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第壱章 崩れゆく、日常――遭遇編。

漆話 少女、其の弐。

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「――え!? 未来が!? なしてココに!?」

「マスター」

 身長一五〇センチほどの小柄な身体と整った顔立ちは、俺娘の未来と全く同じ特徴に相違なかった。

 髪が銀色で瞳が紅と碧のオッドアイなのを除けば、一卵性双生児の如く、未来と瓜二つだったのだ!

 だが、俺の目の前の未来そっくりな少女には、存在感が半端ない見事な双丘がたわわに実っている。


 ツルペタな未来では、絶対、持ち得ない双丘が!

 有り得ないほどに、素敵かつ美麗な双丘がだ!


「――未来では……ない……のか?」

 自信なく微かな声で呟く、たわわな双丘で見分ける、あかん俺。


 茫然自失でその場に座り込んだまま、目の前に佇む未来そっくりな少女に対し、驚愕の視線を送る。

 何故に介抱されるようなことになったのか、ナニがなんだか解らない状況に加えて、更なる混沌とした事象に思考がついてこず――。


「貴女様は何処ぞからか降臨された、何ぞかの類いで御座いましょうか? 例えば……俺娘の姿を借りて降臨なされた――女神様……とか?」

 などと、電波なことをつい宣ってしまう俺。


 更に、電波なことを宣い続けるのだった。


「――すいません、本当に、すいません! ナニがどうなって、貴女様のような女神様に! 俺如き電波で貧乏庶民なおやぢが、お膝元で介抱されていたのかすら! 本当に! 全く持って! 存じ上げません! ――は⁉︎ お、俺、もしか事故ったんでしょうか?」

 本当にナニも覚えていない俺――さっきまで、自転車で峠を登っていた筈だ……。
 確か、目的地付近で休憩して一服してたんだよな?


 なのに――気が付いたら俺娘そっくりな女神様に膝枕だと!?


 挙句に揉みしだくとは――なんたる幸運!


 未だ手に残る、ほっこりする素晴らしい俺的お至宝の感触……って、っがーう! そーじゃない、そーじゃないんだって、俺!

 とにかくだ、そこからの記憶が全くないんだよ!

「マスター。さっきからナニを仰っているのですか」

 大きな木の木陰で優雅に女の子座りをしつつ、真顔と抑揚のない声で俺を見やり言葉を紡ぐ、未来そっくりな――推定、女神様。

「マスター。嫌な気配がしています。急がないと手遅れになるかもしれません――」

 無機質で事務的、抑揚なく発言するや否や、沈痛な面持ちで空を見上げた、推定、女神様。

 徐に立ち上がると、俺の側にゆっくりと近づいてくる。

 大きな木を背景に歩く未来そっくりな少女は、未来が持つ慣れた雰囲気では断じてなかった――。


 特に、たわわに実った俺的お至宝認定の素晴らしい双丘が、歩く度にたゆんたゆんと揺れる姿は!


 眼福眼福。


「マスター。こんなことをしている場合ではありません。急がなければアイシャの元になられた、お嬢様――未来様が危険です」

「――は? 愛車の元? お嬢様が危険? ――未来が危険だとっ⁉︎ どー言う意味だっ!」

 さっきまで脳内大惨事だった俺。
 不穏当な聴き捨てならない台詞を耳にして、かなり焦りつつ大声で怒鳴り返す。

 朦朧としてた思考が、やっと冷静に働いてきやがった!

「マスターに大切に組み上げて頂いた。つまり、自転車を元に、未来様の容姿を戴いて再構成されたモノ――それがアイシャです」

 電波な自己紹介痛み入るよ。
 けどな? 何故に未来の姿だとか、俺の元愛車だったとか、今はそれが何ぞだとか、どーでもいいんだよ!

「未来が危険ってのは、どう言う意味だっ!」


 未来が危険――。

 その言葉に取り乱し、怒鳴るような大声で叫ぶ俺!


「肯定。言葉通りの意味です。マスター。恐らく未来さんが……狙われています」

「なん……だと!?」

 沈痛な面持ちで不穏当な台詞を宣うアイシャ。
 色々と聴きたいことは沢山ある――だが、そんなことは後回しだ!

「俺は……どーすれば良いんだ⁉︎」

「アイシャの背中に乗って下さい。マスター」

 真剣な表情で俺に宣うアイシャ。


 未来の緊急事態に俺に負ぶされって、ナニ? 電波な俺でも大概キレるぞ!


「――は!? 巫山戯ふざけてんのか!? 大概にしろよっ!」

「急げば間に合います。マスターお早く」

「巫山戯てる……って、わけじゃないんだな?」

「肯定。マスター。至って真面目です」

「わかった……負ぶされば……良いんだな?」

「マスターしっかり掴まってて下さい。アイシャ、行きまーす」

「巫山戯てたらぶっ飛ば――なっ!?」

 俺が負ぶさると、直ぐに行動を開始したアイシャ!

 言い終わるよりも早く、地面を蹴り抜き跳び上がって宙に舞う!

 大人の俺を担いでいるのもお構い無しの勢いで、地面を蹴るや否や――、


 余裕で二〇〇メートル近くは跳んだのだ!


「――なっ!?」「一気に駆け下ります」

 峠道を無視して、最短距離を一気に駆け下りて行く!

 俺を乗せて着地しては跳び、跳んでは着地。
 障害物の木、ガードレール、電柱など、全く、意にも介さずの猛スピードでだ!
 凄まじい速さで駆け抜けて行くアイシャ!

「君……いや、アイシャだったか? 一体、ナニモノだ!?」

「申し上げました。マスターのですと。ヒト型に再構成されてはいますが――紛うことなき事実です」

 俺の質問に抑揚なく、至極、普通に返事をするアイシャ。

 言ってる意味が良く解らない……いや、解らないでもないが……。


 この時代に……有り得ないだろ?



 ――――――――――つづく。
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