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ミノケモヨダツ、何カガ、訪ル――。

Creepy.06 不吉ガ、訪ル――。【後編】

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 新年始まって早々、度重なる不吉の前兆にげんなりしつつも、後ろ向きの気持ちを前向きに切り替えて車のセルを回す――のだが。


 エンジンが掛からないときた。


「いきなりかよ⁉︎ セルすら回らないって、一体、どう言った類いの嫌がらせだっつーの!」

 余りにもあんまりなので、ハンドルを叩いて激怒する――のだが。


 叩いた衝撃で破裂音が鳴り、エアバッグまで膨れ上がるときた。


「おいおい、新車君。故障もだが……ちょいと叩いたぐらいで膨らむか? ――去年に買い替えたばかりだゆーに。クレーム事案だな」

 仕方なく車から降りて、軒下に駆け戻ろうとしたその時だった――。

 プシューとか言う、と~っても嫌な音が車内から出ようとする俺の耳に届くんだな、これが。
 更に車が地面へとゆっくり沈んでいく感覚が、車内の俺に見舞われるんだな、これが。

「今日は厄日確定かよ……なんなんだよ……」

 たぶんそうなんだろうなと予想はつく。
 とりあえずドアを開けて、予想した部分を恐る恐る覗き見る――のだが。


 タイヤが見事にペッチャンコは予想通り。
 だがしかし、前後四本ともは予想外。


「――冗談も大概にしとけよ!」

 次々に起きる不吉の前兆には、流石の俺も怒り浸透。開いた口が塞がらなかった。

 だがしかし。
 神がかった嫌がらせに、ただの人たる俺にはどーすることもできん。

「パンク程度はスタッドレスを外してノーマルに戻せば良いだけだけどよ、エアバッグは流石に無理だっつーの。止むなし、こうなりゃタクシーだ!」

 スマホを取り出し、贔屓のタクシー会社に電話を入れる。
 年始は混雑してて繋がり難い筈なのだが、意外に素早く回線は繋がってくれる――のだが。


 がスピーカーより発せられ、会話できる状態ではなかった。


 更に始末が悪いことに……。


 混線でもしているのか、までもが聴こえてくるってんだから中々にホラーだよ。


「うっざっ⁉︎ もうね、ホント、なんなのこれ? 縁起が悪いの通り越してね? ――こうなりゃバスだ!」

 幸いこの近くの公園前にバス停がある。
 年末年始の今日は初詣客のおかげで臨時バスも出ているし、おかげで二四時間運行だ。
 そこからバスに乗って、最寄りのバス停で降りれば良いだけだ。

「全く……最悪の新年だよ……」

 役立たずのスマホをポケットに仕舞い、緑の痛い傘をさして公園まで歩くことにした。

 だがしかし。
 次なる不吉の前兆が、怒濤の如く押し寄せる――。


 ずぶ濡れのが、素早く目の前を横切るときた。


「――気にするな。黒猫が前を横切ると不吉なんてのは、ただの迷信だよ、迷信」


 続いて、ずぶ濡れの真っ黒な仔猫ちゃん数匹がよちよちとっとこと、順番に目の前を横切っていくときた。
 とってもつぶらな瞳で、こっちを見ながらで、だ。


「――親子だからな、止むなし。気にしたらいかん。誠に遺憾ながらほっこりもするし」


 更に俺の頭上でときた。
 それも燦々と雨が降る真っ只中で、今は夜中だと言うのにもお構いなしに、だ。


「あのな……夕方と違うんだぞ……何ぞ嫌な予感がひしひししてきた。行くの止めた方が……しかし部屋に戻っても……なぁ」

 流石の俺も、ここまで不吉の前兆がオンパレードで押し寄せたことに、かなりの不安と苛立ちを覚え始めた。

 だがしかし。
 どうやら神がかった嫌がらせは、まだまだ続くらしく終わらない模様。


 俺のからだ。


「――って、これもか⁉︎ 霊は機械と相性が悪いって聴いたことあるけども……それも迷信だ、迷信」


 すかさず道路脇の民家から、引きったように木霊こだまするときた。
 それも一軒どころではなく、四方八方の数軒からな。


「おいおいおいおい、夜泣きってレベル違くねっ⁉︎ いよいよヤバないかっ⁉」


 間髪入れず、何処かの飼い犬どもだろうかが、――ときた。
 赤ちゃんと同じく、四方八方からな。


「犬畜生までかよ⁉︎ 赤ちゃんの夜泣きもだが……おいおい、不吉の前兆、ベタ過ぎ違くね? 一体、なんなんだよ!」

 不安になってきた俺は、ずぶ濡れになるのもお構いなしに、この場から脱兎の如く全力で走り去るのだった――。



 ――――――――――
 得体の知れない――
 それは常に身近に存在する――。
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