎えた。

 事情を知らない一般客には、理解し難い異質な光景なのである。

 一連のやり取りを遠巻きに盗み見て、成り行きを見護る他の来店客は、当然、訝しむわけで。

 好奇の視線をあれよあれよと向けられるが、一切、お構いなしの態度。
 流石に、電波な父を持つだけはあって、いつも通り変わらぬ態度の未来だった。

 黒いスーツ姿の美形な男性従業員に細かく丁寧に店内を案内され、友人とナニ気に有意義な時間を暫し過ごしていった。


 気がつくと、時刻はとっくにお昼を過ぎていた――。


 友人がお腹空いた~と喧しく騒ぐので、お目当の品を無事に入手したところで、昼食を摂る為にお店を早々に後にした未来達。

「未来お嬢様~、お腹空いたー! ギブミー! 美味しいモノ!」

「遂に食いしん坊キャラに転向? ――あはは!」

「う~ん、イケズ! でも、そんな未来がス・テ・キ!」

「――ハイハイ、言ってなさい。全く、しょーがないわね……何処にしよ?」

 暢気に軽口を叩きあう二人。
 絶世の美少女と美女が並んで歩く姿は、やはり、何処でも好奇の目に晒されてしまう――。

 街を歩けば、確実に二度見される未来がいる。
 金髪碧眼、容姿端麗な美少女なのだ。


 現代社会の現代日本において、この風体は異国の訪問者に見えてしまうのだ。


 興味本位で見るなと言う方が、現実的に無理なのである――。

 実際、小中高時代もこの容姿のお陰で、周りから散々、奇異の目で見られ続け、当然、友達の輪からも浮いてしまい、友人などは殆ど作れなかった……。

 大学時代はもっと言わずもがなである。
 社会人になり、就職する企業も全く同じ。


 下心丸出しで近付く輩ばかり……。


 正直、嫌気が差してきたところで、見兼ねた母が、実家の系列会社に空きがあるから取り次いでくれると申し出てくれた。

 だが、この時ばかりはそんな気分になれず、それならば稼業でも手伝うかと提案してくれた父にお願いする形で、今も父の自転車店で働らかせてもらい、日がな一日を平和に送っていたのだった――。



 ―――――――――― つづく。
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