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第壱章 崩れゆく、日常――遭遇編。

陸話 少女。

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 済まない……。君……。
 我の落ち度……。君……。元通り……。
 詫びだ……。

 君の願望……。願い……。希望……。
 我から……。贈り物……。
 乗りモノ……。少し盛っておく……。
 代わりに……。僅かな対価……。


 我か……。君の言葉……。


 神?と……。


 また何処で……。我は共に……。
 君に幸あれ……。


「何ぞ……この柔らかい……。ん……甘い香り……何ぞ……?」

 何故か朦朧と混濁する意識の所為で、置かれている状況が把握できていない俺。

 身体に伝わってくる感覚から、どうやら何ぞかに俺の頭を預けて、身体を投げ出して寝っ転がっているような?
 そんな感じが伝わってきた――。

 疑問に思いつつも、薄っすらと目蓋を開ける俺。

 視界に入るそれは――、


 大きな双丘っぽい何ぞかだった!


 夏特有の暑い日差しを遮ってくれている。

 俺の頭上に覆い被さっているのか?
 何ぞ? 凄く甘い優しい良い香りもするんだが……。

 まだ、自由に動かせない腕をなんとか持ち上げて、覚束ない手で目の前の双丘にそっと触れてみる。


「は? コレ、何ぞ?」 ムニュ。

「何ぞ? 柔らかい?」 ムニュ ムニュ。

「何ぞ? この感触?」 ムニュ ムニュ ムニュ。


 あゝ何ぞコレ……手に吸いつくこの感触……。
 良い香りも……何ぞ? とっても幸せな気分に――。

「マスター。お目覚めになられましたか。ご気分は如何ですか」

「――へ?」

 包み込むように、俺の手に自らの手を添えて、甘い囁きの如く可憐な声で優しく問いかける。

 ただ、その声は事務的と言うか無機質と言うか……。


 何故か抑揚が全く感じられない。


 とても長く、そして綺麗な銀色の髪が頬を撫でる――。

 甘い香りが、未だ覚束ない俺を和らげに包み込む――。

「――え!?」

 俺は恐らく、寝そべって見上げているんだろう。

 大き過ぎる双丘の顔全体に掛かる影に隠れて、相手の顔は判別できなかった。

 そして、少しずつ置かれている状況が頭に入ってくる俺――。


 どうやら俺は、有ろう事か膝枕をしてもらい、夢現ゆめうつつに豊かな双丘を揉みしだいていたらしい……。


 ちょっとヤバい感じに冷や汗が吹き出る俺。


「――な!? すいまっ! ま、まぢごめっ! ――あっ!」

 内心は焦りつつ未だ状況が呑み込めないまま、謝るや否や慌てて双丘を揉んでいた手を離す俺。

 膝枕から起き上がろうとして、大きくて柔らかい双丘に顔を打つけてしまい、状況は更に悪化。

 嬉し恥ずかし焦る俺は、翻筋斗打もんどりうって跳び退いた!

 その勢いで後ろ向きに転がって、女性から距離を取る。


 直ぐ様、地面に頭を擦り付けたスライディング土下座を敢行する!


んごく柔らかで気持ち良くっ……っがーう! そーじゃない、そーじゃないでしょ、俺! すまん……いえ、すんません、すいませんです! 本当に、申し訳ありません! でしたー!」

 理由何ぞは俺の知るところでは全くないのだが、状況から察するに、俺を介抱してくれていたのでは? ……と思われた。

 だが、見ず知らずの女性の豊かな双丘を揉みしだくなど、意識が朦朧としていた状況とはいえ、現代社会では万死に値する非道なる所業! つまり、犯罪行為なのだ!


 更に言うと――、
 それが偶然であっても、何処の誰であっても、一切関係ないのである!


「すいません、本当に、すいません! 本当に、申し訳ありません! でしたー! い、言い訳になり心苦しいのですが! 俺、何故か意識が朦朧としてて! 断じて故意に揉んだわけでは御座いません!」

 土下座したままの状態で、誠心誠意、謝り続ける俺。


 ラノベのような出逢いは突然にな状況で、しかもヤバい方向に傾いた俺は脳内大惨事。


「マスター。取り敢えずは落ち着いて下さいませんか」

 土下座してひたすら謝り続けている俺に、甘い囁きの如く可憐な声で諭す女性の声。

 やはり、声は無機質で何故か抑揚が一切感じられない……。


 喩えると、車のナビゲーション的な口調だった。


 もしや、相当に怒っておられるからではないのかと思った俺は、恐る恐るゆっくり顔を上げていく。

 そして、恐らく介抱してくれていたのであろう、その女性をしっかりと確認した――。


 黒と紅のコントラストが良く映える、タイトなワンピースに身を包み、色白で艶のある、若々しくキメ細やかな肌。

 長く美しい絹のような輝きを放つ髪は銀色で、リボン代わりに見覚えのあるパーツで纏め、良く似合ったツインテールにしている。

 やや、タレ目でクリッとした優しい瞳は、湖のように澄んだ紅と碧のオッドアイ。
 鼻筋が通った、童顔とも言える整った顔立ち。
 潤んだ甘い果実の如く、薄っすら色付いた桃色の唇。

 ちょっと困ったような恥ずかしいような、微妙な表情で顔をほんのり赤らめて、大きな木の木陰に女の子座りで静かに佇む――俺を介抱してくれていたのであろう女性。

 しっかりと相手の顔を認識した俺は、顎が外れんばかりに驚愕してしまった!

 あろう事かその美少女は――。


 ――――だったのだ!



 ―――――――――― つづく。
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