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第三夜。

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 翌々日のお昼過ぎ、修理が終わったから取りにきやがれコンチクショーと電話が鳴った。


 実際は可憐すぎる声に、ドキドキさせられたと、あの双子の名誉の為に記しておく。


 アイちゃんに会えるのを楽しみにして、身嗜みをデートかって程に整えて、喜び勇んで出掛けた俺。


 決して、揺れるたわわな果実に期待して、喜び勇んでいるのでは無いと、俺の名誉の為に付け加えておく。


 マイカーに乗り込み出掛けるも、渋滞に嵌った俺。
 珍しく車が流れないので気にしていたら、道路封鎖をやってやがった!

「なんだよ、事故か事件か?」

 と、ぼやきつつ車内から見ていると――、


 世界のカウンタック、真っ赤なランボルギーニとクラウザードマーニとか言うサイドカーが、競い合うかの猛スピードで走り抜けていった――。


 しかも、運転手はどっちもメイドさんときた!


「な、なんだ⁉︎ 映画かなにかの撮影か⁉︎」

 目を見開き驚くのも束の間、道路封鎖が解除されて、車が流れ出した。

 後は至ってスムーズに自転車店へと辿り着く。

「「いらっしゃいませ~」」

 この間と同じく、可憐な声で出迎えてくれた双子の姉妹――まぢに癒されるわ、うん。

「修理が終わったとお聴きしたので……」

「はい、ちゃんと出来ていますよ」

 和かに対応してくれたアイちゃん。
 態々、三輪車を大事そうに抱えて、そっと目の前に置いてくれた。

「――えーと、俺の?」

「はい、アイ、頑張っちゃいました、てへ♪」


 うぉー! その笑顔はヤバい! 俺、萌え萌えキュンで逝きそう!


 アイちゃんが差し出した三輪車は、元の見窄らしさは皆無と言って良い程の出来映えだったのだ!


 新車ですって言われたら、それは無い言い過ぎ、騙すのは良くないぞ。って程度には。


「嫌、これ全く別物に近く直ってますけど? ちょっと所ぢゃ無いですよ!」

「一回、全部バラして、下地からやっつけましたから。重要な部品は全て新品ですし、足りないのはパパ……店長に作って貰いました」

「嫌、まぢに感動しました! 本当に無理をさせてすいませんでした」

「いえいえ、仕事ですから。アイも楽しかったし」


 なんて良い子だろう――。
 腕の良い双子の美少女って聴いてたけども、半端ねー。
 もう絶対に常連になってやる! アイちゃんに廃課金だ!

 とかなんとか。

 代金を支払いに未来ちゃんの所へ行く俺。
 レジのカウンターに座って、ボールペンをクルクル回しつつ、伝票だろうか?
 一生懸命に整理していた模様。

 その真剣な表情に、不覚にも見惚れてしまった俺。

「お、お姉ちゃん!」

「――ん? あ、ごめんごめん。影が薄くてボク気付かなかった。テヘペロ♪」

 メガネ、クイッ! の香ばしいポーズの後、戯けて宣う未来ちゃん。


 嘘吐きは泥棒の始まりだぞ?


 しかし、なんともフレンドリーなお店だな。割と好きかも。

「修理代だけど、少しサービスして――」

 あれだけの整備でこの金額……安過ぎだろ? 計算間違って無いかと伝えようとしたら、未来ちゃんが合ってるよとウィンクで頷いた。


 流石、ニュータイプ。見透かされた。
 

「「ありがとうございま~す」」

 気持ち良く送り出された俺は、車に積み込み自宅へと帰る。

 今度、自分用の自転車を買いに来ると誓って――。


 そして、自分の家に戻り、真新しい三輪車をジッと眺めていた。


 すると――。


 コトッと、小さな物音が背後からした。


 慌てて振り返る俺――。


 英国様式の真っ黒な喪服ヴィクトリア朝・スタイルに身を包み、丸みを帯びた独特の形状をした、同じく英国様式のフルトン傘を差して、優雅に佇む女性らしき人物が目に止まる――。

 顔を覆っている服飾ベールの所為で表情は窺い知る事は出来無かった。

 なんにせよ、人ん家に勝手に入り込んでるって時点で、十中八九、普通の人では無い――良くないなにかには違いねぇわな。

 ま、自分の背後に突如こんな格好で現れたら、一瞬でSAN値直葬正気度失って狂人化だろうな。


 だが、俺は正体を知っているので大丈夫。


「なんつー格好で現れんだよ? コスプレにしては縁起が悪過ぎて笑えんぞ? アンタ、腐っても女神様のような天使様のフリをしたなにか。ぢゃないの?」

『私が女神様のような天使様のフリをしたなにか。ですって⁉︎ 人聞きの悪い! ――人違うけど。ま、コスプレっぽいとも言えなくもないから否定はしないけど』

「否定しておけ!」『ヤダ、面倒臭い!』

とある筆者オレ! オレだよ、オレオレ!が一生懸命に考えて劇中で着せた衣装らしくてね。しかもお気に入りだったらしく、勿体無いから私に来て行けとか吐かして煩かったのよ! 察しなさいよ!』

 顔を覆っている服飾ベールをまくり上げて、えらい勢いで怒って来た!

「まぁ、良いわ。で、なにしに化けて出てきたん?」

『人を幽霊みたいに言うなや! ――人違うけど。三輪車を見に来ただけよ!』

「実際、スゲーよな! ここまで綺麗に直るとは思って無かったわ、俺」

『確かに。呪いの三輪車には見えないわよね』

「またそれ? いのぅ三輪車ってギャグはもうええっちゅうねん!」

『それ勘違いだから、うん。呪いはマジもんで、猛走妄想もマジだから、うん』

「は? 神の抽選で当たったとか言うくだりの事か?」

『神? なにそれ? 私をそんな者と一緒にしないでくれる? 失敬よ。全く違うわよ?』

「ぢゃあ、聴くが、アンタはなんだ?」

『良くぞ聴いてくれました! それは――知れば、生きてきた事を後悔する程の重い話で――』

「勿体ぶらず、早よ」

 両脚を肩幅くらいに広げ、座っている俺を覗き込むかの如く身を乗り出すように腰を曲げ、その腰に両手を添えて――。


 愉悦に歪み切った気味の悪い薄ら笑いを携え、口端をニィっと吊り上げて言った――。


『ただの――悪魔よ』


 半開きに薄く開いた眼は、瞳孔が縦に細い猫のような金眼だった。

 俺を蔑むような冷たい視線で見下すように静かに見ていた――。


「――は?」


 ――――――――――
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