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ミノケモヨダツ、何カガ、訪ル――。

Ending.20 何カハ、廻ル――。

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 妹さんを連れ帰ったその日、大家さんへと報告に伺った。
 警察関係にも報告し、面倒臭い諸々の手続きが済み一息ついた頃、こじんまりとした葬式を行った。

 その数日後、大家さんと俺で共同出資……と言っても九割り以上は大家さんになるのだが、姉妹が一緒に眠れる程度の、小さなお墓を建てた。
 最後まで妹さんと一緒に居たと思しき、小動物らの慰霊碑と一緒に。

 妹さんが防空壕跡地で発見された為、警察関係も動いてくれた。
 ただ大規模な周辺捜索を数日行うものの、行方不明のお姉さんは残念ながら発見に至らなかった。


 そして。妹さんが見つかって以降、俺の背後に纏わりつくは消えていた――。


 ◇◇◇


 あれから丸一年が過ぎようとしていた、とある日。
 夜食を買いに出ようとした俺は、自室の玄関先で完全に固まった。身動ぎひとつできずに呆然としてしまった。


 クソ寒い真冬だ言うに、例の白いサマードレス嬢が隣りの部屋に、静かに立っていたからだ。


 貴婦人が好む鍔広の帽子が相変わらず邪魔で、こちらからは表情を窺うことはできない。


 と、思ったら。


「あっ⁉︎ 今、撮影の途中で……驚かせてしまって申し訳ありませんっ!」

 鍔広の帽子を脱ぎ、大事そうに胸に抱えて、俺にそう頭を下げてくるときた。
 どうやら生きた人らしい……紛らわしい。

「い、いえいえ。さ、って?」

 動揺して嫌な汗が出るもホっとした俺は、気になる単語について尋ねた。

「ええ。実話であった不幸な話しを元にした悲しいホラー映画なんですよ。今日からクランクインなんで。丁度、と、でロケなんです」

 和かな笑顔でそう仰る少女。
 芸能人さながらのスタイルだなと思ったら、まさにそれだった。

「へ、へぇ……」

 実は……あの姉妹の姉の方にそっくり……と、言っても面影が、だけどな。
 正直なところ成長した同一人物だと言われても、全く疑問に思わないほど似ている。他人の空似もここまでくるとホラーだわ。

「私、こう見えてヒロイン役……なんですけど。最後まで顔が出ない幽霊役なんです……ぐすん」

 泣き真似をして戯けて見せる。

「ははは……そうでしたか。貴女のようなデラべっぴ――ゲフンゲフン。お美しい女性が顔を出さないなんて勿体ない。まぁ……顔出しちゃったら間違っても幽霊には見えませんけどね。――で、どうしてこちらに?」

 お世辞ではなく本心から。

「有難う御座います。実はこのアパートでロケもあるんですよ。しかもロングスパンなので、スタッフの方がこちらに仮住まいを用意して下さるとのことで……それで。一応、近い内に引っ越してくるので気になっちゃって。なのでちょっとした下見がてらです」

 本当に元気いっぱいのあどけない少女。
 もしもお姉さんが生きていたら……こんな感じに成長してたのかもな。

「なるほど……」

 しっかし普通は良いホテルとかじゃね? 
 ボロアパートに仮住まいを用意されるとは……お気の毒に。

「明日はオフですので、この部屋を見せてもらう予定なんですよ。あ! 今日の分の撮影が終わったら、改めてご挨拶にお伺いしますので、良かったら相談に乗って下さい!」

 俺の手を取って和かに笑う。

「俺なんかで宜しければ。そっか……ここに越して来るのか……楽しみにしてますよ。撮影、頑張って下さい」

 あどけない笑顔に少し照れるが、快く了承しておく。
 実際、俺もんでな――色々な意味で。

「はい! 有難う御座います。――では行きますね。またあとで!」

「ええ、いってらっしゃい」

 俺に手を振りながら、階段を元気良く駆け降りて去っていく少女を、俺も廊下から静かに見送った。




 その映画の原作者が、まさかの俺だって知ったら……あの子、どんな顔をするんだろう?
 イメージピッタリの素敵なキャストを採用してくれたもんだ。



“ よかったねー、おじさん ”

 そんな幻聴が微風に乗って、何処からともなく聴こえたような気がした。

「おじさんか。存外、過酷な言われようだな」

 誰も居ない。背後の嫌な気配もしない。
 本当にただの幻聴に過ぎない。だがしかし。

「まだ終わりじゃないんだよ。終わってないんだよ」

 胸のポケットから煙草を取り出し燻らせる。

「君が見つかるまで、俺は君を探し続ける。妹さんのところへ必ず届けるから。絶対に引き合わす。だから見つけるまでは我慢して待っててくれよ?」

 まだまだ外は寒い。
 雪がチラチラ舞う空を見上げて、俺の決意と想いを乗せて……そう呟いた――。



 ――――――――――
 得体の知れた――
 それは常にに居続ける――。


【謝辞】
 此処までお付き合い頂き、本当に有り難う御座いました。
 意図しない誤字脱字も多く、お目汚し大変失礼致しました。_φ(・_・
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