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第壱章 崩れゆく、日常――遭遇編。

参話 至誠。

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 閉店後、ピットの傍らに片していた、作業途中の俺的素敵サイクルを引っ張り出し、昼間の続きを再開していた俺。

「遂ぞ完成だ! 俺的素敵サイクル! あゝ……なんという美しさ、素晴らしいぞ俺! 長かった……本当に長かった……感無量だ!」

 今日届いた最後の部品を組み付け、仕事の片手間に数年掛かりで組み上げてきた俺的素敵サイクルが、遂ぞ完成した瞬間だった!

 工具を戻したあと、完成した俺的素敵サイクルを腕組みしつつ感慨深くまったりと眺め、押し寄せる達成感と満足感から独り言ちる俺。

「パパー、もしかできたのー?」

 未来が読書中のラノベを片手に、隣の俺部屋から声に釣られてひょっこりとやって来た。

「おうよ! 見てくれ、未来! このフォルム! この輝き! 俺的素敵メカの数々! 俺最高!」

「あ~、うん。格好良いのは認めるよ。パパ」

 俺的素敵サイクルの直ぐ横に来て眺める未来は、興奮冷めやらぬと大はしゃぎで宣う俺自慢に、若干呆れた表情と物言いで返してきた。

「――で、いくら突っ込んだの?」

「二〇〇万ちょい? 細かいのを入れると……三〇〇万は優に超えてんじゃね?」

「――何処にそんなお金があったのよっ! パパ!」

「数年がかりで頑張って貯めた! 俺、頑張った!」

「――え? 結構、頑張って貯めた? だったらさ、素直に褒めてあげるよ」

「足りない分は、六〇回ローンでこっそり買ったけどな」

「パパーっ! 無駄使いも大概にしときなよっ! そんなんだから、ママの誕生日プレゼントも買えなくなんのよーっ! ちょ、解ってんのーっ!?」

 手に持ってたラノベを俺に目掛けて叩きつけるように放り投げ、どえらい剣幕で怒鳴りつけてくる未来。

「パパっ! そこに正座っ! ナニ考えてんのよっ!」

「――ヒィー!? め、面目次第も御座いません!」


 約一時間、こっ酷く怒られました……。


「メカのことになると後先考えず直ぐコレよっ! あ~もうっ! また、頭痛が痛くなってきた……」

 額に手を当てて、げんなりとする未来。
 正座する俺をジト目で見やりつつ、溜息混じりに愚痴を溢す。


 俺はいつもそうなのだ。


 ナニ事にも最初は加減しつつ、要領良く熟していく。
 だが、俺の拘りには一切妥協しない性格が災いし、のめり込んで愉しくなってくると、後先考えずにやらかし放題なのだ――。


 つまり、知的好奇心から成る探究心ってヤツだよ。


 その中でも、機械系は特に歯止めが効かない。
 俺的電波脳キカイスキーなる謎機関が大暴走して、当初に予定してた結果を遥かに凌ぐ、俺自身も驚きの性能何ぞに意図せずなってしまうことが多々あるのだ。


 酷い時には、想定外どころではない、危ないモノになってしまうことも……。


 世に出してはならないほどに――。


 そんな、危なっかしいやらかした玩具は全て封印してるがな。
 俺でも信じられないを捩った呼称――、


 俺的アンビリーバボ・シリーズとして――。


「まぁ、今更言っても直んないでしょうし。とにかくよ? 今後はちょっとは自粛してよね!」

「……善処します!」

「――ハ?」

「ち、誓いますっ!」

 未来、怒るとまぢ怖い……段々と最妃に似てきたわ。
 そうだな……機嫌取りがてら、ちょっと見せてやるとするかな。

「未来さんや? 最妃の……実はだな……」

 頭をぽりぽり掻きながら、照れ臭そうに歯切れ悪く言う俺。

 俺的作業机の鍵の掛かった引き出しを開けて、徐に綺麗な装飾の小さな箱を取り出して未来に手渡す。

「えっと――ナニ?」

 手渡された未来は、怪訝そうな顔をしながらも静かに蓋を開けた。

 すると、電脳歌姫の数ある楽曲の中でも、俺的に大好きな静かな曲が、オルゴールによって優しく奏でられた。

「音楽……オルゴール? これ……中にあるのは?」

 そして、中央に納まっているあるモノについて、不思議そうに尋ねてくる未来。

「あー、うん。最妃の……プレゼントにと……な?」

 それは、俺が夜中にコソコソと内緒で制作していた、凝った装飾の俺的ペンダントだった。

 台座の中央に鎮座する宝石のようなモノは、俺的ルートを経由して入手した世界の秘宝である――。


 存在自体が謎とされるモノの総称――オーパーツと呼ばれる類いの神秘の珠玉だ。


 つまり、英語の『Out of place artifacts』の略称で『OOPARTS』だな。
 更に言うと、場違いな工芸品という意味だよ。

 俺が入手した紅・碧・紫の三つの内の中から、最妃のミステリアスなイメージを表現する意味で、紫の珠玉をチョイスし制作した。

 結晶のように透き通って美しい神秘の珠玉を中心に、三角形で囲う形で家族を表す宝石を配置した。

 真上に最妃、斜め左下に俺、斜め右下に未来と、其々の誕生石が収まっている。

 市販の装飾品を遥かに超える出来映えが、俺的自慢だったり。

「パパ? この真ん中のはナニ? ……ボクは見たことないんだけど……宝石の類い?」

「未来、蛍光灯に透かして中央の珠玉を見てみ? 凄ぇぞ?」

 モノ珍しそうに、装飾ケースと俺的ペンダントを交互に眺めていた未来に促す俺。

 装飾ケースから中身をそっと手にした未来は、怪訝な表情を隠しもせず、言われた通りに天井の蛍光灯に翳して透かしてみた。

 化粧箱から取り出され、室内の光を浴びた中央の神秘の珠玉は、有り得ない状態へと変化していくのだった――。

 怒り狂った未来ですら魅了されるほどに美しい、ミステリアスな淡い輝きを放ち出し、透き通っていた珠玉。


 段々と淡い紫色に染まっていったのだ!


「――え⁉︎ ナニコレ⁉︎ 凄い素敵……神秘的……」

「魔法も奇跡もないのにな。ファンタジー過ぎるだろ?」

 蛍光灯の光に翳して透かしたまま、鎖の部分に持ち替えて、スルスルと珠玉を吊り下げていく未来。


 ゆっくりと静かに回る、神秘的な俺的ペンダントだった――。



 ―――――――――― つづく。
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