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第二部 上映中
Scene 27.
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雨に濡れて冷え切った身体を温める意味で、ひと風呂浴びてきた。
ちなみに俺が風呂に入っている間に、脱衣場で何ぞゴソゴソしてたり、風呂場のドアを少し開けてチラチラと覗いて悪戯してきたり、最終的には我慢しきれなかったのか、一緒に入るとか吐かして素っ裸で乱入してきたりと、実に目の保養……ゲフンゲフン。大変だった。
どんだけ視ても、俺の知っている当時そのまんまの美杉だった。
そのあとで普段着に着替えた俺は、ちゃぶ台の前に胡座を組んで座り込む。
俺が座るいつもの位置。そこに煎りたての良い香りがするコーヒーが置いてあった。
(ちゃんと座るところまで知ってるって……やはり美杉で間違いないのか?)
なんの疑いもぜず、そのコーヒーに手をつけた。美杉が良く入れてくれた俺が好む濃さそのまま。
「なぁ――俺ってSAN値を持ってかれて、狂人化したんだろうか?」
対面に座りコーヒーを飲む美杉に対し、脈絡も何もなくそんなことを告げた。
前にも言ったことあるけども……今回は状況が違いすぎるんだよ、状況が。
「一体、どうしたって言うのお兄ちゃん?」
呆けて見てる俺を心配して、優しく声を掛けてくる美杉。
「朝起きてから――かくかくしかじか――なことがあって、あまつさえ俺の目の前に美杉が実在するっつーのが……正直なところ、どうにも信じられんのだわ」
朝出掛けた時から今に至る経緯を、掻い摘んで真剣に話した。
「阿呆でしょ?」「失敬だぞ!」
容赦のない当然の反応だった。
「やっぱり変よ? 大体ね、私が死んでることになってるのがそもそも間違ってるっての。目の前に居る私は幽霊とでも? お兄ちゃん」
「――体温も脈もあるし、何より触れられた。悪戯の度が過ぎる変態っぽい性格云々も、俺の知ってる美杉そのまんまだし」
「――存外、酷い言われようだね、私」
「――事実だから止むなしだ」
「ま、良いけど、堪能したから。――でも……本当に大丈夫? しっかりしてよね?」
「――あ、うん。でもな……何か重要なことを忘れてんよーな、そうでもないよーな」
一連のわけの解らない状況もさることながら、心の奥底で何ぞが引っ掛かってて、気持ちがスッキリハッキリしない――。
とても重要でかつ確信に迫る何か。
何故かは俺の知るところでは全くないのだが……それをすっかり忘れてるような……そんな気がする。
「元気が出るお呪いをしてあげるよ、お兄ちゃん」
「だが断る!」「だが断わられた⁉︎」
「美杉の気持ちは凄ぇ嬉しいさ。だがな? 今の美杉からは信じられんだろうけど……俺は会うのが二年振りの感覚なんだよ」
「なら二年振りだっけ? その分、遠慮なく私を堪能しても良いんだよ?」
「美杉を失ってどれほど大切な存在だったか、嫌と言うほどに思い知らされた。――そして今、俺の目の前に実在する本物としか思えない美杉が居てくれている――夢なら覚めないで欲しいと心から願う……だが――」
「何を言ってるのかな、お兄ちゃんは? もう一回言うけど、ずっと一緒に居るじゃない?」
「ある意味では、そう言えるんだろうけどもな……」
ゆっくり立ち上がって、土木用スコップを静かに手にする。
「お、お兄ちゃん?」
雰囲気がガラリと変わった俺に、怪訝そうに名を呼ぶ美杉。
「ひとつ気づいたことがあるんだ、美杉」
「な、なに?」
「俺さ、肉体的痛みが欠如してんだわ、急に。それもたった今」
「――え⁉︎」
「ならばこれは夢。それも悪夢。そして全てが俺の都合の良い解釈で映し出された仮初の物語。その全ては単なる虚像に過ぎない。何故ならば――」
目を瞑って語気を強く伝え終えると、深呼吸をして――持っていた土木用スコップを、思いっきり振り上げた。
「これは俺だけが視ることのできる、残酷で凄惨な――個人的ホラー映画だからだ!」
「えっ⁉︎ どうしてっ⁉︎ や、やめて――」
美杉が目を見開き驚いているのもお構いなしに、思いっきり殴りつけるのだった。
「――っ⁉︎ あれ? 殴られてない⁉︎」
そう。俺が土木用スコップで殴りつけた先は――。
「美杉を二年前に失った事実は覆せないからな? 俺にこんな幸せな悪夢を見せやがって――今度のアンタは一体、なんなんだよ?」
ことの成り行きを優雅に佇んで、俺達に気づれることなくしれっと傍観していた者。そいつを殴りつけた筈だった。
だがしかし、見事に躱された――と言うか擦り抜けた、だ。
『――良い悪夢は見れたか?』
英国様式の真っ黒な喪服に身を包み、丸みを帯びた独特の形状をした同じく英国様式のフルトン傘を差して、優雅に佇む女性。
そう。喪服女が……そこに居やがった。
「お、お兄ちゃんっ⁉︎ こ、この人はっ⁉︎」
「この人? ――さあな? 人であるかも定かではないけどな」
「――え? 何を言ってるの、お兄ちゃん⁉︎」
「アンタの質問に答えてやるが、今までで一番素敵で幸せな悪夢だったよ。つーか、アンタ喋れたのか? ただの幽霊ってわけでもなさそうだが――のこのこ現れて、俺に一体なんの用だ?」
俺に縋りつき震える美杉を背に庇い、土木用スコップを喪服女へと突きつけ詰問する。
『ん? 其方を少しばかり休ませるついでに、労ってやろうと思ってな? まぁ、妾の気紛れに過ぎぬ。そう敵意剥き出しで威嚇するな』
部屋の中だ言うに、フルトン傘をクルクルと滑稽に回し、優雅にそう語る喪服女。
「そりゃどーも。デッカいお世話だがな?」
突きつけていた土木用スコップを構えたままに睨みつける。
不思議なことに今の喪服女からは、害悪などの悪意を感じない――だからと言って油断はしないがな?
『その不遜な態度は褒めれたものではないが……まぁ良い。其方は何時になったら悪夢の輪廻――魂の牢獄たる呪縛から解き放たれ、逃れられるのだろうな? ――あまり妾の手を煩わせるでないわ、全く』
フルトン傘をクルクルと滑稽に回し、頭のみを向けて、侮蔑ついでに落胆した物言いで吐き捨ててきやがった。
顔を覆っている面抄の所為で、今どんな表情をして喋ってやがるのかは、窺い知ることはできない。
「――どう言う意味だ?」
『答えは其方自身で見つけよ――と、素気なく無碍にするのも可哀想か。ふむ、僅かばかりに助言を与えておこうかの? ――終わりには近づけておるゆえ、その調子でもっと頑張るが良い――早く見つけてやれ』
意味深な言葉を投げ掛け、顔を隠すように独特の丸みを帯びたフルトン傘をクルクルと回し意味深に語る。
『また、気が向いたら――邪魔をする』
用が済んだと言わんばかりにそう言い残して、そのまま部屋の影から闇夜の中へと溶け込むように、静かに姿が掻き消えていった――。
――――――――――
気になる続きはCM広告のあと直ぐっ!
チャンネルはそのままっ!(笑)
ちなみに俺が風呂に入っている間に、脱衣場で何ぞゴソゴソしてたり、風呂場のドアを少し開けてチラチラと覗いて悪戯してきたり、最終的には我慢しきれなかったのか、一緒に入るとか吐かして素っ裸で乱入してきたりと、実に目の保養……ゲフンゲフン。大変だった。
どんだけ視ても、俺の知っている当時そのまんまの美杉だった。
そのあとで普段着に着替えた俺は、ちゃぶ台の前に胡座を組んで座り込む。
俺が座るいつもの位置。そこに煎りたての良い香りがするコーヒーが置いてあった。
(ちゃんと座るところまで知ってるって……やはり美杉で間違いないのか?)
なんの疑いもぜず、そのコーヒーに手をつけた。美杉が良く入れてくれた俺が好む濃さそのまま。
「なぁ――俺ってSAN値を持ってかれて、狂人化したんだろうか?」
対面に座りコーヒーを飲む美杉に対し、脈絡も何もなくそんなことを告げた。
前にも言ったことあるけども……今回は状況が違いすぎるんだよ、状況が。
「一体、どうしたって言うのお兄ちゃん?」
呆けて見てる俺を心配して、優しく声を掛けてくる美杉。
「朝起きてから――かくかくしかじか――なことがあって、あまつさえ俺の目の前に美杉が実在するっつーのが……正直なところ、どうにも信じられんのだわ」
朝出掛けた時から今に至る経緯を、掻い摘んで真剣に話した。
「阿呆でしょ?」「失敬だぞ!」
容赦のない当然の反応だった。
「やっぱり変よ? 大体ね、私が死んでることになってるのがそもそも間違ってるっての。目の前に居る私は幽霊とでも? お兄ちゃん」
「――体温も脈もあるし、何より触れられた。悪戯の度が過ぎる変態っぽい性格云々も、俺の知ってる美杉そのまんまだし」
「――存外、酷い言われようだね、私」
「――事実だから止むなしだ」
「ま、良いけど、堪能したから。――でも……本当に大丈夫? しっかりしてよね?」
「――あ、うん。でもな……何か重要なことを忘れてんよーな、そうでもないよーな」
一連のわけの解らない状況もさることながら、心の奥底で何ぞが引っ掛かってて、気持ちがスッキリハッキリしない――。
とても重要でかつ確信に迫る何か。
何故かは俺の知るところでは全くないのだが……それをすっかり忘れてるような……そんな気がする。
「元気が出るお呪いをしてあげるよ、お兄ちゃん」
「だが断る!」「だが断わられた⁉︎」
「美杉の気持ちは凄ぇ嬉しいさ。だがな? 今の美杉からは信じられんだろうけど……俺は会うのが二年振りの感覚なんだよ」
「なら二年振りだっけ? その分、遠慮なく私を堪能しても良いんだよ?」
「美杉を失ってどれほど大切な存在だったか、嫌と言うほどに思い知らされた。――そして今、俺の目の前に実在する本物としか思えない美杉が居てくれている――夢なら覚めないで欲しいと心から願う……だが――」
「何を言ってるのかな、お兄ちゃんは? もう一回言うけど、ずっと一緒に居るじゃない?」
「ある意味では、そう言えるんだろうけどもな……」
ゆっくり立ち上がって、土木用スコップを静かに手にする。
「お、お兄ちゃん?」
雰囲気がガラリと変わった俺に、怪訝そうに名を呼ぶ美杉。
「ひとつ気づいたことがあるんだ、美杉」
「な、なに?」
「俺さ、肉体的痛みが欠如してんだわ、急に。それもたった今」
「――え⁉︎」
「ならばこれは夢。それも悪夢。そして全てが俺の都合の良い解釈で映し出された仮初の物語。その全ては単なる虚像に過ぎない。何故ならば――」
目を瞑って語気を強く伝え終えると、深呼吸をして――持っていた土木用スコップを、思いっきり振り上げた。
「これは俺だけが視ることのできる、残酷で凄惨な――個人的ホラー映画だからだ!」
「えっ⁉︎ どうしてっ⁉︎ や、やめて――」
美杉が目を見開き驚いているのもお構いなしに、思いっきり殴りつけるのだった。
「――っ⁉︎ あれ? 殴られてない⁉︎」
そう。俺が土木用スコップで殴りつけた先は――。
「美杉を二年前に失った事実は覆せないからな? 俺にこんな幸せな悪夢を見せやがって――今度のアンタは一体、なんなんだよ?」
ことの成り行きを優雅に佇んで、俺達に気づれることなくしれっと傍観していた者。そいつを殴りつけた筈だった。
だがしかし、見事に躱された――と言うか擦り抜けた、だ。
『――良い悪夢は見れたか?』
英国様式の真っ黒な喪服に身を包み、丸みを帯びた独特の形状をした同じく英国様式のフルトン傘を差して、優雅に佇む女性。
そう。喪服女が……そこに居やがった。
「お、お兄ちゃんっ⁉︎ こ、この人はっ⁉︎」
「この人? ――さあな? 人であるかも定かではないけどな」
「――え? 何を言ってるの、お兄ちゃん⁉︎」
「アンタの質問に答えてやるが、今までで一番素敵で幸せな悪夢だったよ。つーか、アンタ喋れたのか? ただの幽霊ってわけでもなさそうだが――のこのこ現れて、俺に一体なんの用だ?」
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「そりゃどーも。デッカいお世話だがな?」
突きつけていた土木用スコップを構えたままに睨みつける。
不思議なことに今の喪服女からは、害悪などの悪意を感じない――だからと言って油断はしないがな?
『その不遜な態度は褒めれたものではないが……まぁ良い。其方は何時になったら悪夢の輪廻――魂の牢獄たる呪縛から解き放たれ、逃れられるのだろうな? ――あまり妾の手を煩わせるでないわ、全く』
フルトン傘をクルクルと滑稽に回し、頭のみを向けて、侮蔑ついでに落胆した物言いで吐き捨ててきやがった。
顔を覆っている面抄の所為で、今どんな表情をして喋ってやがるのかは、窺い知ることはできない。
「――どう言う意味だ?」
『答えは其方自身で見つけよ――と、素気なく無碍にするのも可哀想か。ふむ、僅かばかりに助言を与えておこうかの? ――終わりには近づけておるゆえ、その調子でもっと頑張るが良い――早く見つけてやれ』
意味深な言葉を投げ掛け、顔を隠すように独特の丸みを帯びたフルトン傘をクルクルと回し意味深に語る。
『また、気が向いたら――邪魔をする』
用が済んだと言わんばかりにそう言い残して、そのまま部屋の影から闇夜の中へと溶け込むように、静かに姿が掻き消えていった――。
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