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Act.07 指輪から始まる非日常について。①

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 見渡す限りの灼熱の焦土と化した、何処かで見たこともない場所。

 世界の最果ての地に等しい酷く寂しいその場所で、強大な力を振るうモノと対峙するモノが居た――。


 悍しくも禍々しい気配に威圧に重圧を発しつつ、燃え盛るが如くの紅き鱗を身に纏った、見惚れるほどに美しい――巨大な竜。

 竜と対峙しているのは、神々しい気配と白き甲冑を身に纏った――騎士。
 

 強大で巨大な体躯の紅き竜が、地獄の深淵の業火に等しい火炎息を吐く。

 白き甲冑を身に纏った騎士が携える強大で巨大な神秘的に輝く盾で難なく防ぐ――。


 白き甲冑を身に纏った騎士が携える神秘的な輝きを放つ槍が紅き竜を穿たんとする。

 紅き龍が禍々しくも凶暴な鋭爪でそれを難なく防ぐ――。


 互いの力が拮抗し、想像を絶する攻防を幾度となく延々と繰り返すそれら。


 互いに傷付き満身創痍になるも、一歩も引かず、媚びず、省みず、対峙しているモノをただ滅さんと死力を尽くし削りあっていく――。


 まさに永遠に等しい悠久の刻を相まみえていた――。


 だがしかし――。


 永遠に続くかと思しき攻防の果て、最後は最も呆気ない終息を静かに迎えるのだった――。


 紅き竜が一瞬だけ躊躇う素振りを見せて動きを鈍らせた僅かな隙を見逃さず、白き甲冑を身に纏った騎士が携える神秘的な槍を渾身の力で穿ち、紅き竜の上半身と下半身を見事に二つに分けたのだった。


 上下が別々となって、力なく崩れ落ちる紅き竜――。


 白き甲冑を身に纏った騎士は、己の勝利に勝ち誇るでも勝鬨かちどきを示す雄叫びを上げるでもなく、己が槍を地面に突き立てて支えにしながら、満身創痍の身を辿々しくも引き摺って、紅き竜の上半身が横たわるその場に必死になって歩み寄っていった――。


 そして――。


 終わりを告げるのではなく、横たわる紅き竜をそっと哀しげに抱き締める――白き甲冑を身に纏った騎士。


 先ほどまで悍しくも禍々しい気配に威圧に重圧を発していたが、既にその気配は霧散していて、代わりに慈愛に溢れた優しい気配を発している紅き竜。

 反撃するのではなく慈しむか愛しむかの如く、震える腕で白き甲冑を身に纏った騎士をそっと包み込む様に抱き締め返した――。


 それはまるで――相対したことに後悔を覚える、仲睦まじい愛し合うモノの姿――。


 刻を同じくして崩壊して壊れていく世界は、音もなく静かに虚無に帰っていく――。


 紅き竜の半身――腰から下の下半身が、灼熱の焦土と化した最果ての地の崩壊に巻き込まれながら共に崩れ落ち、深き闇の中へと消えていった――。

 残された紅き竜の腹から上の上半身。
 己が撒き散らした燃え盛る灼熱の業火にその身を焼かれていく――。

 白き甲冑を身に纏った騎士は、業火に巻き込まれても意にも介さず微動だにせず、焼かれていく紅き竜の側を決して離れはしなかった――。

 巻き込みたくないのか、必死に引き剥がさんとする紅き竜の力なき腕をそっと受け止め、甲斐甲斐しく包み込む白き甲冑を身に纏った騎士――。

 紅き竜の力なき腕をしっかり握り締めて離さず、頭部を護る甲冑を脱いで放り投げ、紅き竜と口付けを交わした――。


 それはまるで。
 未来永劫、永遠の誓いを交わすように――。
 

 口付けされた紅き竜の力なき金の眼から、一筋の熱い滴が溢れ落ちた――。



 そして――世界は終わりを迎えた。



 横たわる紅き竜と寄り添う白き甲冑を身に纏った騎士が、七色の七つの小さな輝きと白い小さな輝きに変化し別たれた――。

 七つの輝きの内の六つは、方々に飛び立つも即座にこの場から掻き消えた。

 残った紅と白の輝きだけは、お互いを支え合うかのように寄り添って、運命を共にするかの如く混じり合い、ただ静かに消滅していったのだった――。



「――ここは……オレの部屋……だよね?」



 ぼんやり目蓋を開いたオレの目に映ったのは、涙目で少しボヤけては見えるけど、慣れ親しんだ……なんの変哲もない自室の天井だった――。



 ―――――――――― つづく。
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