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File.04 禍々しいあんな姿でも……。
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『ご機嫌好う……』
草木も眠る丑三つ時に、突然、ぬぅっと姿を現した死神さん。
「この時刻にその姿でその登場の仕方は……永遠の眠りになり兼ねませんよ?」
登場の仕方が怖い。男前な声も怖い。
前もって来るって聴いてなければ、僕でも確実に逝っていたほどに怖い。
何より、オネェっぽいのが怖い。
『違いありませんね。――隣、よろしくて?』
ベットに寝っ転がって呆れている僕にそう尋ねてくる。
一緒に寝っ転がるのかと一瞬だけ躊躇するも、そんなまさかと思いつつ了承する。
「――って、座らずに浮いてるし……僕の隣に座りたがるのは何故?」
心配は杞憂に終わり、ちゃんとベット脇に座ると言うか浮いていた。
『正直に申し上げると、私の今のこの姿に平然となさってくれていることが嬉しくて』
少し照れ気味な素振りと男前な声色でそう言う死神さん。
あえて言おうか迷う……実は怖い、と。
「えっと……その言い方だと死神になる前は美人さんだったとか?」
口に出さずに飲み込んで、物言いから気になったことを尋ねてみることにした。
『――こんな姿に御座いました』
骨が剥き出しの手を僕の手にそっと重ねる死神さん。
死神さんの過去の姿が頭に浮かんできた。
その姿は神々しいまでの衣装を身に纏った、それはもう言葉では言い尽くせないほどの凄い美人さん。
それが今や骸骨姿にボロい黒ローブを纏った史実通りの死神姿で男前な声とは……。
「ご愁傷様です」『有難う御座います』
そこはお礼言うとこと違うから、うん。
悔しがって呪っても良いとこだと僕は思うよ。
「昼間……僕に言ったことなんですけど。あれから良く考えてみました」
色んな意味で面食らった登場シーンを脇に退けて、話を強制的に本筋へと戻す僕。
『――お引き受け下さいますか?』
何故か構えている大釜を僕に向けて確認してくる死神さん。
これって、断れば死あるのみ。ってヤツ?
選択肢があるようでないのは如何なものでしょうか?
「ぼ、僕の幼馴染がそれでも一緒に居たい――い、居てくれると言うのなら!」
慌てて返答する。
『畏まりました。本来、存命の方に引き合わせるのは、互いの未練を誘発し増長させることがあるので駄目なんですけどね……特別ですよ? 幼馴染さんの魂をここに呼び寄せますので、お二人でご相談下さい』
大釜を肩に担ぎ直し、僕の提案に乗ってくれた。
「す、すいません……」
僕が謝った瞬間、死神さんが宙に舞い、担いでいた大鎌をいきなり横凪に振り抜いた!
僕は斬られたと慄いて身体が強張った。
だがしかし。
僕を斬りたかったわけではなかったみたい。
大釜に斬り裂かれた空間から、人魂のような青白い炎が揺蕩って姿を現した。
そして幼馴染のあの独特の丸っこい生前の姿形に徐々に変わっていくも、全体に透けてぼやけ気味の輪郭が揺らいでいた。
目の前の幼馴染は蘇ったのではないと、所謂、幽霊に近しい者だと直ぐに僕は理解した。
『咲美君……ごめんなさい。私が太って足が遅いばっかりに辛い思いをさせて』
半透明の幼馴染が生前のもっさりした動きのまま、エコー掛かった声で僕に伝えてきた。
「謝るのは僕の方! あの時に歩幅を合わせるか手を引いているかしてれば、君が死ぬなんてことはなかったんだ! 僕は――僕は――君が望むことなら僕はなんだってする! だから――許して欲しい!」
自責の念から泣き崩れる僕。
『泣かないで、咲美君、もし願いが叶うなら――』
暫し二人で今後のことを真剣に話し合った――。
ふと気付けば、時計の針は午前五時を過ぎていた。
二度と話せないと諦めていたこともあり、積もる話しをいっぱい交わした所為だった。
『結局、徹夜させちゃってごめんね。あと咲美君……有難う。次に逢う時は私ではない私だけど……どうか宜しくお願いします――』
嬉しそうに微笑んで、まさに幽霊が消えるが如く静かに消え去っていった。
「死神さん。そう言うことで宜しくお願いします。できれば彼女の望む姿で」
『お任せ下さい。運命の女神に事象改変させて、正しくこの時代に生きる者としてお返し致します。もう夜も明けてしまいますので、加護は譲渡のみとさせて頂きます。詳しい説明は後日にまた。――今日のところはゆっくりとお休み下さい』
そう言って僕の両目と右手に骨の指で何かを描いた。
描かれたとは言え何か模様が浮き出るわけでもなく、ちょっとだけ熱く感じた程度で終わったのだった。
「もう一度話せるなんて夢にも思っていなくて……長話ししちゃってすいませんでした。僕はいつでも構いませんので死神さん」
瞬きを数回、描かれた右手を摩りながら、感謝の意を伝えた。
『それは何よりに御座いました。さて、今しがた授けました死神の眼と力。慣れるまでは自制が効きません』
ずいっと僕に近付き、そんな不穏当な言葉を告げる。
ち、近い――。
それにその男前な声で深刻に告げられると余計に怖いですって。
『――気をしっかり……持って下さいね』
更に僕の目と鼻の先、当たるか当たらないかにずぃっと近付き、そんな不穏当な言葉を仰る。
「えっと……死神さん? それってどう言う――」
ゴクリと息を飲み、意味を尋ねるも――。
『おや? もう夜が明けてしまいますね……また後日に――フフフ』
すぅっと顔の前から遠ざかり、骨の人差し指を立ててチッチ。
不敵な薄笑い声ではぐらかされるときた。
格好つけた仕草も声と同様に男前ですね。
ただ……悍ましい骸骨姿と妙に男前な声の所為でめっさ怖い――否。
オネェっぽさが不気味過ぎて怖い。
――って、そんなことより。
今、肝心なことを煙に巻いて誤魔化しませんでした?
「ちょっとちょっと死神さん⁉︎ 気をしっかり持てって――一体、どう言う……むぐっ⁉︎」
詰問する僕の顔の前に度アップで迫り、骨の人差し指で口を押さえられて、以降の詰問を遮られた。
『ご機嫌好う――』
そしてそのまま、幽霊の如くすぅ~っと掻き消えていった――。
「気をしっかり持てって……どう言う……」
言葉の意味もだけど、何故にはぐらかされたのかと首を傾げる僕だった――。
徹夜明けの気怠い朝の登校時。
僕は言葉の真の意味を知る。
そして僕は――、
この世の地獄を視ることとなる――。
――――――――――
誰が為に僕はゆく?
それは僕のみぞ知る――。
草木も眠る丑三つ時に、突然、ぬぅっと姿を現した死神さん。
「この時刻にその姿でその登場の仕方は……永遠の眠りになり兼ねませんよ?」
登場の仕方が怖い。男前な声も怖い。
前もって来るって聴いてなければ、僕でも確実に逝っていたほどに怖い。
何より、オネェっぽいのが怖い。
『違いありませんね。――隣、よろしくて?』
ベットに寝っ転がって呆れている僕にそう尋ねてくる。
一緒に寝っ転がるのかと一瞬だけ躊躇するも、そんなまさかと思いつつ了承する。
「――って、座らずに浮いてるし……僕の隣に座りたがるのは何故?」
心配は杞憂に終わり、ちゃんとベット脇に座ると言うか浮いていた。
『正直に申し上げると、私の今のこの姿に平然となさってくれていることが嬉しくて』
少し照れ気味な素振りと男前な声色でそう言う死神さん。
あえて言おうか迷う……実は怖い、と。
「えっと……その言い方だと死神になる前は美人さんだったとか?」
口に出さずに飲み込んで、物言いから気になったことを尋ねてみることにした。
『――こんな姿に御座いました』
骨が剥き出しの手を僕の手にそっと重ねる死神さん。
死神さんの過去の姿が頭に浮かんできた。
その姿は神々しいまでの衣装を身に纏った、それはもう言葉では言い尽くせないほどの凄い美人さん。
それが今や骸骨姿にボロい黒ローブを纏った史実通りの死神姿で男前な声とは……。
「ご愁傷様です」『有難う御座います』
そこはお礼言うとこと違うから、うん。
悔しがって呪っても良いとこだと僕は思うよ。
「昼間……僕に言ったことなんですけど。あれから良く考えてみました」
色んな意味で面食らった登場シーンを脇に退けて、話を強制的に本筋へと戻す僕。
『――お引き受け下さいますか?』
何故か構えている大釜を僕に向けて確認してくる死神さん。
これって、断れば死あるのみ。ってヤツ?
選択肢があるようでないのは如何なものでしょうか?
「ぼ、僕の幼馴染がそれでも一緒に居たい――い、居てくれると言うのなら!」
慌てて返答する。
『畏まりました。本来、存命の方に引き合わせるのは、互いの未練を誘発し増長させることがあるので駄目なんですけどね……特別ですよ? 幼馴染さんの魂をここに呼び寄せますので、お二人でご相談下さい』
大釜を肩に担ぎ直し、僕の提案に乗ってくれた。
「す、すいません……」
僕が謝った瞬間、死神さんが宙に舞い、担いでいた大鎌をいきなり横凪に振り抜いた!
僕は斬られたと慄いて身体が強張った。
だがしかし。
僕を斬りたかったわけではなかったみたい。
大釜に斬り裂かれた空間から、人魂のような青白い炎が揺蕩って姿を現した。
そして幼馴染のあの独特の丸っこい生前の姿形に徐々に変わっていくも、全体に透けてぼやけ気味の輪郭が揺らいでいた。
目の前の幼馴染は蘇ったのではないと、所謂、幽霊に近しい者だと直ぐに僕は理解した。
『咲美君……ごめんなさい。私が太って足が遅いばっかりに辛い思いをさせて』
半透明の幼馴染が生前のもっさりした動きのまま、エコー掛かった声で僕に伝えてきた。
「謝るのは僕の方! あの時に歩幅を合わせるか手を引いているかしてれば、君が死ぬなんてことはなかったんだ! 僕は――僕は――君が望むことなら僕はなんだってする! だから――許して欲しい!」
自責の念から泣き崩れる僕。
『泣かないで、咲美君、もし願いが叶うなら――』
暫し二人で今後のことを真剣に話し合った――。
ふと気付けば、時計の針は午前五時を過ぎていた。
二度と話せないと諦めていたこともあり、積もる話しをいっぱい交わした所為だった。
『結局、徹夜させちゃってごめんね。あと咲美君……有難う。次に逢う時は私ではない私だけど……どうか宜しくお願いします――』
嬉しそうに微笑んで、まさに幽霊が消えるが如く静かに消え去っていった。
「死神さん。そう言うことで宜しくお願いします。できれば彼女の望む姿で」
『お任せ下さい。運命の女神に事象改変させて、正しくこの時代に生きる者としてお返し致します。もう夜も明けてしまいますので、加護は譲渡のみとさせて頂きます。詳しい説明は後日にまた。――今日のところはゆっくりとお休み下さい』
そう言って僕の両目と右手に骨の指で何かを描いた。
描かれたとは言え何か模様が浮き出るわけでもなく、ちょっとだけ熱く感じた程度で終わったのだった。
「もう一度話せるなんて夢にも思っていなくて……長話ししちゃってすいませんでした。僕はいつでも構いませんので死神さん」
瞬きを数回、描かれた右手を摩りながら、感謝の意を伝えた。
『それは何よりに御座いました。さて、今しがた授けました死神の眼と力。慣れるまでは自制が効きません』
ずいっと僕に近付き、そんな不穏当な言葉を告げる。
ち、近い――。
それにその男前な声で深刻に告げられると余計に怖いですって。
『――気をしっかり……持って下さいね』
更に僕の目と鼻の先、当たるか当たらないかにずぃっと近付き、そんな不穏当な言葉を仰る。
「えっと……死神さん? それってどう言う――」
ゴクリと息を飲み、意味を尋ねるも――。
『おや? もう夜が明けてしまいますね……また後日に――フフフ』
すぅっと顔の前から遠ざかり、骨の人差し指を立ててチッチ。
不敵な薄笑い声ではぐらかされるときた。
格好つけた仕草も声と同様に男前ですね。
ただ……悍ましい骸骨姿と妙に男前な声の所為でめっさ怖い――否。
オネェっぽさが不気味過ぎて怖い。
――って、そんなことより。
今、肝心なことを煙に巻いて誤魔化しませんでした?
「ちょっとちょっと死神さん⁉︎ 気をしっかり持てって――一体、どう言う……むぐっ⁉︎」
詰問する僕の顔の前に度アップで迫り、骨の人差し指で口を押さえられて、以降の詰問を遮られた。
『ご機嫌好う――』
そしてそのまま、幽霊の如くすぅ~っと掻き消えていった――。
「気をしっかり持てって……どう言う……」
言葉の意味もだけど、何故にはぐらかされたのかと首を傾げる僕だった――。
徹夜明けの気怠い朝の登校時。
僕は言葉の真の意味を知る。
そして僕は――、
この世の地獄を視ることとなる――。
――――――――――
誰が為に僕はゆく?
それは僕のみぞ知る――。
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